ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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私にできること

 

 梓は火打石同士を打ち合わせて火花を作りだした。

 自分が生み出した火花は木を削って作った綿のような火口へと落とす。聞いた話では本来ならば材料に気を使うとより簡単に火が付くらしいが今の暮らしでは資材に限りがある。だからそこらへんの草やら木の皮やらを何度も試して作った一番付きやすい、うさぎさんチーム特製火口だ。試作してもうかなりのシリーズになるが、苦労しただけあって、

 

「よし、着いた」

 

 着火までは非常にスムーズだ。そこに息を吹きかけて酸素を送ることでより大きな火を作る。

 火というものは生活において非常に重要であるとこの数週間で梓は思い知った。食事を作るのにも風呂を沸かすのにも夜暗くなった後にも明かりと熱は必要不可欠だ。

 

「おーい、皆! 火着いたよー」

 

 河川敷、うさぎさんチーム六人で数週間で構成した居住スペースを見回す。自分の目の前には専用の焚火スペースがあり近くの木には魚が干され、また別の場所には木とM3リーの砲塔を使って作ったハンモック。さらに視線をズラせば、河原に捨てられていた物干し竿とカーテン、ドラム缶を組み合わせた露天風呂。

 大洗の学園艦が廃艦になり、そこから廃校に自分たちは移動した。最初は軽い食糧調達から始めていたが、慣れれば中々どうして原始的な生活も悪くない。

 ……虫とか蛇にも大分慣れたなぁ。

 最初はちょっと視界に入っただけで大騒動だったが最近では当たり前のことに過ぎない。

 

「おーい梓ちゃんー」

 

 背後から聞こえてくる間延びした声は優季のものだ。

 それに複数人の足音と水の跳ねる音がする。一緒に魚を釣っていた桂里奈やあゆみも一緒なのだろう。魚の食糧調達に関しては二人の仕事だ。サバイバルにおいて枠割り分担は重要だ。やるべきことを全力でやらなければならないというのは戦車道に通じるものがある。

 

「ん、何? 火はもう着いてるから食べる分の魚の用意しよ。そろそろご飯作り始めないと暗くなっちゃうし、出来上がった干物とかを隊長とかに持って行かないと――」

 

「精が出るな、澤」

 

「――へ?」

 

 聞こえてきた低い声。明らかに女子のものではなく、驚いて振り返れば、

 

「手慣れたようで何よりだ」

 

「せ……先輩!?」

 

 同じうさぎさんチームの優季、桂里奈、あずさの三人。そして彼女たちのさらに後ろに大量の魚が入った手製の木籠を背負った日向直がいた。

 

 

 

 

 

 

 

「良く焼けている。塩加減もいいな。……寧ろ、これに関しては俺よりも良く出来ている」

 

 梓とそれにうさぎさんチームの副砲砲手の眼鏡少女ことあやが焼いた魚の塩焼きを口に含みながら直は小さくうなずいた。血や内臓と言った細かい処理は出来ているし、塩加減も丁度いいものだ。食に興味はないが、しかしサバイバル系の調理に関してはかつて自分も嫌になるほど行ったからそれなりに思う所はある。

 その上で調理の腕前に関しては最早彼女たちには及ばないだろう。

 ……俺の場合、火を通して身体に必要な塩分取ろうとするくらいだしなぁ。

 場合に寄れば塩単体で舐める自分が料理を語る資格はない。

 

「い、いやそんなことないですって! これも先輩の教えのおかげだとっ」

 

 謙遜する梓の隣から円を描くようにうさぎさんチームの六人と直が椅子変わりの丸太に腰かけていた。中品には先ほど梓が着けた火による焚火がある。 

 焚火を囲みながらの食事というといつかの継続一家とのことを思いだす。

 まだケジメを付けさせていなかったなと思いながら、

 ……一年生チームか。

 改めて、魚に食らいつく後輩たちを見回す。

 正面に隊長の澤が座り、そこから時計周りにあゆみ、沙希、直、桂里奈、優季、あやとなっている。

 うさぎさんチーム。大洗戦車道で唯一の一年生のみで構成されたチームだ。直が映像で見た限りでは全国大会では始め大した活躍も見せなかったが、決勝戦に於いては目覚ましい戦果を上げていた。

 即ち、高い潜在能力を秘めた少女たちだ。

 

