Fate/grand symphony   作:マアア

6 / 6
進まないよ!


オルガマリー

 

 

「………どういうこと?」

 

 戦意の消失に反応したのかまた私の身に纏っていた装束が解け、前と同じで倦怠感が身体を覆う中、所長がそう呟きを漏らした。 荒い呼吸を何とか整えながら振り向いて若干霞む視界の中顔を見れば現実を認めたくないというより、予想を遥か斜め上に行かれて反応に困っているようにも見える。 どうしたのだろうかと思うけれど、とりあえず一番まずい状況は打開できたことと身体にいっぱいの疲労に包まれている私には皆目見当もつかない。 だけど彼女、マシュには何を言わんとしているのかが分かったのか言葉をつづけた。

 

「私の現状は―――」

 

「わかってるわよ。 デミ・サーヴァントでしょ。 私が言いたいのはどうして実験では失敗したのに今になって成功したのかっていうこととマスターがそいつなのっていうことよ!」

 

 指が指し示した先にいるのはマシュちゃんと一緒に来た遠坂君で、困惑した表情でそれに自分も分からないと答えた。

 

「本当かしら? 貴方程度のマスターが契約できるなんて思えないわ……まさか貴方マシュを無理矢理手籠めにして契約結んで従えてないでしょうねえ? 」

 

「お、落ち着いてください所長! 遠坂君実際にはヘタレっぽいですしそれは無理です!」

 

「ノッブゥ!?」

 

 驚いた表情で崩れ落ちる遠坂君に内心ちょっと言い過ぎたと謝りつつ、突き詰めるような尋問みたいな方法で遠坂君へと険しい表情のまま近づこうとする所長を止め―――逆に私に鋭い目の矛先が向く。

 

「大体貴女も何者よ! その力は一体なんなのよ、貴女一般人でしょ? 訳が分からないわ! まさか私を謀るためにカルデアに潜入したスパイだったりしないでしょうねぇ!」

 

「わ、私だってわかんないですよッ!? とりあえず落ち――――ぁ」

 

 

 

―――――不意に、視界がグラついた。

 

 

 

 身体がいう事を聞かず、受け身を取る余裕もなく倒れ込む、同時に徐々に意識に霞が掛かってくる。

 

「立花先輩!?」

 

「立花さん!?」

 

「ちょっと! ―――ああ! もう! どうなっているのよぉ! どうしてこんなことばっかり!?」

 

 所長の声が聞こえたのを最後に意識はプッツリと途絶えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 橙に近い髪の色を短く切りそろえ、血と泥で汚れたカルデアの制服に身を包んだ彼女、立花来音が崩れるように倒れ、意識を失うのを目前で見たオルガマリーはどうなっているのかと叫び、しかし魔術師である彼女の脳は既に思考を回していた。

 

 故に、彼女は来音を観察して、その状態に見覚えがある(・・・・・・)ことに気付いた。

 

「呼吸が浅い、顔色の急激な悪化、意識の根絶……まさか、魔力が無くなりかけている?」

 

 言葉にしながら現状を正しく把握するために来音の身体を触り、結果魔力、大気中の魔力素(マナ)体内で生成する魔力(オド)の二つの内、彼女の体内にある魔力が器の大きさに比べて圧倒的に少なくなっている、それこそ枯渇しかかっているといっていいほどに減っていることを理解した。

 

「えっと、それってヤバいんですか?」

 

「貴方そんなことも知らないの!? ――――っ知らないわよねぇッ!」

 

 何も知らない彼、遠坂士郎に苛立ちを隠せず、歯軋りしながらオルガマリーは口を開く。

 

「いい、一度しか言わないわよ! 大気中のマナと違ってオドは生命力を魔術回路を通して変換している物よ、それを一気に消費して枯渇寸前まで減らすなんて正気の沙汰じゃない! カルデアからの供給を受けているサーヴァントと融合したマシュは良いだろうけどこの子はそんなことしてない以上――――」

 

「命の危険、このままだと死に至る危険性がある。 そういうことです、先輩」

 

「―――大分不味いな」

 

