私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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EP28.冬の妖怪 後編

「……おおおおお!? いきなりの黒幕宣言っ!

 貴方は正真正銘の本物の黒幕ですか!?

 この”雪”を降らし、おまけにあの”スキマ妖怪”を攫ったと!!?」

 

「いいえ。私は黒幕だけど、普通よ」

 

「おおう? はて、どういう……」

 

 猛吹雪と共に現れた彼女は、独特のセリフ回しで文さんを翻弄する。

 

 薄紫のショートボブに、あれは白いターバンだろうか。

 決して厚くなくゆったりとした服装に、色は同色の薄紫と白を織り交ぜた装いだ。

 他に目立つモノといえば、左胸につける四方向に伸びる矢印型のブローチか。どこかで見た様な気がする。パチュリー様の図書館にそういった本があるかもしれない。

 

「レティ!?

 ジャマしないでよ、まだ私のしょーぶは終わってないんだ。ちょっとまっててよ!」

 

「クスクスクス。あら、貴方は誰かしら?

 こんな所に妖精がいては一回休みになるわよ?」

 

「誰って……。なにいってんの、チルノだよっ。夏にいっしょにあそんだじゃん!」

 

「うふふ、覚えてないわ」

 

 レティと呼ばれた彼女は『冬の忘れ物』、 レティ・ホワイトロック。

 チルノとの関係は……よくわからないが、チルノの申しぶりからとても無関係とは思えない。

 

 それよりも先ほどから彼女が笑う度に、なぜだか身体がぞくぞくする。

 これも『寒気を操る程度の能力』の一つなのだろうか。

 

「……とにかく、勘違いしないでちょうだい。

 私はこの”冬”にのみ生きる、雪の妖怪。

 ”夏”の話をされても答えられない。ましてや()()()()みたいな妖精は知らないわ」

 

「な、なんでそんなこというのさ!? レティは私を忘れちゃったの?」

 

 レティはそれきり霊夢の方に視線を戻して、チルノを見ることは無い。

 再び強さを増した吹雪に視界を遮られ、それがチルノを遠ざけるかの様にも見える。だが吹雪は単にレティの姿を隠しただけではなかった。

 

(まずい。霊夢独りだけがわたし達と離れ孤立してしまう――)

 

「――霊夢!」

 

『……こいつの相手は私よ。あんた達はそこで見てなさい』

 

 白い幕の向こうから応えと共に紅白の丸い玉が飛んでくる。

 見れば霊夢の隣に浮遊していた紅白の陰陽玉の一つで、それがわたし達の近くで止まると吹雪や寒さから守る様に結界を張った。

 

 

 

 

 霊夢は己が側に従えた陰陽玉の一つを掴み、それが当然の事だと言うように咲夜達がいる方に投げた。

 これで天狗の文はともかく、咲夜や様子のおかしいチルノは無事だろう。

 

 なぜ当たり前のようにそんな事をしたのか私にはわからない。

 ただ、咲夜は人間で氷精の方は耐えられない、なんとなくそう思っただけ。

 

 人間(妖精)と妖怪には確かな壁がある。

 多くの人間が努力しようともほとんどの妖怪には敵わない。

 それは私も同じ。努力したからといって、いつかそういう奴に合えばすぐに解る。

 

 

 

 ――――霊夢にとって、この世界は少々物分かりが良すぎた。

 およそ自身が経験したことが無いものでも大抵、霊夢には解る。

 つい今しがた、ここを”訪れた時”の様にその先に何が待っているかまではわからないが、結果としてそれが異変解決の近道になるとただわかるのだ。妖怪退治に至ってはさらに”勘”が冴え渡る。

 もちろん、その道すがらで戸惑いもすれば、苦戦もする。

 しかし、終わってみれば結果は同じ。結局初めから霊夢が感じた通りとなるのだ。

 

 

 

 だから、私には魔理沙が解からなかった。

 いつも魔理沙はやってみなければわからないと言うが、私から見れば結果はいつも決まっている。不思議な事は一つも無い。

 ”あの時”の咲夜だってきっかけさえあれば、”バケモノ”を吸血鬼の妹から切り離せると解かっていた。私の役目は最初からその”あと”に備えるだけ。

 

 だから。

 本当に()()()()()()()に危険に突っ込むあの二人が、私には解からない。

 ましてや、氷精を退治した時、妖精のクセ――――それが妖精という種族なのに――――に突然泣き出した事なんて。

 

「貴方の血は冷たそうね。私が触れても火傷しないんじゃないかしら?」

 

「心配しなくても、この霊気で跡形も無く溶かしてやるわよ」

 

