私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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投稿間隔が空いた理由は単に話が全くまとまらなかったから。再開はしましたがしばらく不定期のままです。


EP30.狐の忠告

 民家の側に下りて近くまで来て見ると遠め目には分からなかったしっかりとした造りの立派な門があった。一度流し見た家は本当に小さな民家でボロボロな感じが否めない廃屋と言っても良いと思っていたが、この門は明らかに不釣合いだろう。

 

 その違和感にある種の予感を覚えながら門を潜ると、次の瞬間には予感は現実へと変わった。たぶん、何かの幻術を施していたのだろう。

 小さな何の変哲も無い民家だったはずのものは、その立派な門を潜った瞬間にそれに相応しい大きな屋敷へと置き換えられたのだ。僅かな空間の歪みを起こして一瞬に姿を変える。

 

 さらに近づくとその屋敷は手入れが為され、予想以上に大きかった事がよくわかる。一階建ての木造ではあるものの、横に広く、元あった民家の優に数倍は超えるだろう。

 

(このデカさなら、さぞやお宝は期待できそうだな)

 

 門を潜るまで外目には全くわからなかったが、迷い家とはそういうものなのか。それとも家主が居て、さっきの妖怪猫が使っていた御札か何かで化かせているのか。まぁ、そんな事はさほど問題では無く、さっそく中に入るべく試しに玄関の戸口を開いてみたら、すんなりと開けることが出来た。

 

「ちょ、ちょっと、魔理沙。勝手に入ったらまずいんじゃない?」

 

 さっそく中に入ろうした私に、妖夢はなぜか引き止めようとする。

 それのどこがまずいのか全くわからないな。むしろ今回は正面から入っている分、正々堂々としているんじゃないか。

 

「何も問題ないぜ。私はあいつ(妖怪猫)にちゃんと勝ったし、そうじゃなくてもわざわざ敵に教えてやる必要も無いしな」

 

「それはそうだけど……」

 

 人様の家には勝手に入るなというやつか。そうだとしても私は勝手に入るんだけどな。

 

 ひとまず、迷い家には人は迷い込んでも住んでいるという話は聞かなかったし、もし住んでいるなら今は敵の可能性が高い。

 入る権利はあると主張してやると、妖夢もそれ以上は何も言わなくなったので、遠慮無く中へと入らせてもらう。

 思ったとおり中も同じ様に手入れが為され、放置されているということは一つも無かった。

 

 ――はてさて、まずは何をするんだったか。

 そうだ、お宝をもらいに来たんだった。確か妖夢は日用品や食器類を持ち帰れば良いと言ってたな。なら、高そうな皿でも探すか。他にもレアなマジックアイテムや魔石なんか溜め込んでないかな。いや、でもそれじゃあ幸運は訪れないか。ちぇ、マジックアイテムだとしても魔法の皿や匙とかそういうのじゃないと駄目か。

 

 魔理沙の頭の中ではもはや”何を借りて”帰るかで埋め尽くされてしまっている。当初の目的からすっかり横道にそれてしまっているが無理も無い。迷い家という珍しい上に宝まであるここは、魔理沙にとって魅力に溢れ過ぎていた。

 

 対して、妖夢も躊躇はするものの、待つと言う事はせずに、残される不安とほんの少しの好奇心から結局魔理沙の後について行く事にする。

 

 その妖夢の背中に、一枚の小さな紙片と思わしきものが風に流される様に張り付いた。当然、魔理沙も当人である妖夢も気づく事は無い。

 

 

 ――みゃあ、みゃあ

 

 手始めに廊下を進み、見つけた扉を片っ端から開けていく。

 少し動く度に足を取られて、この作業は思ったよりも時間が掛かるが部屋の中を覗けば ”一部”を除いてほとんど上等な品ばかりだ。どれを持って帰っても高く売れるとわかる。

 

 ここでも一応マジックグラスを掛けてみたが、視て取れたのは外と変わらぬ春度でこの屋敷に集められているという風でも無い。

 

 ある程度回って見つけた書斎に書棚がある事に思わず笑みを浮かべ、目ぼしそうな本の一画をまとめて引っこぬき、文机に腕を突きながら片っ端からページを捲って行く。占術や呪術から霊夢が使う様な術や技が載った本がほとんどだったが、一つだけ印刷も紙質も全く違う本を見つけて夢中でページを捲った。

 

「へぇ、”外”の本か。こいつは霖之助辺りが食いつきそうだな」

 

