申し訳ありません、一話目と一緒にあげるつもりだったおまけです。
何度も書き直したので、テンポと切り替えが悪いです。
「はッ!」
この掛け声は、少女がいつも拳法の修行で掛ける声とは違う。
「はッ、ふッ!」
規則正しく繰り替えされる掛け声だが、彼女の表情に達成感は一つも無く、むしろ焦りの表情が色濃く浮き彫りになっていく。
「くっ……、やぁッ!!」
自棄になって、力任せに投げた
「…………やはり、私には"コレ"で生きていくことは出来ないのですね」
微々たるものであったが確かに成長していたそれは、今完全に終わりを告げる。
覚悟はしていたが、もはやここまで。
わたしはただ、寂しく光を放つだけの銀の刀身を虚しく見つめた。
◆
いつもとは違い、”日が出た”ばかりの早朝に起き出してわたしは朝食を作る為にキッチンへと向かう。
「ふぅ。少し眠いですね……」
わたしにしては珍しく、いつもよりも遅く起きたというのにはしたなくも欠伸を噛み殺す仕草を表に出して朝食の仕込みを始める。
それというのもここ最近遅くまで寝付けていないからだ。
原因はわかっている。そして、どうしようもないことも。
頭ではわかっていても身体が中々割り切ってくれない。
ヒト様には『完全で瀟洒な従者』と覚えて頂いているというのに、蓋を開けてみればなんと似つかわしくないことか。
それもまた抱えても仕方の無い事で、慌てて頭の隅に追いやりいつもの流れでまずは美鈴へと朝食を運ぶのだった。
「……あっ、おはようございます、咲夜さん!」
「……おはようございます、美鈴。朝食をお持ちしました」
「いつもありがとうございます、咲夜さん。
咲夜さんが料理をする様になってから毎日ご飯が楽しみなんですよ!」
「いえ。それではお嬢様がお待ちですので」
「あ、あれ? 咲夜さん、ちょっと待って……。
うわっ、ゆで卵からヒヨコが生まれてきた!
こっちは、丸々にんじんが突き刺さったスープっ!?」
後ろで何か騒いでいるが、咲夜の耳には入らない。
彼女の周りではまるで何も起きていないかの様に全てが通り過ぎ、次にレミリアの元へと訪れる。
――コンコンコン、ガチャ
「失礼します、お嬢様」
「……やっと諦めたのね、咲夜。
そうやって毎日の食事くらいわざわざ私の返事を待つ必要も無いのよ。
そこに置いておいて頂戴」
普段とは違い、主の返事も待たずに入室して、朝食を運ぶ咲夜。
レミリアは、上等な安楽椅子に座り、熱心に何かの本を読んでいるため顔も上げずに声だけで咲夜に返事をした。
机の上には『アーサー王伝説』や『エッダ』詩集、『ニーベルンゲンの歌』といった数々の物語が平積みにされていたため、今読んでいるのもきっとそういった類いのものだろう。
咲夜は邪魔をしてはいけないと思い、手慣れた手つきで静かに朝食や飲み物の乗った食器を並べ、終われば速やかにドアの前まで戻り、また姿勢を正す。
――ちなみに、レミリアが読んでいた本のタイトルは『マジカル☆ありすちゃんの
「では失礼します、お嬢様」
「えぇ、ありがとう咲夜……」
噛み合わないが問題なく交わされる両者のやり取りを終え、咲夜が部屋を後にする。
残ったレミリアは本に目を落としたままカップに入った赤い”何か”を躊躇無く喉の奥へと進ませた。
「ヒクッ!?
か、辛ッ、辛い辛い辛い!!
