ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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Q、西住殿に恋愛話すると?


フィルツェーン

「――私は、直君のことがずっと昔から好きだったんだ」

 

 最後の豚カツを食べ切り、箸を置いたみほはそういう風に口を開いた。

 普段一人で暮らしている部屋には自分だけではなく沙織、華、優花里、麻子。大洗戦車道あんこうチーム五人が今集まっている。

 昨日、準決勝において大洗はプラウダに勝利し、決勝へと駒を進めた。そしてその決勝は明日、相手は――かつての母校黒森峰。

 やれることは全部やった。

 後は最後の願掛けに皆で豚カツを作って、食べて。

 そしてみほは口を開く。

 話を促されたわけではないけれど、それでもこの四人には話しておきたかったから。今までこの件に関しては大分気を使わせたと思う。婚活戦士ゼクシィ武部などというものすごいあだ名が付けられているくらいに恋バナが好きな沙織であるが、みほの前ではそういう話になりかけると上手く逸らしたり、変に自分の失敗談を語ったりして空気を読んでくれた。

 

「……と言っても、一目ぼれとかじゃなくてね? ていうか最初正直……怖かったよ。ほら、直君基本無表情だし、そっけないから。だから初めて会った時は凄く怖かったけど」

 

 苦笑いしながら思いだすのはみほが初めて直と会った時のことだ。

 あの時は珍しく家族四人揃っていて、父と母、それにまほと自分。

 場所はどこだっただろうか、家の門の前だった気もするし、家の一室でもあった気がする。ただ覚えているのは日向の家の人の隣に無表情の直がいたこと。

 やはり最初は怖かった。

 両親には礼儀正しく挨拶をしていて、自分やまほにもそれは同じで本当に同い年かどうかも怪しいと思ったものだ。

 けれど、それは共に過ごす中で変わって行って、

 

「――直君は、本当はすっごく優しいんだ」

 にっこりと笑い、

 

「……あれ? これもしかしてすごい惚気?」

 

「しっ! 大事な所なですからしっかり聞いていましょう!」

 

「まぁ惚気には変わりないだろうがな」

 

「みほさんいい笑顔ですわね」

 

 所謂ひそひそ話の声量だったのでみほには聞こえなかった。

 そして話は続き、

 

「無言で無表情なのはいつも凄い考えてるからで、口に出さないけど、でも行動では優しくてね? ほら、沙織さんが前に言ってたけど『これが真の優しい男の優しい行動百八選』とか全部満たしてて、道路側歩くとか重いもの持ってくれたりとかそんなの当たり前っていうか」

 

「ごふっ!」

 

「あぁ! 武部殿が羨ましさで吐血を!」

 

「予定全くないですものね……」

 

「いつものことだが地味に酷いなおい」

 

「それでね! 何より一番かっこいいのは意思が強い所っていうか……いつもは自己主張とか全然しないのに一度決めたことは絶対やり遂げるっていうか不良が腰抜かす風紀委員のゲシュタポに絡まれた時も一人で全員倒しちゃったりとか凄く強いし傍から見てたら詳しくは解らなかったけどそれでもボロボロになりながらも絶対に諦めなかったりして――そう! ボコみたいな人なんだよ!」

 

 結局それなのか……と四人が四人とも半目になったがみほは緩く笑って、

 

「……ずっと好きだったんだ。直君はいつも黙って私の前を歩いていて、私は彼の背中が大好きだった」

 

 だけど、

 

「私の前を行く直君は――その先のお姉ちゃんを見てたんだよ」

 

 そして二年前、

 

「直君はお姉ちゃんに告白して――でも、振られちゃって」

 

 そして、

 

「私は――我慢ができなかったんだ」

 

 それがきっと西住みほの間違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まほさんのことを好きになった切っ掛けは結局の所一目惚れだったのだと思う。

 立ち振る舞い、或は言動、容姿、上げていけば彼女の魅力は上げていけば切がないけれど鋼のような彼女にどうしようもなく魅せられた。西住家という戦車道の家元の長女に生まれ、その身こそが西住流を体現し、その道を突き進むその魂は堪らなく美しかった。

 勿論一目惚れなわけだからまほさんの容姿が好みであったなんて単純な理由があったということも否めないけれど。

 彼女は自分の道を躊躇うことなく進んでいた。

 母親から、家から与えられた道だからというわけではなく、自らが西住流という道を選択肢、突き進んでいた。

 撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し――鉄の掟、鋼の心。

 それこそが西住まほ。

 己の信じる道を躊躇いなく進む彼女の背中を、どうしようもなく俺は憧れ、美しいと感じ、愛したのだと思う。

 だけどそれは一方的な想いだった。

 

