ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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エキシビションマッチⅥ

 

「ふ」

 

 終幕の言葉を実現させる為に白虎は一つ息を吐き、

 

「――」

 

 瞬発する。

 踏み込みの際に生じるインパクトを関節部で繋げることで衝撃を連動させ、全身の各部に送り高速を体現させる。

 移動の際に分配すべきなのは四肢だ。両足は言うに及ばず、腕の振りもバランスや勢いの調整に必要だからだ。

 一歩踏み出した直後に全身を加速させ、さらに二歩目は一歩目の加速を糧としてさらに勢いを増し、

 

「ッ――」

 

 加速が連動し、瞬発を生む。

 連動加速とそれによる瞬発こそが日向直の特筆すべき技能だ。

 白虎のあらゆる行為はその加速を以て行われ、それ故に彼の膂力の限界を超えた力を発揮できる。

 発揮した。

 連動加速により身体が前に出る。

 二歩目は三歩目の加速に繋がり、さらに三歩目は四歩目に連動させる。

 即ち、疾走だ。

 ……四手で、詰ます。

 バトルスーツの袖から両手へククリを滑り落とし、

 

「ふ――」

 

 加速、連動、瞬発、

 

「――シッ!」

 

 投擲。

 ワイヤー付きの切先が水蒸気爆発を起こしながら飛翔する先は、

 ……さっき神風丸が狙った手。

 

「――あぁ!?」

 

 直の狙いにあからさまにジャバウォックが青筋を立てる。

 彼がどう考えているか、付き合いの長い直には分かる。 

 舐められたと、彼は判断したのだ。

 先ほど自分が攻撃され、回避したから攻め場所であると思われたとジャバウォックは考えたのだろう。実際にウィークポイントになるかどうかはともかく、そういう面子を気にする男なのだ。

 

「ふんは!」

 

 彼は率直に対応した。

 迫るナイフを打撃したのだ。

 音速超過によりかなりの運動エネルギーを保有するが蛮族の膂力はそれを正面から撃ち砕く。カーボン製のグローブにより皮膚は保護され、固く握られた拳はナイフに負けることはない。

 打ち克った。

 ククリはジャバウォックの拳に弾かれ、

 

「――と」

 

 直がワイヤーを跳ねさせる。

 縄跳びやロープを手前に引き戻しながら手首をスナップ。

 弾んだワイヤーがジャバウォックの拳に絡み付く。 

 ……三手……!

 

「ちっ……!」

 

「フッ……!」

 

 舌打ちに対して呼気で応え――――再加速。

 体を揺らし、フェイントを掛けながら、加速に加速を重ね――――残像を生みながら砂浜を超疾走する。

 

「――‐忍者かお前はぁ!?」

 

 ツッコミを受けながら止まることはない。

 

「ッ」

 

 加速し、

 

「ッ……」

 

 加速し、

 

「ッ……!」

 

 ―――‐超加速。

 微か数秒だけだがジャバウォックの知覚を超越し、回り込みながらワイヤーがを射出して先ほどのパヴロフ同じように拘束する。

 ……二手―――。

 そして、

 

「詰みだ―――」

 

 動きが止まったジャバウォックの正面に現れ、

 

「―――歯を食いしばれ」

 

 顎のかちあげの一撃。背を逸らせて上体を開けさせる。そこにさらに連動加速の拳撃。心臓部と鳩尾。二発分の反動で一歩下がりながらも、それを反動として直蹴りを微かに下向きへ、体重を掛けてぶち込む。

 一連の行動を一瞬にして完了し、

 

「―――ばああああああああああかあああああああッッッッッ!」

 

 それでも尚―――蛮族は沈まない。

 一連のダメージを受けても彼は己の両足で立ったままで、それどころか、

 

「だ―――らっしゃ!」

 

「!?」

 

 拘束されたにも関わらず、ダメージを無視。

 体をくの字に折り曲げ――頭突きを叩きこむ。

 

「っく……!」

 

 頭部から衝撃が走り、視界が揺れ、

 

「――ッ」

 

「テメェが歯を食いしばれぇええええええええええええええ!!」

 

 さらにもう一撃の頭痛が放たれる。 

 

「舐めるな……!」

 

 揺れた視界の中、しかしそれでも白虎は動いた。

 蛮族の動きは見えていない。しかし、蛮族がどう動くかの予測は立てられる。

 五感の一つが潰れたとしても、音は聞こえるし、肌で風を感じる。それらのみから蛮族の反撃を対処するのには相応の覚悟と度胸が必要だが、

 ……ないわけがないだろう……!

