いろいろと暗躍していた連中の話がそろそろ本編で回収しきれなくなってきたので、一度裏側の話も間に挟むべきでしょうか。普通の魔法使いの子の話もあわせていれるか迷い中です。
結果から言うと、あれから私は結局慧音には会わずに人里を後にした。
いつまでまっても、慧音が戻ってこないので、残っていた門番に尋ねると何でも、里の女の子が家出してたらしくそれどころではないらしい。
(大胆というか命知らずというか、とにかくものすごく行動力のある女の子だね)
普通の人間が人里を出て、もし妖怪にでも会えば十中八九食べられてしまうだろう。
今の博麗の巫女が健在かどうかはわからないが、もしいたとしても襲われた時に間に合うとは思えない。
それとも私の様に何か能力を持っているのだろうか。
とにかく人里では騒ぎになっていた為、門番に伝言をお願いし人里を後にしたのだった。
時刻は三時を回って昼過ぎといった所か。
さすがの私もあまりの危機感の無さを反省し、帰りは能力も併用して全力で森を突っ切った。
この分だと夕刻までには紅魔館に着きそうだ。
早く帰ってお嬢様にお渡ししよう。
油あげは時間を止めているから急ぐ必要は無いけど、夕暮れ時になれば妖怪達の時間だ。薄暗闇の中を歩くのは襲ってと言っているようなものだろう。無事に森を抜け、元来た道を戻っていく。
やがて霧の湖に辿り着いたが、特に何かあるわけでは無いのでそのまま寄り道せずに帰ろうと思う。
当然水の上を飛ぶのではなく外周を大回りだ。
紅魔館は湖に囲まれているが、きちんと地続きとなるよう道があるので人間にも優しい。
ありがとう紅魔館。
この湖はその名の通り霧が深い為、視界が悪い。
しかし気のせいじゃ無ければ先ほどから辺りに気配を感じる。
行きも妖精の姿を目にしたし、何事も無ければいいな。
「やっと見つけたわ! ちょっとまちなさい!!」
悪い予感があたった。霧の中でも見えるくらいに近づいてくるが気持ちの良いくらい元気な声の主を見るとわたしの知識にある顔だった。
霧の湖に住む氷精 チルノ である。
隣には少し怯えた表情が印象的な 大妖精 も一緒にいた。
「大ちゃんが人間を見たっていうからさがしてたけど、オマエのことねっ!
私はチルノ。ここを通りたければ私としょーぶしなさいっ!!」
「チルノちゃん、やっぱり止めよう…………」
大妖精が何か言ってるが、チルノは聞きそうに無い。
「邪魔をする気はありません。すぐに立ち去るので通してもらえませんか?」
「ダメっ! 私はここをとおったヤツみんなとしょーぶしてるんだ。にがさないわっ!」
端から見れば子供がぎゃーぎゃー騒いでいるだけだ。
咲夜も含めて子供の戯れにしか見えないだろう。
それでも、勝負を挑んだチルノは至極真剣で、避けられないと悟った咲夜の目も本気の色となる。
「いくわよ! 『アイシクルフォール』!」
チルノが叫びと共に拳大の氷弾をいくつも生み出し咲夜に向けて飛ばしてくる。それに対し咲夜は打ち落とさんと瞬時に両手にナイフを持ちを投擲する。運良く半分は打ち落とせたので残った氷塊をもナイフで弾いていなす。お返しとばかりに咲夜もナイフをチルノ目掛けて投擲した。
いくつかのナイフがチルノへと向かって飛んでいくがこちらも氷弾をぶつけたりかわしたりして事無きを得た。
しばらく避けて避けられの攻防が続く。
現状ではお互いの力が拮抗していると言えた。
「~~~~っ! しぶといヤツね!
