高校戦車道全国大会のトーナメント抽選は埼玉県で行われる。
常に全国の海を回遊している学園艦とその生徒であるが、この時ばかりは全国の戦車道の受講者、それも全国有力者が一度に集合する。十代の女子であるが、仮にも鉄の塊を乗って何十人もの部下を指示する戦車長が集まるのだ。一癖も二癖もあるという言葉が当てはまる光景だ。
普段は模擬戦でもしないと大会以外で遭遇することは少ない生徒同士だ。
友好を交わしたり、或は大会前のこの時点で牽制し合っていることもある。
そんなところに何故俺が訪れたかというと、戦車道を再開したみほに会う為――ではなく。
まほさんの付き添い――というわけでもなく。
その理由は、
「んでダー様震えだすだろ? 弄るだろ? 顔真っ赤にするだろ? ――かわいいっ!」
俺の対面の席、着崩した群青色のジャケットに意外にも綺麗に染めた金髪で人一倍人相の悪く、面子の中で最も長身は水野雄志。その隣にもう三人少し窮屈に並んでいて、
「HAHAHA、それはGoodだな! ジャバウォックは相変わらずPowerfulだ!」
剃っているらしいスキンヘッドにどう鍛えたのかムッキムキという言葉が似合う筋肉をフライトジャッケットに無理矢理押し込んだ
「はぁはぁ……カチューシャ様……はぁはぁ……抽選箱に手が届かなくてキレてるカチューシャぺろぺろ……」
くねくねと気持ち悪い声を上げながら幼女の写真を舐めるのは深緑のジャケットを脱ぎ捨て、赤いインナーシャツ、髪は適当に脱色させたのか安っぽい金色の
「パヴロフ! 貴様写真を舐め回すとはそれでも日本男児か!」
大きな声で一括するのは軍帽とインバネス付き詰襟を着こみ、テーブルに軍刀を掛けた黒髪短髪が
「名は体を表わすというんだから、もうすでに彼は日本男児ではないのかもね?」
ついで俺の隣にもう二人。茶の髪を肩辺りで縛り、水色のジャージ姿で
「んん、このパスタ美味いな。帰ってドゥーチェに作らないと……!」
白のカッターシャツと灰のスラックス、おまけに頭にペレー帽を乗せながらパスタを口に含み味わっているのは
「…………ほんと相変わらずだぜお前たちは」
そしてそんな光景を見て黒灰色のカッターシャツの上から自前の白いパーカーを羽織る俺日向直。
かつて幼少期を過ごした孤児院―――そのちょっとした同窓会の為でもあった。
●
「いやー、しかしほんとこうして集まるのも久しぶりだなおい。全員ってわけでもねぇし先生もいねぇけど電話とかチャットじゃなくてよぉ。いまいち連絡取りにくい奴もいるわけだし」
雄志は注文したハンバーガーに被りつきながら笑う。
行儀がいいとは言えないがしかしその通りであの孤児院出身者が七人も揃うというのは実に久しぶりだ。学園艦の運行もあるから普段は気軽に会えないし、陸地で集合するというのも中々手間ではある。
だからこそトーナメント決定で戦車道受講者が集まるからそれにくっ付いてきたわけだが。
集まったのは戦車喫茶とかいうインターホンが戦車の音だったり、戦車を模したワゴンで食べ物が運ばれてきたり中々に狂っている喫茶店である。
「まぁ……お前らが戦車道に関わり深いのが幸いしたな」
「つってもナオとミネハルはそうでもないだろう? 俺たちは戦車道にattendしてるけどさ」
「もぐもぐ……んぐっ……直はまぁ西住の所と幼馴染だろうし解るけど、嶺春は……」
視線が嶺春に集まり、その本人は不服そうに鼻を鳴らし、
「神風丸だ」
「……は?」
「嶺春ではない! 自分は今神風丸であるぞ!」
「……どういうことだ」
「ソウルネーム、さっきから呼び合ってるだろう? 黒森峰じゃ少ないだろうけどよ。ウチじゃ普通だ。困ったことに俺のジャバウォックも定着していやがる。男子連中も呼び出しやがったから全員叩きのめしたのに……」
