内容が内容なので、極少数でも読んで頂ければいいなと思っていたのですが、予想以上に多くてとても驚いています。
前回の少しあとから。
あれから別れを惜しみつつもルーミアと離れ、無事に森を抜ける事が出来た。とても濃密な時間を過ごしたせいか気分は既に夕暮れ時と錯覚しそうになるが、まだまだ太陽が存在を示すかのように照りつける。
季節は春も半ばというところで、汗が流れることもなくちょうど良い。
(それにしても…………)
先ほどはいったいわたしに何が起きたのだろうか?
生命の危機を感じ、無我夢中で振るった右腕にはいつのまにか喰われたはずの手があった。足も同様である。
まさか生えてきたなどということはあるまい。自分がそんなとんでも体質であればもはや人間を止めている。それこそ妖怪そのものだ。
妖怪は人間を判別出来るらしく、紅魔館の住人からは初めから人間として扱われている。ルーミアはちょっと怪しいが…………。
知識にある咲夜さんも人間である為元からそんな考えなど毛頭ないが。
……となるとやはり能力か。
でも突然身体の一部が元に戻るなど覚えが無い。
改めて右手を見てみると傷や切断された継ぎ目など全く綺麗なものだ。
まるで一連の出来事など初めから無かったかの様に。
(あれ? 初めから無い……?)
なんだろう? とても引っかかる気がする。
何か掴めそうになるが、寸での所でなかなか出てこない。
あーでもないこーでもないとウンウン唸りながら首を傾げていたが、ふと見上げると少し先に木の柵で囲われた建物の群が見えた。
どうやら無事人里に着けたようだ。
能力については気になるが、今はご命令を果たす事だけに集中しよう。
気を引き締め、人里に入るべく咲夜はしっかりと歩いていった。
◆
「………………」
不気味な目がいくつもの浮かんでいる空間から少女を覗く者がいた。
見た目は少女に見えるがどこか確信を持たせない。
紫のドレスを着て金髪の長い髪の毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる。
幻想郷の管理人、
その眼差しはどこか得たいの知れない不気味さを感じさせる。
「紫様、お呼びでしょうか?」
背後から畏まった声がかかる。
陰陽師の様な服を着てこちらも見事な金色の髪を肩口で揃え、
背中には九つの大きな尻尾を携えた 八雲紫の式である九尾の妖狐
「藍、今から人里に行って来なさい」
八雲藍は紫の視線の先に目を向け、それだけで全て理解した。
「御意」
式が去ってからも紫は一人、思考に耽る。
「面白い子を拾ったようね」
少し前から霧の湖にある館の連中が幼い人間を拾ったことは知っていた。
連中は異常なほど警戒し秘密が漏れないよう数々の罠を張り巡らせていた為、それ以上詳しくはわからなかったが、気でも触れたのか少女をたった一人使いに出したので存分に視させて貰った。
予想以上だ。
時間を操るという人間には過ぎた力を持っていることには驚いたが、
まさか時間そのものを
彼女自身は、あまりある能力とは反対に
ひどく怯え必死に平静を装っているのがまた面白い。
館に住むあの
――それにしても。
ここ十数年の間に、外から人間が迷い込んだ事は一度も無い。
幻想郷を覆う結界は、どんな形であれ何者かが通り抜ければ私の知るところとなる、だがそれが無いのだ。
(果たしてどこからやってきたのかしらね)
「とても興味深いわ」
扇子で口元を隠しそっとほくそ笑んだ。
◆
「止まれ、何物だ!」
突然の来訪に人里の門番が警戒の色をあらわにする。
まだ年は十を数えるほどだろうか、そんな小さな少女がたったひとりで訪れるには怪しすぎる。
「霧の湖にある館で働く者です。主の使いで来ました。
通して頂けないでしょうか?」
「黙れ! 霧の湖に館があるなど聞いた事が無い! 怪しいやつめ、さては妖怪だな!!」
困った。やはりというべきか人里に入る前に門番に止められてしまった。
こういっては何だが自分でも怪しすぎるのだ。
原作では紅霧異変の解決と共に、幻想郷の住人に知られる事となる為、どう言えば信用してもらえるのか言葉が見つからない。
一時はこっそり忍び込むことも考えたが、すぐに止めた。
そんなことをすれば上白沢慧音に出会っても、敵とみなされてしまうだろう。
ここは誠実に対応するべきだ。ひとまず人間であることを主張しよう。
「妖怪ではありません。私は人間です」
「五月蝿い、信じられるか! さっさと立ち去れ!!」
まるで逆効果となり追い払われそうになるが、そこに救いの声が届いた。
「まぁ待て、その子の相手は私がしよう」
「慧音先生、しかしどうみてもっ。…………いえ、おまかせしました」
幸運な事に慧音本人がやってきたようだ。
彼女ならわたしを人間だとわかってもらえるだろう。
慧音がこっちだ、と門の中へと促すので促されるままついていく。
数分ほど歩いた所でこちらに振りかえる。
「改めておまえは何者だ。妖気は感じ無いが妖しの匂いがするぞ。本当に人間か?」
普段紅魔館の住人(妖怪等)と暮らしている為か、やはり慧音も警戒しているらしかった。
「初めまして。私は霧の湖にある館、紅魔館でメイド見習いをさせて頂いている人間で十六夜咲夜と申します。主の使いでやってまいりました」
「こうまかん? 聞き覚えが無い。本当にそんな館があの湖にあるのか?