 例えば、外の人間が迷い込んで忘れて行ったのか。十分に有り得る。

 その可能性に思考を巡らせながら、分厚い本のページを次々に捲り進めるのだが、ページを捲る手を先ほどから、こすりこすりと阻害する毛むくじゃらがいい加減うざったくなってきた。分厚く重量のある本もそれに一層拍車をかける。

 

 

 

 

 

「……おい、おまえらあいつの仲間かなんかだろ。ちょっとは人見知りしろよ! それに妖夢。おまえも嬉しそうに抱っこしてんじゃねぇ!」

 

「えへへ、だってかわいいんだもん」

 

「はぁ……」

 

 

 

 

 

 どこを見ても目に入るし歩けば常に当たる。ここはまさに『猫屋敷』であった。

 あの妖怪猫が『私達の里』と言っていたが、つまりはそういう事だ。迷い家はあいつも含めて猫達の住処でまず間違いなさそうだ。

 

 畳の上でごろんごろんと寝転がったり、ぎゃあぎゃあと鳴き叫び、喧嘩というかじゃれ合ったりしている。これだけ揃うと和む所か、邪魔だし気が散って仕方がない。それなのに妖夢のヤツといったら大人しそうな茶トラの猫を膝に乗せて、自分でも「にゃあ、にゃあ」とか言いながら猫の鳴き真似までしてる始末だ。この好き者め。

 

 もう何度目かに、膝に乗ってきた猫をひょいと摘んで隣に投げ捨て、いい加減、別の場所を探す為に立ち上がる。これ以上寛ぎ過ぎるとあの妖怪猫もそろそろ気が付く頃だろうしな。

 

 

 

「おい、妖夢。そろそろ次の部屋を探そうぜ。確か奥にでかそうな部屋があっただろ」

 

「そうだね。行こっか」

 

「て、そいつもか。どんだけ好きなんだぜ」

 

「だって。うちじゃ食べられちゃうかもしれないから。飼えな……い、と思うから」

 

「食うのかよ。おまえんちじゃいったい何が住んでんだ……」

 

「…………」

 

 話の途中まで上機嫌だった妖夢の顔に途端に暗く影が差した。それでも私は敢えて気づかない風に返す。今日会ったばかりなのだが、時々、こんな風に様子がおかしくなる。

 何か思い詰めているのはわかる。でも、聞いたりはしない。聞かれたくない事なんて誰にでもあるのだ。

 

(私にだってあるしな。とにかく、すっかり忘れていたが異変解決再開だ。ついでにめぼしいお宝も見つけ次第借りて行くぜ)

 

 重い空気を変えるべく、魔理沙は目的の部屋へと歩を速めた。

 

 ――余談だが、あたかも未だ何もしていないかの様に言っているが、既に先程の書斎から外の世界の本やら文机に置かれていた筆やらが、ちゃっかりと持ち去られている。魔理沙の中ではめぼしいお宝のうちには入っていないのだろう。

 

 

 

「よし、次は何がでてくるかなっ!」

 

 

 

 魔理沙は努めて明るく声を張る。

 両手で引き戸を掴み、勢い良く横に引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………よお。あんたが"黒幕"か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気は確かに変わった。別種のより重い物へと。

 

「………………」

 

 金色の二つの瞳が私を静かに捉えていた。

 

 

 

 ギャア、と悲鳴に似た鳴き声を上げ、妖夢の腕の中にいた茶トラが飛び出し慌てて書斎の方へと走り去る。私は直ぐにでも八卦炉を取り出せるように備え少しでも動きがあれば、と身構える。背後で妖夢も少々手間取った様だが、刀に手を掛ける音がした。

 

 まさかとは思ったがやっぱり他にも家主がいたらしい。

 しかも、とんでもなくヤバい奴が。

 

 これほどの奴がいてなぜ気付かなかったのか。――――いや、そうなる様に気配を消していたのか。対峙してもなお強者特有の重圧という物を全く感じ取れないが、こいつが大物である事は疑い様が無い。

 

 頭から生えた尖った二本の耳が当然妖怪である事を示しているし、背後には瞳と同じ色の大きな金色の尻尾がいくつも見える。その数はなんと ()()

 

(九尾の……、狐。間違い無く大妖怪だ)

 

 ――――元々動物だった妖怪は、妖怪化する事で尻尾が増えていく者が多い。一本から順に二本、三本と一つづつ増えていき、その法則は生きた年数やら力の強さにまず間違い無く比例する。