「火のない所に煙は立たない」
「とにかく、今の自分のことは神風丸と呼ぶように!」
「……皆ソウルネームあるのか?」
「言ったが俺はジャバウォック」
「俺にはないぜ! 普通にヒロって呼ばれてるさ!」
「はぁはぁprpr……あっ、パヴロフだ」
「魂で名乗る名前だからこそ意味がある。だからこそシンだよ」
「ディアボラだよ。……別に僕はディアボラな料理が得意なわけでもないけど」
「……シンのだからこそは謎いがまぁ俺は普通に直だな」
「いい感じにソウルネームも交換できたわけでし? 久しぶりなんだ、近況報告から行こうぜ。俺? 毎日毎日ダー様虐めてるよ……! 涙目可愛い!」
「最近雄s……ジャバウォックからはこの話しか聞いてないんだが。電話でも何して泣かせたとかばっかだぞ。困るんだが」
このメンツの中で一番やり取りが多いのは雄志改めジャバウォックだ。かつての孤児院では一番暴れる男だったからこそ俺というストッパーは必要で、離れた後の連絡も頻繁だ。というか言ったようにダー様――ダージリンへの弄りを語りまくってるのだから聞きたくなくても聞いてしまう。
「聖グロのジャバウォックって最近流行りのGossipだね! アリサが詳しいからよく聞くよ! 聖グロBoysを腕力で黙らして聖グロ戦車道のダージリンを弄り、Girlsには恐れられているMonster!」
噂が酷過ぎる。
「ふっ……温室育ちの坊ちゃん嬢ちゃんに俺の魅力はワイルド過ぎたぜ……」
「貴様はワイルドというよりただの蛮族であろう」
神風丸の言葉に全員が頷く。
ジャバウォックは目を閉じて決めポーズだったので気づかなかった。
「ヒロはどうだ? やっぱサンダースじゃパーティ三昧?」
「HAHAHA、まさか。PartyはFriday Nightさ! メリハリは大事だろう? 平日は真面目にStudyして休みは盛大にEnjoyさ!」
「こいつすげぇ爽やかなこと言ってるけど見た目暑苦しすぎてキッツいわぁ……」
「HAHAHA!」
ちょっと腕を曲げたら二の上腕にでかい筋肉のコブができていた。電話はしていたが実際に顔を合わせたのは久しぶり過ぎて最初は誰だか解らなかったがまぁ驚いたものだ。昔は標準的な体系だったのに今ではムキムキスキンヘッド。多分女子がみたら泣く。
「……パブロフはどうだ」
「はぁはぁ……カチューシャ様……ぺろぺろ……」
「……おい」
「……ぁん? なんだよ俺は今カチューシャ様を愛でるので忙しいんだぞ……!」
張り倒したくなった。やたら拗らせてるのは知っていたが直に見るとドン引きだ。
想像してみよう。高校生が見た目小学生以下の幼女の写真を舐めている光景を。舐めまくってるせいで写真ふやけているのが絶妙に気持ち悪い。
そしてそれが現実である。
頭を抱えるしかなかった。
「わははは! きめぇ! こいつきめぇ!」
「人と一緒だからっていいとは限らない……限度はあるけどね?」
「日本男児の風上にも置けない……!」
「日本男児云々関係ないレベルだよね。そんなじゃパスタだってまともに湯掻けない」
「それでどんな感じなんだ。プラウダっていたら大体北の方にいるんだろ?」
「あぁ寒い。大体東北から北海道ばかりだからな。雪なんて当然だし、気温も低い。今も正直暑いしな。だからプラウダ名物シベリア送りがあるわけだが――最近シベリア送りが百回目を超えたぜ!」
何をやったらそうなるんだよ。
「おっと、まだまだだぜ? シベリア送りは百回、永久凍土も五十七、ツンドラ強制労働は倍飛んで百十五回だ!」
シベリア送りはプラウダの北向きの校舎で床板の枚数を数えるとか雪の積もった校舎裏で塹壕を掘りまくるとか艦の隅で樹を三十日間切り続けるとか。そういう罰ゲームが有名で、脅しにも十分使えるのだが、
