これはペストとのゲームでのIFの物語です。
一歩間違えばこうなっていたかもしれない、もしものお話です。
お気軽にご覧ください。

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熾天飲み込む原初の星

 街の各所から、戦闘音と鬨の声が上がる。

 今、ハーメルンの町は魔王『黒死斑の御子(ブラックパーチャー)』の主催者権限(ホストマスター)によって戦場と化していた。

 コミュニティ『サラマンドラ』とノーネームに対する魔王の襲撃。敵は三名と極少数ながら魔王のコミュニティに恥じない力で猛威を振るう。サラマンドラとノーネームはその暴威を許してなるものかと奮戦している。

 そして、戦いは徐々に収束の方向へと向かっていた。

 プレイヤー側にとって、最悪の形で。

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

 黒ウサギとサンドラは気勢を上げて己の恩恵を開放する。迸った稲妻と紅焔は一直線に黒衣の少女――――此度のゲームのホストである魔王ペストへせまる、が。

 ペストがとった行動は軽く手首をひねっただけ。全身を覆うように巻き起こった黒い風が二つの奔流を撥ね飛ばす。そして黒風はそのまま二人へ目がけて襲いかかる。

 とっさに飛び退くことで回避した二人は歯噛みした。先ほどから何度も繰り返したやり取りだ。ペスト本人はろくに動かず、攻撃を防ぎながら時折牽制のようにこちらへ攻撃を放って来る。やはり時間稼ぎが目的らしい。

「……いい加減飽きて来たわね」

 ペストが気だるげに呟く。既にかなりの時間をこの攻防に費やしていた。

「そろそろ刻限の二十四時間よ、フロアマスターにウサギさん。のんびりしていていいのかしら?」

 挑発するように言うペストに黒ウサギは唇をかむ。時間が無いのは分かっているがそれでも攻めきれない。何せペストを打倒するための戦力が揃いきっていないのだ。

 一週間前、ペスト達の最初の襲撃の際に行方知れずとなってしまった飛鳥は未だ戻らない。敵側が連れ去ったのではないとすれば一体どこへ行ってしまったのか。気にはなるが魔王とのゲームの最中に探しに行く余裕などあるはずもなかった。

 そして耀も黒死病に罹って伏せっている以上今頼みの綱は十六夜だが、現状こちらに来られる状況ではない。

 最初に十六夜と相対したヴェーザーはひたすら時間稼ぎに徹していた。決して勝負を急がず深追いせず、逆廻十六夜という大戦力を足止めすることに努めていた。

 何故なら魔王側は時間を稼いでいるだけで勝てるからだ。24時間経過するだけで自動的に勝利できるルールであり、かつプレイヤー側の強力なギフトホルダーを取り込んで手駒にしたい魔王側にしてみればそれが最上の手だった。

 だがそこから事態は大きく転がる。足止めされ続ける状況にいい加減業を煮やした十六夜がついに『切り札』を行使したのだ。結果ヴェーザーは消滅。ペストのもとへ向かおうとした十六夜の前に今度はラッテンが現れた。魔笛の力で人心を操るラッテンはサラマンドラのメンバーを洗脳し、十六夜と、それまで交戦していたレティシアを襲わせる。

 本来十六夜にとっては物の数ではない状況だが、『自決、及び同士討ちを禁じる』というゲームルールによって手が出せない。殺さなければルールに抵触しないとはいえ、二人の実力ではむしろ殺さず取り押さえる方が難しい。強力すぎるギフトが逆に仇となっていた。さらにラッテンが動員したシュトロムの全てをぶつけてきたことで、より状況は厳しくなっている。

 しかし少しずつではあるが同志たちの無力化には成功し始めている。時間をかければラッテンを打倒することは可能だろう。だがそれには圧倒的に時間が足りない。既に刻限は目前まで迫っているのだ。

 黒ウサギは焦っていた。魔王を討つ策はある。しかし今の戦力で成功するのかどうか。

 だがそうも言っていられない程に事態は切迫している。残された時間を考えれば今から仕掛けなければ目の前の魔王を倒しきることは出来ないだろう。

 二人だけで果たして上手くいくか――――過る不安をかみ殺して黒ウサギは意を決し、ギフトカードを取り出した。

「………ええ、流石にそろそろ宴もたけなわ。我が恩恵にて、このギフトゲームも締めといたしましょう!」

 頭上に掲げたギフトカードが光を放つ。同時に三人の視界は一気に暗転して無明の荒野へ投げ出された。

 生物の吐息をまるで感じない白い大地。漆黒の夜空を見上げれば無数の星とともに箱庭の都市が浮かんでいる。周囲に散乱する彫像はここが未だ神殿として機能していたころの名残だろう。

