私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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※グロ注意

なんとか今日中に投稿出来ました。

今までの倍以上書いたおかげで語彙が尽き、不自然な箇所がたくさんあるかと思いますがご容赦ください。

※16/03/06 いまさらながら矛盾点を見つけたので、修正


EP3.妖怪と交わした歪な約束

 見渡す限り、一面には木々が生い茂り、草木はかろうじてわたしの背丈に届かない程度だろうか。

 紅霧異変も始まっていないこの時期では、やはり道らしい道もないのだろう。

 整備されている道などみつからないがそれでもかろうじて、歩く事ができる。

 幸い、今日は天気が良く太陽が丁度真南に登っており、当たりはとても明るい。

 もし、天気が悪くなったり時間が夜へと近づいていたなら、昼とは別の顔を出すのだろう。

 

(それにしても、お嬢様から頂いた紙には何が書かれているんだろう)

 

 お嬢様の命令である為、もちろん中身はまだ確認していないが、気にならないと言えば嘘になる。

 ひとまず人里に着けば、きっと寺子屋の教師であると共に人里の自警団を取りまとめているであろう、 上白沢慧音(かみしらさわけいね) を頼ってみようと思った。

 

 原作知識は万能では無いが、大きなアドバンテージになる。

 その人となりや見た目に大きな食い違いはなく、またパチュリー様が喘息を患っていたり、これまで出会ってきた紅魔館の住人達の容姿は知識のソレと同様である。

 

 上白沢慧音もわたしの知識から容姿が思い浮かぶため、きっとすぐに見つけられるだろう。

 

 道中そんなことを考えながら歩いているが、思ったよりもこの森は深かったようだ。

 未だ森の端が見えてこないのでもうしばらくかかるだろう。

 

 ――そういえば、この森にもわたしの知っている妖怪達がいるはずだ。

 八目鰻の屋台をやっていた夜雀のミスティア・ローレライ、蟲の妖怪であるリグル・ナイトバグ、常闇の妖怪であるルーミア、他にはイタズラ好きの三妖精といった所だろうか。

 

 わたしは中でも出来るならルーミアに会いたいと思っていた。

 わたしの知る知識の彼女は『闇を操る程度の能力』という強力な力をもっといるが、性格は無邪気で見ているととても癒される存在だ。

 

 髪留めに使っているリボンが御札がわりになっており、本来の力は封印されているそうだが、その彼女になら会ってみたいと思った。

 

「ふう、ちょっと疲れましたね。少し休憩しましょう」

 

 ちょうど少し開けた場所を見つけたので、切り株に腰掛け指を軽く弾いて、途中で食べる為に用意したサンドイッチと紅茶のポットを何も無い空間からあたかも突然出現したかのように取り出して見せる。

 

(ふふふ、すごいでしょう)

 

 自画自賛しながらポットの紅茶を同じく用意したカップに注ぎ、サンドイッチを一口食べる。とてもおいしい。

 

 紅魔館から人里までは距離が離れているわけではないが、なんせ私は飛べないのだ。

 ご命令を果たす為にも、しっかりと休憩をはさみ体力を維持することは大事。…………いいわけではない。

 

 自分に言い聞かせつつ、サイドイッチをもう一口頬張った。

 マスタードが少し多めに入れている為、鼻にツンと来るがそれがまた堪らない。

 

「とっても、おいしそうなのだ」

「はい、このちょっと辛すぎるマスタードが病みつきになりますね」

「そうなのかー? 私も食べたいのだー」

「えぇ、まだ二切れ残ってますからよかったら――――」

 

 一瞬心臓が止まるかと思った。

 わたしは何を暢気に食事などと寛いでいたのだ。

 仮にもここは妖怪の住む森あり、ましてや弾幕ごっこといったわたし達の為の勝負もないのに。

 

(落ち着け、深呼吸だ)

 

 咳払いを一つして大きく深呼吸する。

 

「どうしたのだー? 早くほしいのだー」

 

 おそろおそる声のする方向に振り向きながら、表面上では無表情であるよう努めて問いかけた。

 

「どなたでしょうか?」

「私かー? 私はルーミアなのだー。それたべちゃだめなのかー?」

 

 小首を傾げながら少し悲しそうにする。

 

(ルーミア! ルーミアだ! めちゃくちゃかわいい!!)