「はたして人間の貴女に出来るかしらね。

ねぇ、”あの子”がヘンテコになってしまったのは、貴方のせいかしら?」

 

「……知らないわよ」

 

「そうかしら? あのメイドさんも怪しいけど貴方を見ると元気なだけが取り得の”あの子”が、私や貴方みたいに()()()()()顔をするわ」

 

「へぇ、それが目的ってわけ。あんたも大概――――妖怪らしくないわね」

 

「うふふ。そうね、最初は少し冬が長引けばと思っただけなんだけど。……随分気が変わってしまったわ」

 

「回りくどいのよ、最初からそう言いなさい」

 

「えぇ。――――これはただの八つ当たりよ」

 

 三度(みたび)、視界を眩ます猛吹雪が吹き荒れ、妖怪の姿が消えた。

 

 私の”勝ちで終わる”妖怪退治が始る。

 この面倒な嫌がらせもどうすればいいかわかってる。ただ”浮けばいい”だけ。

 

 

 霊夢の姿を見つけた時には既に戦いが始まっていた。

 レティが笑みを深めるのに呼応して何度目かの猛吹雪が吹き荒れ、その身体は雪煙の様に消える。

 

 ――――『リンガリングコールド』

 

 雪群がうねり渦を巻く様にして固まると、それが白銀のつららの雨となって霊夢に降り注ぐ。霊夢は防御の為に結界を幾重にも張るがそれはすべて気休めでしか無く、数発つららを砕いただけで後から迫る大群に押しつぶされた。

 

 わたしは思わず叫ぶ。

 

「霊夢!」

 

 返事の代わりに鋭利に光る針の群れが通り過ぎ、少し経ってなんとかいなす事に成功した霊夢が顔を出す。

 少々赤みが差す白い頬に所々筋が入って、身体中にも小さな切り傷が見られた。

 

 それでも脅威であったのは、”それ”だけだ。

 霊夢は以前見た、霊気の分厚い膜を纏い、それが吹雪を阻んで彼女を避けるように通り過ぎていく。視界を奪う雪も体の自由を奪う寒さも全く脅威となってはいなかった。

 

 今、わたし達もその霊夢の結界で守られているが、外は冬の猛威にさらされた水滴が一瞬で凍りつき、白以外は存在してはいけないかの様に違う色は即座に染められてしまう。

 

 そんな中、たとえ敵が”大自然”そのものであったとしても直接何か仕掛けなければ大妖怪と渡り合ってきた霊夢には通じなかった。

 

 ここまでの一部始終を目撃したチルノや文さんは、思い思いに感想を述べる。

 

「さっすが、あたいのトモダチね! レティ、がんばれー!!」

 

「いやいやチルノさん、まずいのはそのレティさんの方ですよ。

 ……それにしても当代の巫女はいったいなんなんですか。人間に化けた大妖怪では? おっとそのネタで一本記事が書けますねぇ♪」

 

 相変わらず文さんは新聞のネタ探しに余念が無いが、チルノは先ほどのやり取りを気にしてはいないようだ。変わらぬ態度でレティを応援している。

 

 わたしは改めて、レティ・ホワイトロック という妖怪について思案した。

 

『冬を()()()()なんて横暴ね。

 ところで、人間は冬眠しないの?

 哺乳類のくせに』

 

「する人もいるけど、私はしない」

 

『私が眠らせてあげるわ。

 安らかな春眠』

 

 姿は見えない。すぐ側でどこからでも聞こえるこの声はまるで彼女自身を表す様に掴み所が無いようだ。

 見て聞いたものだけが彼女では無い気がする。どの様に受け取られようと決して本心を見せぬ奥ゆかしさがこそが彼女の本性なのかもしれない。

 

『ねぇ、()()()は好きかしら?』

 

「あんたと遊ぶ気は無いわ」

 

『クスクスクス、”答えた”わね』

 

「くっ……!?」

 

 辺りが突然薄暗みに変わる。また、レティが何か仕掛けたようだ。

 

 ――――『テーブルターニング』

 問えば答える。交霊術の一種で外の世界では『コックリさん』の元になった物だ。『スペルカード』の小さな弾幕に木枯しの様なレーザーを織り交ぜた弾幕では決してない。

 

 レティの問いに()()()()()()()霊夢は何かに引きづられる様に、自ら前へと進み出て行く。無意識か、はたまた幽霊の仕業か。あの”遊び”の様にきちんと手順を踏まなければ脱出する術は無いのだろう。

 

『ねぇ、()()()()は必要かしら?』

 

 ――必要ないわ。

 

 誰かがそう言った気がした。

 すると、今度は霊夢が自ら手に持つ愛用の大幣を投げ捨てた。

 クスクスと笑い声だけが響き、不気味さが一層増していく。

 

 完全にレティの術中に嵌ってしまった。

 しかし、霊夢がただ為すがままなわけが無い。

 

『さあ、次はどんな質問がお望みかしら?』

 

「っ、遊ぶ気は無いって言ってんでしょ!

