私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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EP31.奇特な人形使い 表

「もう、全然集まらないじゃない!」

 

 霊夢を主として続く咲夜、そして文達は、春度を高めて春を迎えるためにその素となる欠片を集めるのに今の今まで奔走する羽目になっていた。

 

 霊夢の手のひらに乗るのは、薄紅の花びらが僅かに三枚。

 その花びらはただの花片ではなく手にすると周囲に温かみが増し、目を閉じると鼻腔を擽る梅の匂いから春を夢想する事が出来る。それは咲夜の首に巻かれた褐色のマフラーからも同じ匂いが感じられ、おかげで寒空の中凍える事も無く、ぬくぬくと余裕を持って異変解決に望めるのは一歩前進したと言えるだろう。

 

 しかし、裏を返せば成果と呼べるものはただ一つ、それだけであった。

 

 手持ちにある”春度”では、幻想郷中に春を迎えるには余りにも心許無い。見上げれば考えるまでも無く、あの雪を降らせる雲の下では春度も極僅かで、その場所から脱出でもしない限りは集まるものも集まらないというものだ。

 

 霊夢の手の中にある花片も、いくつかの場所を訪れてやっと一つの形になった程度で、そのまま幻想郷中を回ってもあと何枚増やせるのだろうか。まさに焼け石に水と言った所だ。

 

 もちろん、三人とも全て集まるなど始めから露ほどにも思ってはいなかった。

 春度を高める事で、自ずと同じ目的の”敵”に出くわす事を期待した為だ。

 

 春度の薄れてしまった場所は除外し、未だ薄れていないと思われる場所へ。自ら探す事が困難であるなら、少しでも春に近い誰かのもとへ。

 

 しかし、冒頭で表した様に結果は散々な物であった。

 人が寄り付かぬ場所へ伺えばその通り、何も無く。

『冬の妖怪』がいるならと、春の(あやかし)や精を探せども発見したのは小物ばかり。

 道中、其処彼処(そこかしこ)で集め、また、異変解決の名の下に退治して回った結果が今述べた成果である。

 

「不味いですね。直に日も沈み始めますわ」

 

 自前の懐中時計に目を落とした咲夜が警告の意を持って霊夢に告げる。

 

 夜になれば妖怪達が活気づき、尚更、異変解決が困難になっていく。

 それは霊夢本人も十分な程に理解していたが、自慢の勘はしばらく成りを潜め、その鋭さが冴え渡る事は一向に無い。むしろ、僅かでも集めれば春を確かに感じ取れるこの状況が勘を鈍らせている様で、流石の霊夢にも焦りが見え始めていた。

 

 面倒だからと言って手を抜いたなどは論外だ。だからと言って”当たり”を引くまで探し続けるのは苦しい。このまま闇雲に飛び回っても埒が明かない。霊夢は組の先頭で速度を落とし、二人に振り返ってからその中でも射命丸文に問いかけた。

 

「このままじゃ駄目ね。文、あんた何か知ってたら教えなさいよ」

 

「あやややや、私ですか。と、言われましても、うーむ」

 

 これまでも特に手出しもせず、後ろから観察していただけの文は唸る。

 彼女の立場は少々特殊で異変解決者というわけでは無く、その間近で取材をするだけの立場。近いのは戦時において軍隊と最前線で行動を共にする従軍記者に当て嵌められるだろう。当人達と今まさに未知の遭遇を味わっている以上、必然、事の真相など知る由も無いはずだ。

 

 この場合、霊夢の期待する答えは単に個人の思い付きではなく『幻想郷に通じている記者』としての意見であった。

 

 文はその期待する所を正確に読み取り、すばやく思考を巡らせる。

 腕を組み片腕を立てて顎を乗せたまま数秒程唸っただろうか。

 

 少しして、ちょうどこの先に住むある人物の姿が思い浮かぶ。

 

「そうですね、例えば幻想郷で広く活躍する文化人のお知恵を拝借してみるのも良いかも知れません。まだ一度しか取材させてもらっていませんが、この先に人里で話題の人形使いさんが住んでいますよ。彼女の見せる劇は見たことも聞いた事も無いものも多く、その知識の幅広さには大変驚かされます」

 