 そこはまぎれもなく、月面だった。

「これは………月界神殿!? まさか、インドラだけでなくチャンドラからも恩恵を………!?」

 目を見開いて叫ぶペスト。主神級の神霊二柱から恩恵を授かるなど尋常ではない。

「YES! この月面こそかつて我々月のウサギが招かれた聖域。帝釈天様とチャンドラ様から授かった月界神殿でございます!」

 月界神殿。月の主権を一つ以上所持する月のウサギが発動できる舞台型の恩恵だ。弱い重力と極寒の環境を持つこの舞台は彫像の結界が張られているが、一歩外に出れば生物の活動を許さない過酷な月面の環境が襲うだろう。

「サンドラ様! どうにか魔王の動きを止めて下さい! 黒ウサギのギフトで奴をしとめます!」

「ッ! わ、わかった!」

 黒ウサギの鋭い指示に頷くサンドラ。すぐさま両手に炎を束ねてペストへ叩き付ける。

 それを悠々と弾きながらペストは目を細めた。

「まあ、確かに驚いたけれど。こんなところに飛ばしたからなんだというの?」

 そう、現状はなにも変わっていないに等しい。

 ペストを他の仲間から隔離することには成功したが、もとよりペストに助勢など必要ない。むしろ黒ウサギたちの方こそ仲間からの手助けを期待できなくなってしまうではないか。先ほどまで神格級の恩恵をもってしてもペストはびくともしなかったというのに。

 一体何を考えて――――と、サンドラの炎を弾きながら考えを巡らせていると。

 突如、稲光が瞬いた。

「ッ!?」

 それもただの雷ではない。込められた霊格にペストは驚愕する。

 そもそも雷の恩恵は並みの霊格では授からない。『神鳴り』と読んで字のごとく神々が振るう神威の象徴である雷は主神級の神霊の助力があって初めて行使できる恩恵だ。

 あの神雷はその中でも上位の霊格を宿している。目を凝らすと溢れるように神雷を迸らせながら一振りの槍を振り上げる黒ウサギが見えた。

 これこそ黒ウサギが授かった最強の恩恵。一度穿てば必ず勝利をもたらす軍神の槍。

 わざわざ場所を移したのは、余りに威力が大きすぎるためにあのまま使えば確実に他の同志を巻き込んでしまうからだ。

 あれはまずい。瞬時にペストは悟る。おそらくインドラの槍だろうあの恩恵は今や神霊にまで成り上がった自分をすら仕留めるに足る威力を秘めている。

 とっさに回避しようとしたペストの四肢にからみつくように炎が巻き付いた。

「逃がさない………!」

 黒ウサギの槍に気を取られたために回避が間に合わなかった。勝利の予兆を感じたサンドラは黒ウサギに呼びかける。

「今です! 魔王へとどめを!」

 その声に応じて槍を握る手に力を込める。直撃すればペストでも確実に打倒できよう。

 同じ確信をもったペストはその数瞬の間に冷静に思考する。

 三人ばらばらに散って時間を稼げば勝てるゲームだった。ヴェーザーに神格を与えあの妙な人間の相手をさせ、ラッテンは配下のシュトロムを大量に引き連れ、さらに魔笛の力によってプレイヤーを操り同士討ちさせることでステンドグラスの破壊を阻止。そして自分はフロアマスターと月の兎を相手取る。

 彼我の戦力差を考慮しても勝算は十分あった。事実確かに上手くいっていたのだ。誤算は、最強種の眷属である月の兎の授かった恩恵を見誤っていたことだろう。

 チャンドラの神殿に、軍神の振るう必勝の槍。

 まさかこれほどの恩恵を持っているとは予想できなかった。ならばそれは自分の落ち度だろう。

 自分のミスでこの状況を招き、己の目的についてきてくれた同志までも一人失った。せめて手向けるためにと作戦を続行したが、ことここに至ってしまえばもう仕方が無い。

 ならば、もう諦めるしかないだろう。

(あーあ………ウサギさん、欲しかったんだけどなあ)