こうなったらとっておきのひっさつわざでたおしてやるわ。
『パーフェクトフリーズ』!!」
瞬間辺りが気温が一気に下がった。
霧の様に冷気が漂い、やがてあたり一面に無数の氷塊が生まれる。
「いっけぇーーーっ!!」
掛け声を合図に無数の氷塊が一斉に咲夜を襲う。
「っ!」
それを見た咲夜の判断は早かった。
瞬時に状態を整え、こちらもとっておきを宣言する。
「『ザ・ワールド』! 時よ止まれ」
小気味良い音と共に世界がゆっくりと減速し、やがて完全停止する。
静止した世界でただ一人となった咲夜は氷塊を相殺する様に数百を越えるナイフを放ち、手をかざしたまま動かなくなったチルノへと一直線に跳んだ。
「そして、時は動きだす」
世界が静から動へと変わり、色を取り戻す。
気がつくと、チルノの眼前にはすぐ咲夜がいた。
「うぇえ!? な、なんで――――」
「呀っ!」
咲夜は隙だらけのチルノに拳を放つが、衝撃はほとんど無くわずかにチルノの額に触れただけだった。
「勝負ありです。私の勝ちで良いでしょうか?」
「ぐぬぬ、くっそー!」
「す、すごい」
負けたとわかり、チルノは空中で地団駄を踏んだ。
大妖精はというと第三者として、二人の勝負――――チルノ――――を見守っていた為、しっかりと先ほどの一幕を目撃した。
チルノが無数の氷塊をぶつけた瞬間に、咲夜の周囲にはまるでチルノへと道を作るかの様にたくさんのナイフが出現して氷塊を打ち落とし、一瞬でチルノへと迫ったのだ。
「まいったわ! でもこんどしょーぶしたら私がゼッタイ勝つんだからっ!
あんたの名前を教えて!」
「十六夜咲夜ですよ。約束通り通ってもいいですか?」
「サクヤね、おぼえたわ!」
なんとも気持ちの良い妖精である。
それでは、と別れを言い、無事咲夜は紅魔館へと帰った。
辺りもすっかり茜色に染まり、西空に夕日が沈みつつある夕暮れ時。
結界を越えて、紅魔館へと歩いていくと門の前に見知った顔が立っていた。
「おかえりなさい、咲夜さん」
わざわざ帰りを待っていてくれたのだろうか。思わず表情が崩れそうになる。
「只今戻りました。メイド長」
「もーっ、何度も言ってるじゃないですか。美鈴と呼んで下さい」
やっと我が家に帰ってきた。いつものやり取りがなんだか懐かしく思える。
たった半日なのにしばらく会ってなかったみたいだ。
もっとも呼称については全く譲る気は無いけど。
メイド長と呼んだことでちょっと悲しそうな顔をしたが、またすぐ元の笑みを向けてくれる。
「お嬢様が首を長くしてお待ちですよ。すぐに行ってあげてください」
「かしこまりました」
お嬢様が待っている。
帰るまでがなんとやらだ。しっかり届けよう。
「あぁそれと咲夜さん。おめでとうございます」
「…………?」
それだけ告げてメイド長はまた仕事へ戻るのかどこか行ってしまった。
なんのおめでとうだろう? ひとまずお嬢様のところへ向かうか。
…………そういえば先ほどのチルノ勝負は自分でも思ってもみないほどうまくいったな。
少しは成長しているのかな。
再び崩れそうになった表情を慌てて直し、主の待つ部屋へと向かった。
◆
「只今戻りました、お嬢様」
「おかえり、咲夜」
「それで?
「はい、こちらにあります。
それと例のモノは後ほど届けるとのことです」
と言って、藍にもらった油あげを取り出して見せる。
お嬢様はそれを見て満足そうに頷き、答えを返す。
「そう。おめでとう咲夜。
今日からおまえはこの館の『メイド長』よ。存分に励みなさい」
「…………え? しかしメイド長は――――」
「何? 何か不満でもあるのかしら?
無いなら私は忙しいの。早く仕事に戻りなさい」
思わず問い返してしまったが、主の言にはそれ以上続けさせない重圧がある。
疑問は残ったままだが、わたしは一礼をしそそくさと立ち去るしかなかった。
長い、長い一日ではあったがこれが私が紅魔館の『メイド長』になった日。
信じて送りだした咲夜さんが、一人前になって返ってきました。
本作のレミリアはドS系のツンデレです。
このあとパチュリーに会う所まで考えてましたが、力尽きましたごめんなさい。
それにしても、書いてる途中私はずっと美鈴をメイド長と呼ぶのに違和感がありました。読んでいる方は果たして気にならなかったのでしょうかね。
※タイトルを流しで見ると何日も経っているように見えますが全部一日の出来事です。
※16/04/04 全話改訂しました。