「ふうん、最近寒くてあんまり下りてないけど、そんな奴がいたの?」

 

「その方なら私も知っております。彼女は魔法使いでもありパチュリー様が管理する大図書館を良くご利用になられますが、他者とは一風変わった視点をお持ちの方ですわ」

 

「ふむふむ、あの魔法使いの同類ってわけね。なら少しは期待できそうね」

 

 霊夢は前回の異変時に協力した紫色の魔法使いを思い出す。霊夢の作業を阻害する事無く、卒なくサポートする彼女の評価は高い。それを抜きにしても三人のうち、問いかけた霊夢を除いて残りの全員がその人形使いを、あるいは魔法使いを推す。新たな光明に、霊夢も知らず知らずのうちに口角を少し吊り上げていた。

 

 その大変珍しい光景に、意図しても拝めずにいた咲夜は僅かに震えながら凝視し、文がすかさずカメラを構えて写真に収めるという無粋な真似をしたために数秒でまた元の不機嫌な表情に戻ってしまった。

 

「さっさとその人形使い? それとも魔法使い? とやらに会いに行くわよ」

 

 思い思いに残念がる咲夜と文を置いてとっとと先を進む霊夢。

 運の良い事に、遠くに見える『魔法の森』からちょうどそれらしい人影がさらに小さな人影を伴って上空にその姿を現した。さっそく霊夢はその人影達が目的の人物であるか確かめる為近づいて行く。

 

 しかし、二人は彼女と話すに当たって大切な事を霊夢に伝え忘れていた。

 

「あ、霊夢さん待って、一つ注意ですが、その方は……」

 

 慌てて付け足し忠告しようとするが、もちろん文の声は届かない。

 既にその少女であった人影の側まで辿り着いた霊夢は間髪を容れずに問いかけた所だ。

 

 

 

「ねぇ、あんたが人里で噂の人形使いだか魔法使いで良いのよね?」

 

 

 

「………………しばらくぶりね」

 

 

 

 振り返った少女は、不思議な事に、曰く久しぶりと言う。

 

 

 

「? 私は会った覚えはないけど」

 

 

 

「折角、旧友と出あったと言うのに手土産は無いのかい? ううん、貴方のドールでいいわ」

 

 

 

 さらに繰り出されるは不可解で大変不躾けな要求。

 それを咎めるよりも、余りにも意味不明な言動に驚き、霊夢はきょとんと、これまた非情に珍しい表情を浮かべ、呆けたまま何度も目をまばたきさせた。

 

 そのままたっぷりと驚いた後に、ふと思い出した様に肩に乗る二体の人形に視線を移して。

 

 

 

「……ドールって、人形でしょ。私はそんな高いもの持ってないわよ」

 

 

 

「いいえ、()()()()()()よ」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 次の瞬間には成りを潜めたはずの勘がこれでもかと告げていた。

 大変面倒くさい奴であると。

 

 

 

「――――少々。いえ、大変変わった方なんですよ……」

 

 

 

 全ては後の祭り。忠告は終わった後に悲しく響くだけ。

 連れ立った人形を自在に操り、器用にも霊夢の周りをくるくると踊らせる『七色の人形使い』はその熱の篭らない瞳でじっと困惑する霊夢を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「――あんた達にちょっとでも期待した私が馬鹿だったわ」

 

 こめかみに青筋を浮かべて腕を組む霊夢。人形達は相変わらず楽しそうに霊夢の回りで手を繋ぎながら踊っている。わたしと文さんは霊夢の怒気に押されながらもなんとか彼女の側に辿り着き、順番に挨拶を述べた。

 

「……アリス様、ご無沙汰しております」

 

「こ、こんにちは、アリスさん。この間は取材させて頂きありがとうございました! その、また今度お願いできませんか?」

 

 彼女は当たり前の様にすぐには返事をせず、水晶の様なまるで意思の感じない瞳が今気付いたかの様にわたしを見つめながら独特の間合いを持って口を開いた。

 

「あら、メイド長さん。『時を操る少女』のドールもまだ持っていないの。――――天狗はもう何体かあるわ」

 

「私などでよろしいのでしょうか?