 故に、動く。

 カウンターに対して、さらなるカウンターの動きだ。

 轟音を立てて再来する蛮族の頭に合わせるように拳を置きにいく。額、それもヘッドギアで守られているために下手を打てばこちらの拳が砕けるがタイミングさえ合わせて連動加速で瞬発すれば蛮族を倒すこともできる。

 難しいが、

 

「みほ……!」

 

 呼ぶ。

 それだけで、不可能を可能に変える力としては十分。

 

「―――ハッ」

 

 今だ明確ではない視界の中、ジャバウォックが笑った。

 そして、

 

「――」

 

 直の耳にも届かない程の声で小さく誰かの名前を呟き、

 

「――!」

 

 白虎と蛮族の意思が、勝利を獲得する為に激突に挑み、

 

『大洗・知波単連合フラッグ車、走行不能! よって―――聖グロリアーナ・プラウダ連合の勝利ッ!』

 

 ――――戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……難しいな」

 

「だね、色々予想外だったよ」

 

 少しづつ傾いていく陽を受けながらみほは直と共に息を吐く。

 戦車の上だ。

 車道を進むのはⅣ号だけではない。

 大洗、知破綻、聖グロ、プラウダ。エキシビションマッチに参加した四校の生徒全員が戦車の群れを成して行進している。

 みほはキューポラから身体を出し、その隣に直は腰かけて、

 

「少しづつ、小さなミスが重なっちゃったかな。ほら、あの時とかね」

 

「確かに。俺のあれはカバーに入るべきだったな」

 

「ううん、あの時はあの時で直君にはやってもらうことがあったしね。それよりも私的に気になったのは……」

 

「あぁ、そっちか。確かに」

 

「だね」

 

「なら、俺も反省する点は多いな。ほら、痛恨のミスといえば」

 

「あー……そうだよね。でもそれは私の指示でもあるし」

 

「…………あのさぁ」

 

 話に入ってきたのはⅣ号の前方部のハッチから顔を出した沙織だ。

 ……何かしたかな?

 軽く小首を傾げ、沙織の言葉を聞いた。

 

「反省はいいと思うんだよ? 大事だよね。試合の後は必須だよね。全国大会の時も沢山やったていうか反省点色々ありすぎて夜寝る時とかベッドの中で思いだして眠れなくてお肌ぴーんち!とかよく思ったけどね?」

 

 そこで彼女は何故か半目になり、

 

「――二人同士でしか解らない話は止めよ?」

 

「…………?」

 

「なんでそう不思議がるかなー!?」

 

 沙織が叫びながら、何か口から吐きだすようなジェスチャーを見せ、

 

「皆もそう思うよね?」

 

 全体通信で大洗の仲間たちに呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

「傾城といえばやはりネロ皇帝だな!」

 

 カエサルは恋という単語から傾城という言葉を思いだしていた。

 

 

 

 

 

 

『良く解んないけど根性があれば!』

 

 

 

 典子は沙織の言葉が良く解らなかったがいつも通りに応えた。

 

 

 

 

 

『え、えっと……あははー……』

 

 梓は尊敬する先輩のいちゃいちゃトークに困ったように眉をひそめた。

 

 

 

 

 

『うぅ……リア充の波動が……』

 

 ねこにゃーは通信越しから来る充実した波動に精神ダメージを受けていた。

 

 

 

 

 

 

『校則違反よ校則違反!』

 

 そど子は後で二人に注意することを誓った。

 

 

 

 

 

 

『うーん? 別に通じ合ってるのはいいじゃない?』

 

 ナカジマは微笑ましい後輩二人に笑って応えながらも、頭の中では今夜の戦車修理の計画を考えていた。

 

 

 

 

 

 ……いつも通りだなぁ。

 大洗チームはそれぞれの戦車チームのキャラが濃すぎると思う。きっとかばさんチームは今頃他のメンバーが恋とか傾城に関する歴史ネタを言い合っているだろうし、あひるさんチームでは典子がつっこみを受けたりウサギさんチームは一年生たちが騒いでいたりする。アリクイさんチームはちょっと謎だ。レオポンチームは絶対に戦車の修理や調整のことを考えている。

 そう、苦笑したところで、 

 

『いぃねぇー! いちゃいちゃカップルかぁーいいよぉー』

 