 

 九尾など未だ御伽噺でしか聞いた事も無い。

 二尾の妖怪猫を取っちめたと思ったら予想を遥かに超える大物が出来てしまった。今更ながらに魔理沙は心中冷や汗を流す。

 

(正面からじゃあとても勝ち目は無い。これはとっととお宝だけもらって逃げた方が良さそうだ)

 

 この後に及んで、お宝を諦めていないのは誰か褒めてくれても良いだろう。

 咄嗟に辺りに視線を送り、ちょうど食事を始める所であろう机の上にある小さな取り皿にアタリを付け、未だ反応の示さない九尾の狐を正面に捉え直した。

 

 しかし予想とは異なり、第一の反応は背後から発せられる。

 

 

 

 

 

「魔理沙、退いてっ、そいつは私が斬る!

…………ぐっ、刀が抜けない!!?」

 

 

 

 

 

 私を押し退ける様にして九尾へと斬りかかる妖夢が道半ばにして立ち止まる。見れば妖夢が手に掛けた大太刀の鍔から鞘にかけて白い紙片の様な物がまるで封をするかの様に張り付いていた。

 

 いや、ただの紙片じゃない。よく見ると人の形をした上等な紙が確実に妖夢の刀を封じている。

 

(いったい、いつ張り付いた?)

 

 妖怪が住まう迷い家はいわば敵地同然だが、それでもずっと探索ついでに注意深く観察はしていたつもりだ。なのにこれっぽっちも気付けなかったと言う事は既にそれほどの差がついているという事だ。奴と私では実力が違いすぎる。

 

(諦めて、今は退くしかないな)

 

 敵の強大さに認識を改めて、心の中で自分を叱咤していつでも退ける様に身構える。

 

(襲ってくるなら即座に懐の八卦炉で『マスタースパーク』を放ち、手の届く範囲にいる妖夢を引っ掴んで全速力で回れ右だ。よし、いける……!)

 

 覚悟すれば自然と浮き足立った心も静まる。漸く魔理沙が平静を取り戻した所で初めて九尾の狐は口を開いた。

 

「人様の家に押し入り、家主を見つけるや否や斬りかかろうとは、さぞや凶悪な妖怪らしいな?――――ふう。まったくおまえ(人間)達はよくよく私のささやかな楽しみを邪魔するのが好きらしい」

 

「…………大層な皮肉をどうも。凶悪かは知らないが妖怪はおまえの方だ」

 

 九尾の狐は軽く溜息を吐いた後、口を合わせた袖から一指し指を出して招く様に振ると、妖夢の刀から人形(ヒトガタ)の紙片が剝がれて九尾の手の中に納まった。

 

 わざわざ封じた刀を解放するとは、すぐに戦う気は無いのか、と様子を伺う私とは対照的に、敵意を露にしたままの妖夢に再度九尾は嘆息を吐いてから、半分隠れたままの手を袖から全て出して掌を見せる。正体を明かす事で今度こそ静止した。

 

「待て。私の名前は”八雲 藍(やくも らん)”だ。”八雲 紫”様の式をしている」

 

『八雲!?』

 

「そうだ。(八雲)は言わば異変を監督する立場の者。つまり、今ここでおまえ達と争う気は無い」

 

 九尾の狐――八雲藍の言葉に私達は思わず聞き返えしてしまう。妖夢も今回ばかりは驚いて、半分まで抜きかけた刀も気付けば元の位置に納まっていた。

 

 ――何の手がかりも掴めなかったのにまさか春を探しに来ていっきに”八雲紫”に近づくとは。

 

 

 八雲紫の側近とも言える藍の登場に、事態は一気に進展するかの様に思われたが、結論から言うと特にめぼしい情報は得られなかった。

 

「それで、アイツ()はどこに消えちまったんだ!?」

 

「それは答えられん、と言いたい所だがさして変わりはしない。私にも分からんな」

 

「なんだよ。分からんってあんたのご主人様だろ? 探さなくていいのか?」

 

「私には紫様不在だからこそ預かる役目がある。異変解決はおまえの仕事だろう? 吉報を待っているぞ」

 

