私が十六夜咲夜であるために   作:pumpkin

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このまま紅霧異変までの過程を書こうとしたら、ただの説明になってしまったので、止めました。


EP7.紅魔館の可笑しくも優しい住人達

 わたしがメイド長になってから数ヶ月。

 

 紅魔館の住人の様子がおかしい。具体的には二人ほどである。

 

 まず、美鈴。

 メイド長だった時の彼女は所作一つとっても絵になる様な気品を感じ、休んでいる暇が無いのでないないかというほど働いていた。

 たまにある休みの時も日々鍛錬を怠らず、その生き方はまさに修行僧のようだ。

 

 なのに、彼女は堕落した。

 

 門番となった彼女は一日中門の前で警護をしている。

 それはいいのだが、問題は食事を持っていったり様子を見に行くと何時も居眠りをしている。

 一瞬信じられず、そのあとしばらく様子を伺っていたが、大きな欠伸をし、たまに伸びをするくらいでもはや気品の欠片も無い。

 

 ならば、休みの時はどうか。

 以前は暇をみては、常に高みを目指し無心に拳を振るっていたのだが、今はなんというかその。

 

 園芸が趣味のお年寄りに見える。

 

 ………いえ、あまりにも失礼でしたね。

 お嬢様から館の庭を任されてから、嬉々として草花を愛で、

 傍らに備え付けられたベンチで花を見ながらお茶をのほほんと啜っている姿が、

 あまりにも嵌っていた為、思わず礼を欠いてしまった。そうガーデニングが趣味のお姉さんである。

 

 門番になってから彼女が突きや型の稽古といった修行はおろか、瞑想をしている姿すら見ない。

 わたしが敬愛する強く気品にあふれた彼女は一体どこにいってしまったのか。

 どうか帰って来てください。

 

 

 そして一番の問題は我が館の主、お嬢様だ。

 最近会いに行くのが今まで以上に怖い。しかも違う意味で、だ。

 例えば食事を持って、ドアの前まで行くと中からブツブツと声が聞こえてる。

 

「クソッ、これでは一つに繋がらない。もっと他にないのかっ!」とか。

「ふふふ、見ていろキサマの思う通りにはいかんぞ」とか、

「私の月が最高に輝く時、それがキサマの敗北するときだっ」とか。

 

 最初のはなんとなくお嬢様の能力についてだとわかる。

 以前にもそんなことがあったし、実際能力についてお触れになった時に

 運命は視て、繋ぎ合わせる事で初めて確定すると軽くご説明頂いた。

 だが、後半はよくわからない。いったい何と戦っておられるのだろうか。

 

 

 午後のティータイムの時間になったので、振るえながらもお嬢様の部屋をノックする。

 

「咲夜か? ちょうど良い、入りなさい」

「失礼します」

 

 なんとか平静を保ちつつ、入室して室内を見た瞬間、

 わたしは紅茶やお菓子の乗ったトレイを取り落とした。否、能力でなんとか持ち直す。

 驚愕の表情で驚いてしまったわたしを見てお嬢様が誇らしげに言う。

 

「ん? 流石ね咲夜。

 私の変化に一早く気づくとは、それでこそ私の従者よ」

 

 当たり前である。

 上から下まで全身真っ黒なドレスとそこら中に装飾品を付け、

 両手を胸の前に翳しポーズを取っていた。

 極めつけに、真紅のマントを羽織って。

 

「お、お嬢様。いかがなされました?」

「どうだ咲夜? 似合うと思わないか?」

「は、はい。お似合いですよお嬢様」

「ふふ、当然だ」

 

 嘘ではない。

 実際幼いながらも将来絶世の美女が約束された美貌には何を着ても様になるというものだ。

 少々、いや多大に派手すぎるのは置いておいて。

 

「随分気合が入っているご様子、何かご用事がございましたでしょうか?」

 

 わたしが記憶するに、特に大きな催しなど無かったので尋ねる。

 

「む? ………おっと。いや主たるもの相応の格好が必要であると思ってな」

「以前のままでも十分にご立派かと」

「あれではだめだ、迫力に欠ける。やはり血の滴る様な赤は素晴らしいわ」

 

 なるほど、やはり私には言えない催しものが近々あるのだろう。

 ならばせめて、差し支え無い程度にご助言させて頂く。

 

「でしたら、もっとシンプルにしてみてはどうでしょうか?

 ドレスにネックレスのみ、その方がお嬢様が引き立つかと思います」

「ふむ、つまりいくら宝石を散りばめようと、素の私の魅力には遠く及ばないというわけね。

 流石よ咲夜、ますます気に入ったわ!」

「光栄でございます、お嬢様」

 

 どうやら気に入って頂けたご様子。また衣装選びにお戻りになられたので、

 邪魔をしないよう紅茶とお菓子を置いて足早に部屋を後にした。

 

 

 という具合だった。

 

 いや冷静に考えれば美鈴はほとんど一日中働いてくれているわけだし、

 お嬢様も何かの催しに向けて準備なされているだけだろう。

 うん、何もおかしくないね。どこもおかしくない。

 

 問題が解決した ―目を逸らした― ところで、

 今度はパチュリー様にお渡しするべく図書館へ向かう。

 

 紅魔館にある図書館はとても大きい。

 わたしが屋敷と図書館の空間をいじっているので、見た目の何倍も巨大だ。

 その巨大なスペースに所狭しと本が並んでおり、

 定期的に広げないと本を置く場所が無くなるほどである。

 歩いて向かうと時間が掛かってしまう為、時間を止めて移動した。

 

「パチュリー様、午後の御茶をお持ちしました」

「ん、ありがとう。そこに置いておいて」

 

 相変わらず熱心に本を読んでおられる。

 本から目を離さず声だけで答え、わたしはそれに従いテーブルに並べた。

 

 ちなみにパチュリー様の御茶は、

 皆のものと違い、わたし特性のレモン入りハーブティーだ。

 特性といっても血液が入っているわけではなく、

 美鈴に大陸の御茶を教えてもらい、洋風にブレンドしたものだ。

 

「あ、咲夜さん。私の分もありますよね?

