ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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エキシビションⅣ

 機関部が轟き、大地を砕く。

 その粉砕は連続し、それが齎すのは即ち戦車の疾走だ。

 鋼鉄の塊は三つ。

 鮟鱇をパーソナルマークとした大洗フラッグ車Ⅳ号(みほ)。そしてそれを追いかけるプラウダのT―34(カチューシャ)IS―2(ノンナ)だ。

 大洗の街にて二輌は一輌を追いかけ、打ち倒す為に駆動する。

 当然鮟鱇も倒されぬ為、倒す為に砲火を放つ。

 状況としては鮟鱇の不利だ。

 ただし鮟鱇が常に劣勢であるわけでもなく、戦車戦としては鮟鱇が僅差で競り勝っている。

 その差は地の利と操縦者だ。

 ホームである大洗チームに地の利があり、どの道をどういう風に行けばどこに出るのか。この道を進めばどこに出るのか。そういうことを解っているから数で負けている相手にどう逃げればいいのか最適解を理解で来ている。大洗出身者が四人もいればほぼ全ての道筋を網羅出来ている。

 そして操縦者――冷泉麻子。

 大洗に於けるベストチームがあひるさんチームであるが、しかし操縦者個人として見た場合最優であるのは彼女に他ならない。戦車の動かし方をマニュアル一読しただけで熟知する所謂天才であり、同時に全国大会を通して経験値がその技術を確固たるものとしている。全国的に見ても彼女の操縦技術はトップクラスだ。

 地の利と操縦車には鮟鱇に分があり、しかし当然カチューシャもノンナも歴戦の猛者だ。その程度の不利は自分たちの技術と経験にて帳消しにしている。

 それでも尚、鮟鱇が不利なのは、

 

「――んほぉおおおおおおおおおお!!」

 

 ――‐変態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……キモイ……!

 照準を覗く華は素直にそう思った。

 いや、確かに人のことをこういう風に言うのは良くないことなのかもしれない。こんなことを言うと母親は顔をしかめるだろうし、自分的にも汚い言葉を使うのはあまりよろしくない。だから改めて生理的にも砲手的にも人間的にも、あらゆる要素を鑑みる。主観的な要素を置いておいて、客観的に人間を見るのはコミュニケーションの中では必要なことだ。

 親友が全くモテないこととか直視し、教えて上げないといけなかったりするわけだ。

 故に改めて考えながら、

 

「――っと」

 

 引き金を引く。

 

 瞬間、轟音と衝撃と共に砲弾が射出される。

 この全身を震わせる衝撃が堪らなく快感だ。

 そしてそれが相手に命中すればもっと気持ちいいし、その命中が撃破となれば最高である。

 しかし今回、それはもたらされない。

 射撃し、命中した。

 だがそれは、

 

「んほぉおおおおおおおおおお! んぎもぢいいいいいいいいいい!!」

 

 ……――超キモイですわねッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 キューポラから顔を出したノンナは自分を庇って砲弾を喰らって宙を舞う変態を見て、

 ……超キモイですね。

 率直に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにあれどういうことぉ!?」

 

 都合五度目になる変態の空舞いを見て沙織が悲鳴を上げたのをみほは聞いた。

 しかしみほもその気持ちは解らなくない。

 実際に、ちょっと受け入れがたい現実であるからだ。

 Ⅳ号の砲撃の威力は決して低いものではない。特筆できるわけではないし、装甲の厚い重装甲戦車などはウィークポイントを付かなければならない。とはいっても人間に命中すれば当たり前のこととして木端微塵。

 ただし特殊カーボンスーツがあることを鑑みると命は保証される。

 勿論通常歩兵への命中は戦闘不能を意味するが、

 ……直君はパヴロフさんは二発は耐えると見ておけって。

 実際ノンナとカチューシャとの交戦中に二人を庇い、砲撃を受けた。肉眼で砲弾に吹き飛びながらも無事な人間を見ると驚いたがしかし直の言葉だ。驚きを彼への信頼で押し殺し、指示を飛ばしたが、

 ……それがさらに三度も……!

 砲撃が直撃し、しかし撃墜されないという在り得ないはずの光景が三度繰り返された。

 直が嘘を付いたとは思わない。彼はそんなことを言う人間ではないし、嘘を付く理由もない。

 つまりそれは、

 

「変態が直君に嘘を付かせた……!?」

 

「みぽりんみぽりん! ちょっと落ち着こう! 気持ちは解るけど! そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないかなぁ!?」 

 

 確かに。

 一度直に連絡をして、話を聞きたいが彼はつい先ほどジャバウォックと交戦している。エキシビション開始前になるべく歩兵戦闘中は通信を開けないようにと言われている。勿論、問題があれば声を掛けてきてと彼は言ったが、

 ……できることは自分でなんとかしないとね。

 だからなんとかする。

 しかしてこの変態が直の話よりも異常な耐久力をしているというはよく考えれば難しい話でもない。二発耐える――それはかつて彼らが共に孤児院にいた時の話だろう。彼らの孤児院が潰れてから既に八年以上の時が経っている。

 つまり、

 ……変態だけど、この人も成長してて―――。

 

「んあぁああああああああああああ!! カチューシャ様ああああああああああ!! どうも盾ですよぉおおおおおおおおおおお!!」

 

「パヴロフゥ! あんま無茶しないの!」

 

「んあっーーー! カチューシャ様が俺の心配をおおおおおおおおお!! あと十発は耐えられますよぉおおおおおおおおお!!」

 

 ……き、気持ち悪い……っ!

