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そして毎回のご感想とご評価ありがとうございます。いきなり増えだして驚きました。
視界が良くない。
来るときよりもさらに激しく、霊夢との距離を十秒と離されれば見失ってしまうだろう。その先はもう白い幕の外だ。
より良い関係を築きたいとは言ったが、目も開くのがやっとな吹雪の中では碌な会話も期待出来ない。相変わらず、霊夢は『鬼火の路』ならぬ『霊火の路』でも見えているのか迷い無く突き進む。わたしはその後ろを黙って後に付いて行っていた。
もちろん、『霊火の路』と言うのは冗談だ。本当に霊気で模った青い炎が一列に並んで道案内をしているわけではないと思う。案外易々と出来てしまいそうだが、目的地が分からなければ道は作れない。
つまり、これは例よって”勘”だろう。
勘とは大抵、自身の経験や観察した物事の機微から鋭く察知した結果によりわかるものだが、霊夢のそれは一線を画する。
気になって少し聞いてみたが、知らないのにただなんとなくわかるのだそうだ。そこに経験も変化も無くただ過程をすっ飛ばして。
(それって、もう能力と同じだと考えた方が良いよね……)
仲良くはなりたいと思うが、同時に心の中でどこか怖くも思う。
初めて会った時の”アレ”を恐れているんじゃない。
知られた所でわたしの生き方などいまさら変える気も無いが、今必要も無く覚えていない事まで表に出てしまったら、と思うと怖くなってくるのだ。
覚えてもいないのにそれを思うと不安で仕方無い。
こちらは本当に”勘”という奴なのだろうか。
とにかく、何度も思うが今更生き方を変える気など無いし、変えられるとも思えない。そうなってしまえば、ただわたしが、この世界から十六夜咲夜という人物が居なくなってしまうだけだ。
(……だめだよ咲夜、分からない事より分かる事だけを考えよう)
褐色のマフラーを少し手で引き下げて、白い吐息と共に陰鬱な考えを頭から追い出す。
空を飛んでいるため下も分からないが、博麗神社を出た方向から考えて進んだのはわたしの住む紅魔館の方角だ。途中かろうじて見えた森の白い頭も確認できた事から、ルーミア達が住む森を抜けて霧の湖へともうすぐ辿り着くはずだ。
わたしは霊夢に目的地の確認を取る。
「霧の湖か、……それとも紅魔館に何かあるのでしょうか?」
「湖の方にね。でも何があるかまでは知らないわ。無ければあるまで待つだけよ」
やはり。となれば、最初の相手はあの二人。
この芯まで凍える様な寒気と、吹雪の中に時折混じるあられの結晶が似合うあの二人だ。
冬の象徴と呼ばれる妖怪とは面識は無いが、もう一人の氷精とは面識がある。あれから約五年振りくらいだろうか。彼女は以前と変わらず元気いっぱいで勝負を挑んでくるに違い無い。
やがて、霊夢が速度落としてゆっくりと降下を始める。
わたしも横に並んで降りていくのだが、湖に近づくにつれて誰かと誰かの話し声が聞こえてきた。
「……あややややや! それじゃあチルノさんは前回の異変にも関わっていたのですね!」
「当然よ。あたいも……か、活躍したんだからっ!」
どちらも大変賑やかな声だ。白い幕を開けて視界が晴れたその先に、湖の上で向かい合う二人の少女が姿を現した。
一人は、わたしがまだ半人前だった頃に見たまま。
大きなまん丸の青い瞳に首元には赤いリボンタイを着けた チルノ。
そして、もう一人も知識にある妖怪だ。
わたしは
「……チルノ、変わりませんね」
「え? だれ?」
「おや……」
「…………」
わたしに続いて、チルノ、もう一人の少女。
そして霊夢だけが振り返った二人には何も言わず、少し引いて様子を眺めている。
二人がわたしを見留めた後、霊夢にも気づいてさらに大きく声を上げた。
「お、おまえっ……」
「あやややや! これはこれはお二人方!
もしや博麗の巫女様と、そちらは『完全で瀟洒な従者』と噂に名高い十六夜咲夜さんでしょうか?」
尖った耳がぴくぴくと動きながら一息に捲し立てる彼女。
その横でチルノが霊夢を見つめながら何か呟き、対して霊夢は顔を顰めながら見る事も無く逸らした。なんだろうか、気になる。
だが、ひとまずは彼女の質問に答えるのが先だ。
”噂に名高い”と言ってくれたが、わたし達は”正式に幻想郷に来て”からまだ半年と幾月かしか経っていない。きっと少々誇張しているんだろう。
今朝の『文々。新聞』を紅魔館の庭先に落としていった張本人である彼女を見つめ、わたしと霊夢は首肯した。
「はい、この湖に浮かぶ紅い館のメイド長を勤めさせて頂いておりますわ」
「博麗霊夢よ。で、あんたは?」
「おぉ、やはり!
