大地を蹴る音がする。
それは莫大な膂力による踏み込みはアスファルトで舗装された大地を砕き、破片が空を舞う。
「ハ」
漏れるのは歓喜の声だ。
「ハハ」
大地を砕き、目前を走る鋼の鳥を追いながら蛮族は笑っている。
「ハハハ……!」
手には何もない。
蛮族は武器を好まないわけではない。細かい扱いを必要とするのは趣味ではないが棍棒やハンマー、槍のような大型の重武装は埒外の膂力を有する彼には相性のいいものだ。
だが、今それを使わないのは、
……武器は幾らでもあるからなぁ!
視界に移るのは大洗の街並みだ。
聖グロの英国風のそれとは違い、一般的な日本の街並みであり信号、自動販売機、看板等々、様々なものがあり――それら全てが蛮族にとっては武器だ。
すれ違いざまに殴りつけるように
「――お、らぁっ!」
勢いを付けなら空中でキャッチして放り投げる。
それらは単純な膂力だけでも各所が音速すら超えて莫大な破壊力を有する。ただ力が異常に強いことこそが蛮族の強みの一つである戦車を打倒しうる要因の一つだ。
故にその力を哄笑と共に行使し、
「――根性ぉおおおおッッ!!!」
家鴨の羽搏きは蛮族の暴虐を回避する。
●
「はっはー! やるなぁおい!」
ジャバウォックは見ている。
今自分が標的として狙っている相手は八九式という戦車道としては弱小とすら言える戦車を操るチームだ。装甲も薄いし、攻撃力に至っては豆鉄砲とすら言っていいものであり、事実かつての練習試合では超至近距離からでも
つまり本来ならば相手にする必要のない弱小戦車であり、故に自分がマークする必要などないのだが、
……乗り込んでる奴らが問題なんだよなぁ!
思いながら、近場にあった看板を投げつける。
横目で見たそれは謎の触手の怪物が大洗の名物である鮟鱇や岩牡蠣、干しイモとかを触手で掲げて紹介しているがどうにも謎生物の捕食シーンにしか見えないのだが武器としては申し分ない。
だから投げつけてやるが、
「アタックくるよ!」
「そーれっ!」
回避される。
避けるのに十分とは言い難い道幅だ。軽自動車がすれ違うのに少し苦労するほどだろうか。そんな細い道を器用に、ジグザグに駆け抜け蛮族の攻撃を回避し、それを連続させている。
「やるなぁお前!」
「ありがとーっ!」
律儀に返して来るのはキューポラから身体を半分出している
つまり彼女は、
「俺の蛮族スロー見切ってやがるな!」
「強豪校のスパイクと思えば行ける!」
マジかよバレー部強豪校すげぇな。
或は典子が凄いだけなのだろうか。
絶対後者だ。
そう思い、そして同時にまた思うことは、
……やっぱり強ぇな! アヒルさんチーム!
大洗学園戦車道には八つのチームがありそれぞれがそれぞれに特徴が強い。だがその中で仮にエースを選ぶとするのならば――このアヒルさんチームであるとジャバウォックは考える。
確かに戦車としては極めて貧弱であるが全国大会中、最も動き回り、最も弾を当て――最も練度が高いであろうチームだ。
ジャバウォックの見解だけではなく試合前のダージリンも同じ意見であったし、カチューシャやノンナ、アッサム、オレンジペコもそうであり、もっと言えば大洗や他の戦車道すらも同じことを考えるだろう。
そしてそれは考察ではなく、今こうして自分が倒しきれていないのが事実として物語っている。
「根性根性! あとちょっとだよ! 河西ッ、指示よく聞いて根性! 近藤ッ、福田ちゃん誘導して根性!」
根性根性連呼しているが指示は簡潔であり解りやすい。運転手への連携は勿論、マークから外している
それに加えて、
「佐々木ッ、根性全開で――蛮族へサーブッ!」
「そーれっ!」
後部機銃による銃撃が降り注ぐ。
「おっ、とっ、ぬぉ!」
狙いはジャバウォックの足元が中心だ。ジャバウォックからすれば特殊カーボンスーツを着込んでいる身ならばダメージとしては小さいし、ジグザグに走り込めば回避もできる。
歩兵道にはちょっとしたコツがあり、それを使えば機銃程度のダメージならばセンサーを無視することができる。
故にこの程度では損傷にならないが――それは速度の減衰も意味する。
「良く当てるなぁおい!」
走りながら人型サイズへの機銃射撃、それも器用に足元だけの狙った精密狙撃だ。
「日々の練習とちょっとの頭と、何より根性があるからね!」
根性も凄いが、やはり技術も凄まじい。
何よりジャバウォックとにらみ合っている磯部典子が素晴らしい。蛮族をして素直に賞賛せざるを得ない。
自販機やら看板を投げつける人間から追われて戦車で逃げる。
言葉にすれば意味不明な状況の中でしかし混乱することなく身体も思考も動き続けている。投擲物に対してその軌道を読み取って、
……それだけじゃねぇな!