 もう、諦めるしかないだろう――――人材の確保という目的は。

 今まさに黒ウサギが槍を投擲しようとする刹那、ペストの全身から爆発するような勢いで黒い風が吹きあがった。それはうねりを上げて二人へ殺到する。

「サンドラ様! 避けてください!」

 今までの風とは違う。不吉な予感のままに飛び退く黒ウサギ。ペストは酷薄な表情で告げた。

「よくわかったわね。そう、これは今までのお遊びとは違う。触れただけで死を与える、本物の死神の風よ」

 無数に枝分かれして吹き荒れる死の風を恐々としながら躱す。

「これは『与える力』………死を恩恵の形で与える神霊の御業ですか………!」

 黒死病によって命を落とした八千万の死者の霊群、その代表であるペストが神霊に開花したことで、その功績は『死を与える恩恵』という形で顕現した。その一点において彼女は破格の素質を備えていたのだ。

「もうあなたたちを手に入れるのは諦めるわ。地上にいるメンバーだけで満足しておく。欲をかき過ぎてゲーム自体に負けたら元も子も無いしね」

 黒ウサギ同様、ペストもまた己の真の恩恵を隠していた。人材の確保が目的にあった以上、プレイヤー側の主力は可能な限り殺したくなかったのだ。だがそうも言っていられない。あれほどの切り札がある以上、そんな悠長なことを言っていられる余裕は既にない。

 次々と波濤のように繰り出される黒風を、ついに二人は躱しきれなくなった。容赦なく迫る風を前に顔を歪めるサンドラ。ペストが勝利を確信しようとした時、黒ウサギは一枚の紙片を取り出した。

 『マハーバーラタの紙片』。インド最大の大長編叙事詩であるマハーバーラタ叙事詩の紙片から眩い光が溢れる。

 光は黒ウサギの体を包み込み、鎧そのものへと変じた。

 黒ウサギが紙片から召喚したのは叙事詩における最高峰の英傑の一人であるカルナが用いたという黄金の鎧。かの太陽神スーリヤから授かった、持ち主に不死不滅の恩恵を与える神格武具だ。

 黄金の鎧が放つ眩い陽光に黒い風が焼かれて霧散する。

「なっ………!?」

 ペストの顔が驚愕に歪む。己の死の権能を焼き払った光を見てその能力に感付いたらしい。

 太陽を封印するペストの”主催者権限”。それは黒死病が太陽の寒冷期によって爆発的に拡大したからだ。

 太陽の力が弱まったことで、黒死病はその猛威を振るった。

 ならば必然、黒死病の脅威を払うのは本来の力を取り戻した太陽の輝きに他ならない。

「インドラにチャンドラときて、今度はスーリヤ………!? 護法十二天から三天まで恩恵を………!?」

 この化け物………っと毒づいて距離を置くペスト。最早死の風も通じない。今あの槍を使われては一気に敗色濃厚になる。

 だがそれは不可能だ。原典であるマハーバーラタ叙事詩においてこの槍と太陽の鎧が同時に使われた記述は存在しない。

 同じように、黒ウサギの槍と鎧も同時に使用することが出来ない。もし無理に使えば思いペナルティが課されてしまう。

 しかしそれを知らないペストは槍を警戒し上空へ飛びあがると、自身の周囲一帯を黒風で覆い隠す。

「っ………あれは!?」

 月面から望む夜天を覆い尽くすほどの奔流。ペストの姿を見失ってしまったことに黒ウサギは舌打ちする。

『少々姑息な手だけれど、この際仕方ないわ。タイムアップまで粘らせてもらうわよ』

 いかなる恩恵によるものか、ペストの声が全方位から反響する。そしてペストが作り出した黒天から竜巻く黒風がうねりを上げて眼下の二人へ襲いかかった。

 黒ウサギはサンドラを鎧で守りながらまたも舌打ちする。実のところ姿を隠しただけなら問題なかった。

 黒ウサギの耳は箱庭の中枢とつながっており、審判時ならばゲーム盤の全て。プレイヤー時ならば1kmの範囲の状況を把握できる。ただ隠れただけの相手ならば槍の投擲で狙い撃ちできた。

 しかし間断なく死の風が降り注ぐ現状、鎧を脱ぐことは出来ない。サンドラに渡すにせよどうやらあの黒風の中を高速で動き回っているらしいペストに命中させるのは至難だろう。黒ウサギが居所を指示したとしてもだ。

