感謝感謝。
ていうか皆蛮族大好きね(
美しい庭園には嗅いだことのないような香しい紅茶の香りとレコードから紡がれる音楽が響いている。英国式庭園という奴だろうか。手入れがされた芝生や豪奢な噴水、その先には豪奢な洋館がいくつも並んでいる。
それらの庭園の中心部、何故かまた豪華な屏風が立てられてその前にまた綺麗なテーブルが置かれている。普段紅茶を飲まなないので良くわからないがポットやティーカップ、スーサー。ケーキスタンドにはマドレーヌやクッキーのような菓子がある。
でもやっぱり驚くのは紅茶だろう。
プラウダで飲んだのも美味しかったが、しかし今目の前にあるのはそれとは格が違うといった所だろう。食に対する興味が薄かったからその衝撃を上手く表現できないが、しかしとても美味しいし、香りが良い。
もっというと庭園に響いてる音楽にしても優雅な雰囲気を作るのに一役買っている。
戦車道において音楽というものは意外にも重要だ。いや、戦車道だけではなく歩兵道にも言えることだ。士気というのは単純な戦術や戦力以上に時に重要視されるから、歩兵道や戦車道でも軍歌の一つくらい歌えるようにしておくのは珍しくない。正直自分は得意ではないけども。
そんな普段の生活とは縁遠い場所にいるのは俺だけではない。
相席するのは他にももう三人。
先日プラウダで一緒になったダージリンともう二人。
「おかわりどうですか?」
「……あぁ、ありがとう」
「この茶葉は普段紅茶を飲まない人でも違いが解る確率八十七パーセントのものです。是非味わってください」
「……確かに、違うな」
オレンジペコとアッサム。
三人合わせて聖グロのノーブルシスターズ。全校生徒から尊敬の念やら人気やらを集めているらしい。そう考えると三年であるダージリンとアッサムに比べ、未だ一年であるオレンジペコがシスターズに入っているのは何かしら特筆すべき所があるのだろうか。
にとりあえず彼女が紅茶はとても美味しい。
右側にオレンジペコ、左側アッサムと座り、
「――ふぅ」
そして正面にいたダージリンは紅茶を口に含んでから息を吐き、
「こんな言葉を知って―――」
遠く、突如として空に轟音が響いた。
●
『きぃいいいいい――――!』
「―――ダぁぁぁぁぁぁあああああ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」
響いたのは二つ。
一つ、戦車に外付けされた拡声器から発せられたつんざくような少女の叫び声。
一つ、それに負けないほどの大きさの声の男の絶叫だった。
ダージリンたちと紅茶を飲む場所から離れて、男と戦車が向かい合っている。
『ジャバウォォォォックゥ! 今日こそはお前を止めてみせますわー! ダージリン様のおっ紅茶の邪魔はさせませんわ!』
「はぁあああああああああああああ!? 何を言ってるんだぁああああああああああ!? このケツ匹夫があああああああああ!! 聞こえませんけどぉおおお!? 負け犬の戯言とか聞こえませんけどォ!?」
『むきぃいいいいいいい! だからケツとか匹夫とかお下品な真似はやめなさいませ! 轢きなさい! もう押し潰しちゃいますわよ―――』
大きくエンジンを響かせて戦車が突っ込む。それは戦車としては小さく見えるが、当然戦車は戦車だ。おまけに妙にすばしっこい動きで軽く跳ねながら正面に突っ込み、
「馬ァ鹿めッ!」
――跳ね上がった所をジャバウォックが両手でかちあげ、にひっくり返された。
『ああああああああああああああああああああああああああああ!?』
「はーっはっはっはっは!」
ひっくり返った戦車の上に仁王立ちして、蛮族は高笑い。
『キィーー! 二十トンあるんですわよ!? どうしてこのクルセイダーがひっくり返るんですの!? 貴方本当に人間ですのぉ!?』
「お前の動きが雑なんだよぉ! 無駄に跳ねて無駄なベクトル生えるから、ちょっと力沿えるだけで十分なんだよぉ! 俺みたいに雑でも隙付けるくらいになぁ! この未熟者めぇ!」
『むきぃぃぃーー! ですが! 今回は私だけではありませんわ! キャンディ! ルフナ! ディンブラ! やっておしまいなさい!』
呼びかけ、
「……」
『………………あれ?』
誰も来なかった。
『ちょ――何してますの!? 今日こそこの蛮族張り倒すと誓ったじゃありませんの!?』
一瞬ノイズ音が響き、
『いや、あの……ぶっちゃけ後が怖いですし……』
『ていうかいつもそれ言ってて……』
『結局フルボッコにされてローズヒップが椅子になるのがオチだし……』
『むきぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!』
「ははははははははは!」
ひっくり返っているのに妙に揺れ動く戦車を一しきり笑い、
「さて」
にやりと口を歪めて、
「――――――ダぁぁぁぁぁあああ様ぁああああ!?」
●
「――‐ペコぉ!」
「……はい」
此方へ駆け出し来たジャバウォックに対し、ダージリンの反応は迅速だった。
ティーカップを置き、立ち上がり傍のオレンジペコへと突きだす。
オレンジペコは何とも言えない微妙な顔をしながら小さく頷き、取りだしたのは――マスケット銃だった。手慣れた動作でオレンジペコは装填を完了させて、
「どうぞ」
「ありがとう――くたばりなさいジャバウォック!」
オレンジペコにニッコリと笑い――ジャバウォックへとマスケット銃をぶっ放した。
硝煙が吹き上がり、弾丸は迫る蛮族へと飛び、
「――馬ァ鹿めっ! 効かぬわ!」
命中するが、しかしダメージを受けず構わずに走り続けた。
しかし制服は破れていて、しかし流血すらしていない所を見ると、
「……あいつ、歩兵道用のインナー着てるのか?」
「えぇ、日々ダージリン様を弄っていたらダー様もあのようにマスケット銃を持ちだして反撃するようになりだしたので常に着込んでいるようです」
「あほか」
素直な感想な零している間もジャバウォックは哄笑を上げながら突進してきて、ダージリンはマスケット銃を連射し、オレンジペコが装填を行う。妙にオレンジペコも手慣れているが、しかしそれ以上に驚きなのがダージリンの堂の入りようだ。勢いよく近づいてきてるとはいえ、動いている相手にマスケット銃で命中させるとは中々の腕前だ。
「ダージリン様、あれで大体なんでもかんでもできるんですよね……マスケット銃にしても適当に弄ったらジャバウォックに命中させてましたし」
それは凄い。
それは凄いが、
「――ジャバウォックにはそれだけじゃ駄目だ」
「ひゃっはああああああああああああああ!!!」
「ああああああああああああああああああ!!!」
言っている間にもジャバウォックは距離を詰め切っていた。
軽く芝生に亀裂を入れながらダージリンの前に立ち塞がり、
「――で?」
右耳を突きだした。
ごくりと喉を鳴らし、冷や汗を流しながらダージリンは口を開き、
「……こ、こんな格言を知ってるかしら? 『コップを唇に持っていく間隔までには多くの失敗がある』――――」
「うん、イギリスの格言だな。失敗なんてことは沢山あるから悔やんでも仕方ないだろう? 知ってるよ? え? それで? 何が言いたいの? この場でいきなり言いだすことだっけ? ん? あれ? だからなにかな? 知ってることをなんかそれっぽく言ってくれたわけだけど意味あるのかな?」
「――ぁぅ……!」
●
「うぅ……ペコ……また駄目だったわ……」
「はぁ」
涙目で崩れ落ちるダージリンにそれにぽかんとした顔でオレンジペコが応える。
地味に酷い反応な気がするが、
「あー楽しかった」
「うぅくぅ……プラウダでは大人しかったから改心したかと思って――――でも怪しかったから御茶会には呼ばずローズヒップに足止めさせてたのに」
確り対策をしているじゃねぇか。
「はははは! 甘いんだよダー様。ケツ匹夫に足止めしてる時点で止められるわけないだろ? アイツもまだまだ雑魚モブだしなぁ。あ、俺にも紅茶くれペコ」
「あぁ、はい」
「あぁんペコぉ」
オレンジペコはダージリンを引きはがし、ジャバウォックにも紅茶を淹れる。その間にダージリンはうなだれたまま、しかし自分の分の紅茶を飲み始めていた。それらの光景をアッサムが遠い目で見ている。
なんというか、
「……手慣れた感じだな」
「実際、いつものことですから……私は巻き込まれることは少ないですけど日々こんな感じです。先ほどご覧のようにあぁして蛮族モンスターとして全生徒から恐れられています、ガチで。ダージリン様の格言を丁寧に解説して、普通に言えばいいんじゃない? とかいってダージリン様を涙目にしてます」
「なんとまぁ……」
予想通り過ぎる。
「……迷惑かけてる見たいだな」
「まぁといっても実際に被害蒙ってるのは主にダージリン様と二次被害でローズヒップですからね。他の生徒で危害を加えられたということはありません。知っての通りに怪力ですので色々役立つ場面もありますし。……まぁ本人の気質のせいで人望というのは地に落ちてますが。結局自業自得ですね」
