ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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夢と道

 

 試合が決まった。

 大洗学園と大学選抜チーム。

 生徒会長角谷杏が西住流家元や戦車道連盟の力を借りて文部科学省と話をつけた。大学選抜チームとの試合に勝てば今度こそ廃校を撤回する。

 非常にシンプルで、尚且つ困難な命題だった。

 

「社会人チームを破った、ですか」

 

「みたいだねぇ」

 

 廃小学校の応接室、各戦車道の車長が集まったブリーフィングだ。

 彼女たちの視線の先は新聞であり、一面にあるのは件の大学選抜チームの戦果について。大きい写真のそれは白旗の上がった戦車や倒れ伏した歩兵であり、それは全て社会人チームのもの。

 大学生による社会人へのジャイアントキリング。

 それだけの戦力を有している。

 さらに言えば、

 

「相手チームの戦車は……」

 

「……三十輌」

 

「――もう終わりだぁああああ!」

 

 みほの知識に桃が泣きだす。

 大洗戦車は八輌、圧倒的な戦力差、さらに言えば練度だって桁違いだろう。

 が、ある意味で彼女のそれはいつも同じということで、みほはそれには相手をせず、

 

「……この写真の子どこかで」

 

 銀髪の少女に目を細める。

 無表情の少女とその隣に移っている黒髪の青年に既知感を覚えたから。

 記憶をたどってみて、

 

「――ボコミュージアムの二人組だな」

 

「あっ」

 

 壁際で背を預けていた直の言葉に思いだす。

 そう、しばらく前に行ったボコミュージアムのお土産コーナーで出会った二人だ。妙に積極的な少女と、

 

「……ロリゴン」

 

「えっ」

 

「あ、いやなんでもないです」

 

 全員がきょとんとしてしまったのでお茶を濁す。

 首を傾げつつ、彼女の情報を口にしたのはカエサルだ。

 

「島田愛里寿――大学選抜チームの隊長だ。見ての通り子供だが飛び級して大学進学したらしい」

 

「隣の人は?」

 

「本名は不明だがソウルネームなら。“黒龍”――歩兵道(・・・)の大学選抜チームの隊長のようだな」

 

 歩兵道という単語にその場にいた全員の視線が直に集まる。

 先ほどのみほと似たようなしぐさで目を細めた。

 

「直君?」

 

「確証はなかったがな」

 

「……そう」

 

「あっはっは、誰か通訳して?」

 

「あ、えっとすいません会長。ただ以前会った時歩兵道の人だったって気づいていたのかなと思いまして」

 

「歩き方や呼吸からただ者ではないと感じていましたが、歩兵道、それも大学選抜チームの隊長とは思っていませんでした」

 

「はぁん。なるほどねー」

 

 杏はいつものように干しイモを齧り、

 

「で、問題は今回の試合―――歩兵道と戦車道合同なんだよねぇ」

 

 改めて言われた言葉に全員に緊張が走る。

 今回の試合、それは歩兵道と戦車道の合同試合であることが既に決定していた。元々杏は戦車道の試合のみつもりだったが、

 

「……文部科学省からのお達しでねぇ。歩兵道も盛り込んで派手にやれって」

 

 縮小傾向にある歩兵道の活性化だとか直前の優勝記念エキシビションマッチの評判がよかったからとかそれ以外にも色々な理由があったらしいが今回の試合の条件になった。大洗チーム自体慣れないのは確かだったが、

 

「日向ちゃんいるからねぇ、頼りにしてるよ?」

 

「無論、約束は守ります」

 

「んっひっひ。いいねぇ」

 

 かつての約束は忘れていない。

 試合と言われた時、自分には関われないと思ったが手助けをする場があるなら望むべくもない。

 

「あの、歩兵道のルールってどんな感じなんでしょうか?」

 

 軽く手を上げ、疑問を口にしたのは梓だ。

 同じ疑問を思ったのは他の車長たちもらしく、視線が再び直に集まった。

 

「歩兵道のルールは基本的に三つだ」

 

 基本的には戦車道と同じ。

 殲滅戦――全滅したチームの勝利。

 隊長戦――戦車道でいうフラッグ戦、つまりは隊長を決めて、それを倒したチームの勝利。

 そしてもう一つ、

 

「――相対戦だ」

 

「相対――決闘か?」

 

「そうだ」

 

 カエサルに頷き返しつつ、

 