 ペストがどこまで計算づくなのか分からないが、この状況では絶妙の妙手といえるだろう。

 ここへ至って最早黒ウサギとサンドラの焦燥はピークに達していた。

 このままでは状況を打開できない。サンドラは考える。いっそ月界神殿を解除するしかないのだろうか。同志の犠牲を覚悟するのならまだ勝ち目はある。

 地上へ舞い戻り、レティシアとサンドラが失格覚悟でラッテンを倒す。その後鎧を纏った黒ウサギがペストを抑えその隙に十六夜が槍を使ってとどめを刺す。

 このままでは魔王側の勝利という最悪の終わり方を迎えてしまう。ならば他に方法は無い。

 サラマンドラは魔王の打倒をこそ使命とする“階層支配者”だ。きっと同志たちも覚悟してれている。

 そう決意し、サンドラがその策を伝えようとした………その瞬間だった。

 

 ――――――どこからか迸る白銀の極光が、ペストの黒風をあらかた消し飛ばした。

 

「―――………!?」

 自身の最強の矛にして盾である風を一瞬で引きはがされて思わず硬直してしまう。

 何が起きたのか解らない、という顔でペストは光の発生源を見た。

 そこは月面から見上げる宇宙空間の、遥か彼方。あらゆる星々を押しのけて知覚などしようの無い場所から目も眩む光が降り注いでいる。

「―――黒死斑の魔王、ブラックパーチャーよ」

 それはあまりに重く、あまりに遠い声だった。

 どんな力も、どんな叡智も、決して届くことの無い最果てから響く声がする。

「―――太陽への復讐か。真、魔王に恥じぬ大言よな」

 周囲に目を向ければ宇宙に瞬く幾多の天体が流転し、逆流し、その光へ目がけて収束していく。

 その銀光を中心点として、星空と物質界の境界を切り裂いて現れる白銀の太陽。

 天上の星々を食らい尽くしてなおただ一つ輝く唯一絶対の星。

「―――その憎悪を掲げるのなら。その復讐を謳うのならば」

 それは原初の天体法則。未だ天地が定義されない混沌において森羅万象を飲み込んだ。ソレが両断されることでようやく世界に確たる姿が与えられた始まりの一。

 世界ごと押しつぶすかのように迫る巨星から現れる人影を見て、すべての参加者が悟った。

 

「――――――この太陽()が相手になろう。ここがおんしの復讐劇の終端だ。」

 

 白夜が顕現した。このゲームは………プレイヤー側の勝利だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………白夜叉………様………」

 呆然としたような、黒ウサギの呟き。その胸中は疑問で埋め尽くされている。

 白夜叉はペストの主催者権限で封じられていたはずでは無かったのか。いかに魔王のゲームといえど契約(ギアス)は絶対だ。力技でどうこうなるものでは無い。ならば白夜叉は自らの参戦条件を解き明かしたことになる。

 とすればそれは、やはり――――――

 黒ウサギの推測を代弁するように、ペストが震える口を開いた。

「まさか………神格を、返上したというの………?」

 以前の幼い容姿とは違う、すらりと伸びた成人女性の体躯に、比較するのも馬鹿らしいほど圧倒的な霊格密度を見れば他に考えられない。

 白夜叉が、自身を縛る枷を脱ぎ去ったのだと。

「先程おんしも気が付いたはずであろう。黒死を振り払うのは本来の輝きを取り戻した太陽の力。故に神格を返上したのだ」

 ペストの主催者権限が白夜叉を封じていたロジックは、『太陽が寒冷期に入り力を弱めたため黒死病が蔓延した』という年代記をなぞったものだ。

 だからこそ夜叉の神格によって星霊としての力を封じていた白夜叉を封印できた。

 そして先に黒ウサギが証明したように、黒死病を払うものは本来の力を取り戻した太陽。ならば封印を破るための条件とはすなわち。

 『神格を返上し、本来の力を取り戻すこと』なのだ。

「随分と………思い切ったわね。神格を返上した今、貴方は下層に居られるのかしら?」

 白夜叉はその強大過ぎる霊格を神格によって抑え込むことで下層への干渉を認められてきた。それが無い今、上層への帰還は免れないだろう。その別次元の力は、本人の意思に関わらず下層を破壊してしまうほどのものなのだ。