 

 先ほどの警戒心などどこ吹く風だろうか。一瞬にして砕け散りそうになったが、原作知識とルーミアが全く同じであるかはわからないため、かろうじて保つ。

 

「これがほしいのですか? では一つどうぞ」

 

 おそるおそるサイドイッチを差し出すと、ルーミアは一口でそれを食べ美味しそうに頬張る。

 

「おいしいのだー。でも全然足りないのだー」

「もう一ついかがですか? 良かったら紅茶もどうぞ」

「おー、おねーさんやさしいのだー」

 

 ほんわかした雰囲気を出すルーミアに思わず口元が緩みそうになるが、なんとか堪えて予備のカップを指で弾き、取り出して紅茶を注ぐ。

 

 一杯になったカップをサンドイッチを頬張るルーミアへと差し出すが、なぜか一瞬寒気がした。

 

「あれー? おねーさんはニンゲンじゃないのかー?」

 

 きったわたしが今やったソレを見てのことだろう。

 

「いいえ、人間ですよ。これは私の手品のようなものです」

「そうなのかー。やっぱりニンゲンなのかー」

 

 ありがとうなのだ、と満面の笑みを浮かべ差し出されたカップへとルーミアが手を伸ばす。

 先ほどよりも明らかな悪寒がする。ルーミアの手はカップを通りすぎなぜか私の手へと向かっていく。

 

 このとき一歩引いて冷静に考えてみれば、おいしいそうなのは わたし(・・・) かもしれないと思い至ったはずなのに。

 そして、その可能性は極めて高かった。

 

 

 

「ありがとう頂くわ。とってもおいしそうね アナタ(・・・)

「えっ……」

 

 突然大人の色香を感じさせる女性の声が聞こえる。

 誰だろう、他にもヒト(妖怪)がいたのだろうか。

 知らない声を聞き、あたりを見渡すが目当ての人物はどこにも見当たらない。

 ルーミアのほうから聞こえた気がしたので、彼女の後ろにでも隠れているのだろうか?

 

「ねえ、ルーミア他にだれかいらっしゃ――――…………え?」

 

 向き直るとそこにはわたしの知らない女性がいる。

 ルーミア(・・・・) の容姿をして、先ほどまでの彼女からは想像も出来ないほど妖艶な笑みを浮かべて嗤っていた。

 

 カップを持っていた右手がなぜか痛い。おかしい、なぜか感覚も無くなっている。

 別人のようになってしまったルーミアから目を離すのに内心咎めつつも自分の手を見やる。

 

 

 ――無かった。

 

 そこにあるはずのものが。

 

 わたしの体の一部が。差し出した右腕の先が。

 

 私の右手が無い。

 

「あぁぁあぁあああああアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアア!!?」

 

 無い、イタイ、無い、どうして、痛い。

 私の右手は? ルーミア? ルーミアじゃない?

 誰? 私の右手は? どこ? わからない? わからない?

 痛い、右手が痛い、私の右手を返して。

 

「あぁっ…………! 美味しいとても美味しい。今までにこんなごちそう食べた事ないわ♪

 ねえ、もっと食べさせて?」

 

 舌なめずりをしつつ、更に手を伸ばしてくる。いつの間にか彼女の手からは黒よりも暗い闇色の球体が出現していた。

 

「ひっ!」

 

 マズイマズイマズイ。逃げなきゃ、逃げないと喰われる。

 必死に足を動かそうとするが、腰が引けてていて、思うように動けない。

 

(動け動け動け、お願い動いて!)

 

 わたしはなんて大馬鹿者なんだ。

 なぜルーミアがわたしを食べないと思った?

 原作でも特定の条件外で、人間を食べていると知っていたじゃないか。

 ルーミアのしているリボンだって封印の御札代わりなんて保障だってどこにもない。

 現に今では先ほどまでのかわいらしい彼女の面影など跡形もない。

 

 咄嗟に能力を使い、時間を遅くさせ、なんとかルーミアの手から逃れる。

 ようやく動く様になった足を叱咤するように叩き、後ろに飛び退って距離を取る。

 右手首の先から夥しい血が流れ、出血多量を防ぐ為、能力で手首からの循環を限りなく遅くし、止血代わりとする。

 

 落ち着け、先ずは相手を確認しないと。

 ルーミアが纏う、闇の玉は私の知る想像を超えていない。

 もし仮にこの世界の彼女が封印されていないのなら、私の勝ち目は全くないが封印されているなら、まだ私にも勝ち目があるはずだ。

 