『――お前のことは好ましいと思っている』

 

 しかし、

 

『それでもそれは……弟としてだ。だから――お前の想いには応えられない』

 

 結局彼女への想いが届くことはなかった。

 でもそれは仕方のないことだ。確かに姉弟同然に育って来たのだから、そういう風に思ってもらえるだけ良かっただろう。これからも仲良くしたいとか姉として接してくれとか、そういうことを言われた。流石にショックがなかったわけではないのでそのあたり記憶が曖昧になっているが、何にしても俺の失恋はそこで終わった。

 終わる――はずだった。

 問題はその後。

 

「――君はみほにそのまま告白されたわけだ」

 

「……」

 

 冷えたノンアルコールビールを手渡されながら目の前の男の言葉を聞く。 

 

「さて、君はそれに対してどういう風に対応したのだっけ、或はどう答えたんだっけ? いやいやいやそもそもどういう経緯から告白されたんだったか」

 

 茶髪の、細身の男だ。油染みのついた作業服は大きめで優男に見えるが、しかしこれでかなりの筋力膂力を持っていることを俺はよく知っている。

 彼からノンアルビールを受け取り、手の中で冷たさを感じつつ質問に答える。

 みほに告白されたのは、

 

「……俺が、まほさんに振られた直後のことでした。学校の近くを適当に歩いてて、多分それは俺も少なからずショックを受けてて……それで、みほは俺を慰めに来てくれたんだ」

 

「うんうん、いい子だねみほは。彼女はなんて慰めてくれたんだい」

 

「……そこもですか」

 

「そこもだね」

 

「……直君はいい人だからとか、優しい、とか。後……ボコみたい……とか」

 

「みほからすれば最大級の賛辞だね。それで君はなんと?」

 

「…………嬉しかったですよ、慰められました」

 

 そして、

 

「――俺に取ってお前は最高の友達だと、そう言ったんだ」

 

「――君のことが好きだったみほに。男の子として君を好きだった女の子に、友達なんて言ったわけだ」

 

「…………」

 

 何も言い返せない。

 手の中の缶の冷たさを感じながら、しかし口を閉ざすことしかできず、目の前の男性は俺に構わず続けて、

 

「そこまで言われて、流石のみほも我慢ができなかったわけだ。確かに彼女は優しい、心優しい少女だ。だけど同時に年相応の女の子でもある。ボコに対して我を失う所とかとても可愛らしいよね? そんな女の子が、好きな男の子に最高の友達だなんて言われて、それも好きな男の子が自分の姉に告白して、それでも慰めていた所でそんなこと言われたらそりゃあ頭にくるよねぇ」

 

「……」

 

 彼の言う通り、始めて見たみほの激情だった。

 

「『私は友達でよくなんかない』、『ほんとはこんな風に慰めたいわけじゃない』、『どうして気づいてくれないの?』『私は――直君が大好きなのに』……こんな感じかな?」

 

「……えぇ、まさしく」

 

 彼の言う通り。

 そののような言葉を投げつけられた。

 泣きながら――あのみほが涙を流し、喚きながら、秘めていたものが堰を切って溢れだしたように。

 

「そしてそんな彼女に対して果たして君はどうしたんだけ」

 

「……ちゃんと、応えられなかった」

 

 泣きながら想いを伝えてきたみほだったが、しかしそれに対して俺はちゃんと応えられなかった。結果論で言ってしまえば俺も混乱していたのだ。まほさんに告白して振られたばかりでそのショックもあったし、みほが泣きだして俺のことを好きなんていうことも信じられなかった。

 だから、まともに返事ができなくて、

 

「それが――君の後悔だ。日向直、君はみほに自分の言葉を伝えられず、その場しのぎの適当なことしか言えなかった。それが君を苛む一つ目の後悔」

 

「……全部解ってますね」

 

「当然だろう。僕は君の友人であり――――みほの父親なのだから」

 

「……えぇそうですね、常夫さん」

 

 西住常夫。

 みほとまほさんの実父であり、現在家元である西住しほさんの夫でもある。

 一見して優男であるが、しかしこの人は西住流、そして黒森峰高校戦車道の戦車の整備を任されている男だ。常に西住家本宅と黒森峰学園艦を往復しており、全国大会最中では黒森峰に滞在し続けている。