「構わぬよ。私はフロアマスターだ。目の前に魔王の脅威がありながら、座して見逃すなど出来ようか」

 迷わず言い切る白夜叉に、ペストは鼻白む。魔王を討ち、下層を守る。その大義の為ならば神格などいつでも返上しよう。それがフロアマスターとしての責務であり、下層の営みを何より愛する白夜叉の願いでもある。

 ペストは歯噛みして白夜叉を睨む。既に他に出来ることなど無い。最早勝ち目などどこにも無いことを理解していた。

 宇宙(そら)の全てが、ペストへ敵意を向けている。それは錯覚でも大げさでもない。今の白夜叉の霊格は正しく宇宙規模だろう。

 理解している。それでも――――――止まるわけにはいかない。

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」

 己を鼓舞する叫びとともに全身に黒風を纏う。すべての諦観と気後れを飲み込んで身構える。

 対する相手は太陽の主権者。八千万の無念が幼い体躯を突き動かす。黒死病がもたらしたあらゆる災厄を糾弾する為にこの身はあるのだ。

 親兄弟にも見放され、痛苦と飢えの中泣きながら息絶えた幼子がいた。

 衣食住もままならず、たった独りで病魔に蝕まれ朽ちて逝った老人がいた。

 感染ルートから疑心暗鬼になり、殺し合いに発展し全滅した集落があった。

 束ねに束ねて八千万の怨嗟が自分の中にある。その願いはたった一つ。

 ――――――あの天にまします、クソッタレな太陽を叩き堕とす!

 八千万の呪いで天を焼け。怠惰で傲岸な太陽を引きずりおろせ。そして、そして………

 己の霊格(そんざい)の全てを乗せて突貫をかける。そのペストへむけて、白夜叉は腕を動かした。

「………黒死の呪いと、おんしらの無念。それは真っ当だ。今の私にはおんしらにかける言葉をもたぬ。だが、私はフロアマスターであり、おんしは魔王だ。なれば裁かねばならぬ。私が秩序の守護者で、おんしが秩序の破壊である以上」

 向けた指先を、軽くなぞるように動かす。

「まずはその罪を禊いでくるが良い。その後で………話をしようではないか」

 先ほどと同種の、白銀の光が迸る。目が眩んだ黒ウサギたちは、とっさに顔を腕で覆った。

 視界が戻った時には、既にペストはどこにもいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

「………………」

 黒ウサギとサンドラはともに硬直している。声を出すことさえ忘れていた。

 自分たちをあれだけ苦しめた黒死斑の魔王(ブラックパーチャー)を、まるで窓の誇りを拭うようなしぐさで消滅させたのだ。

 黒ウサギでも初めて見る白夜叉の本気に二人が絶句していると、不意に白夜叉が顔を上げて上空に見える箱庭都市を仰いだ。

「向こうも終わったようだの。ほぼ同時か」

 え、と声を漏らしたと同時に、黒ウサギたちの目の前にギアスロールが現れた。

 

『ギフトゲーム名“The PIED PIPER of HAMELIN”

 

 勝者・参加者側ゲームマスター“白夜叉”参加者側コミュニティ“ノーネーム”

 敗者・主催者側コミュニティ“グリムグリモワール・ハーメルン”

 

*上記の結果をもちまして、今ゲームは終了となります。

 此れに伴い、全てのゲームルールが解除されます。

 尚、第一勝利条件と第二勝利条件の達成者が異なっているため、主催者(ホスト)の隷属権は両者間にて決定してください。

                           参加者の皆様はお疲れ様でした』

 

「これは………成程、十六夜さんたちが………」

 ギアスロールの内容からして、街にいる十六夜たちが第二勝利条件を満たしたらしい。黒ウサギたちが急にいなくなったことから、行動を切り替えたのだろう。

「さて、では戻るか。ペストの隷属についても話をせねばなるまい」

 こちらへ向き直った白夜叉が声をかける。

 黒ウサギとサンドラはそれに従いながら不安を抱いていた。

 今回魔王のゲームこそ白夜叉の助力によって凌げたが、代わりにもう白夜叉は下層にはいられないだろう。最強の階層支配者(フロアマスター)の退役は下層に激震を走らせるはずだ。

 これから一体どうなってしまうのか………魔王に勝利した直後にも関わらず、黒ウサギの心中は晴れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 




「白夜叉の本気すげぇええええええええええええええええええええええ!?」がやりたかっただけというのはここだけの話。

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