「基本的に人数の少ないチームや逆に多すぎるチーム――まぁ最近はないんだが――相対者を決めてそれによる決闘を行うんだ。互いのチームがフィールドに各自拡散して、敵チームの相対者と遭遇して互いに名乗り合ったら戦闘開始だ」

 

「ほえぇ……ゲームみたいだにゃぁ」

 

「見世物的な意味合いも強い」

 

 一騎打ちというのはエキシビションとは盛り上がるもので、昔は御前試合のように行われていたらしい。

 

「奇数人で戦闘を行って通算の白星が多いチームが勝利……とまぁかなり単純だな。今回もそれで行くかは解らないが……会長?」

 

「詳しいレギュレーションはまだ聞けてないんだよねぇ。試合会場まで行ってみないとさぁ」

 

「いやでも会長ぅ……こんな数無理ですよ……西住や日向もなんとか言ってくれ!」

 

「確かに今の状況では勝てません」

 

「うん……!」

 

 だけど、とみほは顔を上げた。

 

「この条件を取りつけるのも大変だったと思うんです」

 

 数週間、杏が帰ってこなかったのがその証拠だ。

 彼女は何時だって学校の為を考えている。だけどそれを他の生徒に悟らせることはない。裏でこっそり様々なことを企てている。みほを戦車道に無理矢理引きこんだのだってその一貫だ。

 そんな彼女が長期間、生徒たちから離れた。

 誰よりの学校を愛する杏が、だ。

 きっとそれは必要があったからで、そしてこうして起死回生の一手をみほたちに与えてくれた。

 だったら、それが如何に不可能なことであろうと、

 

「普通は無理でも、戦車に通れない道はありません」

 

 手を尽くさないわけにはいかない。

 

「戦車は火砕流の中だって進むんです! 困難な道ですが、勝てる手を考えましょう!」

 

 

 

 

 

●

 

 

 

 

「……っ」

 

 倉庫を借りたブリーフィングルームにいた仲間たちが絶句したのを梓は感じた。

 それは、自分も同じだ。しかし自分だけでなく、

 ……隊長や会長さんまで。

 あの二人までもが目に見えて動揺するなんて姿を彼女は初めて見た。

 

「殲滅戦ってなんだっけ?」

 

「相手の車両を全部やっつけた方が勝つんだよ」

 

「へぇ、そうなんだぁ」

 

 隣から呑気な声がチームメイトから上がる。

 思わず呆れそうになる。

 

「あの! 三十輌に対して八輌で、その上突然殲滅戦というのは……」

 

 みほが声を上げた相手はスーツ姿の文科省の役員だ。眼鏡は表情を隠し、無機質に無慈悲な宣告をする。

 

「予定されるプロリーグでは殲滅戦が基本ルールになっていますのでそれに合わせていただきたい」

 

「もう大会準備は殲滅戦で進めてるんだって……」

 

「っ……」

 

 役員の隣に立つ禿頭の戦車道理事長の言葉は頼りない。明らかにこの場の発言力がない。既に決定されてしまったことに対して彼にはもう覆しようがないのだ。

 

「辞退するなら早めに申し出るように」

 

「っ……うぅ……っ」

 

 膝から崩れ落ち、涙を流したのは桃だ。

 無理もない、梓だって同じ気持ちだ。相手は百戦錬磨の大学選抜チーム。それに対して圧倒的戦力差を有しての殲滅戦。

 ―‐勝ち目がない。

 ブリーフィングルームに痛々しい沈黙が支配し、

 

「――だとしても、だ」

 

 それを斬り裂いたのは直だ。

 

「殲滅戦なら、俺も好きに動けるだろう」

 

「……直君」

 

「乱戦や混戦、遊撃戦は得意だ。相手が選抜チームだろうとあの時の男だろうと―――」

 

「日向直君。今回の歩兵道は特殊ルールで行われます」

 

「…………何?」

 

「歩兵道連盟理事長―――若松景勝の決定です」

 

「――」

 

 その時、梓を含めた全員が初めてのものを目撃した。

 

 

 

 

●

 

 

 

 

「っ……!」

 

 日向直が目に見えて動揺したのをみほは凡そ久しぶりに見た。一時期疎遠になっていたとはいえ、最愛の恋人は基本的に感情表現が乏しい。みほからすればそんなこともないけれど、何を考えているか解りにくいというのは否めない。

 なのに、今の直は誰が見ても驚いているのが理解できるほど。

 