 いえ、職務時間外であればぜひご協力させて頂きますわ」

 

「あやややや、逆に私は良かったです。被写体を撮るのは好きですが、被写体になるのも見本になるのも御免被りたいですねぇ」

 

 彼女ことアリスさんとの接し方を心得るわたし達にとっては何の事は無い。

 こちらの我を通さず、彼女の言葉に真摯に耳を傾ければ、口少ない彼女は驚く程饒舌に語りかけてくれるのだ。

 

 霊夢とは対照的に気分を良くしたらしいアリスさんは再び霊夢に向き直り、感情を乗せずにただ口角を吊り上げ、ワンピースの裾を引き上げながら物語の登場人物さながら声に色を乗せ、自己紹介を始めた。

 

 人形達もくるりと回り、同調して両裾を摘む。

 

「こんにちは。私の名前はアリスっていうの。

 私の事は親しみを込めてアリスって呼んでね」

 

「なんか嫌」

 

 博麗の巫女に即座に切り捨てられても動じない。微動だにしない。むしろ感情が無い。

 

 改めて、人形を連れたアリス・マーガトロイドはおよそ人とは思えない濃紺の無感動な瞳で霊夢からわたしへ、そして文さん、最後になぜか何も無い虚空に向かって会釈をしていく。

 

「あんた、頭は大丈夫なの?」

 

 頭部の心配をされても、もちろん答えない。その頭には美しく金髪のウェーブがかかった髪が風になびき、白い肌は元が人とは思えないほど青白い。何より青いワンピースのロングスカートを身に着け、白いケープと金髪の髪を赤いリボンで結ぶ可愛らしいその様は、隣に佇む人形よりも人形らしいと言った言葉が彼女を正しく表現出来た。

 

 彼女が操る人形もそれと同じ。上海人形と呼ばれる紺のエプロンドレスにお揃いの赤いリボンを首に巻き、頭髪を後ろで結った可愛らしい人形達だ。

 

 性格も期待に違わず高慢とはかけ離れ、独自の世界観を持ち一風変わった視点を持って喋り出す。ならば会話は不可能かと問われればそうではなく、きちんと彼女の言葉に耳を傾ければ、可能。けれども本人もその難儀な会話能力を自覚してか、普段は無口と言った様相だ。

 

 アリスはおもむろに採寸用の紐を取り出して、伸ばしながら霊夢に近づいていく。

 

「じっとしててね、動くと正確なサイズが測れないの」

 

「嫌よ、あんた今がどういう――異変解決の真っ最中――時かわかってんの? それより全然まったく期待してないけど、あんたに聞きたい事があるのよ」

 

「そう。では後日博麗神社に伺うわ」

 

「なんで来るのよっ。あんたみたいな変人が来たらますます参拝客が減っちゃうじゃない」

 

「あら、私は人里ではとても人気者なのよ」

 

「嘘……、本当に?」

 

 信じられない、と霊夢は思わずわたし達に振り向いた。何を取り繕う必要も無く、紛れも無い事実なのでわたし達は頷ずくばかり。途端に今度は深刻に考え込みだす霊夢。「人間を洗脳するなんて、こっちの方が異変じゃない」と予期せぬ方向に進みかけたので、見兼ねた文さんがフォローを一つ。

 

「マーガトロイド氏の人形劇はどんなに残酷な結末でも、包み隠さずありのままを見せるので、大人達からも世の中の恐ろしさを伝える反面教師として大変人気なんですよ」

 

「なんだ、そういう事は早く言いなさいよ」

 

 あっさりと腑に落ちたらしい霊夢がやっといつもの調子を取り戻した。

 確かに変わった方ではあるが、その仕事に一切の妥協は無く、喋れば無駄の無い理知的な物言い。むしろ出会った当時のわたしなどは大変感銘を受け、不思議とある種の共感を覚えた程だ。現に文さんも一定の敬意を払っている様子。

 

 気を取り直して、わたしからもご質問させて頂く事にした。

 

「私からもぜひお知恵をお借りしたいのです」

 

「知ってるわ」

 

「え?」

 

 まだ質問の内容を伝えていないにも係わらずに突然の解答。これには彼女を知るわたしも流石に困惑した。

 

「知ってるなら良いじゃない。早く教えなさいよ」

 

「あら、()()()()()()()だったかしら」

 