水ッ、咲夜、水をちょうだいッ!!?」
レミリアが突然叫び出す。
しかし悲しいかな虚ろな咲夜に助けを求める声は届かない。
その時たまたま咲夜の行方を探して近くまで来ていた美鈴は、後に語る。
口から火を吹き、珍妙な舞いを踊る主の幻を見たと。
◆
「……なぁ、フラン。
”あいつ”、どうしちまったんだ?」
「ううん、私にもわかんないよ。
訊いてみてもなんだかよくわからないの」
「訊いたのによくわからないってなんだそれ……。
まぁ、いいや。それじゃあ、気を取り直して魔理沙さんの『マジックアイテム講座』を始めるぜ!」
「うんっ、お願いします!」
(”あいつ”とはいったい誰の事でしょうか。
少々気になりますが、これ以上の盗み聞きははしたないですわね)
朝から何かと騒がしいがそのどれかの事であろうか。はたまたいつもとは違い何かの実験に精を出すパチュリー様か。
きびきびと手を動かしながらも、わたしは少々興味を引かれる話題に自制をかける。
雪が降り注ぐ中、今日も魔理沙はフラン様にあしげく会いに来てくれた。
時間はちょうど午後のティータイムになり、本日は輪切りにした新鮮なレモンが浮かぶ紅茶とアップルパイだ。パチュリー様のおわす図書館で二人はパイを片手に講義を続ける。
「……このパイは大丈夫そうだな、美味い。
じゃあまずは簡単な事からだ。
マジックアイテムを使うには何がいると思う?」
「うーん、マジックっていうくらいだから魔力かしら?」
「正解だぜ。
でも実はモノさえあれば、魔力じゃなくても使う事はできるんだぜ?」
「へぇすごいっ、魔力じゃなくてもいいの?」
「あぁ、すごいだろ?
要は何かしらの力を貯めておくものと、それを変換するものさえあればいいんだ。
物やら空気やらそこら中に『魔素』ってやつが漂ってて、それを集めればわざわざ『魔力』を込めなくても使えるんだぜ。マジックアイテムはその『魔素』を『魔力』に変えて使う事ができるんだ」
「ふーん、でもパチュリーは何も無くても便利な魔法をたくさん使えるよ」
「確かに、パチュリーの奴なら大抵の事は自分で出来るな。
でもアイツだって使うし、作るんだぜ。
マジックアイテムは魔力の節約にもなるし、いちいち複雑な呪文を唱える必要もない。
……例えば私の八卦炉は力を込めればすぐに発動出来るし、普段からその辺に漂う魔素を貯めてあるから一日に何発も撃てる。
もっとすごいのは魔素の代わりに霊気もイケるし、ほかにもいろんな力を代替出来る優れものなんだぜ」
「すごいすごい! マジックアイテムがあればもっと強くなれるんだね!」
八卦炉を片手に誇らしげに語る、魔理沙。
彼女の説明はとても利に叶っている。フラン様は喜び、実験に忙しいパチュリー様もその時だけはこちらをを一瞥して、口許をかすかに緩めた。
(へぇ。魔力が無くても使えるとは便利なものですね。他にも別のエネルギーを代替出来るとか。
それであればわたしの力では出来ない事も、そのマジックアイテムとやらを使えば代替出来るのでしょうか)
ん?
まって、『マジックアイテム』に、『力を代替』する?
何かがわたしの頭の中で引っ掛かる。
とても大事な事を忘れているような。
……そうか、そうだった!
あるじゃないか。わたしにはまだ”アレ”が!
足りない技術は優れた
わたしに出来る事は限られている。少々咎める気がしないでもないが、一番大事なことの前ではつまらない
それがあれば、わたしもナイフを使って華麗に戦う事が出来る。
そう、それはちょうど今みたいに季節はずれの雪が降り続ける春。
そこで起こる異変で活躍するのがまさにそれなのだ。
見た目は紫色の中心に星のマークが描かれた両手で抱えるほどの少々大きな二つの球体。
その二つの球体はまるで己の意思に従ってわたしこと、十六夜咲夜を追従する様に浮遊し周囲に漂う春度を人知れず回収してくれる
最大にして至高の能力はわたしの意思に合わせて、”正確無比かつ無限”のナイフを高速で連射し続けられる唯一無二のマジックアイテムだ。
そう。
その名前は。
(えっと……、なんだっけ?)
おほん。
とにかくわたしにはうってつけのマジックアイテムである事に間違いは無い。しかもわざわざ探すまでもなく、近い将来必ずわたしのモノとなるのだ。
これが望んだ運命を手に入れるということなのだろうか。なんという全能感。お嬢様、おそろしい御方。
そこまで考えてわたしはある事に気づく。
忙しなく降る雪に、忙しなく何かの実験を重ねるパチュリー様。
間違いない、パチュリー様が今まさに
「こほこほ、……何?」
「い、いえ。失礼しました、パチュリー様」
わたしとした事がなんとはしたない。
バターが溶けるほどじっと見つめていたため、パチュリー様に不審がられてしまった。
じっと見つめていても完成が早まるわけではない。かといって直接尋ねて催促する様な真似はわたしの
(何かわたしにもお助け出来ることがあるだろうか……)
そこでふと、わたしは気づいてしまった。
――咲夜、貴方ともあろう者がヒト様から物を頂いて、ただそれだけなの?