「うわ、これ内臓残ってるよ。ちゃんと処理しないと苦いじゃん」

 

「えぇー、だって難しいんだよ。あずさだってやってみればいいじゃん」

 

「あやちゃん上手だもんねぇ。家庭科の成績もいいし。って桂里奈ちゃん? それ追い塩し過ぎじゃない? 塩分過多で死んじゃうと思うよぉ?」

 

「あいあい! でもツイッターで今週のニチアサヒーローの新ライダー『覆面ライダーソルト』が食事の度に盛り塩してるらしいから私も真似して塩生活にするんだ!」

 

「それ塩違いだよ!」

 

「……」

 

 桂里奈が全方位からツッコミを受ける中、沙希だけはあらぬ方向を見ていた。

 ……まぁ潜在能力がどうであろうと女子高生には変わりないか。

 女を三つ書いて姦しいというが六人も集まれば騒がしいくて決まっている。

 ……いや、でもあんこうの場合は……。

 沙織が一人で十人分くらい騒がしい気がする。麻子とみほと華は基本物静かだし、優花里も戦車が絡まなければ大人しい。

 

「それで先輩はどうしたんですか? わざわざこっちに来られて」

 

「いや、大したことじゃない。お前たちがこの河原で生活初めてそれなりに経ったからな。ちゃんと生活できているか見に来たんだが……要らない世話だったな」

 

「い、いえそんなっ……」

 

「謙遜しなくていい」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

「ねぇねぇ日向先輩と梓ちゃんの会話ってどうしてこう堅苦しいんだろうねぇ?」

 

「優季ちゃん優季ちゃん。そういうこと言わないほうがいいと思うよ?」

 

 ……生徒会長にも似たようなことを言われたな。

 優季とあやの言葉を聞きつつ、杏のことも思いだす。最も直のことを真面目とか堅苦しいという者は珍しくない。というよりも大体の人間は彼のことをそういう風に考えているだろうし、実際よく言われる。卒院組ならば直の行いに対して真面目だなとよく苦笑するし、ジャバウォックなら直球に笑い来る。

 しかし、それはそれとしても、

 

「澤も、真面目さで言えば中々だと思うがな」

 

「先輩に言われるほどではないですよ……?」

 

 リアルに引かれた。

 女子高生の後輩をドン引きさせたことにこっそり汗を一筋流しつつ、

 

「いや、みほから聞いているぞ。大洗で最も戦車道について学ぼうとしているのは澤だとな。全国大会の試合のこととか随分と復習しているんだろう? 試合毎に幾つもシミュレーションをしているというのもことも言っていたな」

 

「え、あ、それは……っ!」

 

「あい? 梓そんなことしてたの?」

 

「そーいえばなんか試合会場の地図とか沢山持ってたなぁ。地図フェチにでも目覚めたかと思ったけど……」

 

「ちょっとあゆみ? あとで詳しく」

 

「……」

 

「何にしても向上心があるのはいいことだ」

 

「い、いえそんなこと……っ」

 

 彼女は顔を赤くして、

 

「わ、私は隊長と違って戦車道の天才とかないですし。できることはやらないと――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 言葉の途中、梓は直の小さな動きを見た。

 ……苦笑?

 笑ったのだ。それは一瞬のものであり、気のせいかとも思った。 

 だけど、確かに笑ったように見えたのだ。普段表情を見せない――というよりも梓には読み取れない――直が笑みを浮かべた。

 そしてその笑みは思わず零れた苦笑いのようだったのだ。

 苦笑。

 それの意味が解らず、戸惑い、

 

「――別にみほは天才なわけじゃない」

 

 直の言葉に目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 あゆみは日向直が饒舌に喋る姿を始めて見た。

 ……エキシビションマッチの時は隊長とツーカーだったし。

 だからその姿は意外で、さらにはその言葉の内容自体も驚くものだった。

 

「西住みほは戦車道の天才じゃあない。才能があるのは否定できないだろうが、それでも天才なんていうほどのものでもないだろう。敢えていうならばみほはどちらかというと秀才だよ」

 

 

 

 

 

 

 

「天才というものは得てして怪物に等しいものだ。たった一人で戦場の状況を一変させ、否応もなく他者はその存在を見ざるを得ない。怪物――英雄なんて言ってしまえば些か気取っているかな」

 

