Fate/grand symphony   作:マアア

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区切りがいいので今回ちょっと短めです。


冬木Ⅰ

 

 

 ギュッと拳を握り締めながら走り、踏込と合わせて突き出す。 正直にいた髑髏に直撃したその拳は髑髏をのけぞらせ、隙を作る。

 

「は! あ! あ! あ! らあッ!」

 

 叫ぶように声を上げながら追撃として連続で拳を叩き込み続ける、技術もへったくれもない叩き込みの連続。 だけど威力は確かみたいで髑髏の胸部が一部砕け、バランスが崩れた。 さらに追撃しようと拳を握り締め――横から聞こえた音に振り向き、其処に別の髑髏が構えているのを見て逃げようとバックステップをしようとして、

 

「え――はぅわ!?」

 

 想定よりも遥かに強く後ろへと身体が下がり、壁に強くぶつかる。 想定外の衝撃だけどそこに痛みなどはあまりない、とりあえず起き上がろうとして周りにある瓦礫を掴もうとして―――掴んだ瞬間砕いてしまい、バランスを崩して四つん這いに倒れ込む。

 

「まさか――――」

 

 自身の想定をはるかに超える挙動を示す身体、それによってわかるのは単純明快な答えとして身体能力が大幅に上昇しているという事。 そしてそれが引き起こされたトリガーは間違いなくこの今着ている装束にあるという事だ。

 

制服を上から塗りつぶし、素肌を覆うように展開された真っ黒のレオタードのような装束。 コンクリート材の瓦礫を容易く砕くその手足を包む甲。 それらは冷静に見て見れば脳裏に浮かんだヴィジョンの戦士たちと確かに似ていて―――、

 

『――――――!』

 

「―――っ、しま!」

 

 思考を掻き消すような咆哮が聞こえた。 それで思考へと傾き始めた意識が視界へと戻り、前を向けば髑髏が腕を伸ばしていた。 咄嗟に避けようとするけど数瞬遅く首に骨だけの腕が食い込み、そのままの勢いで押し倒される。

 

「がっ、ぁ――――――!」

 

『――――――――!』

 

 首が絞まる、瓦礫などに突っ込んだ程度では到底済まない痛みが、気管が潰されて呼吸が出来ない苦しみに悶え、顔を近づけてくる髑髏を退かそうと我武者羅に拳を振るう。 何とか振りほどこうともがいて、しかし振りほどききれずにいる間に胸部の骨が砕けた髑髏ともう一体、つまり三体目の髑髏が近づき、その手の凶器を翳しているのが見えた。

 

「っぁ! が、ぁ―――」

 

 冗談じゃないと更に激しく、強くもがき、下腹部辺りを何度も何度も蹴り上げることで破壊し、胴体を蹴り飛ばすことで何とか拘束を解き、咳き込みながら立ち上がる。 休む間もなくやって来る胸部が欠けた髑髏と三体目の髑髏の挟撃を両腕で頭を庇いながら前転を行うことで避け、振り向いて敵の姿を確認しながら後ろへ飛び、今度は数メートルの距離を開ける程度に抑えることに成功しながら着地する。 何とか開いた攻撃の隙間に息を整えようとして、しかし足を掴まれる。

 

『――――――!』

 

「っ!? こいつまだ―――」

 

 下半身を吹き飛ばして突き飛ばした髑髏は行動不能だと思っていたがまだ動き、両足に抱き着く様に絡み、動かない。 無理矢理動かそうとしても意地でも離さないと言わんばかりに強く掴み―――右足に噛みついてきた。

 

「ぎぃぃッ!? ―――っぅぅううう。 こぉんのぉッ!」

 

 脹脛に奔る痛みに悲鳴を上げ、涙を滲ませながら拳を握り締め、頭部へと全力を振り絞り撃ち抜いた。 頭部が破砕した髑髏は今度こそ機能を停止して、力なく崩れ落ち、黒い靄のような何かへと還って逝った。 残るは二体。 そして休む暇はなくその二体は下半身を失った髑髏の攻撃の間に体勢を立て直してこちらへと襲い掛かろうとしていた。 迎え撃とうと構えようとして、しかし直前の髑髏の噛みつかれた右足が痛み、迎え撃つのは無理だと判断して転がる様にまた二体の攻撃を避ける。 だが先ほどとは違い、立ち上がれずにしゃがんだまま二体を見上げることになった。

 

『――――――』

 

「っ! こいつら、笑ってるの!?」

 

 カタカタカタと口元だけを器用に震わせる姿はまるで死神が刈り取る前に恐怖の表情を楽しんでいる姿か、獲物の前に舌なめずりする狩人の姿みたい。 ゆっくりと足音を立てながら近づくさまには厭らしさが滲み出ている。 だけど足を潰された以上こちらから動くのは難しい―――だから、待つ。

 

 

 

 一歩進む/手前の髑髏の凶器の範囲まで後二歩。

 

一歩進む/あと一歩の距離で手前の髑髏の攻撃範囲。

 

一歩進む/手前の髑髏が大きく口を開きながら凶器を振り上げ、降ろした。

ゆっくりとその刃が私の脳天目掛けて降ろされるのが見え――――、

 

