「んっ……!」
時刻は朝を迎え、外では野生のポッポが飛び出し鳴き始める。リョウスケもそれにつられるかのように、目を覚ます。
「っと、イエローは起きて……ないな」
隣にあるベッドを見ると、まだぐっすり眠っているようである。イエローが寝坊して時間が過ぎていくのもあれなので、リョウスケは身体をゆすってイエローを起こそうとする。……が、
「う~ん、ムニャムニャ……」
「……だめだこいつ」
全く起きる気配が無い。流石イエロー、寝ることに関しては達人の域と言ってもいいくらいだ。
「っと、俺のポケモン達も起きてるかな」
リョウスケは自分の腰から三匹のポケモンを出す。ブースターは元気良くおはよー!と、ラプラスは礼儀正しくおはようございます、と挨拶したのでリョウスケもそれにおう、おはよーと返す。
……だが、明らかに一匹おかしい奴がいる。
『……うぇぇ』
かなり元気が無いポケモンがいる。そう、ボーマンダである。ブースターもそれを見てシャキッとしなよ!といいながらボーマンダの腹をげしっげしっと何度も軽く蹴る。
『ちょっ……マジでやめて』
普段ならブースターにこんなことをされたならば怒っていてもおかしくは無いのだが、今回は本当に元気が無いのだ。それを見たブースターが心配そうに大丈夫?と問うがボーマンダはおぅ……と力なく応えるだけ。
「おい、ボーマンダ……大丈夫か?」
『リョウスケ……悪い、もう少し寝れば治ると思うから……』
それを聞いたリョウスケはそうか、ゆっくり休めとだけ言ってボーマンダをボールに戻す。
「っと、何でボーマンダが元気が無いのかわからんけど……っと、そうだ。ラプラス、氷作れない?手のひらサイズくらいの」
『作れますけど……何に使うのですか?』
「ま、それはいいじゃん。……っと!冷てっ!」
ラプラスに氷を作ってもらい、それをリョウスケは手にする。そして……
「えいっ」
それを寝ているイエローの首につける。
「……ひぎゃあああああぁぁぁ!?!?つっ、冷たい!?」
「お、おはようイエロー!いい目覚めっぷり」
「最悪の目覚めですよ!何、人の首に氷つけてるんですか!」
「だって、イエロー起きないんだもん」
朝っぱらからギャーギャー叫びまわるこの二人。アルトマーレの旅は、まだまだ始まったばかりである。
~~~
それから二人はちょっと口喧嘩をした後に、あっさり和解、それから身支度をしてご飯を食べてアルトマーレの町を歩いているという今に至る。
「今日は水上レースといった大きなイベントがありますね!」
「そうだな、俺もラプラスでエントリーするつもりだよ。俺とラプラスのコンビならいい所まで行けるかな……?」
「ラプラスなら水上ならかなり強力ですしね。……うーん」
イエローは迷っていた。
この水上レースは人が丸い小型ボートに乗って、それを水ポケモンが紐を引っ張って行くといった競技だ。つまり、人を乗せるほどの波乗りが出来なくても、紐を引っ張れて泳げればいいのである程度の水ポケモンならエントリー可能である。
「ボクもせっかくだし、オムすけで出てみようかな?」
勝てはしないだろうけど記念になるしなぁ、なんてイエローは考えていた。ところがリョウスケが意外なことにそれに反論する。
「……イエローは出ないほうがよくないか?」
「えっ、何でですか?」
「いや、だって……危ないだろ」
この水上レース、なかなかハードなもので毎年参加者がカーブの際に壁にぶつかったりして怪我をしたりしている。そして参加案内のパンフレットにもそれは注意書きに出ているくらいなのだ。
「んー、どうしようかな……」
「俺としては……女の子が危ない目にはあってほしくない……かな」
「えっ?」
リョウスケはイエローにはあまり危ない目にあってほしくないのだ。それは友達だからという点も勿論あるが、イエローが女の子だとわかって、それを意識している部分も少しある。
「ふふっ、そうですか。じゃ、ボクはリョウスケさんのために精一杯応援しますよ!……だから、勝ってくださいね!」
「イエロー……おう、勝ってやるよ!なあ、ラプラス?」
ボールの中のラプラスもそれに頷く。こうしてリョウスケだけがレースに参加し、イエローはそれを応援することに。
~~~
