闇が深まった中で赤い炎は森の中の平地を暖かく照らしてくれる。パーカーを着ていても少し肌寒いと感じるほどの気温の中で焚火の炎の熱は心地よく、そしてどこか郷愁の念を覚えさせる。
周りに広がる木々は高い。
森の空白は見上げれば夜空は天然のプラネタリウムみたいにも見える。星は遠くに輝いて、月明りと共に大地を照らす。
「――」
楽器、初めて見た時は小さな琴のように見えたがフィンランドの伝統的な楽器であるカンテレというものらしい。それを二人が共に演奏することで夜の森に音楽が木霊する。
「…………」
焚火に焼かれる肉を見ながら、何故こんな所にいるのだろうと内心で首を傾げる。
知波単に数日滞在してから次はパヴロフのいるプラウダ高校に向かおうとしていた。ただしこれまでのようにヒロに頼むとジェットからパラシュート無しダイブをさせられるから、アンコウニンジャ=サン、もとい秋山よろしくコンビニ艦に潜り込んで密航を計画していた。こっそり忍び込むというのは苦手でもないし、そこまで厳しく警備されているわけでもないので難しいことでもない。
コンビニといえばみほがやたら好きだったのを思い出す。
一度入ると店内の全コーナー巡っているからやたら時間が掛かる。
中学の間は良くつき合わされたものだった。
そんなことを考えながらコンビニ艦へ侵入しようとしたら――シンと継続高校の戦車道の少女たちと出会ったのだ。
三人組の少女とシンはプラウダ高校に用があるらしく、彼女たちが持つボートで海を渡ることになった。戦車も乗るぐらいに大きなボートでしばらく海を移動し、
「……ここは、どこだ」
「さぁ?」
どこかの知らない学園艦でキャンプをしているのである。
謎だ。
疑問に答えてくれたのは先ほど俺とシンが森の中で狩ってきた鹿肉に被りついている
そしてシンと共にカンテレを弾くチューリップハットの少女が継続高校戦車道隊長のミカであるらしい。
「……お前ら、学校はいいのか?」
「むしゃむしゃ……あぁ、これも戦車道の一貫ってことになってるから。うちは結構自由だし」
「いや、でも自由過ぎない……? ミカとミッコについてきてる私が言うのもなんだけど、寝袋とかじゃなくて普通にフカフカのベッドとエアコンのついた部屋で寝たい……」
「私はもう慣れたけどねーん」
「……不思議な学校だ」
まぁ学校によって規則とかは大分変わるし、奇妙に感じるのは黒森峰が他と比べてもかなり厳しいからというのもあるだろう。
首を傾げながらも鹿を食らいつく。
塩と胡椒しか振っていないシンプルな味付けだが、野宿であるのならばこれができるだけ上等だろう。先生にやらされたサバイバル訓練では調味料なんてないのが基本だったし。
いつだったか錯乱しまくって、全員パンツ一丁で汗かきまくって塩を生産したなんてこともあった。
『ソルトォ! ソイヤァ! ソルトォ! ソイヤァ! ソルトォ! ソイヤァ! ソルトォ! ソイヤァ!』
等と、謎の掛け声とダンスとかしていた気がする。
我ながら正気の沙汰ではなかった。
昔の自分をぶん殴りたい気分ですらある。
そんな、昔頭の悪い掛け声と共に踊っていた一人であるシンは、
「――」
「――」
耳に心地いいテンポのそれは不思議と心に響く。焚火の明かりと相まって妙なノスタルジックに駆られてしまう。それで思い出したのが汗と塩の記憶とか嫌すぎるが、この音楽に耳を傾けると嫌な気分もどこかに消えていく。
「サッキヤルヴェン・ポルカっていうんだ」
「……?」
「フィンランドの有名な民謡らしいよ。向こうではアコーディオンとかでよく演奏されるらしいけど、ミカとシンはカンテレで弾いてる。弾いてるっていうかそればっかなんだよね。そのまま弾いたり、アレンジとかもしてるけど」
「こいつらこればっかだからなぁ。アタシとアキよりも先に二人は会ってたみたいで、アタシらが知り合った時からずっとこんな感じだなぁ」
「……ふぅん」
ミカは三年で、この二人とシンは二年のはずだ。
ということはシンは入学してすぐにミカと出会って彼女に染まったらしい。
シンという男は昔から染められやすい――良く言えばやたら器用な奴なのだ。