 

 

「――――今だッ!」

 

無事だった左足を軸にバランスを取り両腕を交差させて振り下ろさる凶器を降ろす腕を挟むように掴み取り、そのまま腕だけで思いっきり回すように振り、持ち上げて回しながら後続の髑髏へとぶつける。 ぶつかった髑髏二体がそのまま重なり合うように倒れ込む。

 

―――今しかない、絶好のチャンスッ!。

 

 右手、左手、左足、その三か所に全力で力を籠め、跳躍する。 20mほど軽く飛び上がり、空中でバランスを取りながら敵の真上で左足を突出し、重力を味方につけ―――蹴りを落とす。

 

「うぉりゃぁぁぁああああああああッ!」

 

 気合と共に放った一撃は二体の髑髏の胴体を纏めて穿ち、そのまま地面に小さい陥没を残し止まった。 髑髏二体は今の一撃で倒せたらしく先ほどの髑髏と同じように消えていった。

 

「……」

 

 

 炎が燃える音が響くだけで他は何も聞こえない。 それが元の静けさに戻り、敵がいなくなったことを教えてくれた。

 

「―――勝った。 勝ったんだ。 勝ったんだよね?」

 

 落ち着いていく雰囲気に違和感さえ覚えて周りを見渡しながら呟き、しかしいないことから本当に倒しきったのだと理解して、とりあえず足を地面から引っこ抜き、立ち上がろうとしてまだ右足が痛み、地面に倒れ込みかけて、手でバランスを取った。 同時に、私が今まで来ていた装束は霞みたいに消えて、元の制服姿に戻った。

 

 

 

―――その制服姿に、ようやく終わったのだと実感を感じて、力が抜けて深く息を吐きながら倒れ込んだ。

 

「あ、はぁ――――――なんだったんだろう、アレ」

 

 戦っている間は無我夢中で何も考えていなかったけれど一旦落ち着いてしまえば気になりだすのは当然だろう。 髑髏が動くのなんていまどき物語でも流行らないような出来事だ。 完全に私の想定を超越している。 まだ人形が一人でに動いたり襲い掛かってくる方が理解が及ぶとまで思える。 それにあの戦っている間の装束もだ。 一旦なくなってしまったけれど私の中の感覚が戦おうとすればまたあの姿になれると告げている。 でもあんな魔法みたいなことが出来るなんて私は知らない。 何一つ分からない。 今分かっていることなんて―――私が生きていることぐらいだ。

 

「……生きている? ―――そうだ。 カルデア! カルデアはどうなったの!?」

 

 記憶の最後に残っているのは爆発に飲み込まれるコフィンだけ。 あの後気が付けばこの場所にいたという事を考えると全ての原因は爆発で、私がここにいるのはカルデアで何かあったからという結論が出てくる。 そしてそれらから考えられることがあるとすれば―――

 

「私以外にも誰か飛ばされた人がいるかもしれない」

 

 なら、私と同じように困っているはずだから助けなくちゃいけない。 私にはそのために扱える力があるんだから。

 

「そう―――助けなきゃ。 だとすれば、こんな所で寝てる余裕なんてっ―――っぅ!」

 

立ち上がり、また探すために動こうとするけれどやはり右足が痛む。 とりあえず左足に重心を置いてバランスを取りながら立ち上がり、引きずる様にしながら私はこの場所から離れ始めた。

 

 

 

 

 

重たい足を引きずりながら、敵に出会わない様に祈りつつ慎重に動き、大体二十分ほど掛けて、遠目に見えていた橋にたどり着いた。 その頃には右足は痛むから激痛に進化していて、正直に言って歩くのすら億劫になり始めていた。 橋の下に敵がいないか確認して、いないとわかってから転がる様に橋の下の河原を歩き、靴を脱いで川に右足を付ける。 噛まれた上にそれなりに時間が経過した足は水の刺激に反応して、鋭い刺激を伝えるけれど先ほどまでの熱を持った痛みに比べればむしろ天国とさえいえる。 腰を降ろして座り込み、足を川に付けたまま、息を吐いた。

 

「誰も、いないなぁ……」

 

 漏れた言葉は事実だった。 歩き続けた20分間、なるべく人が住んで居そうな場所へと目を向けながらの行軍で出会った人物、生きている人物はゼロだった。 予想だけれど災害で大部分が減って、そのあと現れた化け物に全員殺されたのだろう。 そう考えてしまうとつまり、今この場所には私しかいなくて、救援も何もないという救いようのない事実が浮かび上がる。

 

「……一人は嫌だなぁ」

 

 せめて誰か、誰でもいいからいて欲しかった。 一人だと悪い事ばかり頭に過ぎていく。 只でさえこんな状況で気を休められないのにそれを解消する手立てがないのは最悪だ。 河原に転がり、息を吐けば何もすることが無い、何も出来ないとしか思えなくなる。 寝転んで見えた空は赤く、ぽっかりと空いた黒い穴があるだけで後は何もない。

 

「――――諦めたく、ないなぁ」

 

 何を諦めたくないのかさえ分からない。 寝転んでいる間に徐々に意識が混濁して、プツリと途切れた。

 

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