白虎と蛮族の戦闘は熾烈の言葉を以て加速していく。
大洗の街並みを移動しながら二つの影は交差を繰り返し、同時に建物を破壊していく。
一つの場所に留まらず、動いているのは、
『フラッグ車を発見しました、合流しましょう!』
『見つかっちゃったわ。素敵なお侍さんに追われているから助けてほしいわ』
それぞれの指揮官であるみほとダージリンから指示が来たからだ。
故に一か所に留まらず、白虎とと蛮族の激突は場所を変え、
「――海水浴か?」
「久しぶりだな」
海岸線へと移る。
●
「――‐!」
瞬発の果てに、砂浜に降り立ったのは直が先だった。
足場としては不安定なはずの砂地に降り立ち、しかし体勢が崩れることはない。つま先から着地し、両腕を振ることで姿勢をアジャスト。砂に着地の瞬間の衝撃を吸収されることなく、加速の糧として連動加速を行いに行く。
加速し、瞬発する。
直後、
「――どらぁ!」
一瞬前まで白虎のいた場所に蛮族が降ってきた。
それも、電柱の振り落としと共に、だ。
柱状に固形化されたコンクリートが砂地に振り下ろされ、大地が爆砕する。莫大な膂力故に砂は大量に巻き上がりながら弾け飛び、
「かーっ、ぺっ!? おえっ――ぐえ――――――貴様図ったな!?」
顔面に砂を張りつけたジャバウォックは責任をなすりつけた。
が、直はそれに取り合わなかった。砂が弾け、全身を叩き付ける直前に身体を回転。砂が目に入るのを防ぎ、さらに回転運動から連動加速を敢行し、
「ふ」
二刀のククリを投擲する。
一本は蛮族へ直接、二本目は、
……折れ飛んだ電柱だ。
直前の蛮族の一撃で振り下ろされた電柱は半ばから折れて、彼の頭上に舞っていた。ワイヤーでそれを絡め取る。
バックステップの動きと共に連動加速を行い、
「!」
ワイヤー引きこみながら、電柱をジャバウォックの頭上へと叩き付ける。
正面から音速超過のククリ、頭上からは時間差を付けての半電柱。後者までは連動加速が及ばないがそれ自体にそれなりの重量があるため、ダメージそのものは期待できる。
通す。
対し、蛮族はその場から飛び退こうとし、
「――あ?」
自らの両足が拘束されていたことを知る。
見れば、砂の中にワイヤーが残っており、それが自分に絡まっている。さらにそのワイヤーをたどれば、
「――足癖わりぃな!」
……失敬な。
直が右足でククリを踏み、引きこんでいる。
先ほどの最初に砂浜に着地した時点で砂中に仕込んでいたのだ。
それにより、ジャバウォックの回避を封じ込ませ、
「――あ、やっべーわこれ」
白虎の双撃が打ち込まれた。
●
正面と頭上からの攻撃に対して蛮族の行動は単純だ。
回避はできない。両足、正確に言えば両の足首には特殊カーボン製のワイヤーが巻き付いている。これは引きちぎるのは流石の蛮族でも不可能だ。前後左右の行動は現在不可能。
加えて言えば足首に巻かれている故に、下手な動きをすればバランスを崩して砂場に倒れ込むだろう。
そうなってしまえば白虎の爪の餌食だ。
……うーむ、どうしよう。
目前と頭上の攻撃に対して、内心首をひねる。
難しいことを考えるのは、苦手だ。もっというと考えることこそが苦手だ。自分は所謂直感型なので思考を必要とされる展開が来れられると困る。
故に、現状のように瞬間的に二択を迫られる状況は面倒なものであり、
「――めんどくせ」
結局何も考えず、対処を行った。
●
ジャバウォックの動きをバックステップ中の直は見た。
蛮族が屈んだのだ。
足首は押さえている。下手な動きを見せたら足のナイフを引いてバランスを崩すつもりだった。
だがジャバウォックの動きは、真下だ。
それによりバランスが崩れることなく、彼は行動を可能としていた。
崩れ落ちるように膝が落ち、
「蛮族トゥース」
正面のククリを噛み付くことで受け止めた。
音速超過のククリを白歯取りし、故に頭部が勢いよく後ろに跳ねる。上体が広がり、背が反る形になり、
「蛮族サンドイーッチ!」
その姿勢のままに両腕を頭上へと振り上げ、電柱を平手挟むように受け止めた。
「――ふざけた名前だ」
ボヤキながら足で踏んだククリを引く。
投擲と電柱は無事に回避したが、しかしジャバウォックの体勢は崩れている。両足を引っこ抜くようにワイヤーを引きこめば、
「と」
ジャバウォックの動きが続く。
上体が大きく逸らされ、開いた状態で――沈めた膝を瞬発させた。
直のそれほどに洗練された動きではない。だがそれでも膂力に長けている故に勢いは激しい。そのまま背をさらに逸らし、両腕を上げれば――バック転だ。
砂上でのバック転は綺麗とは言い難いが、勢いはある。
その最中に両足に巻き、引きこまれていくワイヤーを、
「カモーン!」
バック転の勢いのままに引き返された。
「――チッ」
即座にナイフから足を外す。
直の得意とする連動加速は、文字通り全身各部の加速を連動させ、最終的に全身を超加速、或は手にしているものにその加速を乗せるものだ。抜群の反射神経とバランス能力により他者からの介入の衝撃のベクトルも自分の物とすることができる。
……それでも、限界はあるからな。
許容範囲以上の膨大なエネルギーが自身のベクトルに介入された場合、連動加速が乱れてしまう。
ジャバウォックの膂力もそれだ。
故に正面からの力勝負をする気はない。
「ったく、癖の悪いのは足だけじゃねぇな」
「これでも優等生なんだがな」
苦笑した瞬間、
『――貴方も見習ってほしいわね』
それは来た。
●
神風丸は自分が追っていたチャーチルが砂浜に入ったのを見た。
海岸線に入ったのはチャーチルだけではない。自分たちが入ったのと同時にみほを初めとした大洗チームやそれを追うカチューシャやノンナ、二人にまとわりつくパヴロフも。
つまりそれは、
……役者が集まったということであるな……!