「最近はカチューシャ様に話しかけようとするとノンナさんが当たり前のようにシベリア送りにするんだよ。この前とか防寒装備も全部剥がされて制服だけで突っ込まれてさ。北海道入ってたからもう大変で大変で――――カチューシャ様への忠誠を叫びながら乗り切ったけどな!」
乗り切った理由が説明になっていない。
「先生とやったリアルシベリア行軍よりマシだったしな!」
「思い出させるな……!」
「こほん、まぁそういうことだ。俺は今プラウダで愛の戦士として戦っているぜ。カチューシャ様の言葉を受けるにはまだまだ足りないからな。近づくとノンナさんが超冷たい目で見てきてそれもそれで悪くないがやはりカチューシャ様じゃないと。最近近づくだけで銃連射されるようになったし!」
「やだコイツメンタルおかしい……」
「聞くだけで頭が痛くなるな……どうしてこんなロリコンドM野郎になったんだ……?」
「パヴロフは昔からVitalityがCrazyだからね!」
「ディアボラはどうよ」
「ん」
声を掛け、ディアボラが少し頷く。
何故か神妙な顔つきで全員を見回し、
「――――実はドゥーチェに告白した」
時間が止まり、
「はぁああああああああああああああああああああああああ!?」
全員が叫んだ。他の客の視線が注目したが、しかし気にすることはなく、
「え、ちょ、マジで!? そんな面白いことがあったのか!?」
「Wow! それはHappeningだよ!」
「カチューシャ様ぺろぺろ」
「弛んでいるぅ! 弛んでおるぞぉ!」
「…………」
「……それで、どうなったんだ?」
それぞれ勝手なことを言っているが、しかし問題はそこだろう。わりかし他人事ではない。俺自身が二年前に起きたことで、俺の場合結果は駄目だったわけだが。
ディアボラは一度頷き、
「――――まぁ駄目だった」
目を伏せて、
「―――しかしノリと勢いで婚約まで持ちこんだ!」
「意味解んねぇよ!?」
告白して、駄目で――なぜそこから婚約に行くのだ。
「僕は! これから! 毎日ドゥーチェのパスタを作る!」
「味噌汁感覚で言ってないかこれ」
「アンツィオはPasta大好きだからね」
「とにかく僕はそんな感じ」
さっくり終わったが衝撃的過ぎて頭に入ってこなかった。
頭を抱えていれば、
「――時間は人を変える。特に久方ぶりの出会いはね」
「…………」
カンテラを鳴らしながら意味深なことを言うシンに全員が注視し、
「……なぁアイツいつからあんなキャラになったんだ? 連絡も取れないしつーかどうやって今日の集まりを知ったんだよ」
「多分あれは継続のリーダーのパクりだって。前一度見たもん。んでこのアホはそれに影響されたんだぜ絶対」
「Uh – huh. 確かにシンは昔から影響され易かったね」
「なんであったか……非日本男児的な音楽に一時期嵌っておったな」
「デスメタだよね。デスメタに嵌る低学年小学生もあれだけど、嵌りまくって小麦粉顔に塗りたくって箒マイクスタンドとして振り回してたら先生にガチで怒られて『お前が楽器だぁぁあああああ!』とか叫ばれながら派手に振り回されてからお星さまになってたし」
「…………こほん。人が変わる理由なんて要らないさ」
それっぽいことを言いつつ冷や汗を流していた。
シンの場合本当に滅多に連絡が取れないから密かに心配していたのだが、この分だとまぁ放っておいても大丈夫だろう。パヴロフほど生命力に溢れているわけではないがやり過ごすのは上手い奴のわけだし。
と、一息ついて何か飲み物でも頼もうかと思いメニューに手を伸ばしたら、
「――克ッ! 弛んでいるぞ貴様らぁ!」
神風丸が吠えた。
「聞けば貴様ら女女女! それしかないのか! そもそも戦車道なんぞに現を抜かしおって! 男ならば! 戦車なんぞに頼らず! 己が身一つで戦うべし! 師範より受けた教えの意味はなんの為のものか! 男児なれば男児らしく歩兵道をやるべきである!」