 ――――『夢想封印 散』!!」

 

「きゃっ」

 

 おそらく両手、両の足を封じられた状態で、霊夢は唯一自由の効く顔を振って、袖口に頭を突っ込む。そこからひらりと舞い落ちた一枚のお札が発光し、八つの陰陽玉が散弾銃の様に弾け飛んだ。雪化粧に潜んでいたレティにその一つが命中し、霊夢は強引に”遊び”から脱出する事に成功した。

 

「やっと見つけたわ。堕ちなさい!」

 

「くっ。だめよ、まだ終わらせない。

 ――――『フラワーウィザラウェイ』!」

 

 畳み掛ける様に霊夢がお札の分厚い弾幕を何発も放つが一つもレティには届かない。吹雪をも押し退けて進む弾幕は突然勢いを失い、札の紙はまるで散り行く花の様に萎れて紙ふぶきとなって消えてしまった。

 

「……やりにくいやつね」

 

「よく言うわ。さっきから私の『存在理由』悉く否定してくれてるじゃない」

 

 強い。今であればレティの実力は大妖怪に十分匹敵すると言って良いだろう。

 もっというと、霊夢ではなくわたしが相手をするならこんな五分以上の勝負に持ち込めるわけが無い。勝負の主戦場となる舞台が全て彼女の”もの”で、間接的な攻撃や精神を揺るがす攻撃は大変やりにくい。

 しいていうなら、真正面からぶつかる攻撃が少ないと思う程度で、わたしが勝つとしたらそこしかないだろう。

 

 しかし、そんなことも必要無く、霊夢はその全てを受け、全てを破って見せた。

 

 なら、あとは。

 

「いい加減この雪も鬱陶しくなってきたわ。次で終わりよ」

 

「そうね、貴方に効きそうなのものはほとんど無いみたいね」

 

 次で決着だ。

 隣を伺うと、決定的瞬間を押えるべく、文さんが取り出したカメラを構え、チルノは結界に張り付いてレティの一挙手一投足を見逃さぬ様、固唾を呑んで見守っている。

 

 再び視線を戻すと、距離を取った両者が対峙する相手を真っ向から打ち負かす為に最後の切り札を切った。

 

 雪色の六本の光線がレティの周りで円を描く様に駆け抜け、波の様にうねりながら一点に収束していく。

 

 霊夢が一枚のお札を取り出して目を閉じると、隣に漂う陰陽玉が発光しながら八つに分かれて激しく回転しだす。

 

 

 

「――『アンデュレイションレイ』!!」

 

「――『夢想封印 集』!!」

 

 

 奇しくも技の系統は同じ。

 どちらも一塊となって衝突し、力と力のぶつかり合いになるように見えたが、突然、レティの『アンディレイションレイ』がその前に()()()

 

 ――ここへ来て、搦め手か。

 

「そんなっ、どうして!?」

 

 だが、予想外に困惑した声を上げたのはレティの方だった。

 

 割れた光線は再びうねり、あろうことか術者自身を目掛けて襲いかかる。

 最悪な事にその後ろから霊夢の陰陽玉も追いかけていた。

 

「レティ、あぶない!」

 

「な、チルノさんっ!?」

 

「チルノっ、待って!」

 

 静止を振り切って、チルノが飛び出す。今度は不発じゃない。

 チルノは結界を内側から一瞬で凍りつかせたかと覚えば、次の瞬間には結界が砕け散りチルノがレティを庇うために、全速力で結界の外へと飛び出した。

 

「馬鹿っ」

 

「なっ、チルノ!? 来ちゃだめよ!!」

 

 瞬時に霊夢は掲げた一枚のお札にもう一枚を重ね、『散』と唱える。レティの方はまるで制御が出来ずに無防備にさらされたままだ。

 

「『パーフェクトフリーズ』!!!」

 

 幸か不幸か、間に合ってしまったチルノは両手を広げ、大の字になってレティを前に躍り出た。その技はいつか見た時ものと比べくも無い。

 

 触れたものは皆凍りつく。

 ぐねぐねと飛び交いながら迫る『アンデュレイションレイ』を、チルノは盾のように張った氷のバリアで真正面から受けた。

 光線は氷盾にぶつかり、触れた先からみるみる内に凍り付いて勢いを削がれた。

 数秒の攻防の末、やがてチルノが確信を持って叫んだ。

 