 それを皮切りに魔理沙は思いつく限りの質問を投掛けて帰ってきた答えを総合する。まとめると、まず八雲藍はあの八雲紫の式、つまり使役された配下で今は紫が消息不明の為、代わりに結界の維持等に追われ、ちょうど休憩しにきた所に私達がやって来たというわけらしい。思い切ってズバり異変の”黒幕”を聞いてみたが、答えは当然『答えられん』の一言だ。ちょっとでもヒントを得ようといつから春は奪われたのかとか、冬に活動する妖怪はいないかとか、あの手この手で質問してみたが、全て先ほどの一言で一蹴された。

 

 質問攻めの中、妖夢だけは隣でしばし身を固くして気が気でない様相であったが、二人は、少なくとも魔理沙は気に留める事は無かった。むしろ、そんな真面目な話をする最中でも、向かいでは八雲藍が好物のいなり寿しを口に運ぶのに忙しく、そちらの方に目を奪われた。

 

「忙しいと言ったろう。問いには答えてやるが食事のついでだ」

 

「……それ美味そうだな」

 

 余りにも藍がご執心なので興味を惹かれた魔理沙が何気無く呟く。その直後に藍の眉がぴくりと動いた。箸をカチャリと置き、ここに来て初めて膨大な妖気を晒し、目に明らかな敵意が宿った。

 

「この揚げ(いなり寿し)はやらんぞ。やるのは答えだけだ。かつては吸血鬼の侍女に仕方無くくれてやったが、同じ過ちは犯さん」

 

「まっ、待て待て、欲しいとは誰も言ってないって!

 ……ん? 吸血鬼の侍女ってまさか咲夜の事か?」

 

「そんな名だ」

 

「へぇ、じゃあ咲夜とは会った事があるんだな」

 

 二人の出会いについては少々興味がある。しかしこれ以上お楽しみの邪魔をすると、また牙を剥き出しにされ、青い顔をするハメになりかねないので、黙って食事が終わるのを待つ事にした。

 

 手持ち無沙汰になり、退屈しのぎに何か無いかと考える。

 そこでふと魔理沙はある事を思い出した。

 

(そうだ、お宝を頂いてないぜ)

 

 向かいでは相も変わらず九尾の狐がさぞや美味そうに、寿しを頬張っている。表情は変わらないが、尻尾が確かに揺れているのが良い証拠だろう。

 

(しめた。今がチャンスだぜ)

 

 目の前のご馳走に夢中になっている藍を尻目に、魔理沙は素知らぬ顔で後ろ手に背の低い食器棚を空け、懐に隠せる手頃な皿を一枚拝借した。当然、藍が気付いた様子は無い。代わりに「ま、魔理沙っ」と小声で妖夢が目敏く注意してくるが、当然無視しておいた。

 

 

 大皿に乗った料理を綺麗に平らげ、湯呑みを傾けてから、改めて藍は切り出した。

 

「しまいか? ではとっとと立ち去れ」

 

「そうしたいが、出る方法が分からないぜ」

 

人形(ヒトガタ)を付けてやる。そいつを追えば直に出られるだろう」

 

「そりゃどうも」

 

 縁側に続く戸を開け放ち、藍が人形の式神を宙に放つ。

 すると、人形は意思を持ち飛び始めたので、魔理沙も後に倣う様に縁側に出て箒に跨った。

 

「……霧雨魔理沙。おまえに一つ忠告をしておいてやろう」

 

 そう言って「なんだよ」と言う魔理沙の耳元に藍は口許を近づける。

 魔理沙だけにしか聞こえない声で藍はそっと囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞくりと冷たい汗が魔理沙の背中を伝った。

 なんとか平静を装い「一体何からだよ」と返すのが精一杯で、藍に振り向きもせず、顔を見られぬ様に慌てて魔理沙は飛び立つ他ない。

 

 その様子を藍は無言で見つめた後、未だ部屋に居座る半人半霊の庭師に疑問を投掛けた。

 

「どうした、おまえも後を追うのだろう?」

 

「……あの、紫様の行方は本当に」

 

「それを聞いてどうする。おまえの目には少々迷いがあるものの決意した者の目だろう。違うか?」

 

「っ…………」

 

 見透かされた様な返しに、妖夢は思わず言葉に詰まる。それはつまり肯定である事を示していた。

 

「何度も言うが、私にも行方はわからん。本当だ」

 

 それで今度こそ話は終わりだ。

 妖夢は無言のまま立ち上がり、軽く藍に頭を下げて魔理沙の後を追うのだった。

 

 

 

――――もっと多くの春を集めるために。

 

 

 迷い家から人間達の気配が遠退いていくのを確認してから、八雲藍は庭から恐る恐る様子を伺う二本の尻尾の持ち主を呼び寄せた。

 