「……特に怪しい気配は今のところは無いか。今日は水上レースがある日だから人通りが多いからな。変な動きがあっても見逃してしまう可能性があるのが厄介だな……」
ラティオスは人間の姿に擬態して町の中を見回りしている。何か怪しいことが無いか調べるためだ。
「一応、色々な人に聞き込みをしておいたほうがいいか……?」
あまり動きすぎて俺が目立つのも厄介なんだが、とラティオスは思う。現在、ラティオスは大きな橋の上にいる。ここからはレースの終盤が良く見え、大きなモニターで中継を見ることが出来るので人通りがかなり多くなっている。
「大人に聞いても不審に思われるかもしれないな……子供に聞いたほうが、何かあった時でも確実に聞きだせるか」
そしてラティオスは麦わらの帽子を被った少年?が目に入る。彼に聞こう、とラティオスは思い声をかける。
「なあ、君ちょっといいか?」
「……ん?ボクですか?」
「ああ、そうだが……って何でそんなにボールを持っているんだ?」
その少年……もとい少女であるイエローにラティオスは声をかけたのだが、何故かイエローは腰のボールの他にさらに手元にボールを持っているのだ。ちなみに、ラティオスは女の子であることは全く気づいていない。
「あ、これですか?今、友達がレースに出るんで、手持ちを預かっているんです」
リョウスケの他の手持ち……ボーマンダと、ブースターのボールをイエローは持っていたのだ。レースの際にボールがどっかに飛んでしまわないように、とリョウスケがイエローに預けたのである。
「ああ、なるほどな……」
「えっと、それでボクに何か用でしょうか?」
「おっと、そうだな……ちょっと聞きたいんだが、この近辺で怪しい人とか見たりはしていないか?」
「えっ、何かあったんですか!?」
「ん?いや、この人の多さだからさ。どさくさに紛れて何か悪いことをしている奴がいるかもしれないだろ?だから俺は、それを警備しているんだ」
勿論これは、咄嗟に出たラティオスのでたらめである。それを聞いたイエローはうーんと少し考えた後、無いですねといった答えを言う。
「ん、そうか。協力ありがとな」
「あの……ちょっといいですか?」
その場を離れようとしたラティオスをイエローが引き止める。どうした?とラティオスは聞くが、ちょっと、とだけイエローは言ってラティオスを人通りの無いところへ呼び寄せた。
「ここに何かあるのか?」
「いや、何かがあるってわけではないんですけど……」
そしてイエローが腰のボールに手をかざす。ポウ、とそのかざしたボールを光が包み込む。ラティオスはそれを見て驚いている状態だ。
「うーん、ボク達のポケモンも特に見ていないって」
「……何だ?今の光は」
「あ、ボクポケモンの考えていることがわかるんです。でも今のように光が出ちゃうから、人通りの多いところだと目立っちゃって」
「なるほどな、だから俺を人通りのいないところに呼び寄せたのか」
「はい、そんな感じです……っと、一応リョウスケさんのポケモンも……うーん、ボーマンダもブースターも何も見ていないかぁ」
「……ん?」
ボーマンダ、という単語を聞いてラティオスは反応する。ついこの前の深夜に、ボーマンダと戦ったばかりであるからだ。
「あ、レースが始まっちゃう!」
「っと、すまないな。ま、何も見ていないって言うのならそれはそれでいいことさ。協力してくれて助かったよ」
「いえいえ、ボクは大丈夫ですよ!見回り頑張ってください!」
と言って、イエローはその場を走り去っていく。
「ボーマンダ……まさかな?」
その友達の持っているボーマンダがあの荒々しいウザったい腹立つボーマンダであるなんてラティオスは信じられない。
「ま、別のボーマンダだろうな。……っと、俺ももっと警戒せねば」
何かが起きてからでは遅いんだ、とラティオスはさらに気を引き締めアルトマーレの町を見回ることに。
~~~
《さぁぁぁぁてっ!!!待ちに待っている皆ぁっ!!!いよいよ、レースが始まろうとしているぞぉっ!!!!!》
ついにレース直前。実況の一声でさらに町全体が盛り上がりいたるところで歓声があがる。
《今回もたくさんのトレーナーが参加してくれたぁっ!全員、怪我をしない程度に死ぬ気で頑張ってくれぃっ!》
(いよいよか……!)