 まばたきも忘れ、決して見逃さないようにルーミアを食い入る様に見つめる。

 あのリボンは果たして封印の役目を成されているのだろうか。

 

「このリボンが気になるのかしら? ねぇどうしてかしら?」

 

 彼女が不思議そうに問いかけてくるが、答える筋合いは無い。

 どうやって確認するべきか、彼女を見つめながら思考に耽る。

 

 本来のルーミアが有している力はわからないし、知る由もない。

 であればまずは逃げに徹し、可能なら封印されていることを確認することが建設的だ。

 

 彼女は確か日光に弱いらしく、日光にさらされていれば極端に弱体化するはずだ。

 見ると彼女のいる場所は日陰になっており、気のせいで無ければそこから出ようとしていない。

 

 そこまでわかればあとはこちらからけん制をしかけ、日なたへ誘き寄せるまで。

 注意すべきは、あの闇の球体のようなもの。あれは絶対に触れていけない。あの玉に触れれば全てを飲み込まれてしまうだろう。

 

 私が今出来る事を整理してみる。

 時間を操る程度の能力。メイド長に師事してなんとか実践で使えるほどになった徒手格闘。舞空術による空中戦(短時間のみ)。

 当たらなナイフ。

 

 うん、最後のは牽制に使おう。

 ナイフを片手にもち一呼吸のうちに一斉に投げつける。

 もちろん1本たりとも当たらないだろうけど牽制だからいいんだ。大丈夫。

 ナイフを投げたと同時に距離を取るように能力で時間を止め、一気に距離を稼いだ。

 

「あら? どこから取り出したのかしら? でも…………もしかしてナイフ下手?」

 

 彼女の何気ない一言がズキズキと心臓に突き刺さる。

 

(牽制だから! 恥ずかしくないから!)

 

 左右を見渡すがルーミアの姿は見えない。

 一瞬を撒いたと思ったが、次の瞬間にはすぐ横の暗がりからルーミアが出現する。

 どうやら闇から闇へと移動できるようだ。やはり逃がしてはくれないらしい。

 

 迫る手を振り払うかのように勢いをつけ、舞空術で飛び上がり、一旦森を上空へと抜ける。

 近くに抜け道はないのか――――だめだ遠すぎる。

 

 空を飛ぶことが出来ればこんな苦労はしなかったのかもしれないが、私にはこれがやっとである。

 再び森の中を疾走するが、その間にもルーミアの攻撃の手は止まない。

 

「もう諦めたら?」

 

 誰が諦めるもんか。紅魔館の皆、あの時の約束、何一つ果たせていないし、何も始められていない。

 

「よしっ、逃げ切れる!」

 

 出口が見えてくる。

 有効な攻撃手段もないが、相手もそれ以上の手段は無いようだ。

 これまでの攻防がルーミアが本気じゃない――――封印された状態だったということに改めてゾッとした。

 

 

 ルーミアは人食い妖怪である。

 嫌いなものはなくむしろ雑食に分類されるが、それでも好物というものは存在する。

 曰く、西洋の血を吸う鬼のような膂力を持つ妖怪は、若く生娘である少女を好んで食らうという。

 曰く、かつての妖怪の山の絶対的な強者として存在した鬼は強く真っ直ぐな人間を好んで食らうという。

 

 その中でもルーミアという常闇に潜む妖怪が好物とするのは特殊かつ極めて極一部が好む人間。

 

 それは歪な人間。

 

 救われたいと叫び不幸へと飛びこむ者。

 愛したが故に愛したモノを壊す者。

 そして、他者を優先するあまり自己を切り捨てる者。

 

 ――あぶなかった。

 目覚めてみれば数百年振りのご馳走を前に思わず 味見(・・) してしまった。

 あぶないあぶない。冷たくなったらまずくなってしまう。

 勢いに任せて伸びはじめた食指を慌てて抑え、改めて獲物へと目を向ける。

 

 極上の獲物だ。

 大妖怪でも数少ない桁違いな力を持っている様なのに、ひどく怯えている。人間でいうと十年生きたかどうかに見えるから、それも不思議ではないだろう。

 

 だけどそれは些細な事。

 

 彼女の強い意志を感じる目が、激しく燃え盛ろうとする魂が。

 ルーミアを本能から狂おしいほど惹きつける。

 