喫茶店の時はデスメタの話があったが、それ以外にもやたら滅多らに色々手を出していた。音楽やら武術やら、読書の趣味、好きな食べ物でさえも。
その時分に応じてパーソナリティーが変化する。
その上で大体のことは卒がなく、上手くこなすことができるのだ。物事における十のうち、九までは並列して行える。器用貧乏というよりも器用万能に近い。
そういう意味では入学してから二年も同じことが続いているのは意外だった。大体長くても数か月程度しか続いていなかったし。
それだけシンのミカに対する想い入れが深いということなのだろう。
「――」
「――」
同じパートを同じように弾いてることもあれば、全然違うパートをそれぞれ別に弾いていることもある。音楽への造形は深くないからどっちが上手いとかは解らない。
だがそれは別として――シンが必死になってミカの演奏に食らいついているのは解る。
それは付き合いの長い俺だからこそ解る程度のものだろう。
人のことを言えた義理ではないが、しかしシンの場合も何を考えているのか解りにくい部類だ。薄い笑みを保ったままだから無表情の俺とは違った意味で感情が表に出ない。
それでも、今のシンは演奏に必死になっている。
「……くすっ」
ミカの手が止まった。
俺もシンもアキもアッコも彼女に視線が集まり、
「旧友がいるとシンの演奏にも力が入るみたいだね。今日はいつもより気合いを感じられるよ」
「………………そうかな?」
「そうだよ」
「え? ミッコ何か違った?」
「私に解るわけないだろ。アンタはどうだ?」
「……なんとなく、だがな」
「へぇ、流石幼馴染」
「……こほん。まぁ僕のことはいいじゃないか」
「くすくす、そうだね。風に乗せられて君の友人が流れてきたんだ。少しは彼の音も聞いてみようじゃないか」
「自分探しの旅だっけ? ミカ、なんだかそういう相談得意そうだよね。聞いてあげれば?」
言われ、
●
「――自分を探すということはつまり自分という存在が解らないということだ」
音を鳴らしながら、笑みを深め、
「けれど彼の場合は違うだろうね。シンから話は聞いている。質実剛健、不言実行、鋼の白虎、不撓不屈、精神力の怪物――日向直という人間の精神は完成されている」
「解っているのに探しているのならば――
「…………」
「沈黙は時に何よりも強い肯定だ」
「……驚いたな」
素直に感想を零す。
見透かしたような物言いだが、まさしく見透かしている。達観しているというのだろうか。普通の高校生とは、少し違った目線で物事を見ているようにも見える。
ミカの言うことはまさにその通り。
みほと再開して、彼女が前に進んでいることを知って、俺も変わりたくてこんな旅をしている。
その根源には――やはり後悔がある。
「君がその過去とどう向き合うか。結局の所問題はそれだからね、彼の問題は彼だけの問題さ」
「……結局どういうことなの?」
「彼の旅は人が口出しをする問題じゃないってことだよ、アキ」
「えー? なんかそれっぽいこと言いだす感じだったじゃん」
「大切なことは目に見えない。それと同じで言葉にできるものじゃないんだよ」
「ふーん、相変わらずミカは良く解んないこというなぁ」
「くすっ」
「……」
笑ったままにまたカンテレを弾き始める。
言いたいことは今ので終わったらしく、既に此方から意識を外していた。
色々変なやつにはこれまで会ってきたが、しかしそれらの中でも独特か雰囲気を持つ少女だ。シンが入れ込むのも少し解るかもしれない。
焚火から今しがた焼けたであろう鹿肉を取り、少し齧る。
「………………そういえば、俺はパヴロフの所に行くわけだが。お前たちはプラウダに何しに行くんだ?」
「ん」
シンの指が止まり、
「んむっ……」
アキは肉をのどに詰まらせ、
「ししっ」
ミッコは楽しそうに笑って、
「……少しだけ親愛なる友人に借りものをするだけだよ」
日向直=???
後悔とは。
シン
ミカにぷはお見通だった。
楽しい継続一家
なんかいい雰囲気だしながらカーべーたん強奪に行きます。
次回、カーべーたん強奪と同じタイミングでプラウダに現れた直の身柄は!?