 ありがとうございまっ……てわわわ!?」

 

 後ろから慌てる女性の声が聞こえ、わたしはまたかと思いながら時間を止めて振り向き、

 危うく頭に当たりそうに降ってきた本を素早くまとめてテーブルに置く。

 最後に、こけそうになっている彼女を受け止めた。

 

「大丈夫?」

「えへへ、ありがとうございます。咲夜さん」

 

 この言葉遣いとは裏腹に、

 妖しいほどの色気を放つ女性はパチュリー・ノーレッジの使い魔 小悪魔(こあくま) だ。

 わたしが紅魔館に拾われた時には既に召喚されていて、

 主にパチュリー様の助手や図書館の司書みたいなことをしている。

 

「んーっ! 美味しい~!!

 やっぱり咲夜さんの淹れる紅茶は絶品ですねー!

 あ、おかわり貰えますか?」

「はい、どうぞ」

 

 小悪魔には、以前あったルーミアのような雰囲気を感じる。いや順序的に逆か。

 とにかく見ていてとても和むのだ。ついつい甘やかしたくなってしまうが、

 そんな所が小悪魔たる所以だろうか。

 それだけじゃなくて、良く本を取り落としたり、

 言いつけを聞き間違えて実験中のフラスコに別の物を入れそうになったり、と

 いわゆるドジッ子というヤツだ。

 

 わたしもさっきみたいに、

 本をぶつけられそうになったり、フラスコの中身をかけられそうになったっけ。

 慌てて、ものすごく申し訳無さそうに謝る姿が可愛くてとても癒される存在だ。

 

「小悪魔、悪戯は止めなさいといったでしょう。

 その本を早くしまって来なさい」

「むむ、悪戯なんてしてませんよう。

 まったく人使いならぬ悪魔使いが荒いですね、パチュリー様はっ」

 

 そう言って、まだ残っていたお菓子を名残惜しそうな目で眺めつつも、本を抱えて奥へと飛んでいった。

 

「迷惑ならちゃんといいなさい。貴方がイヤなら命令しておくわ」

「迷惑だなんて。むしろ癒されています」

 

 その言葉にパチュリー様は、溜息を付きものすごく呆れた顔をされた。なぜだろう?

 

「わかってないのね。それなら気にしなくていいわ。

 それは置いておいて、貴方に渡す物があるの」

 

 はて、わたしが何か頂く様な覚えがあっただろうか。

 何も頂く覚えは無かったと思うが。

 パチュリー様が思案しているわたしを見てますます顔をしかめた。

 

「まったく無自覚も度を越えれば失礼になるわよ。

 先日メイド長になったでしょう? その祝いよ。

 それに、貴方には大したことではないかもしれないけど、

 いつも淹れてくれる御茶は普通の御茶ではないのでしょう?

 コレを飲むようになってから、以前よりも明らかに調子がいいわ」

 

 なるほど、メイド長になった祝いという事だったのか。

 御茶の事も喜んで頂けて素直にうれしい。

 

「ありがとうございますパチュリー様。

 気に入って頂けているご様子でとても嬉しく思います」

「っ! そういったセリフを言うのはもうちょっと考えてから言いなさい」

 

 普段通りにお礼を言ったつもりだが、叱られた。

 

「……なんだか疲れたわ。これよ、着けてみなさい」

 

 そういって差し出されたのは、

 ちょうどメイド用のものだろうか、薄生地の黒い手袋だった。

 丁寧に受け取り、両手に嵌めてみたがサイズはピッタリだ。

 着け心地もよく、とてもしっくりくる。

 

 だけど、

 

「なぜ、ゆびぬきになっているのでしょうか?」

「勘違いしないで頂戴。レミィの趣味よ。

 私はレミィの指示に合わせて用意しただけ」

 

 なるほど、お嬢様のデザインでしたか、納得しました。

 よもやパチュリー様まで様子が変わられてしまったのかと一瞬疑う所でした。危なかった。

 

「貴方今失礼な事を考えなかった?」

 

 なぜだ。

 表情には一切出していないのに、看破されてしまった。

 慌てて話を戻す。

 

「いえ。大変気に入りました。本当に頂いてもよろしいのでしょうか?」

「当然よ。貴方以外に誰が使うというの。

 それには魔法が掛かっているわ。洗浄効果と、なによりも保護や耐久といった面を強化する魔法よ。

 美鈴から、素手で戦う術を習っていると聞いたわ。大事な手ぐらいしっかり守りなさい」

「有難うございます。パチュリー様。大切に、大切に使わせて頂きます」

 

 うれしい。思わず涙が滲んでしまった。

 パチュリー様がしばらく呆然と見つめているが、構わない。

 うれしいものはうれしいのだ。

 

 

 はっとして気づいたあと、パチュリー様は本に視線を落とし、そのまま告げる。

 

「貴方も仕事があるのでしょう? もう行きなさい」

「はい。失礼します、パチュリー様」

 

 

 

 

 その夜は嬉しくて手袋を嵌めたまま寝た。

 




その結果またおかしくなりました。

今まで読んでくださった方ならわかるかと思いますが、
美鈴はさぼってませんし、レミリアはおかしくなってません。

せっかく原作開始以前を書けるので何話か間に挟めたらなと思います。


※16/04/04 全話改訂しました。
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