家鴨の長の視線は真っ直ぐに蛮族を貫いている。
単に攻撃だけを読んでるわけじゃなく、ジャバウォックの動きをも行進回避の要素として取り入れている。それは普通に戦車道をやるだけでは身につくことのない観察眼だ。きっと計算してやっていることではないのだろう。
脚運びは呼吸、筋肉――行進中の戦車内から高速移動する人間のそういった情報を身体に記憶させた経験で無意識に行っているのだ。
……やっぱバレー部すげぇ!
が、
「――ダー様に頼まれたからなぁ」
八九式はスペック的には問題にならないがしかし大洗あひるさんチームの場合、完全にそのカタログスペックをオーバーしている。だからこそ大洗・知波単連合の中で優先して倒さなければならない相手としてダージリンから指示されている。
故に、
「――全力でぶっ飛ばすぜぇ!」
宣言と共に放たれるのは、それまでの投擲とは違い、
「――蛮族ボンバー!」
弾丸として
●
「ッ――!」
典子は蛮族の新たな弾丸を見た。
それまで自動販売機や信号機だ。それだけでも頭おかしい光景だったが、しかしさらにおかしい光景が今発生した。
走りながら蛮族が手にしたのは、
「――軽自動車ぁ!?」
今までと同じ要領で空中にスナップし、
「ふんぬっ……!」
キャッチ&スロー。
その行為の最中、カーボンスーツの下の筋肉が大きく隆起するのを典子は理解する。異常なまでの膂力であり、目で見ている現実が信じられない。
が、しかし現実で起きている。
おまけに技名も蛮族スローから蛮族ボンバーになった。スローがボンバーだ。全くもって違う。スローとかボンバーとかどういう意味だった良く解んないけど名前の語感的に後者の方が強いっぽい気がするし。あと向こうもやたら気合い入ってて、つまり何が変わったかというと、
「根性か!?」
「違うと思います!」
車内の忍と妙子からツッコミが入り、
「全速加速、ちょっと右ぃ!」
縦回転で飛んだ来た軽自動車の軌道を半ば勘で読み取り指示を飛ばす。
「――!」
反応は即座だ。
操縦手の忍の操作により加速しながら微かに右に曲がる。
車体右側が住宅の塀に激突し火花が散った。
さらにキューポラから出した典子の身体にGが掛かり、自分の身体で支え、
「っギリギリ……!?」
回避によって生まれた空白に自動車が縦回転でぶっ飛んできた。
……縦で助かったけども!
どうすればそんな風に投げられるのか。
いやそれはさっき答えが出て、根性だったか。
微かに掠ったせいで車体が左に飛び過ぎそうになり、自分で右側に体重を駆け、
「――あとちょっとだよ!」
●
「ぬぅ……!」
蛮族ボンバーまで回避されるとは予想外で、思わずジャバウォックは歯噛みする。
あとちょっと、あとちょっとなのだ。
あとちょっとで大洗のアウトレットモールがある。様々なテナントがあり、ちょっとしたアトラクションもあって歩兵道的にはかなり戦いやすい場所なのだが、
……非戦闘区域だもんなぁ……。
正直萎える話がルールはルールだ、仕方ない。大洗の市街地とゴルフ場、それに海沿いが戦闘可能区域であり、大洗アウトレットモールはそれらから外れる。
エキシビションマッチで観客が沢山来るから、商魂逞しく現在あそこではエキシビションマッチセールとかが行われていたりもする。エキシビションマッチセールというか戦車道セールだ。地方活性化と言う奴なのか戦車道と共にTシャツとかスイーツとか、はたまた戦車風ヘアカットとか訳の分からないものが流行していた。戦車道カットはあんこうチームの秋山家主導だったりするからパンツァーハイ恐ろしいものだ。
何はともあれ蛮族ボンバーが駄目だった。あれは弾数限られるからそう頻繁に使えず、事実視界の中でボンバーの弾丸になりそうなのはない。
ということはつまり投げつけるものがなく、すぐに八九式と九五式がアウトレットに入ってしまう。そうなるとジャバウォックはマーク外さなければならない。後方にはルクリリが控えているからそっちに任せるしかない。彼女も優秀ではあるが、
……自分の仕事くらいはやりとげねぇなとな。
最近ウザ絡みしてくるダージリンにまた余計なこと言われるかもしれない。
煽るのは好きだけど煽られるのは嫌いなジャバウォックだ。
故に最終手段。
疾走中、一度軽く膝を落とし、
「バーンーゾーク―――」
体重を沈め、
「――ミサーイルッ!」
全身を射出させた。
●
「ちょ――」
あけびはその典子の声から焦りを感じた。
そしてそれはあけび自身も同じだ。なぜならば、それまで物を投げつけるだけであった蛮族が、
……自分を弾丸にして……!?