リョウスケもやや緊張はしているものの、始まる瞬間を今か今かと待っている。
《参加者には一度道をテストで通ってもらったが、念のためもう一度説明だ!!今回の大きなポイントは三つだ!最初はジグザグの道が長く続いていく場所、二つめに大きなUの字カーブ、ラストには観客が待っている橋の下をくぐったあとに再び直角カーブだ!それを超えて真直ぐ進めばゴールが待っているっ!!》
水上レースは毎回道が変わるのだが、必ず難所といったものが存在する。今回のレースでは、三つのポイントがその難所である。そこを上手く通れるかどうかが、勝つための秘訣だろう。
「ラプラス、絶対に勝つぞ!」
はいっ!とラプラスからの返事がくる。両者共に、気合は十分だ。
《いよいよスタートの時間だぁっ!!参加者の皆、準備はいいかっ!?》
実況からもうすぐ始まるとの声がかかる。その声でリョウスケ含め、参加者達はさらに一斉に気が引き締まる。
《位置についてっ!!よーい……》
パァン!と、アルトマーレの町全体に大きな音が響く。その音と同時に、参加者は皆勢い良く飛び出していく。アルトマーレ名物、水上レースの始まりだ。
~~~
「よしっ!ラプラス、ナイススタートだ!」
スタートダッシュが成功し、リョウスケとラプラスのコンビは現在トップ争いの集団の中にいる。地上ならともかく、水上ならかなり素早く動けるラプラス。直線での争いは、かなり有利だ。
《さあ、トップ集団が間もなく最初の関門、ジグザグの道に入ろうとしているぞぉっ!!》
「(スピードを緩めて安全に行くか……?いや、ここは……!)ラプラス、次のジグザグは全力で行くぞっ!!」
リョウスケを含めたトップ集団が、ジグザグの道に入る。そこでリョウスケは……あえてスピードを緩めるという選択はせず、今のスピードを保ったまま進むことを選択した。
「とっ、とと……よしっ、いいぞラプラス!」
《おおっ!さすがトップの集団だ、レベルが高いぞぉ!……おおっと!?大丈夫かぁ!?》
十数人いたトップ集団の内、半分近くがスピードを緩めず強行突破を選択した。その結果、その中の何人のボートがひっくり返りトップ争いはリョウスケ含む五人となった。
「あ、あっぶねぇー……」
『リョウスケさん、まだまだ飛ばして行きますよっ!!』
「おう、どんどん飛ばせ!」
まだまだ安堵なんてしている場合ではない、とリョウスケ、ラプラスコンビはさらに気を引き締める。
《さあ、二つ目の関門、Uの字カーブだ!ここは減速せずに曲がりきるのは難しいぞ!》
「……ラプラスっ!」
コクリ、とラプラスは頷く。言わずともわかっている、そんな感じの様子だ。
《……!?凄い、凄いぞぉぉぉ!!リョウスケ&ラプラスのコンビ、スピードを緩めることなく曲がりきったあぁぁ!!まるでプロのF1レーサーのドリフト走行のようだっ!!これで、単独トップに躍り出たぞぉっ!!》
「っし、ナイスラプラス!」
何と普通なら減速しなくては曲がれないようなカーブを、ラプラスは大きな身体を器用に動かしてそのままのスピードで曲がりきったのだ。他のトップ集団で減速せずに曲がりきれた選手はいなかったので、リョウスケとラプラスのコンビは一気に単独トップとなった。
《これはかなり有利になったぞ!だが、最後にまだ直角カーブがある!まだまだ勝負はわからないぞぉっ!!》
「油断せずに飛ばすぞ、ラプラス!」
『勿論ですっ!』
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《さあ、間もなくトップがここにやってくるぞ!現在のトップは、リョウスケ&ラプラスコンビだ!》
「リョウスケさん、頑張れー!!」
橋の上から応援するイエロー。彼女はまだ走り続けているリョウスケ達に、必死に声をかけ続ける。
《……おおっと!やってきたぞ!リョウスケ&ラプラスコンビだぁー!!》
そしてようやく、リョウスケ達がこの橋の目の前までやってきた。イエローは凄い凄いリョウスケさん!と言ってはしゃいでいる。その場にいたイエロー以外の人も、あの少年凄いな、とか流石にこの距離なら優勝は堅い、などと賞賛の声をあげる。
そして橋の下をくぐり抜け、最後の関門の直角カーブを曲がろうとした瞬間。
「えっ……?」
思わぬそれは突然、起こった。