「えーと確かこれとこれを混ぜて…………」
木器に入った白い液体を別の木器に入った黒い液体に入れてかき混ぜる。
やがて色が灰色に変わった所で、用意していた特製のキノコを粉末上にすり潰して更に加える。
良く混ざった所で、仕上げにこの黄色い液体を入れてかき混ぜれば完成だ。
木器に入った液体が謎の光を帯び、発光しだす。
「お? ……おぉっ、ておわーっ!?」
ドカン!
爆発した。
衝撃に驚いて、思わず尻餅をついて強か打ってしまった。
お尻が痛いぜ。
「ててて…………、また失敗か」
これで何回目だったっけか。えっと確か…………136回か。
なんだたったそれだけだったか。いつもより全然少ないぜ。
爆発で作業台代わりにしていたテーブルは焼け焦げ、他の材料や道具もめちゃくちゃだが、
「お嬢、またやったんですかい?
勘弁してくださいよ、揺れで品物が駄目になっちまうじゃないですか」
「ははは、悪い悪い」
悪いと言いながら全く反省せず、理沙はニッと笑い、道具屋の番頭もいつもの事だから苦笑いするだけである。
「ほどほどにしといてくださいよぉ。
旦那にばれたら私までどやされるんですから」
「大丈夫だって。だからクソ親父のいない時にやってるんだろ」
「そんなこと言ってこの間なんか――――」
番頭のヤツがなんかいってるが説教は勘弁だぜ。
長々と愚痴を垂れる番頭を取り残して、私はいつもの使い慣れた道具を持って逃げ出した。
この里の奴らは皆頭が固いぜ。
里の外に出れば、いつだって危険ととなり合わせだし、
里だって近くの畑や田んぼを妖怪の奴らに好き放題荒らされてばっかりだ。
魔法の道具を使えば、非力な人間だってもっと安全に暮らせるし何より便利になるのに。
良かれと思ってうちの道具屋にも並べる様に言ってみたら、あろうことかあのクソ親父め。怒鳴り散らして殴りやがった。
道具屋で働く連中には幾らか興味を示してくれるやつ(さっきの番頭など)もいたが、あの化石じじいだけは何いってもだめだぜ。
理沙は早々に魔法道具が並ぶ店という夢を諦め、日々独学で魔法の習得や研究に時間を費やすようになっていた。
中でも最近はマジックアイテムの研究に余念が無い。
先ほど実験に使ったキノコの群生地に来て、お手製の魔道書に結果を書き記していく。
材料の分量はこれ以上いじってもいい結果がでないし、他の素材も粗方試してもう当てが無い。
となると
「うーん、やっぱりこのキノコの魔素が足りてなくて安定しなかったみたいだぜ。今回はいけると思ったのに」
(一日かけてやっと見つけたのに、もうあれより上のキノコなんて見つからないぜ)
理沙はうがーっと頭をくしゃくしゃに掻き毟り、道具を半ば乱暴に片付けていつもの所へ向かった。
場所は魔法の森の近くにぽつんとある古道具屋だ。
「邪魔するぜ」
理沙の声に気づいた店主が読んでいた本を置き、こちらを向くと目敏く答えた。
「やぁ理沙。なんだいまた失敗したのかい?」
(なんでバレたんだぜ)
「ふん、失敗は成功の素だぜ。次は成功するさ」
理沙の服には先ほどの爆発でついた煤がいっぱいついているので知るものが見れば容易である。
「はは、まぁこれでも飲みなよ」
「遠慮せずに頂くぜ、
香霖こと古道具屋「香霖堂」の店主
理沙が本名ではなく愛称で香霖と呼ぶくらいには気を許しているし、
彼もまた自身の能力を活かすべく理沙が生まれる前から霧雨店で修行していた為、彼女のことは手のかかる妹くらいに思っている。
最も、理沙は一時期兄妹以上の感情を持っていたこともあったが。
現に今も一文の得にもならない客(理沙)を無碍にせず、
皮肉を言いながらも御茶を出してやっている。
「なあ、香霖――――」
「駄目だよ。魔法の森には行かないさ。
旦那との約束があるからね。それだけは聞けないね」
「~~~~っ!」
全て言い終わる前に先に断られてしまった。
魔法の森に連れてってもらうか香霖に取ってきてもらえれば魔素の抽出率とかみみっちいこと言わないで済むのに。
理沙はぶーぶー文句を言っているが、聞こえないとばかりに霖之助は何かを取りに奥へ行ってしまった。
もう何十回目かに見たやり取りである。
しかし、今日は何時もと違っていたようだ。
「そんなことより理沙。遅くなってしまったがこれでよかったかな?」
「ん?」
奥から何か器具の様なものを持って表れた霖之助が問いかける。
「おーっ! それだそれ! 待ちわびたぜ、これがあれば次は絶対に成功するさ!」
なんだかはぐらかされてしまった気がするが、理沙はもうそんなことどうでも良くなった。
なんせこれがあれば、先ほどの失敗も帳消しにできるどころか、今まで止まっていたいくつかの研究も一気に進む。
「サンキュー、香霖! さっそく帰って実験だぜ!」
そう言うと、残りのお茶をいっきに飲み干して挨拶も忘れて駆け出していった。
「まったく、相変わらず騒がしいものだね」
霖之助は読みかけの本を手に取り、再び読書に戻った。
◆
「よし! こっちも成功だぜ」
家に帰っていつもの作業場に戻ると、理沙は時間も忘れて実験していた。成果は上々である。
その為ちょっとやそっとの喧騒や物音では気づかない。
「ちょっと、旦那まってくださいな。
理沙ちゃんも店の為を思ってくれてるんですからね」
「うるせぇ、わかってるよ。だまってろ」
理沙の作業場に野太い声が響いた。
「理沙! おい理沙! いるんだろ? 返事くらいしろ!」
「ん? なんだよ親父私は今忙しいんだぜ」
「あ? てめぇまたそんなことやってんのか。店を手伝えっていっただろうが。さっさと出てこい」
「イヤだって言ったぜ。私は手伝わない。将来私は、私の魔法で自分の店を開くんだぜ!」
「うるせぇ理沙そんなこと絶対ゆるさねぇぞ! そんなくだらねぇもん捨てちまえ!」
「くだらないとはなんだ! だいたい親父の店は古いんだよ! これがあれば皆もっと楽に暮らせるんだ。妖怪だって目じゃないぜ!」
あとからやってきた番頭があわわとつぶやくが喧嘩は収まるどころかさらにヒートアップしていく。
「俺の店が古いだとぉっ? 抜かしやがって。いいか、てめえのそれは楽になんかなりゃしねえ!