 杏の声を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ……!?」

 

 華は操縦席から顔を真っ赤に染めたみほの首筋を見た。

 

「ぐぅ……!」

 

「パンツァーファウスト……パンツァーファウスト……」

 

 ふらつく沙織と怖い顔で物騒なことを呟く優花里も視界に入ったがそれはそれで無視をしておく。

 しかしそんな二人は無視されながら、

 

「そ、そんなぁ……べ、ベつにそんなつもりじゃなかったよ? ほら、真面目な話だったしね?」

 

 満面の笑みで真面目だという話をされた。

 

「真面目……なのは構わんが、しかし内容が私たちには解らんからな」

 

 麻子の指摘は最もだ。彼女の言う通り、

 ……あれとかあの時とか、曖昧なこと多すぎですからね……。

 みほの指示といえば簡潔で解りやすいのが特徴だ。そもそもが戦車道初心者が多かった為に、チームメイトには相応に解りやすくしなければ伝令が伝わらないということもあったし、判断の速さや解りやすさは彼女の特性でもある。もっと言えば、個別の指示に関しては相手合わせ――例えば麻子に対してはかなり曖昧な発言でも互いの意図が通じている――ることもできる。

 そういう意味では、

 ……よっぽど通じ合っているんですね。

 

「仲良いことはいいことですわ」

 

「え? そ、そう? そうかな? え、えへへー? な、直君はどう思う?」

 

「……ふむ」

 

 振られた直は、一度頷き、

 

「――いちゃいちゃ、というのもいいものだ」

 

 ……あ、婚活戦士ゼクシィ武部が死んだ。

 五十鈴華、本人には秘密だが気に入っているあだ名である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変、申し訳ありませんでしたッッ!」

 

 態々戦車から降りて、絹代は腰を直角に負けて神風丸へと謝罪を叫んだ。 

 ……不覚に不覚を重ねました……!

 自戒の念は留まることがない。

 大洗学園の全国大会優勝、それのエキシビションマッチにおいて光栄にも優勝校の連合校として招かれた。

 故に粉骨砕身、全身全霊で挑んだが、

 

「吶喊するも……虚しく……っ!」

 

 前半でほとんどのメンバーは走行不能になり、自身も最後の戦いに赴く前に倒された。

 

「自分、神風丸殿に会わせる顔もなく……」

 

 情けなく、消え入るような声になってしまったが、

 

「……いいや、西殿、それは違うでありましょう」

 

 静かに彼は応えた。

 見れば、彼は満身創痍だ。聞くところによると右腕は粉砕骨折しているらしく、そこが最もひどいがその他全身に骨折罅等々重傷らしい。

 しかし右腕を三角巾等で吊るすことすらない彼は、その腕を軽く持ち上げて、

 

「自分もこの様であります。結局最後まで残ることもできず、フラッグ車を見つけたにもかかわらず仕留めきれなかったわけですからな」

 

 軍帽を軽く押さえ、

 

「お互いさま、と言う奴であります」

 

 故に、

 

「貴女の戦車道は始まったばかりでありましょう――なれば今日の雪辱を糧にすればよいかと」

 

「神風丸殿……!」

 

 彼の言葉に眼頭が熱くなる。

 ……いつもいつも、自分はこの方に迷惑を掛けて……!

 全国大会直後、自身が戦車道の隊長になった後、彼には相談を受けてもらうことが多かった。

 戦車道隊長という、自分には過ぎた身分だと思っていたが、しかし彼のおかげで重圧に屈するこ となくその任を担うことができた。

 得難い人だと思う。

 自分のような、頭悪い人間の友人としてはもったいないくらだ。

 ……超いい人です……!

 

 

 

 

 

 

 

 ……自分今超いいこと言ってるであるな!!

 内心、神風丸は自画自賛の極みに至っていた。

 それを押し殺し、

 

 

 

 

 

 

「ふっ……」

 

 ……なんと余裕のある笑み……!

 静かな笑みがかっこいい。西絹代、思わず感服してしまう。

 

「さて、西殿。話はこれくらいにしておきましょう」

 

「おぉ」

 

 神風丸に促され、視線を向けた先は、

 

「―――温泉、ですね!」

 

 




直みほ
いちゃいちゃはいいものだ

ナチュラルド畜生さん
婚活戦士ゼクシィ武部……っ……ぷぷっ……!

西殿
感服しました!!!!!!

神風丸
自分いいこと言ってる……!
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