(タベタイ。イマスグタベタイ)

 

 決して逃がすまいと闇の中から手を伸ばす。

 

 

 あと数歩と言う所で、突如地面の影から飛び出した手に捕まれ激しくもんどりをうつ。

 

「捕まえたわ。んー美味しい♪」

「ぐぁぁあぁあああああアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアア!!」

 

 今度は左脚をやられた。

 今にも気絶しそうな痛みを必死で食いしばり止血する。

 

「はぁっ、ハァハァ……アアアアァッ!」

 

 赤黒く染まった地面に手を付き必死に倒れそうになる体を支えるが、痛みと消耗で身体は全く言う事をきかない。

 

 ――あきらめるのか?

 

 …………だめだ。こんなところでは終われない。終わっちゃ駄目なんだ。

 何一つ返せてないじゃないか。命を救われた恩を。

 レミリア様に拾って頂いた恩を。紅魔館の住人に生かされた恩を。

 

「応ぁああああああああああああああ!!」

 

 どこに力があったのか、腕を振り上げ気合の咆哮とともにルーミア目掛けて必死に右腕を振り下ろす。

 思わぬ反撃を受けてあわてて回避しようとするが、ルーミアの懐に痛恨の一撃が突き刺さる。

 

 そこには喰われたはずの右拳があった(・・・)

 

 まともに食らったルーミアは錐揉みしながら大木へと叩き付けられる。

 その表情には激痛と驚愕の色が隠せない。

 

「っ、どうし――――」

 

 なおも、咲夜の攻撃は止まない。

 右足で思い切り地面を蹴り、今度はとどめを刺すべく左脚(・・)を振り上げる。

 

「ごぁっ、ぐっ!? っぅうう!」

 

 ルーミアの身体は蹴りと木の板ばさみに合い、くの字に曲がって血反吐を吐いた。

 限界を超えるダメージと疲労を負い、両者共に倒れたのを合図に闘いが決着した。

 

 

 

 ――――森の中

 

「…………目が覚めたのかー?」

 

 かわいらしい少女の声が聞こえる。

 全身からどうしようもない疲労を感じるも、日ごろの鍛錬のせいか強引に身体を起こす。

 

「おー? おはようなのだー」

「っ!? ま――――」

 

 声がするほうへと顔を向けると先ほどまで死闘を演じたばかりの相手がおり、思わず叫びそうになる。

 次の瞬間ルーミアが飛び掛り、いよいよ終わりかと思わず目を瞑る。

 

 …………が、それは訪れなかった。

 

 気がつくと、膝に心地よい重みと甘い香りが鼻をくすぐる。

 

「…………えっ?」

「おねーさんを食べたかったけど、負けてしまったので食べられないのだー」

 

 理解が追いつかずしばらく固まってしまったが、時間が経つごとにやがてすこしづつ理解する。

 

(そっか。勝てたんだ)

 

 勝利と生き残れたことに深く安堵し、改めてルーミアを見るが確かに先ほどの圧力は微塵も無く、屈託な笑みを浮かべていた。

 

 キュルキュルキュルキュル…………

 

「むー、おなかすいたのだー」

 

 可愛らしい腹音に苦笑しつつも予備の食糧をもっていたかと確認し、作ったまま能力でしまいそのままだったと思い出して大きなビスケットを取り出してルーミアにみせてあげた。

 

「これ食べる?」

「おー! いいのかー!? ありがとうなのだー」

 

 どうしてだろう。凶悪な妖怪なはずなのにとても癒される。

 彼女を見ているとどこか安心しきってしまい、思わず地が出てしまった。

 

 ――――だから彼女の願いに答えてしまったのだろう。

 

「むー、やっぱりあきらめれないのだ。

 おねーさん、たべちゃだめなのかー?」

「あはは、だめだよ。

 でもそうだね、もしわたしが () ではなくなったしまったら。

 …………その時はいいよ」

「そうなのかー。≪約束≫ なのだー」

 

 初めて出会った幻想郷の妖怪と、初めてした歪な約束。

 




現代ならどこかで聞き覚えのある人間です。

とある理由で、原作では既に早熟していたと思えがちな咲夜さんですが、
本作ではとても未熟です。

STGに例えるなら残機全部使って、ぎりぎりクリア。


※16/01/24 ちょっと混同しそうなのでタイトルを変更しました。

※16/04/04 全話改訂しました。
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