ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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ズィーベン

「ぅ、ぅぅむ……」

 

 目の前、緑がかった銀髪ドリルツインテールの少女が涙で瞳を濡らしながらテーブルと向き合っている。その上に乗せられているのは一皿のパスタだ。

 一見普通のパスタである。

 というよりも誰が見ても普通のパスタだろう。強いていうならば普通のパスタにしては具が多いということだろうか。玉ねぎやピーマン、パプリカ、それにニンジン等といった野菜がバランスよく混ぜ込まれ、具は多いがしかしサイズは小口サイズだからか食べにくいということもない。ソースはケチャップをベースにしたトマトソースのようだがただ赤いだけのこれが何故こんなにも奥深い味を出すのかは全くもって不思議である。

 一言でいえばとても美味しい。

 日向直の好きなものといえば黒森峰特産のノンアルビールくらいだ。黒森峰を離れた今ではあの味が恋しいものだ。が、それ以外の食への興味というのは基本的に薄い。食べられられて、腹にたまれば特に文句はないし、興味ない。

 けれどこのパスタはそんな俺でも一口食べた時思わず唸ってしまうものだった。

 作り手のレベルの高さが伺える。シンプルイズベストとでもいうのだろうか。

 

「ぅ、ぅ……っ」

 

 しかし目の前の銀髪の少女は涙目のまま固まっている。

 正確に言うとパスタの中に混ぜられているニンジンに視線が固まっている。

 察するに彼女はニンジンが苦手なのだろう。かれこれ数分固まったままだからその苦手の度合が伺える。

 が、それでも彼女はフォークを握ったままで、

 

「ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ」

 

「ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ」

 

「ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ、ドゥ・ゥ・チェ」

 

 何故か周りの生徒が小気味のいい手拍子で彼女をはやし立てている。特に彼女の両隣にいる金髪と灰髪はやたらいい笑顔と共に、彼女を見守っている。

 そして、

 

「――‐ぁむ!」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ぁむ、もぐもぐ!」

 

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「――‐ごくっ!」

 

「ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ!」

 

 

「流石っすよ姐さん! まさか大嫌いなニンジンが食べられるなんて!」

 

「えぇ、入学した時からずっと嫌いでしたのに、流石ドゥーチェですわ!」

 

「そ? そうか? えへへ……だ、だってさ? ―――‐ディアボラが作ったものならちゃんと食べてあげたいだろ?」

 

「―――‐ドゥウウウウウウウウウウウウウウウウチェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」

 

「ひゅーひゅー! 兄さんも厨房から歓喜の声上げてますぜ!」

 

「流石婚約者同士ですね!」

 

「あ、ちょ、もーそういうこというなよー! 別に付き合ってるわけとかじゃないんだからさー!」

 

「でも婚約者っすからねー!」

 

「え、えへへー」

 

「ドゥウウウウウウウウウウウウウウウウチェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

 

「……………………」

 

 なんだこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが! あれが僕の! 僕たちのドゥーチェなんだよ!」

 

「お、おう……」

 

 皿を洗いながら吼えるディアボラに押されて思わず頷くしかなかった。

 厨房やそこから見える食堂に人の気配は既にない。とっくに昼休憩は終わっていて、午後の授業が始まっているからだ。ならば何故ディアボラと共に呑気に皿を洗っているのかというと、

 

「……まさかパスタの腕で授業免除とはな」

 

「ははは、ザ・アンツィオな感じだろう?」

 

 この男、料理の腕を大いに買われて、昼食の準備と後片付けの為なら授業の欠席が許されるのだ。

 いや、勿論俺も自分で考えていることが謎すぎる。

 料理学校でもないのに料理の腕で授業免除っておかしいだろう。最初聞いた時は全くもって信じられなかったが、しかし現実として突きつけられると何も言えない。アンツィオ滞在にはディアボラの力によりかなり自由度が高いものとなっているので皿洗いを手伝うことくらい些細な問題だろう。