「はい、現在は結界で封印されている為外から見る事も訪れることも出来ません。私は特別に許可を頂いております」
「…………ふむ。やはり聞き覚えは無いが
悪意も全く感じ無いようだしおまえの言っている事はきっと本当なんだろう」
よかった。なんとか信用してもらえたようだ。
これで役目が果たせそうだ。
「それで。主の使いとはいったいどんな用件なんだ」
「ありがとうございます。はい、それなのですが」
そう答えつつ、自分でもまだ把握出来ていないので用件を伝えるべくポケットから小さな羊皮紙を取り出し広げてみる。
「…………え?」
「どうした? 用件はなんだったんだ?」
「えっと、――――」
「慧音先生ー!」
書かれていた内容に思わずわたしが躊躇していた所、先ほどの門番が慌ててこっちに走ってきた。
「どうした?」
「それがまた、大道具屋の旦那の所の倅が騒ぎだしまして」
それを聞いた慧音が深くため息をつき、またかとつぶやく。
「済まないちょっと用が出来た。
十六夜咲夜といったか、里の中で待っていてくれ。自由に見てくれて構わない」
それだけ言い残し、拳骨を作りながら門番を伴って現場へと足早に去っていった。
あれを食らったらとても痛そうだ。
半ば取り残された形になってしまったが、返って有難かった。
羊皮紙に書かれた内容が内容だけに。
そこにはこう書かれていた。
『狐の妖怪を探して、油あげをもらうこと。自己紹介も忘れずに』
…………。
狐の妖怪に油あげ。もしかして八雲藍のことだろうか? はたまた別の妖怪がいるのだろうか?
わからない。お嬢様が言う以上探せばその妖怪とやらに会えるのだろうか。
ひとまず、宛ても無いが人里を歩く事にしよう。
端から端まで歩き回れば何か起きるかもしれない。
初めての人里に興味を魅かれ、はしたないと思いつつも、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていく。
妖怪の脅威にさらされながらもちらほらとだが活気が見える。
そんなことを思いつつ歩いているとどこからか、声が聞こえてきた。
――待てこのクソ餓鬼! 親の言う事が聞けねぇのか! 絶対許さねぇぞ!
――うるせぇ、親父! 私はもう決めたんだぜ! 親父の許しなんて必要ないぜ!!
――騒がしいぞお前たち! こらっ、待て
最後のは慧音だろうか。となると先ほどのことだろう。
親子らしい二人が怒鳴り合い、それを止めに入っているようだ。
どこにいても慧音先生は苦労性らしい。
まだしばらくかかりそうな為、散策を再開することにした。
民家が立ち並ぶ場所から、より一層活気付いた場所に着く。
さまざまな店が並んでいる。ここは市場の中心のようだ。
それほど大きい規模では無いようだが茶屋や食事処なんかもちゃんとある。
お金があれば、皆におみやげも買えたのになと思いながらそちらに目を向けると気になる尻尾が目に入った。
九つある。知っている尻尾だ。
恐る恐る近づいて見たが、知っている衣装に身をつつみ、美味しそうにきつねうどんを食べていた。
わずかに尻尾を振っている。…………やっぱり大好物なんだ。
「あの?」
「ん? なんだ? そんなに物欲しそうに見てもこのきつねうどんはやらんぞ」
「いえ、そうではなく…………」
どこか拍子抜けしつつも、自身の紹介と主の使いで来たことを告げた。
――――少女説明中。
「なるほど、つまりはおまえはその紅魔館の主から私に油あげをもらってこいと言われたんだな」
「はい、頂けないでしょうか?」
またまた、場所を離れて現在は人があまり通らない路地裏にいる。
唐突なお願いであったのだろうか、藍はしばし沈黙して考えているようだ。
そういえば、藍がいるなら八雲紫も近くにいたりするのだろうか。
(あそこからこっそり眺めたりして)
しばらく何も無い虚空を見つめていたが、誰もいるわけがない。
諦めて藍に振り返った。
「……いいだろう。このとっておきの油あげをやろう。大変美味だ。しっかりと味わえよ」
心なしか、油あげを入れた袋を持った手が震えている。嫌なのだろうか。
ごめんなさい。これも主の使いを果たす為。
「有り難く頂きます。それでは失礼致しますね」
「あぁ。それと例のモノは後ほど届けると伝えてくれ」
わかりましたと言い、丁寧にお辞儀をしてその場を離れた。
八雲藍は十六夜咲夜の後ろ姿が見えなくなるまでじっと待つ。
やがて見えなくなった。
「…………紫様、気づかれていましたね」
誰もいないはずの虚空へとつぶやく。
「ふふふ、やはりとても興味深いわ♪」
どこからか声が返ってきた。
勘違いされ系主人公が誕生しました。
慧音先生の詳しい描写は焦点が当たった時に改めてやりたいなと思います。
そして、まだ普通の人間だった頃?の少女のぷち登場です。
倅という言葉は古くでは女の子にも使っていたとのこと。
※16/04/04 全話改訂しました。