おっと、これは失礼しました。
私は清く正しくをモットーにしております、烏天狗の 射命丸文 と申します!
どうぞお見知りおきを……!」
スカートの裾を広げて華麗に礼を取る彼女こと、射命丸文。
赤い瞳に、漆黒の翼。服は白いブラウスに大きな黒いリボン、それに合わせた黒いスカートを穿いて、頭に赤い
天狗の羽団扇は今は持っていないのだろうか。
代わりに手に持つのは確か『文花帖』という名の手帳だ。
ちょうど異変に関係しそうなチルノに取材をしていたといった所だろう。
「いやー、探しましたよ!
魔理沙さんからこちらにいらっしゃると訊いたのですが、お会いする事が出来ず、そこら中探し回りもう少しで紅魔館まで伺う所でした。
それで、お二人方はもしかしなくてもこの”止まない雪”の異変解決に出向かわれたのですかな?」
「……そうよ、あんたが”あの新聞”を書いたのね。
雪が止む方法知らない? あとついでに紫も」
「むむむ、残念ながら私にも
こうして、チルノさんや他の妖怪の方々にも取材させてもらいましたが、有力な手がかりはありませんねぇ。
八雲紫 氏にいたっては、この雪の一粒程ですら掴めません」
そう言って降り注ぐ雪を掴む為に手のひらを差し出す文さん。
ん? 魔理沙に訊いたっていつの話だろうか。
わたしたちは一直線にここまで来た。先ほど分かれたばかりの魔理沙に訊いたにしてはあまりにも追い付くのが早すぎる気がする。彼女がいくら『幻想郷最速』だとしても。
結果として、あまり重要でも無い事であったがわたしは内心で頭を捻りながら、しばらく両者のやり取りを見守った。
「で、結局探してたって何か用なの?
忙しいから無駄話は聞かないわよ」
「おぉ、そうでしたそうでした!
単刀直入にお願いさせて頂きます。異変の密着取材をさせて頂けませんか? もちろん邪魔は致しません!」
「嫌よ」
「おおぅ、そこをなんとか……!」
「いるだけで邪魔よ。第一、それこそ紫が顔を出したら黙ってないでしょ」
「ふふふ、ちゃんと”外掘り”は埋めてありますのでそこはご心配には及びません! この射命丸文、取材の為とあらば黒子の様に振舞うのも厭いませんのでどうか……」
「……ふーん。勝手にすれば」
「おぉ!」
なんだか、勝手に話が決まってしまった気がするが、一応覚えていてくれたのか、霊夢と文さんはわたしに視線を重ね、答えを待った。
(特に断る理由もないよね)
「……霊夢が良いというのであれば、わたしに依存は――」
「――オマエッ! 赤白のッッ!!」
わたしも霊夢に倣おうとしていた時、
突然、チルノが叫び、横から割って入った。
しばらく霊夢を睨みずっと押し黙っていたが、
「私としょーぶしろッ!
今度こそあたいの方がつよいってしょうめいしてやる!!」
「あやややや、これはいったいどういった展開で?」
「…………」
思えば、チルノは『紅霧異変』で霊夢と戦い、そしてわたしが知っている通り負けてしまったのだろうか。事情を知らない文さんだけが着いて行けず、霊夢は無言のままだ。
「おい、なんとかいえ! 私としょーぶし――」
「――嫌よ、あんたは異変とは関係無い。私は忙しいって言ったでしょ」
「っ、なんだとー!?」
チルノが憤慨するが霊夢はそれだけ言って、もはやチルノを視界の外に追い出し取り付く島も無い。何がチルノをここまで必死にさせるのか、そして霊夢もなぜこうも頑ななのか。
どうしたものか。二人の間からは穏やかではないものを感じるが、霊夢が取り合わない以上話は平行線を辿る。
わたしと文さんは思わず顔を見合わせ、文さんがお手上げといった
かといって霊夢はこの場を離れる気も無い様なので、仕方無くわたしは代案を提案してみた。
「チルノ、私ともう一度勝負しませんか?
私は、ちょうど貴方と同じくらいの背だった頃にここで戦った『サクヤ』ですよ」
「え、『サクヤ』? ……っ、おもいだした!
おっきくなったからわかんなかったけど、アンタも私が勝たなきゃいけないヤツだ! いいわ、しょーぶしてあげる!」
良かった。
どうにか矛先がこちらへと向いてくれたようだが、なんだか墓穴を掘った気がしないでもない。
ひとまず、異変の初戦はわたしとチルノとなりそうだ。
◆
チルノと十分な距離を取って向かい合う。
視界は決して良くないがそれはチルノも同じ事だ。
霊夢は少し離れたところで、黙って見つめている。
つい先ほどまで困惑していた文さんは、「おぉ、噂のメイド長殿の実力をさっそく見られるとはっ」などと、言いながら始まってもいないのに目にも留まらぬ速さで何か手帳に書き込んでいた。なんとも現金なものだ。
「ゼンリョクでかかってきなさいっ!