「――先生」

 

「……え?」

 

「今回の試合に際して歩兵道は相対戦で行います。そちらは日向君、選抜チームはからは――八人が参加します」

 

「はちっ……!?」

 

 優花里が声を上げたのも無理はない。

 人数的な差もだが、しかしそれでは、

 

「……相対戦を行うには同じ人数が必要のはずだ」

 

「えぇ、ですので――君には八回分の相対権が与えられます」

 

「……どういうことだ」

 

「本来相対者は一度戦えばその後の相対はできませんが、今回のみ君は最大で連続八回、つまり選抜チームの全員と戦闘が可能というわけです。勿論、勝ち続けることができれば、の話ですが」

 

「……相対権が八回ということは、勝った数だけ勝利点に」

 

「いいえ? 相対権は八回だとしても、相対者は一人です。一回勝っても、八回勝っても――勝利点は一点のみとなります」

 

「り、理不尽だぁ!」

 

「えぇ私もそう思いますねぇ。ですが、決めたのは歩兵道の理事長でして私からはなんとも。既に決定事項ですので変更ができないことは確かです」

 

「……日向ちゃん? 理事長の知り合いなわけ? 私が会った時なんか意味深げに笑ってたけどさぁ」

 

「……」

 

 杏の問い開けに直は一瞬、目を伏せ、

 

「…………俺の先生です」

 

「は?」

 

「俺がいた孤児院の責任者……つまり、育ての親です」

 

「……わーお」

 

 直から感じるのは驚きと戸惑いだ。

 彼から孤児院の話はあまり聞いたことはない。ただそれでも直がかつての友達や記憶を大事にしているということは解る。なのに、そんな人から理不尽を押し付けられるなんて――――。

 

 

 

 

 

●

 

 

 

 

 星空の下に広がる平原に直は全身を投げ出して空を見上げていた。

 目前に広がる光景は明日自分たちが闘うことになる試合会場だ。

 

「―‐」

 

 明日、きっと火薬と衝撃が支配する場になるだろうが今のこの草原は静かなものだ。

 

「……大丈夫?」

 

「……あぁ」

 

 頭上にみほが近づいてくる。

 

「……こほん」

 

 そのままにしておくと頭の上に彼女のスカートが来そうだったので体を起こす。 

 ……このあたりみほは無防備でいかん。

 みほは隣に座り、

 

「先生のこと、大丈夫?」

 

 繰り返された言葉に思わず苦笑する。

 

「あぁ、そもそも先生の無茶振りは慣れたものだからな。正直に言うとそこまで驚いていない」

 

 孤児院にいた時からこんなのは日常茶飯事だ。試合形式で命を懸けていない分ずっと楽だというものだろう。

 それに、

 

「俺は嬉しいよ」

 

「……?」

 

「俺は前の全国大会の時、みほの戦いを見てるだけだった。みほが自分の道を見つけて、切り拓くのを。……俺は、見てるだけだったけどな」

 

「……それは」

 

「あぁ、解ってる」

 

 困ったように笑うみほに直も苦笑する。

 それは自分の行いのせいだし、そもそも戦車道の大会では直の出る幕なんてない。

 だけど、明日は。

 

「―-俺は、みほの為に戦える」

 

 あぁそれは――心の底から嬉しい。

 

「みほの道を守ることが俺の願いだから」

 

 夢を掲げて走る彼女の道の守護者でありたい。

 そう思いながら生きていこうと誓ったし、それを果たすことができる。

 

「……もう」

 

 みほは小さく笑った。

 

「私だって闘うんだよ? 直君に守られるだけじゃない」

 

「あぁ、それは解ってる」

 

 みほは強い。

 それは知ってる。

 でも、まぁそれはそれとして、

 

「……譲れない所っていうのはあるんだよ」

 

「―‐くすっ」

 

「……ははっ」

 

 二人で笑みを零して、身体を寄せ合う。

 きっとこれからもそうして歩いていてく。

 




歩兵道特殊ルール
・日向直には相対権が8回
・全相対を通して日向直が獲得できる勝利点は1点
・相対者は敗北した時点で相対権を喪失する
・相対者一人は戦車一輌として戦車道殲滅戦と共にカウントする。
・基本的には戦車道殲滅戦ルールを主体で行う。

直
一回負けたら終わり。理不尽!
みほ
退けば道はありません。

杏
すげーいちゃついてるな二人とも……
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