なんということだ。わたしはなんてひどい仕打ちを。
気づいてしまえば、じっとなどしてはいられない。
一刻も早くパチュリー様に何かご用意せねば。
(そういえば先ほど咳をされていた。最近忙しくなってまた喘息が酷くなってしまったんじゃないかな。それに頭脳労働には甘いものがいいよね)
わたしはフラン様と魔理沙が食べている紅茶とアップルパイを眺めながら忙しく考えを巡らせる。そして考えがまとまるなり、時間を翔けてキッチンへと急いだ。
「……なぁ、”あいつ”やっぱりおかしいぜ」
「うん……。ねぇ魔理沙、咲夜が良くなるマジックアイテムはなぁい?」
「……無いな」
結果として、咲夜はマジックアイテムの助けを借りる事も無く、元通り”日の出もしないうちに”起き出して、しばらく新作レシピの開発に勤しむのであった。
◆
―――数日後の大図書館にて。
深呼吸を一つ吐き、つい先ほど完成したばかりの新しいハーブティーとアップルパイをパチュリー様にお披露目させて頂く。
「ありがとう咲夜、いつものかしら。
……それはそうと貴方、私に何か用でもあるの?」
「いえ、何もございませんわ、パチュリー様」
「そう、ならいいけど……」
やはり隠していても抑えられぬ期待という奴はどこからか伝わってしまうものなのだろうか。今は料理とマジックアイテムの二重の意味で期待してしまっているから少々は仕方が無いとしよう。
パチュリー様は『いつもの』と仰ったがもちろん違う。
作業も大詰めであろう彼女の気をわざわざ逸らせてはなるまいと敢えて何も言わずにお出しした。
パチュリー様は少し手を休めて、アップルパイをフォークでひと欠片だけ切り分けて口に運び、それを追ってカップを口許にあて、喉を潤した。
思わずわたしに緊張が走る。
「これは……!」
あまり表情を揺らす事の無いパチュリー様が少し大きく目を見開く。
右手に持ったカップをソーサーに置いて、その味を確かめる様に一度目を閉じてから、ゆっくりと開いた。
「美味しいわ。レシピを変えたのね。
このパイは甘すぎないのに脳がとてもクリアになるようね。
そして、何よりもこのハーブティー。
咲夜、痛みが無くなった様よ、ありがとう」
――グッ。
わたしは心の中で思わず両拳を握り締めた。
物静かなパチュリー様が感情を露にしたどころか、ここまで饒舌に褒めてくださるとは。
メイド冥利に尽きる。
わたしはまた一つ至高のメイドへと一歩近づいてしまったようだ。
ひとしきり味わって頂いた後、パチュリー様は少し離れた場所で必死に本と格闘するフラン様を見遣ってから、改めてお礼を口にされた。
「……ご馳走様。アップルパイの方は今度妹様にも作って上げて。きっと喜ぶわ」
「はい、ぜひフラン様にもお召し上がり頂きたいと思います」
「……それで、やっぱり私に何か用があるんでしょう?」
ここまで来れば、必死に隠す事も無い。
それに三度も誤魔化すことは大変失礼にあたるだろう。
「あ……、はい。そのパチュリー様が実験されているものは――」
意を決して、例のものについて尋ねかけた時、
突然、バアンと大きな音を立てて扉が開け放たれた。
「――パチェッ、パチェはどこッ!!?」
遠めに見える声の主はレミリアお嬢様。
良く見るとお嬢様は手に何かの本を持って少々興奮しておられる様子だ。
「……そこにいたのね、パチェ! それに咲夜もグッドタイミングよ!
パチェにぜひ作ってもらいたいものがあるわ!」
「……聞きたくないわ、レミィ」
パチュリー様が大変嫌そうな顔で答えるが、お嬢様は構わずズカズカとこちらに近寄ってから、手に持つ本を広げて見せる。
「喜びなさい、咲夜!