 サンダース大学付属高校から離れ、既に数日が経過した。

 そしてそれは同時に大洗とサンダースの試合で大洗が勝利してから数日という意味でもある。 

 意外と思うのはみほたちに失礼だろう。

 試合は実際にこの目で見た。

 運がなかったとは言わないし、サンダース側の失態もなかったわけではない。

 それでもみほ率いる大洗戦車道はサンダース戦車道に勝利した。

 試合内容やそのあとのみほやケイの交流には色々思う所はあったが今は割愛しよう。

 何はともあれサンダースを離れた俺はその足でアンツィオ学園艦へと訪れた。その最中で本当にヒロがジェットで送り付けパラシュートなしで着地させられたがまぁそれも置いておこう。

 そうしてアンツィオ高校に訪れたわけだが、来てから驚くことばかりだ。

 端的に言うと、

 

「失礼を承知でいうが――アホばかりだろうここは」

 

「あっはっは!」

 

 笑い飛ばされた。

 いや、アホと一くくりするのは本来とても失礼な気がするが、しかしアンツィオの生徒に限ってはそれは許されると思う。

 ここに来てから生徒たちから聞いた言葉をピックアップすれば、

 

「パスタ、おやつ、パスタ、おやつ――大体それだけってどういうことだ」

 

「全ての事象はパスタに通じる……!」

 

 ローマのように言うな。

 洗剤で濡れた手で親指をやたら勢いよく立てたので、飛び散った水滴をスウェー回避しつつ、

 

「それで……大分気になってたんだが」

 

「ん?」

 

「いい加減、フラれたけどノリと勢いで婚約したってことへの説明をしてくれ」

 

「あぁ――正直俺も自慢したかったんだ」

 

 イラっとしたのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはアンツィオ高校名物の一つコロシアムで起きた事件だった。

 良く晴れた日だったと誰かは言う。

 くもりだったとかいう生徒も雨だったとか雪だったとかはたまた台風だったとか霰とか言いだす人もいて、まぁつまり誰も天気なぞ気にすることもなかったというわけだ。

 コロシアム、円形状の闘技場の中央で向き合うのは一組の男女だ。

 アンツィオ戦車道隊長ドゥーチェ(統帥)・アンチョビ。

 アンツィオ戦車道兵站部隊総隊長料理人(クオーコ)・ディアボラ。

 前者はアンツィオ高校戦車道の第一人者であり、後者は兵站――簡単に言うと戦線の維持のための準備、後方支援のことであるが――つまり、アンツィオにおいてはひたすらに料理のことを指す。特にディアボラは卓越した料理の腕により授業免除や多数の特権を保有されていることを許されている生徒だ。特にパスタの腕においては全校生徒を魅了するものであり、いつの間にか兄さんと等と呼ばれ親しまれている。

 そんな彼が、

 

「――‐ドゥーチェ!」

 

「な、なに!?」

 

 コロシアムにアンチョビを呼び出したがゆえに全校生徒はコロシアムに集まっているのだ。

 そしてディアボラは真っ直ぐにアンチョビを見つめている。その視線を受け、アンチョビは頬を赤くして照れていた。

 ドゥーチェのその姿でご飯3杯が行ける生徒は少なくない。 

 アンチョビの副官(ぺパロニ)は既に望遠カメラで写真を撮ってブロマイドを作ろうとしていた。

 

「ドゥーチェ……聞いてくれ」

 

「は、はい!」

 

「――好きだ」

 

 ――言ったぁっ! とコロシアムの全生徒が拳を握りしめるながら()()()と腰を浮かせた。

 

「――だ、駄目だ!」

 

 ――あぁ……とコロシアムの全生徒がうなだれながら()()()とへたり込んだ。

 

「………………何故!?」

 

「どぅ、ドゥーチェは皆のドゥーチェだぞ! 誰か一人のものになるとかちょっとドゥーチェ的に無理だ! わ、わきまえろ!」

 

「くっ……ぅぅ……! ならばドゥーチェ!」

 