「んなっ」

 

 途中からわたしに代わって霊夢が問い詰めるわけだが、お世辞にも合間を補う言葉が足りるとは思えず、また常に会話の主導権を握らせてはくれない。……おそらくだが、今は異変時であるため、教えて欲しいなら本来の順序通りに戦って勝て、と言う事だろう。

 

 ――なぜだろう、マフラーのおかげで暖かいはずなのに寒気がしてきた。

 

「上等よ。なら、とっとと始めてやろうじゃない!」

 

「あら、それが御札ね。どんな効果があるのかしら?」

 

「自分で喰らって確かめてみれば?」

 

「まぁ、霊夢。私、痛いのは嫌いなの。

『スペルカード・ルール』ってご存知かしら」

 

「ハッ! 何よ言うだけ言って怖気付いたのかしら。

 ――――”何枚”よ。早く出しなさい」

 

「聞いてみたかっただけ」

 

「こぉのっ、くそ莫迦っっっ!!!」

 

(あぁ鬼だ……。また鬼が喚び起こされてしまった……っ!!)

 

 もはや不機嫌を通り越して悪鬼の如く角を生やした鬼が再び姿を現した。その獰猛な牙はアリスさんを一噛みで食い千切り、細く据えられた眼光はきっと見るものを射殺(いころ)す。背後から立ち昇る熱波の様な霊塊は理不尽にも全てを溶かし尽くすのだ。その拳に込められた力で山など軽く消して見せてしまうだろう。

 

「ひっ!? あ、あの咲夜さん。ももも、もしかして当代の博麗の巫女様は、実は然る御方の隠し子だとかそういう……っ」

 

「い、いえ、決して。そんな事は無いはず……です、わ」

 

「――――何?」

 

『いいえ! 全く何も、ございません!!!』

 

 悪寒の正体はこれであったのか。

 わたし達は会わすべきではない二人を会わせてしまった。

 

 普段はどこか冷めた風でいて、しばらく側にいると意外と単純とわかる霊夢。

 失礼ながら人形の様に感情の起伏が薄い様でいて、その実大変好奇心旺盛な不思議な雰囲気を持つアリスさん。

 二人の邂逅は正に水と油の様なものであった。

 

 このままでは目も当てられぬ惨劇が始ってしまう。アリスさんがかの有名な鬼族を打倒出来るというのであれば話は別だが、もしそうではないのなら惨たらしい虐殺は必至だ。

 

(わたし”達”がなんとかしなければ……!)

 

 思わず怯み文さんを巻き込んでしまったが、それは、きっと、仕方が無い。とはいえ予想外にも文さんまで怯えてしまい戦力は期待出来そうに無かった。無理も無い、鬼という種族は天狗のつまり上司であり、天敵であるのだ。そう思い至れば腑に落ちるのだが、しかしまさか本当に霊夢は鬼を()()()()()()()()しまったとでもいうのだろうか。感情一つで実に恐ろしい。

 

(使うか? 更に秘めたる秘密兵器(新作のスイーツ)を……!)

 

 後になって考えてみれば、わたしのやっている事は単なる妨害で、二人の争いはルール上に則った至極真っ当な戦いだ。だがしかし、一度恐慌に陥ってしまったわたしと文さんがそんな異常な正常にそうそう気付くはずも無く、すぐ先の未来でいったいどんな恐ろしい行いが披露されるのかとても気が気ではなく、まるで次はおまえ達だとみせつけられる拷問のようだ。

 

 暗に告げる、鬼の背中が ”引き合わせた” お前達も同罪だと。

 

(あぁ、そんなっ)

 

 遂には文さんが宙で膝を畳み、ひれ伏してしまった。

 ここはわたしも共に背中を丸めて、許しを乞うべきか。

 いやだめだ。紅魔館が誇るメイド長がそんな見た目大変よろしくない様を往来で軽々しく披露して良いのか。良いであろうはずが無い。

 

 ここは、事態の早急な鎮圧が望まれる。

 やはりアレを出すしかない。春度で暖かくなりぬくぬくとした環境から、贅沢にも雪を眺めながら、氷菓子をつつくという乙な秘密兵器(リンゴのジェラート)を……!