ここのところ元気の無い――様子がおかしい――おまえの為に、私自ら新しいプレゼントを考えてあげたわ!」
自信満々といった風に満面の笑みを見せるお嬢様が手に持つ本は少々メルヘンチックなタッチの絵本。
真ん中に大きな人形が描かれ、何かを糸で操って誰かと戦っている一場面のようだ。
しかしわたしはある一点に目を奪われ、思いもよらぬ事態に驚愕する。
具体的には大きな人形が操っているその”何か”。
「そ、それはっ……!」
なんとそれは、形は違えど真ん中に星のマークが描かれた青い菱形のクリスタルの様なもので、そこから小さなレイピアをいくつも飛ばしているではないか。糸で操ってはいるものの、それを無くせばまさにわたしが求めていたものだ。
「お嬢様、そ、それはいったい……!」
「ふふ、そうでしょう、そうでしょうっ!
やはり、咲夜も気に入ったか――」
「――却下よ。咲夜が
……仮に自律させるにしても、それほど高等なものに必要な触媒は、以前に作った咲夜と妹様の分でもう無いわ」
「なんだと!? クソッ、私の夢がッ」
お嬢様が思わず本音を漏らすがわたしはそれどころではない。
(そんな……、それじゃ初めから私の手には……)
「まったく。咲夜もそれでいいわね?」
「え? あの、…………はい」
そう答えるしかなかった。
絶望に打ちのめされたわたしは、どうすることも出来ずにその場で呆然と立ち尽くすしかない。
――――――
「それはそうと、レミィ。すぐにその本を渡しなさい。
それはこの図書館の利用者が好意で寄贈してくれたものよ。
二度と貴方が勝手に持ち出さない様、厳重に保管しておくわ」
「なっ!? ま、まてパチェ!
これは私の心のバイブルだぞっ!?
パチェも読めばきっと分かるっ、自ら考える魂を持った魔装人形ゴリアテが終わりの無い戦争を終結させるべく、悪の人形使いダビデと聖戦を繰り広げる崇高にして上質の物語が――」
「――はいはい、御託はいいから早く渡しなさい」
「ちくしょうっ、私の心のバイブルがあああああ!!」
◆
――――異変当日。
紅魔館の門の前で、わたしは美鈴から温かそうなマフラーを巻いてもらう。
「――はい、寒いでしょう、咲夜さん。
これはいつも私がご迷惑を掛けている御礼です。
風邪を引かないよう、温かくしていってくださいね」
「……ありがとうございます、美鈴」
「いえいえ、それとパチュリー様から伝言で、
『実験の成果を施しておいた』とのことです。
ふふ、私にもわかりませんが
「そんなことありませんわ。
……美鈴だと思ってとても大事にさせて頂きますね」
「いやですよう、咲夜さん。
こんなとこで泣いちゃだめですよ、もうっ」
照れながら軽く私の背中を叩く美鈴には決して言えない。
――この目頭に滲む涙が全く別の意味を含んでいる事を。
全ては『東方妖々夢』で咲夜さんの隣にそしらぬ顔でくっついていた例の球体のため。
大変申し訳ありませんが、この話に限り感想は募集しておりません。
書き直すのに今の今まで掛かったと思ってもらえれば。。。
補足と裏(ネタ)話:
・紫色の星が描かれた球体
『東方妖々夢』で咲夜さんの弾幕補助をしていたもの。
公式では名称不明で、二次創作で東方の某お絵かき掲示板より『マジカル☆さくやちゃんスター』の名で世に広まったそうです。
そしてその後、某動画でさらに知名度が上がったとか。
ボツにした話では、『マジカル☆さくやちゃんスター』を言いよどんだり、激しく連呼したりしていましたが、全てカットしました。
・『マジカル☆ありすちゃんのドールズウォー(人形戦争)』
アリス・マーガトロイド 著
人形劇だけではなく密かに絵本作家もしていたという設定。
これをきっかけとして、レミリアからゴリアテ人形の製作を依頼されたそうな。
旧約聖書におけるゴリアテはむしろ真逆で、弱小な者(ダビデ)が強大な者(ゴリアテ)を打ち負かすという故事となったお話です。
こちらもボツにした話では、メルヘンに見せかけたブラックユーモアなワンシーンがありましたが、全てカットしました。
※16/06/29 ここまでで見つけた誤字の修正。