 

「……何にしてもあの変態のせいであいつらに当てれないな」

 

「零距離くっ付いてドカン行きます? こう、壁とかに砲身くっ付けて連射すればあの気持ち悪いのも死ぬんじゃないですか?」

 

「やめてくださいよ! Ⅳ号が穢れるであります!」

 

「どーすんのみぽりん!?」

 

「……何にしても、今のままじゃ拙いかな」

 

 何より、最終的な勝利を狙うのならば、

 

「――全車に通達、フラッグ車の発見を最優先でお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……フラッグ車見つけたぁー!

 ぶっちゃけ、率直に言って道に迷っていた神風丸は大洗郊外の繁みの中からフラッグ車を発見していた。

 ゴルフ場を脱出してから神風丸は大洗の戦車チームや直とも合流出来ず一人で街を適当に彷徨っていた。

 というのも今回の連合の指揮系統はみほを頂点としている。これは大洗優勝のエキシビションマッチであり、主役はみほに他ならない。その下に西がいるわけだが直と神風丸はそれらの指揮系統からは半ば独立している。というのも隊長であるみほは戦車道の指揮経験はあっても歩兵への指揮経験はない。おまけに何より直と神風丸という超戦力という個人であり、扱いづらい。

 結果として直と神風丸は指揮経験から外れ、しかし自分たちは余興であるということを弁えているからみほと西の意思に従うように動いていた。

 特に、みは直と。西は神風丸と、という風に繋がっていたのだが、

 ……西殿、無念に散ってしまわれたからなぁ。

 いや、それはそれで知波単的には大いにありだ。

 みほからの全体通信は来ているが、しかし個人への連絡は来ない。多分、向こうも此方に気を使っているのだろう。それはそれで確かに動きやすいし、実際好きに動いていたけども、

 ……自分、方向音痴であったー!

 自分はもしかして馬鹿なのだろうか、とか考えるがしかし普段はこれで歩兵道隊長やれている。

 だって、そう知波単歩兵道のやり方だと方向音痴でも問題ないのだ。敵さえ発見すればそっちに向かって一直線。北とか南とか西とか東とかどうでもいい。自分と敵が解れば十分。馬鹿にだって解るように三行で纏められる。

 敵に向かって、

 吶喊。

 ……あれ、二行……?

 思っていたのとちょっと違ったので改めてまとめると

 吶喊。

 ……一行で十分であったっ!

 うん、やはりそれはそれでいい、知波単らしいやり方だ。

 故に茂みから身体を出し、

 

「知波単学園歩兵道ッ隊長!」

 

 大きく吠え、

 

「――神風丸!」

 

 抜刀し、

 

「――参るッ!」

 

 知波単のらしさを実行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あら」

 

 相対の名乗りをダージリンは聞いた。

 キューポラから上半身を出し、紅茶に口を付けていた瞬間だった。背後の森、その茂みの中から刃兵は叫びと共に刀を抜いていた。

 ダージリンが振り返り、視界に入れた時彼は既に構えていた。

 右手に握った刀を振りかぶるように構え、右手は刀身を支え、切先は真っ直ぐチャーチルの後部へ。

 刺突の構えだ。

 名乗りの後に動きだしたのであろう。

 ……知波単らしいやり方ね。

 思う。

 名乗りなど上げず、こちらが気づかないうちに攻撃してしまえば彼ならばフラッグ車である自分を打倒できていた可能性は高い。

 だが、それをしなかった。

 奇襲や不意打ちを好まない、知波単の生徒らしいやり方だ。

 だからこそダージリンも聖グロのやり方で応えたいと思う。

 

「――全速急後退」

 

 応えた。

 

「Yes,my lord!」

 

 操縦者がダージリンの言葉に即座に反応する。

 ロケットバックとでもいうべきか、工藤音が轟くと共に軽く跳ねるほどの勢いを生みながら後退する。

 それにより、

 

「――ぬぅっ!?」

 

 刃兵の一撃が大きく弾かれる。

 彼の一撃の威力は大きいということはジャバウォックから聞いてる。一発放てば中戦車ならば貫通、重戦車であろうともウィークポイント付近ならば行動不能になる。

 が、それは、

 ……その一撃が順当に放たれれば、の話ですわね。

 急加速し、その刺突に加速と威力が乗る前にぶつけることで大幅に威力を削る。そうなってしまえば質量的に打ち克つのは戦車の方だ。神風丸の刀を跳ね上がり、上体が大きく晒される。

 

「――そのまま押し潰しましょう」

 

「はぁ」

 

 そう簡単には上手く行かなかった。 

 軍刀を弾かれた神風丸がその上で新たな動きを見せたからだ。

 

「ふんっ……!」

 

 激しい呼気と共に弾かれた刀を握る手に力が入る。

 同時に神風丸は強引に右肘を内側に捻りながら落とし、曲げ込んだ。

 手首を返し、

 

「――克ッッ!」

 

 両足で地面を蹴りながら、チャーチルの後部へと振り下ろし気味に叩き込んだ。

 右手に莫大な負荷が掛かり、骨から硬い物が砕ける音と繊維が()()()()と切れる音が体に響く。それらはスーツのセンサーに記録され、大幅なダメージとして計測される。そのまま神風丸の身体は吹き飛ばされ、森の中に吹き飛ぶが、

 

「右腕を犠牲にして、自らを護ったのね?」

 

「――否、護ったのではない!」

 

 即座に再起、動かなくなった右腕から軍刀を左手にスイッチし、

 

「まず右腕を散らせた! まだ左腕があり、右足、左足があると知れ!」

 

 故、五体、我が命の全てを以て、

 

「その首級を散らせようぞ……!」

 

 

 

 




みほ
変態が直君に嘘を……!?

パヴロフ
ありがとうございまーす!

カチューシャ
優しい

神風丸
三行でまとめられなかったよ……

ダージリン
ジャバウォック慣れしてるので驚き少ない優雅な人
操縦者の人が気になりますね。

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