 英雄、と言う言葉に桂利奈は思わず反応した。

 特撮好きな彼女からすればそのあたり注意深く聞かざるを得ない。

 でもそれは、多分あまりいい話ではない気がする。

 何故なら、

 ……ヒーローって、悲しい運命がつきものだしなぁ。

 

「――みほはそうじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かになぁ、と優季は内心頷いた。

 正直語りだした直には驚いたが、納得はできる。天才がたった一人で戦場を一変させるものであれば、それは西住みほとは大きく違うものだ。

 なぜなら、

 ……隊長なら皆の力を借りるもんねぇ。

 

「寧ろ逆だからな。みほは――西住流もだが――一つのチームが一つとなって戦うわけだ。みほなんぞはそれぞれの個性を最大限に活かすからやはり先に言った定義からは外れる」

 

 

 

 

 

 

 

「或は、そもそもみほの勉強量は中々だぞ? 西住流として戦車の知識は大量に植え付けられているし、きっと試合前にもかなりの時間を割いて作戦を練っているはずだ。邪道というか絡め手が多いしな」

 

 ま、みほの真価はそれ以外にもあるが、と息を漏らす直にあやは首傾げた。

 西住みほの真価。

 それに関しては解らないが、しかしその前の内容は解る。

 確かにみほは試合の度に思いもよらない作戦を幾つも指示してくる。さらに思い返せばプラウダとの試合の時、自分たちのその場のノリで当初の予定とは変更があったが、それでも尚作戦の準備はしていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「そも天才である必要などない。あくまで個人的な考えだがその手の人間は他者との距離が開きやすい。よくあるだろう? 成績の良すぎる生徒がクラスメイトと仲良くできないとかな。孤立してるとか」

 

 沙希は直の話を聞きながら、しかし視線だけはあらぬ方向を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「……だったら」

 

 梓は言葉を零した。

 西住みほに対する憧れを、彼女が戦車道の天才でいう思い込みが砕かれ、困惑しながらの言葉は、

 

「――私は、どうすれば隊長みたいになれるでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

「――」

 

 その言葉に直は自分が笑みを零したことを自覚した。

 先ほどみほが天才だと言う言葉に対して生じた苦笑ではなく、喜びから生まれる笑みだ。

 ……みほはやはり仲間に恵まれている。

 仲間との絆を愛したみほの戦車道は、同じ道を歩む仲間たちに確かに愛されているのだ。

 みほになりたい、という梓から伝わるのは憧憬であり、親愛だ。

 澤梓は西住みほのことが好きで、憧れていて、みほのようになりたいと思っている。

 それが直は嬉しかったのだ。

 だからこそ、言葉を続けた。

 

「みほのようになる必要はない」

 

「……っ、でも」

 

「みほに憧れるのはいい。みほを目指すのはいい。あいつを慕うのも勿論構わない。――だが澤がみほになる必要はない」

 

 それは、

 

「お前は自分らしくあればいい」

 

「……自分、らしくですか?」

 

 直は頷き、

 

「自分ができることを、やりたいと思うことを全力でやればいい。勿論達成できないことはあるだろうが、それでも自らを貫き、己の道を往くのならば俺はそれに意味があると思う」

 

 ……これは少し俺の感傷が含み過ぎか。

 しかし今語っていることはそういうものだ。

 日向直は自分自身の道を歩んでいる人が好きだ。それぞれの個人の信念であり、それぞれの自由を彼は信じている。

 

「自分のできる、やりたいこと……」

 

「あぁ。きっとその先にあるのは誰かじゃなくてお前自身だろう。そしてそうやって得た己は価値あるものだ」

 

 そこまで言いきって、

 

「………………ふむ、少し語りすぎたか?」

 

 首を軽く傾げる。

 考えてみれば、出会ったばかりの先輩が何やら語りだすというのは後輩としては困る状況ではないだろうか。

 

「いえ! そんなことないですよ! 勉強になりました!」

 

 けれど嬉しいことに澤は寧ろ目を輝かせて前のめりになりながらも応えてくれた。

 

「考えて見ます」

 

 直の言葉を。

 そして、

 

「――私が何ができるのかを」

 

 

 





なんか先輩してる


西住先輩みたいになりたい

次回、ボコミュージアムへ。
つまりそれは彼女と彼女の相手が……?

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