そうとしか表現できなかった。
蛮族ミサイル。蛮族のスローとか蛮族のボンバーと違って、つまりこれは、
……蛮族自身がミサイルになること……!
最近そんな感じの漫画を見た気がする。全国大会中に仲間になったアリクイさんチームのももがーが同学年ということもあって良く話す中で貸してくれた漫画がそんな感じだったような気がする。ストーリー云々よりも漫画のキャラの動きをバレーで再現できないかばかり考えていたから話の内容はよく覚えていないが、
「どーすんですかキャプテン!」
「――根性で!」
……あ、駄目だ。
そう思った瞬間、それは来た。
●
『――』
妙子はまずノイズを聞いた。
それは無線機から発せられるもので、聞くべきことはその後。
『――河西、全速加速しろ』
●
聞こえてきた男の声に忍は反射的に動いた。
正直なことを言うと良く知らない相手だ。が、その声には迷いがなかった。
何よりその男は彼女が信頼する長の恋人であり、
……体育会系的に年上命令は絶対……!
故にアクセルをベタ踏みされ、急加速し、
『――磯部』
その声は続いた。
●
『――可能なら掴め』
瞬間、典子は視界の右端から飛来するものを見た。正確に言えば右斜め上。恐らく周囲の家屋から投擲されたそれは――ワイヤー付きのククリ刀だった。
「――‐っと」
反射的に彼女はククリ刀の柄をキャッチした。
常識外れの反射神経あっての行動だったが、
「――と、ぉぉ……!?」
掴んだ直後にワイヤーから伝わる強烈な力で身体が引っ張られた。
反射的にキューポラに身体を押し付け、車内の両足を広げて身体ストッパーにする。
それでも足りない。
なぜならば、
……む、胸が滑る……!?
起伏が乏しいので摩擦が生まれず、そのまま滑ってしまう。故に踏ん張りは効かず、
「キャプテン!」
あけびが腰を、妙子が左足を抱きつくようにホールドした。
……柔らかい……!
腰と両足が二人の胸で埋まっていて、それで典子の姿勢は安定され、ならばそこまで行けば、
「根性……ッ!」
貧乳スリップを巨乳ホールドで相殺――巨乳が二人分なのでよく考えればホールドの勝利――し、根性を込めれば典子の身体は踏ん張りを得て、
『――見事だ』
――白虎は家鴨の下に駆けつけた。
●
「――間に合ったな」
超加速を乗せた両足蹴りをジャバウォックに叩き込んだ直は着地と共に安堵の息を吐いた。
轟音と共に家屋を破壊しながらぶっ飛び、土煙に消えたジャバウォックの方から視線は外さず、
『ありがとーっ!』
『助かりました! アウトレット入ります!』
「気にするな、そっちにも一輌行ったから注意しておけ」
あひるさんチーム、それに九五式が
故に心配は必要はなく、
「――来いよ、ジャバウォック」
瓦礫と土煙に告げ、
「――‐ハッハー!」
腕の振りによりそれらを吹き飛ばしながら蛮族は姿を表わす。
真紅のカーボンジャケットや頭部保護のヘッドギアから除く顔面からは血が見えるが――撃破判定は出ていない。
「少しは器用さを覚えたか?」
「当然だ、俺は何時だって日々進歩する男だぜ? 歩兵道やってとどうしても判定とかいうめんどくせぇのあるからなぁ。ちっとはそのあたり身に着けねぇと。実は始める前にちょこっとパヴロフに焼き入れて教えてもらってだな」
「焼き入れて教えてもらうってそれつまり恐喝だな」
「変態だからいいんじゃね!」
確かに。
ま、ということで。
「――やるか、ジャバウォック」
「おいおいやる気だなぁ直。いつぶりだよ俺とお前のタイマンとか」
「さてな、それこそ孤児院いた時くらいじゃないか」
「んーと? 勝率どうだったけ? 俺が三戦くらい勝ち越してたっけな?」
「二百五十七勝二百五十四敗――俺の勝ち越しだ」
「かーっ! 細かいなぁ! 三敗とか誤差だろ誤差! 誤差で俺の勝ち越しな!」
「誤差の意味を調べ直せ」
直は嘆息し。
ジャバウォックは笑い、
「―――‐!」
白虎の爪と蛮族の拳が激突を開始した。
直
中々の無茶振り
あひるさんチーム
無茶振りにちゃんと応える有能。
根性おおおおおお!!
ジャバウォック
必殺技=蛮族○○シリーズ
福田
この時点で最後の知波単
4DX見たら結構本当にアトラクションだった。
ガルパンキャラ沢山いてどうしようと思った結果カワカミンインストールすることに。
わぁい脳汁だばだば!
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