里を滅ぼすもんだ。ガラクタ以下だ。粗悪品よりもずっと性質がわりぃ!」
「~~~~~っ、いったなこの化石じじい!!」
理沙が飛び掛り、取っ組み合いの喧嘩になる。
年甲斐もなく、男女の差も関係なく、盛大に暴れまわった。
途中から諦めた番頭は店に戻り、お客から「あ、あのすごい声や音が……」「ハハハ、お客さん何も聞こえませんよ。疲れてるんじゃないですか」などと、現実逃避をしている。だが小間使いに慧音先生を呼んでくる様に頼んでおくのは忘れない。
しかし、場所が悪かった。
理沙が立て掛けてあったホウキで殴打し、旦那がお返しにとその辺にあったものを引っ付かんで投げ、寸での所で理沙がかわす。
投げられたものが壁にぶち当たり、ガシャーンと音を立てて無残にも壊れ果てた。
「あ…………」
「おら根性が足りねえな、かかってこいよ!」
怒り激昂していた理沙の血の気がいっきに引く。
旦那の方はそれに気づかず、なおも挑発する。
しばらく経っても動かない理沙を不審に思い、視線の先を追ってやがてその原因に気づいた。
「へっ、よかったじゃねえか。これで潔く止められるだろ」
「…………香霖に作ってもらったのに」
「何? 森近のヤツよけいな真似しやがって。いい迷惑だぜ」
その時理沙の中で何かが吹っ切れた。
「! …………わかったよ。迷惑なんだろ」
「? あぁ、そうだ魔法なんか必要ねぇ。俺の言うとおり――――」
「出て行くよ! 私が迷惑なんだろっ!!」
そう言って、理沙はホウキを掴んでいることも忘れて飛び出した。
旦那が普段の冷静さを保っていたならもっと他の言い方があったかもしれないが、
一度頭に血が上ってしまった彼は娘の重大な変化にも気づけずに怒りのまま追いかけてしまった。
「待てこのクソ餓鬼! 親の言う事が聞けねぇのか! 絶対許さねぇぞ!」
「うるせぇ、親父! 私はもう決めたんだぜ! 親父の許しなんて必要ないぜ!!」
「騒がしいぞお前たち! こらっ、待て理沙どこへいく!?」
ようやく駆けつけた慧音の声も重なるが、時既に遅い。
「待ちやがれ! 俺の言う事がきけねぇならてめぇなんかもう娘でもなんでもねぇ!」
「あぁ上等だぜ! 私も時代遅れの化石じじいなんて知らない、もう二度と帰ってくるか!」
◆
あれからすぐあと、里の有志を募って可能な限り探し回ったが理沙の姿を見たものはいない。
最後に見たものが言うには魔法の森がある方角へ走って行ったそうだ。
――――さらに幾日か経った頃。
「やはり、あの子は見つからないね」
古道具屋「香霖堂」にて霖之助はいつもとは違い、新聞らしきものを読み耽っていた。
あの頃から読み始めたものだ。その姿が心なしか寂しい気がする。
バンッ!!
「邪魔するぜ!」
「おや? お客さんかな。いらっしゃい」
久しぶりの、いや馴染みの客以外だったらあの子を除いて初めてか。
とにかく珍客中の珍客の声に、腰を浮かして誰だろう、と大きく乗り出し入り口を見る。
「やぁ…………。もしかして君は。理沙かい?」
「そんなヤツ知らないぜ、私の名前は
”普通の魔法使い”の
魔法好きの普通の人間だったあの子はもういない。
理沙改め魔理沙の戦いはこれからだ! 完
読み返してみて思いました。
よっぽど魔理沙のほうが主人公っぽくないですか。
咲夜さんの内面についてまだしっかり定まってません。
次回は本筋のEP6として、暗躍していた人の話にしようかと思います。
※後に書く予定も無いので、補足。
旦那=理沙(魔理沙)の父親、大手道具店「霧雨店」の店主。
旦那のセリフにある
「~~いいか、てめえのそれは楽になんかなりゃしねえ! 里を滅ぼすもんだ。~~」は、マジックアイテムで生活が豊かになったり、人間が妖怪への対抗手段を中途半端に持つ事で、かえって妖怪を刺激し、格好の標的となってしまうという真意があるつもりです。
霖之助がした旦那との約束は「てめぇ(森近)から、理沙を魔法の森に近づけるな」です。
※16/04/04 全話改訂しました。