 聖グロから黒森峰へと戻ってきた俺を迎えたのは、まほさんでも逸見でもその他友人でもなくこの人だった。

 正直ビビったといえば嘘になる。

 というか不思議な人なのだ、西住常夫という男は。

 俺にとっては親戚の親世代、感覚的に言えば叔父に近いものになるのだろうが、しかしそれ以上に年の離れた友人といった所だ。三十半ばなのだろうが年齢というものを感じない上に、妙に見透かしたような物言いのある人だ。

 なにより――先生と旧知というのが恐ろしさを助長している。

 地味に真面目に戦っても勝ったことがない相手だったりする。

 そんな人から、娘へに関して言及されているわけで、

 

「……」

 

「あはは、針の筵? まぁ娘傷つけた奴には丁度いいね」

 

「……」

 

 こういう酷いことを笑顔で言うあたり先生にそっくりである。

 

「そんな感じで僕の娘を傷つけた君だけど、自分探しの旅はどうだったかな?」

 

「……まぁ色々得たものはありましたよ。それに……まだ終わっていないですし」

 

「あぁそうだね、明日だねぇ」

 

 明日。

 戦車道全国大会決勝戦――黒森峰対大洗。

 その結果を見ることで、俺の旅は終われるのだと思う。

 

「娘二人が決勝で戦うなんて親としては色々思う所があるものだ。それも、あの去年に続いているとね」

 

「……常夫さんは、去年のみほのことはどう思っていたんですか?」

 

「おっ、ようやく聞いてくれたねぇ。みほが黒森峰出てからむっつり度増して聞いてくれなかったけど」

 

 むっつりとか言わないでほしい。

 常夫さんは手にしていたビール――当然成人超えているので彼のはアルコール入り――を呷り、

 

「そも、戦車道とは結果ではなく過程を重視する武道だ。如何にして勝つよりも如何にして戦ったが重要だ。知波単があるだろう? 彼女たちは突き進み、華々しく散ることが美徳とされている。あそこは顕著だけどそれぞれの学校にそれぞれの戦車道の特徴があるわけだ。その上で黒森峰、そして西住流の戦車道とは?」

 

「撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し――鉄の掟、鋼の心」

 

「その通り。戦車が鋼の群れとなり、正面から敵を粉砕し――そして、圧倒的な力で勝利する。それこそが西住流の戦車道だ。他の戦車道に比べると最終的に勝利を求めている当たり難しいよね、まぁ家元だししょうがない。個の最強を求められる島田流も同じだけどね」

 

 故に、

 

「みほの行動は西住流としては認められない」

 

「……父としては」

 

「当然僕の娘最高だね! 人間としてよく育ってくれたよ! 流石僕としほちゃんの娘!」

 

  腕を広げていきなり叫び出したがそれよりもしほちゃんという呼び方の方が気になって仕方ない。常夫さん曰くしほさんとはラブラブらしい。そんなこと言われても困る所だが。

 

「いや、しほちゃんはあれでツンデレていうか不器用デレ? 自分の感情表わしたり、愛情表現が苦手なんだよねぇ。そのあたりまほやみほも不器用さが遺伝してるあたり可愛いけども。最も不器用さという点では君もいい勝負だけど。カゲはそのあたりやたら器用なんだけどなぁ」

 

「……先生のことはいいでしょう」

 

「うん、まぁあれが今どこで何してるかはどうでもいいね。どうせ元気でやってるだろうし。それで? 君はどうかな?」

 

「……俺は」

 

「ま、いいけどね」

 

「……」

 

 力が抜ける。

 こういう所がやりにくくもあり、友人に成りえる所だ。

 

「君がどう感じ、どんな答えを得たかというのは僕が聞くものじゃないしね。言うことは三つ。一つ、娘をもう泣かさないこと」

 

「……それは勿論。二つ目は?」

 

「君の武器勝手にメンテしておいたから確認してね」

 

「……は?」

 

 投げつけられたのは巻物状に纏められた布のケースだ。中に入っているものがなんなのかは中空での中身の物同士がこすれ合う音で悟ることができる。

 

「……なんでまた。流石にこいつを使う程のことはないですよ」

 

「いや、だからばっちりメンテしておいたからみほ泣かしたらそれで自害しようね?」




A、めっちゃ惚気!
 婚活戦士ゼクシィ武部殿おおおおおおおおおおおおおおおお!!

日向直
みぽりん傷つけたことをそのパッパから解剖される。
それっぽい語りとか回想なんてもんじゃないぜ!

西住常夫
先生の親友。しほちゃん大好き娘大好き。
自害しろ直。
ロリコン疑惑

西住しほ
不器用デレ。

次回最終回ー
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