あのときとあたいとは大違いなんだから!」
「えぇ。手を抜いたりなどと『完全で瀟洒』の名に相応しくない真似は致しませんわ」
「しょーしゃ?
なんだかわかんないけど本気ってことね!」
チルノはあれからどれほど強くなっただろうか。
わたしもあの時のままでは無い。時には死に掛けたりもして必死に腕を磨いてきたのだ。
まずは、手始めに。
「では、『パワーディレクション』!」
「私だって、『フロストコラムス』!」
”ディレクション”とは言っているが、この技は注意を逸らしたりはしない、その名の通り”力技”だ。
一見、何の変哲も無くそのまま白銀を反射するナイフを投げただけに見えるが、その後が違う。チルノまでおよそ半分の距離に到達した時に、そのナイフは瞬きする間も無く、チルノの眼前へと一足飛びに迫る。
そう、そこへ到達するまでの『時間を消し飛ばした』のだ。
タイミングを狂わされた攻撃はさぞや避けるのが困難だろう。
チルノはいったいどんな方法でこれを迎え撃つのか。
チルノへある種の期待を込めた眼差しを送ったが、だがそこでわたしは何か言い知れぬ違和感を覚えた。
――――いつまで経ってもチルノの攻撃は
「あ、あれ? な、なんで……」
「っ!」
まずい。
戦うとは言ったが何もチルノを『消滅』させたいわけじゃない。
ほとんど反射で指を掻き鳴らし、わたしは無音の世界を駆け抜けた。
「うわわっ…………、あれ?」
「ふう、どうしたのですか。チルノ」
「ど、どうして出ないの……」
呆然としたまま、己の手を見つめるチルノ。
彼女自身もどうしたのかわかっていないみたいだ。
それはまるで、突然、
「……ふーむ、やはり妖精では力の差があり過ぎましたかねぇ」
「ちっ、ちがうわ。いまのはナシよ!
もっかいやりなおしをよーきゅーするわ!」
「いえいえ! チルノさんは十分がんばりましたよ。その辺で無理をなさらずに」
「くっそー、違うっていってるでしょー!」
チルノが必死に抗議するが、文さんは聞く耳を持たない。
無理も無い。妖精は強い種族ではないのだ。
文さんの様な烏天狗であれば、妖精など足元にも及ばないだろう。
だけど、チルノは違う。
妖精の中でもずば抜けて強いはずだ。
わたしとしては頑張る彼女をどうにか援護してあげたいが、この世界はそれほど優しくない。
どんなに口で説明しようとも実力を示さなくては認めてもらえないだろう。
再び、微妙な空気が流れようとした時、
未だかつて感じたことも無い猛吹雪に襲われて、一瞬で視界を奪われた。
「くっ……!」
びゅうと吹き荒れる猛吹雪に全てが真っ白に覆われる。
隣にいたはずのチルノ、文さん、そして霊夢の姿も見えなくなり、吹雪に身体を煽られないようにするのがやっとだった。
どのくらい経っただろうか、紅茶というよりは渋みのある
「皆、大丈夫ですか?」
「うわ、目に雪が入った」
「えぇ、まぁなんとか」
チルノと文さんの声と姿が確認出来る。
しかし霊夢の声だけが聞けなかった。
――ふふふ、貴方退屈そうね、私がお相手をしてあげましょうか?
『!?』
見れば霊夢は明後日の方向に向き、お札で何かを防いでいる様子。
聞き覚えの無い声の主を探せば必然、霊夢の隣で何かを仕掛けたその女性に行き着いた。
「……あんた、それっぽいわね」
「ふふふ。くろまく、ってやつかしら?」
「へぇ」
当初より霊夢がずっと待っていたのは彼女ただひとり。
敵は『四季』の一角を担う『冬』そのもの。
冬の妖怪、レティ・ホワイトロック がその姿を現した。
後編へ続く。
補足:
・チルノの一人称。
ここでは普段私で時々あたい。
・射命丸文の翼
公式では無いもしくはあったりする場合もある。
本作では原作と違い、登場時期も早く短髪ボーイッシュなので、翼も見せているという設定。
・射命丸文が魔理沙から霊夢の居場所を聞いたタイミング。
魔理沙が博麗神社に向かう途中で遭遇。
魔理沙曰く、
「あぁ、間違いない。
三つほど候補があってそのどれかを探すって言ってたぜ。
無縁塚、霧の湖、紅魔館の三つだな(真顔)」