「………………詳しいな」
「このアッサム、データ主義、聖グロ一の情報通、アッサム、アッサムです」
「…………」
ドヤ顔で選挙風に自己紹介されたがなんか反応に困ったので流しておく。
しかし、うなだれるダージリンと笑うジャバウォックを見て思うことは、
「――それにしてもよほどダージリンに入れ込んでいるようだなジャバウォック」
「―――‐はぁ!?」
「ぶっーーーー!」
ダージリンが勢いよく顔を上げ、ジャバウォックが口から紅茶を吹きだした。
「汚いぞ」
「ぶほっ、直! お前何を―――」
「黙りなさいジャバウォック! それで、直さん!? どういうことかしら!?」
食い気味に来た。
「いや、今の学校の成績はどうなのか知らないが基本的にこの男には学がなかった。なのに今も、ついでにいうとプラウダで会った時もダージリンの格言に反応して、解説をしてただろう。アッサムの言う通りにいつものことだとしたら――ダージリンの為に格言集とか勉強したんだな?」
「!」
「貴様ーーッ!」
「は――! なんだそうでしたのね!? 入学当時に浮いてたからこっそり放課後とかに格言とか話てあげたり髪とか金に染めてあげてたりしたら二年になって蛮族の本性を表わして私に喧嘩売りだしたわけだけど結局私のことが好きでしたのね!? 全くそういうことならば早く言えばよかったのにー!」
「ち、違いますぅー! 自意識過剰ですぅー! そういうことじゃないですぅー! ドヤ顔すんな! 直も適当なことを言うなぁー!」
「お前が俺に嘘付けると思ってるのか?」
「幼馴染以心伝心!」
「…………え? ダージリン様とジャバウォックそんなことしてたんですか?」
「知らなかったわね……そういえば去年はダージリン様ちょこちょこ放課後とか練習後に消えてたけど……」
「おーっほっほ! 全くこれからジャバウォックの煽りは私への愛情表現ということと考えると気分がいいですわね!」
「ちーがーいーまーすーぅ!」
「いや、合ってるだろ。涙目ダー様可愛いとかよく聞いて……」
「なぁぁぁぉぉおおおおッッ!」
●
「…………糞、直に弄られるとは」
「はしゃぎすぎだろう。別に俺の見てない所では構わんが、俺の見てる所でやられれば止めずにはいられんよ」
「律儀だなぁ……まぁ直らしいっちゃらしいけどよぉ」
小一時間ほど――なんと小一時間ほどである。ダージリンとジャバウォックはそれだけ痴話喧嘩を続けていた――騒ぎまくって改めて紅茶を飲んでいる。大分落ち着いたようで、今度はそれぞれ普通に椅子に座ってオレンジペコの淹れた紅茶を楽しみ、
「それはそれとして直さん、聞きたいことがあるのだけれど?」
「……なんだ?」
「―――みほさんと何があったのかしら?」
「………………」
「………………」
「……あ、あら……?」
「……ジャバウォック」
「いや、何も言ってねぇけど? ほら、プラウダの反応みたらそりゃ気になるだろ? あの時お前俺が言うのもなんだけど尋常じゃなかったぜ」
「…………そうか」
長い息を吐く。
そして空を仰いで、
「……ジャバウォック、私やらかしたかしら?」
「どっちかっていうとやらかした方だと思う」
「……いや、いいよ」
残っていた紅茶を一息に煽る。
「いつまでも抱えてるものじゃない……そう思ってこうして学園艦回ってるんだからな。……あぁ、どうせジャバウォックは知ってることだし、みほを認めたアンタになら話してもいいだろう」
「……あの、私たちは外しましょうか?」
「ん、いやいいさ。別にそこまでもったいぶる話でもないしな。というか紅茶を頼む、オレンジペコ」
「は、はい!」
彼女にティーカップを渡し、新しく紅茶を淹れてくれるのを眺めつつ、
「――昔、まほさんに俺が告白したんだ」
「ぶっ!?」
「……」
「……ダー様ぇ……」
「し、失礼……あまりにも意外だったので……それで?」
「……それで、まぁ振られて」
まほさんに振られて――
「――――俺はみほに告白されたんだ」
日向直
まほさんに告って、みほに告白されて――?
ジャバウォック
はしゃぎすぎたね
ダー様大好き
ダージリン
漂うポンコツ臭
一年前、学校の校舎あがりでジャバウォックに格言教えてあげたり、髪染めてあげるダー様の姿が。なんだろう、萌える。
ローズヒップ
戦車に反映されるほどのそそっかしさ
オレンジペコ
地味に酷い
アッサム
ギャグを言うタイミングが……!
あと2話くらいで終わりかな?
まぁその後劇場版を真面目にやる予定ですけども。
感想評価お願いします。