歩兵道といえば女子の戦車道に男子の武道、というよりもより実戦的だ。戦車が人間に置き換えられてたものといえば解りやすいだろうか。
「我ら力を合わせれば世界を取ることも夢ではないわ!」
「いや知波単にしか歩兵道なくね?」
「つーか学校違うんだからそもそも力合わせられないだろ。敵同士だろうが」
「凡策ゥー!」
神風丸、基本的に頭が悪かった。自分で叫びながら頭を抱えて、テーブルに額を打ち付けているのを見るとこっちが悲しくなってくる。
「しかし……皆で歩兵道をやらねば我々の研鑽の意味が――――具体的には猛獣との戦いや極地訓練とかそれこそ戦車とタイマンといった過去の意味が!」
「思い出させるな!」
素で全員が揃った一瞬であった。
戦車道の好きな先生だった。
戦車道はいいぞが口癖だった。
そしてその口癖には続きがあって、
『戦車道も
とかいって本当にそれをさせるために色々仕込まれたのだ。小学生にこんなことしてるからあの孤児院は潰れたのではないだろうか。児童虐待なんて目じゃない。
思い出したくもないというか完全にトラウマだ。
「……But,なら神風丸はどうして此処に来たんだい? さっきのTournament決めでも見ていたじゃないか。戦車道には興味ないんだろう?」
「うむ、戦車道には興味ない。――だが!」
と、そこで神風丸は――鼻の下を伸ばして、
「…………戦車に乗る女子は良いものである」
「お前が一番弛んでるじゃねぇかッ!」
頭が悪いというか頭が残念であった。
「……ったく、先生やこの色ボケ侍の話はやめようぜ。ほら、順番で行けば直だろ? 近況、俺は聞いてるけど他はそうでもないわけだし、いっちょ語ってくれよ」
「ん……まぁそうなるよな」
と言っても、あまり聞かせたい話はないし、面白い話もない。最もディアボラの告白話なんて聞いてしまえば俺も話さないわけでにはいかないだろう。
そう思いつつ、しかしちょっとだけ言いにくいことだから皆から視線を外して、なんとなく店の出入り口に飛ばせば、
「――直君?」
「――みほ?」
二年振りの再会となる西住みほは店へと入ってきた。
水野雄志=ジャバウォック (聖グロ)
蛮族。ダージリン様涙目にするだけの学園生活。
最近曲がり角で女生徒と遭遇すると泣かれる。
綺麗な金髪はダー様に染めてもらったり。
ダー様との関係はひたすら虐めている模様。
山内弘正=ヒロ(サンダース)
スキンヘッドマッチョ。暑苦しい。コミュ力撃高。
乗り物は大体なんでも乗れる男だが特に飛行機が得意。
サンダース付属男子リーダー的な立ち位置でケイとは普通に仲良し。
佐藤進=パヴロフ(プラウダ)
ドMロリコン。クマムシ並みの生命力。カチューシャに一目ぼれして下僕化。最もカチューシャは認識していない。基本的に近づこうとしてノンナに殺されかける。シベリア送りつーかシベリア戻りというか。
カチューシャにはノンナが検閲掛けてるので存在を知られていない。
酒井嶺春=神風丸 (知波単)
残念吶喊侍。いつも軍刀持ち歩いている。脳みそ湧いてる。
唯一現在進行形で歩兵道参加者。
西さんと密かに両想いなのだがどっちも奥手というかアホなので全く気づいていない。
伊藤真二=シン(継続)
風に流されてというか影響受けやすい。
ミカに惚れて携帯を棄ててカンテラを勉強し口調も変えた。
ミカとは一緒にいる時間は多いが関係は本人的にも周囲的にも謎。
原田克信=ディアボラ(アンチィオ)
スーパーパスタ料理人。アンチィオ戦車道者へ日々腕を振るっている。
ドゥーチェに告って振られたがノリと勢いで婚約までこぎつけた。
日向直=???(黒森峰)
影薄い気がしてきた主人公。
なんだこいつら……