「橙、出て来い」

 

「ご、ごめんなさい! 藍様!!」

 

 どうしてこうなってしまったのか。

 私は別に叱った覚えなど無いが、式である橙には必要以上に怯えられてしまっている。大抵の事ならば何でも上手くこなせるのだが、誰かを躾けるというのは私は才分に欠けるらしい。

 

 そんな事実を痛感し、思わず小さく溜息を吐いてしまった。

 

「ひっ、……ごめんなさいっ」

 

 また一つ誤解させてしまった。

 

「橙、私は怒ってなどいないぞ。現におまえはあの人間達から”畏れ”を喰らったのだろう」

 

「っ、は、はい! あいつらを思いっきり驚かせてやりました!」

 

「そうだろう。良くやったぞ。だが、おまえも”八雲”の者であれば戦いの力は必要だ。もっと励むと良い」

 

「が、頑張ります……」

 

 そう告げてやると、橙は負けた事を思いだし気落ちしつつもなんとか持ち直す。

 

 なぜ私がその事――驚かせた事を知っているのか。考えるまでも無い。

 ()()()()視ていたからだ。

 突然の事態とはいえ、紫様の不在に対応出来ない私ではない。

 どの様な事態になろうと幻想郷の秩序を守る為、鍵となる人間や妖怪は常に把握していた。

 

 その上で、改めて紫様との最後の会話を思い出す。

 

 

 

 ――藍、貴女は今の幻想郷をどう見るかしら?

 

 ――非情に危うい均衡の上で成り立っていると見ます。『スペルカード・ルール』が為されていれば『表』だけでも問題を除く事が出来ましたが、今は、むしろ口実に成りかねません。

 

 ――そう。

 

 

 

 きっと私の答えは望むものではなかっただろう。

 私の経験から言って紫様がそんな問いかけをする時は、既に答えを得て動き出す前触れだ。

 

 ――アイツはどこに消えちまったんだ!?

 

 嘘ではない。紫様は忽然と姿を消し、今もその行方は私にも分からない。

 だが動いた以上、紫様は何かを成そうとされていらっしゃる。霧雨魔理沙と例の白玉楼の庭師が行動を共にしているのも、もしかしたらその思惑の一つかもしれない。世間が騒ぐ御身(紫様)の危機など考慮にも値しない。

 

 私が今考えるべきは異変解決の動向を見守り、結果、何を得て何を失ったか余す事無く見抜く事だ。

 

 そこまで考えた所で、少々没頭しすぎた思考を橙の声によって現実に引き戻された。

 

「藍様?」

 

「……そうだ、おまえに面白い物をやろう」

 

 そう言って、私は袖の内から先ほど代価として取り立てておいた物を橙に差し出す。橙はそれを不思議そうに見ながら受け取った。

 

「人間の物ですか?」

 

「掛けてみろ。面白い物が見られるぞ」

 

 それは紛れも無く先ほどの白黒が所持していたマジックグラス。

 白黒が持ち去った皿の代償にともらっておいた物だが、これが単に妖気や魔力が可視化出来るだけの物なら対して価値も無いがその精度には一目置くものがある。掛けてみれば分かる事だが、妖怪が注意深く見なければ見逃すものも逃さず視止める事が出来るだろう。

 

 近頃は魔法使いが増えた。白黒は言わずもがな、何を考えているか読めない奇特な人形師にあらゆる知識を貪る大図書館の賢者。その魔法使いの手の内を知る材料の一つには十分だ。

 

 橙がマジックグラスを掛けたのを確認してから、部屋の外を見る様に促してやる。

 

「わあ、雪に混じって桃色のふわふわがいっぱい!

 藍様、あれなんですか!?」

 

「ふふ。中々、面白いだろう。さて、私はまたしばらく留守にするが外は直に冷え込むぞ。橙、屋敷の事は任せたぞ」

 

「はい、藍様っ」

 

 元気良く返事をする橙に頷き、私は再び迷い家を後にする。案内役とその後の監視を受け持つ人形(ヒトガタ)が幻想郷の人形師を捉えた所だ。

 




時系列間違えたので、次回は咲夜と霊夢と文のトリオ。

補足:

・迷い家②
今は猫屋敷になっていますが、紫様がいるときは猫達は普段は外に。

・八雲藍と魂魄妖夢
面識は無し。初対面。
意味はありませんがこの時点までの原作で面識がある描写が見つけられなかったので。
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