神風丸の認識は間違いなくではなく、
『ここで決着を付けます』
広域無線から入るみほも同じだ。
『直君、神風丸さんとジャバウォックとパヴロフさんを』
『解った。神風丸』
「貴様らツーカーなのはいいが自分にも分かるように説明せんか!」
自分の横を戦車が駆動音を立てて通り過ぎていく。
戦車の履帯ならば砂浜など物ともしないが、しかし自分はそうでもない。直ほどバランス感覚に優れているわけでもないし、ジャバウォックほど理不尽を体現していない。
……あの二人は軽く人間止めてるであるからなぁ。
思った瞬間、
「んあああああああああああああああッ!!」
目の前に爆音と共に変態が落ちてきた。
砂浜に上半身が埋もれた。
「……」
周囲の戦車の速度が若干落ち、キューポラから頭を出した車長たちの視線が集まった。
直とジャバウォックすらも砂浜から付き出た下半身に注目。
時間がゆっくりと流れ、
『――パヴロォフ! 起きなさい!』
「喜んで―――!」
飛び上がった所を喜んで一刀を叩き付けた。
●
「んほぉおおお!?」
脳天に神風丸の一刀が叩き込まれ、パヴロフは思わず悲鳴を上げた。
頭がいが軋み、激痛が走り、常人ならば致命レベルのダメージを負うが、
「――野郎の攻撃なんて嬉しくもないんだがぁ!?」
カーボンスーツのセンサーは反応せず、反撃の拳を神風丸へと叩き付ける。
「この非日本男児め!」
が、それは炭素製の軍刀に簡単に逸らされる。
どころか返す刀の一撃で派手に吹き飛ばされ、
「――‐蛮族キャーッチ!」
ジャンプしたジャバウォックに空中でキャッチされる。
先ほどと同じ蛮族の武器。
……これがカチューシャ様だったなら……!
●
「現実は無情……!」
「あ? 武器が喋るな」
足を掴まれ、血涙を流すパヴロフを足蹴にするジャバウォックを直は見る。
視界の外、砂浜を掛ける戦車の群れは残存車輌のほぼ全てが集まっている。
大きなホテルを背景にしながら海に近い辺りに自分たちがいて、陸地に近い側を戦車組が行進している。
……決着だ。
直前にみほがそう宣言した。
ならば自分はそれを実行に移し、彼女の手助けをするだけだ。
さしあたりはジャバウォックとパヴロフを止めることだろう。カチューシャやノンナと現れたことを考えるとこの変態が彼女たちの盾になっていたはずだ。
みほを手古摺らせたことだろう。
……張り倒すか。
小さく頷きつつ、
「――む?」
海からいきなり現れた―――わかめを見る。
……わかめ?
いや、違う。先端部分にわかめが掛かっていたからわかめが印象的だっただけだ。わかめ付きのそれは、
「カーべーたん!」
……KV-2か!