「な、なんだ!?」

 

「――僕のこの愛はどうすればいいんだっ!!」

 

「ふぇ!?」

 

「この! 僕の愛は! ドゥーチェ! 君への愛は! 一体どうすればいんだ!?」

 

「あ――諦めて!?」

 

「無理!」

 

 なぜならば、

 

「この僕の愛は――この世総てのパスタよりも重い!」

 

「キューン!」

 

 アンチョビが全力でときめいていた。

 そしてどよめきは二人だけではなく、

 

「ごくり……この世総てのパスタなんて……ディアボラの想いを疑えないわね……」

 

「あぁ、やばいぜ……その上兄さんのパスタだぜ? どれだけの重さがあるのか……」

 

 そのような形で全校生徒が息を飲んでいた。

 が、それでも。

 アンチョビは顔を真っ赤にして震えながら、

 

「だ、だめー! ドゥーチェはドゥーチェだから! と、というかその、高校生でお付き合いとか不純だぞ!」

 

「え? 何言ってんすか姐さん」

 

「ほら、ドゥーチェの趣味恋愛小説だから……それも今時小学生も見ないピュアピュッアなやつ」

 

「だったら高校卒業の後とかどーかな!?」

 

「ふぇ!?」

 

「言ったはずだぞドゥーチェ! 僕は! この世総ての! 即ちこれまで俺が作ってきたパスタとこれから僕が作る全てのパスタを君に捧げると言っているんだ!」

 

「―――――キューン!!」

 

「つまり恋人が駄目なら――――卒業後に結婚しよう!!」

 

 おぉおおおおおおおおおおおおおっっ……!? と今度こそ全校生徒が立ち上がり、

 

「―――――――‐はい」

 

 アンチョビの答えに全校生徒が拳を天に突き出し祝福の喝采を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という感じだ!」

 

「すまん、本当に意味が解らない」

 

 頭痛がしてきて、ふらつきそうなのを押さえる。人の数十倍は優れているはずのバランス感覚は今にも狂いそうだ。

 まずそもそも何故告白にコロシアム全員が集うのだろうか。

 あと伝え聞く観客のノリの良さはなんだ。

 そしてなにより、

 

「パスタとは一体」

 

「パスタとは――パスタさ!」

 

 答えになっていない。

 基本的にまともだと感じていたはずのディアボラだったがジャバウォックやパヴロフとは別の方向でエクストリームである。一見会話が通じているようで全く通じていない。

 なんなんだろう。

 肩身の狭いはずの男子が意を決して戦車道隊長へと告白する。

 その点において俺とディアボラは同じだ。さらに言えばどっちも振られている。だけど結果は全然違って、その後の関係も隔絶している。

 

「―――‐」

  

 思い出す。

 そもそも俺がまほさんに告白した時はそんな華やかなものじゃなかった。

 あれはまほさんの寮の近くの暗い道で、古びた電灯が俺たちを照らして、俺はあの人を見ていて、まほさんも俺を見てくれていると思ったけれど、気付かないだけで実はそうではなくて。

 そして振られて、それだけでは終わらなくて―――、

 

「…………はぁ」

 

「……それは何のため息?」

 

「……いや、なんでもないさ。さっさと洗い物終わらせようぜ。この後はどうするんだ?」

 

「午後からドゥーチェが大洗戦に向けての秘密兵器公開らしいからね――それ用のパスタを作るよ」

 

 授業行けよ。

 またパスタかよ。

 というのは置いておいて。

 もう理解は諦めるとして。

 大洗戦――そう、次の大洗の対戦相手はドゥーチェ・アンチョビ率いるアンツィオ高校である。





アンツィオは正直ノリに合わない。

ディアボラ
この世総てのパスタをドゥーチェに!

ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!
かわいい。
この世総てのパスタに人生最キュン。


今更だけどガルユンとかタイトル適当過ぎたなぁと思いつつ、じゃあ真面目なのが思いつかないので諦める日々。
とりあえずドゥーチェ(ry
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