 

 何やら謎の使命感から、一見もっともらしい事を為そうとしている様だが、潔く許しを乞うどころか、またもや物で釣り機嫌を取ろうとする魂胆は、大変瀟洒らしからぬものであった。もしも彼女の敬愛すべき主が知る由となれば、罰としてその氷菓子を没収した上で、厳しいお叱りを受けた事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんた達いつまで馬鹿、やってんの」

 

 

 

『えっ』

 

 

 

 咲夜と文がお馬鹿な事をしている間に、アリスはきちんと五体満足のまま退治され、そこには無事勝利した『楽園の素敵な巫女』様が御座すだけであった。

 

 

 

 

 

 

 二人の想像に反して、戦いは至極迅速に、そして消極的に決せられた。

 

「霊夢、痛いわ」

 

 見ると頭に小さなコブを作り、片手をあてるアリス。上海人形達も心配そうに患部の周りで器用にもあたふたといった仕草をしている。

 

「ふざけてるあんたが悪いんでしょ。でも、おかげですっきりしたわ」

 

 アリスも霊夢も、共に表情に乏しい二人だが不思議とアリスからは不満を、霊夢からはどこか晴れやかな雰囲気が感じられた。

 

 ――――その原因となった戦いはこうだ。

『スペルカード』は使わず、真剣勝負の形を取ったは良いものの、アリスには初めから本気で戦う気など微塵もなく、技らしい技といえば『乙女文楽』と呼ばれる、上海人形が新たに現れた他の人形達を操るようにけしかけてくるだけで、どちらかというと芝居を見せられた様なものだ。アリスが真面目にやる気が無い事を早々に察した霊夢は、感情に任せて放出した霊圧を持って適当に撥ね退け、「お気に召さない?」などと無表情で小首を傾げるアリスの頭上に拳骨一つ落として決着。

 

「ちったぁ、真面目にやりなさいよ」

 

「真面目よ、まだ途中だったのに」

 

「お芝居じゃなくて決闘の方よ!

 まったく、あんたがどういうヤツか良く分かったわ。気にするだけ損ね」

 

 今ではすっかり霊夢も機嫌を取り直している。馬鹿な二人が騒いだだけで、怒りは初めのアレだけに留まり、それ以降は平静を保ちとてもあっさりしたものだ。

 

 治癒魔法ですっかり元に戻ったアリスもまた最初の容貌に戻り、上海人形と暇を持て余していた。

 

「それで、何を知ってるのよ」

 

 するとアリスは無言で魔法の森の越えた彼方先を指を差す。

 

「しゃべりなさい」

 

「……冥界には、此の世と思えないほど妖しい桜があるの」

 

「そ」

 

 それだけ聞いて霊夢はもう用は無い、と指さした先を目指して進みだす。

 もはや見慣れた光景で、咲夜と文が慌てて霊夢を追いかけた。

 

 

 

「ねぇ、咲夜。あんたさっきなんか出そうとしてた?」

 

「え? は、はい。後ほど新作(のスイーツ)を披露させて頂きますので、ぜひお召し上がりください」

 

「へぇ。異変解決も少しは良い事もあるわね」

 

「ほほう!? なんですか私も混ぜてくださいよ!」

 

 他愛の無い会話に花を咲かせながら離れていく霊夢達を、アリスは上海人形と共に手を振ってしばらく見送った。最後にまたなぜか何も無い虚空に向かって手を振る事を忘れない。

 




シリアスが濃いほどくだらないギャグに縋りつくのは仕方ないですよね。

補足:

・十六夜咲夜のセリフと内面での呼び方
アリスは単に紅魔館のお客なので、セリフは”様”。内面は”さん”。
八雲紫に対しては恩人であり、敬意を払っているので両方とも”様”。

・アリス・マーガトロイド
公式からアレンジさせてもらった設定の違いについては、
マジックアイテム蒐集家⇒希少ドール蒐集家
物語作家⇒絵物語(絵本)作家

ドールは自・他作問わず。実際のモデルがいるドールを好んで集めます。
執筆活動については根拠がありまして、阿求が筆を執るに辺り、参考文献として挙げた物にアリス著の「曰く付きの人形物語」というものがあります。本作はその事実を異訳しただけ。
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