事前にみほから聞いていた話を思いだす。
プラウダの戦車の中でも要注意のそれであり、破壊力に関しては他の戦車に比べて飛びぬけている。
「みほ」
『大丈夫、砲塔をよく見ていれば問題ない―――』
言った瞬間、砲撃がみほたちの背後のホテルを丸ごと吹き飛ばした。
「……大丈夫か?」
『当たらないから』
大型の建造物が吹き飛んだにも関わらず返答は冷静だ。
事実、他の仲間たちにも指示をして回避を促しているし、他の仲間も実行している。
なら、後は、
……みほを信じよう。
「みほ」
『うん』
それで十分。
行った。
●
KV-2の二発目の砲撃がさらにホテルを一つ吹き飛ばす音を聞きながら白虎は瞬発した。
自分と刃兵が蛮族を挟みあっている。
瞬発の開始と移動速度も何もかもが白虎の方が速い。
砂を吹き飛ばしながら連動加速に乗って半秒で蛮族の正面へと至り、
「どらぁ!」
蛮族による変態の一撃が入る。
「訂正しよう! 変態棒は我ながらセンスがなかった! 故に、今改名! 変態による肉体棍棒――――略して、変態肉棒!」
『死になさい』
内心同意しつつ、
「カチューシャ様の勝利の為に!」
ダブルピースしながら振り回される変態の攻撃を回避するために動く。
横に薙ぎ払われる動きだ。
それに対して、白虎は速度を上げる。
抉り込むように姿勢を落とし、回避の為に起こったのは前転だ。
亜音速気味の行動であるが、直ならば衝撃は自分のベクトルに収束できるし、余計なものも砂地がクッションとして吸収してくれる。
頭上に変態が奇声を発しながら通りすぎて行き、再瞬発。前転直後にそのまま背後へ駆け抜けてククリを叩きこもうとし、
「蛮族メリーゴーランドォ!」
振り抜き、そのまま一周してバックハンドの一撃が再び叩き込まれる。
左手を頭の頂点に、右手を顎に沿えた猿ポーズで変態は再び訪れ、
「――神風丸」
「吶喊……!」
「ぐぇえ」
飛び込んで来た刃兵の一刀が決まり、潰れた蛙のような声が漏れた。
……ダメか。
「おいジャバウォック! もうちょっと丁寧に扱え!」
「あぁ!? 肉棒が喋るな!」
雑に扱われながらも、しかしパヴロフのスーツのセンサーは戦闘不能判定を下さない。
まず間違いなく、普通に攻撃するだけではパヴロフを撃破することは難しいだろう。
そう判断できる理由が、パヴロフにはある。
それは直やジャバウォック、神風丸もできることだが、
……これに関してはパヴロフが断トツだからな。
異常な耐久性にも確たる理由がある。
故に変態を撃破するにはそれをどうにかする必要があるわけで、
……ジャバウォックが邪魔だな。
「おら行くぞ! いきり立て変態の肉棒!」
「いきり立つッ!」
「神風丸!」
「承知!」
四者、同時に動いた。
連動加速により白虎の瞬発。
行先は、再び蛮族の正面へ。
「スマーッシュ!」
肉棒の叩きつけの一撃をスウェーで回避しジャバウォックの懐へと潜り込む。
全身を細かく駆動させ、連動加速。
一度身体を沈ませ、先ほどと同じように下に潜り込むような素振りを見せながら、
「――と」
フェイントの動きとして真上に跳ね上がる。
それは駆けあがりだ。
蛮族の膝、腰、胸、肩を連動加速と共に一瞬で駆け上がる。その動きと共に、
「拘束プレイ―――!?」
ワイヤーをジャバウォックが装備したパヴロフへ何重にも巻きつけ、固定し、
「吶喊――!」
刃兵の一刀が放たれる。
刺突。
狙いは、
「あぶねっ」
パヴロフの脚を掴んでいたジャバウォックの手だ。
疾風を纏った一閃は空気が破裂する音と共に蛮族へと叩き込まれ、
「あ……っ」
パヴロフから短い声が漏れと共にジャバウォックが彼を手放した。
「――やべ」
「――獲ったぞ」
蛮族が額に汗を流し、白虎が加速を重ねた。
蛮族の背後へと着地し、両腕を加速。ワイヤーを音速超過の腕の振りと共に引き寄せながら、同時に着地の衝撃をも利用して瞬発跳躍。
空中で姿勢を矯正し、体を回転。螺旋運動の中でも加速を重ね、速度を右足を収束させ、
「――シィッ!」
超加速の回し蹴りを射出、
「――がはっ……!?」
中空で拘束されていたパヴロフへとぶち込んだ。
インパクトの瞬間、衝撃が空間に弾け、
『聖グロリアーナ・プラウダ連合パヴロフ撃破!』
パヴロフが撃破され、
『大洗・知波単連合神風丸撃破!』
「!」
そして地面に着地して直が見たのは頭部を鷲掴みにされ、砂浜に力尽きた神風丸だ。
「こいつダー様に無茶させられてたぽいなぁ――らしいっちゃらしいけども」
苦笑し、
「さて――いい感じにクライマックスだな。歌でも歌うか?」
砂浜から駐車場へと戦場を移した戦車たちを見て、
「……いいや、必要ない」
手にククリを握りながら、
「――これで
直
歌は苦手だ
西住殿
冷静すぎですね
ジャバウォック
蛮族シリーズ!
パヴロフ
変態の肉棒!
ちと長くなりすぎたけど次は温泉へ……
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