「やったっ……」

 

 だがしかし、異常事態とはいえ大妖怪が放つ全力に、限界を超えた程度の妖精チルノが叶うはずは無い。成功したのはわずか数秒の静止であって、攻防に競り勝った六つの光線は砕け散る氷の粒を撒き散らしながら、荒れる大波の様に容赦なくチルノに襲い掛かる。

 

 思わず、わたしとレティの叫びが重なった。

 

『チルノっ!!?』

 

「くっそー! ――――あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくよけいな手間を掛けさせるんじゃないわよ」

 

「……え?」

 

 チルノが光線の波に飲み込まれる直前、『夢想封印』を散らす事に成功した霊夢は、瞬時に動いて光線を文字通り”通り抜けた”。

 

 見れば霊夢はチルノを抱え、迫る六つの光線も陰陽玉によって対消滅して跡形も無い。

 

 勝負は決した。何から何まで収めてみせた霊夢の勝ちは疑い様も無い。

 

「あややややや! 今、すり抜けませんでしたか……?」

 

「気のせいよ」

 

 役目は終わったとばかりに、霊夢は適当に文さんに返しながら助けたチルノをレティの方に離して、涼しい顔でこちらへと下りてくる。

 

 唯一、今戦ったばかりのレティだけが霊夢を引きとめた。

 

「待って。ごめんなさい、貴女の事を誤解していたわ。

 チルノを助けてくれてありがとう」

 

「……別に、間に合うと”解った”から動いたまでよ。

 あんたにまた絡まれたら面倒だからね」

 

「……そう、そうね。これは私のせいだわ」

 

「レティ、だいじょうぶ? ねぇ、なんのはなし?」

 

「ふふ。何でもないわ、チルノ。

 ごめんなさい、残りわずかな冬を私と一緒に遊んでもらえないかしら」

 

「え? ふ、ふふん! やっぱりね。レティがどうしてもって言うんならあたいの子分にしてあげてもいいわ!」

 

「あら、そんな事ひとつも言って無いわ」

 

 雨降って地固まるというか、雪が降って二人はどうやら元の良き関係へと戻ったようだ。すっかり仲睦まじい二人を見るにレティはやっぱり初めからチルノを嫌ってなどいなかったのだろう。

 突き放すような態度は、果たしてチルノを関係の無い外から助ける為だったのか。それとも少しの……。

 

 いずれにせよ、妖怪とは人間と大きく感性が異なる。わたしも長年お嬢様にお使えさせて頂いているが、いまだ戸惑う事も多い。

 

 それにしても、

 

「……何よ」

 

「いいえ、失礼しました。何でもありませんわ」

 

「…………」

 

「うふふ。霊夢でよかったかしら?

 自然を違えてまで、長い冬は要らないわ。

 冬が去らないのはいつまで経っても春が来ない――――()()()()()からよ」

 

()()。なら、とっとと寝なさい。あんたがいると春が来ても寒いままよ」

 

「そうね、でもあと少しだけ許して」

 

 それだけ聞くと、返事もせずに霊夢は次の目的地へと飛び立つ。

 わたしも「失礼します」とだけ言って、霊夢の後に続いて飛び立った。

 

 

 

 ――――多少の疑問を残し、それでも物語は前と進んでいく。

 

 

 

 ――――――

 

「……くっくっく。所詮噂などと思っていましたが、噂の方がひどいゴシップとは恐れいりましたよ。ヤバイです、これは幻想郷に革命が起きますよ!

 そしてその特ダネを我が『文々。新聞』だけが独占……! くふふ、これは天下を取ったも同然ですね……!

 ――――あれ? 霊夢さんに咲夜さんは?」

 

「文、ふたりはもういっちゃったわっ。私もレティと遊ぶからそれじゃーね!」

 

「なっ、なんですと……! 待ってくださいお二人とも~~~!」

 

 霧の湖に強く吹き荒れた雪が止み、一時、春を思われる春嵐がどこかへ向かって吹き荒れたそうな。

 




時間が無いので、とりあえずここまで出来たものを投稿しました。
いつか、表現など直したいです。

次回は魔理沙とそのパートナーの話からなんですが、
今月から書ける時間が取れるか分かりません。
次話の目処が立ちましたら、活動報告でご連絡しようかと思います。


補足:
・レティ・ホワイトロック

イメージはいまいち掴み所の無い雪女。
冬にだけ表に現れ、夏はどこかの静かな所でチルノに氷で涼ませてもらっているというやつです。

しかし雪女だからといって愛とか恋とかではありません。
二次設定でよくあるおかんだったり、友人だったり、良き隣人のイメージ。
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