 自身の説明と、マシュの補足も相まってようやく現状がつかめた遠坂にこれだから素人はッ! と悪態を吐きつつ、オルガマリーは既に次の手を打つためにマシュに呼びかけた。

 

「マシュ! この子をこの家屋の中に運びなさいっ! 魔力を供給して安定させます! 遠坂、貴方も中に入って、何もせずにジッとしてなさい」

 

「は、はい! 所長!」

 

「わ、わかりました、所長!」

 

 デミ・サーヴァントであるマシュの身体能力を持ってすぐさま家の中、つまり比較的安全と考えられる場所に彼女を移動させ、仰向けに寝転がさせて直ぐさまオルガマリーは唇を強く噛んだ。 血が流れるほどに、事実流血するまで噛み、痛みに若干眉を顰めながらオルガマリーは来音の口にその血と唾液を流し込み、自身の魔術回路を起動させた。

 

「――――っんむ」

 

 軽いとは決して言えない精神が内側から裏返るような痛みに顔を顰めつつ、魔力に富んだ血液と唾液を口腔を通して送り、意識のない来音の口の中に含ませ、舌で押し込むように無理矢理嚥下させる。

 

「――――っプハ!」

 

 最低限度のラインと思えるレベルまで送り、口を離して拭う。 そして一通り処置を終えて、ようやくほっとして息を吐いた。

 

「――意外です」

 

「っひ、きゅ、急に声を掛けないで頂戴マシュ。 一体何よ?」

 

 息を吐いて完全にリラックスした瞬間に掛けられた声に驚いて裏返りながら、オルガマリーはマシュへと視線を向け、その心底驚いたといった表情に疑問を返す。

 

「所長が立花先輩を助けたことです。 所長は先輩達を嫌っていたので無視するのではないかと思ったので」

 

「はあ? 何言ってるのよ?」

 

 人命救助するなんてと感心したとでも言いたげなマシュに何を言っているのだこいつはとオルガマリーはそんなわけないと返した。

 

「こいつも、そいつも嫌いよ。 だけど切り捨てたなんて知られたらカルデアにマイナスになるわ。 ……何より私に人の命を背負えるわけないじゃない」

 

 じゃなかったら絶対こんな奴助けるわけないじゃないと呟きながら、オルガマリーは視線を寝ている来音へと向けた。 先ほどに比べてずっと安定した容態に安堵したことに気付かないで。

 

 

 

 

 

オルガマリー・アニムスフィアという女性にとって、遠坂士郎と立花来音という二人の存在は筆舌に尽くしがたい、許し難い存在だった。

 

 彼女は自他ともに認める天才である。 時計塔と呼ばれる魔術の学校。 彼女がまだそこの学生の時に父が死に、すぐに家督を継いでから権力争いなどの荒波に揉まれるという悪夢のような出来事の渦中にいながらも頭角を現し、家を押し上げ、カルデアを維持しその所長となる程に。

 

その全てにレフ・ライノールという男の手助けがあったが今はどうでもいい話であり、肝心なのは彼女は優秀な人物だったという事だ。

 

彼女は優秀だった。 若くして家督を継いだが周りの禿鷹のような存在に家財を奪われないほどに。

 

彼女は優秀だった。 誰もが認めるほど才に満ち溢れていた。

 

彼女は優秀だった。 父が原型を作った過去と未来を観測するカルデアを、レフと二人で完成させるほどに。

 

彼女は優秀だった。 ―――その時までは。

 

観測装置カルデアスで突如起きたソレ。 2016年夏以降世界から文明の明かりが消失するという結果から彼女の悪夢は再び始まった。 対処するために西暦の全てを洗い出し、その結果現れた異常、つまり特異点を発見した。 そして特異点を修正するために世界の守護者である英霊を召喚するという計画をたてた。 そして、彼女はその時になって自身にマスター適正がないという事実を知ることになった。

 

 マスター適正とは一言で言ってしまえばサーヴァントを使役するにたる資質を備えているのかという話だ。 古今東西関わらず英雄というのは我が、アクが強いと相場は決まっている。 そんな存在をに気に入られるか、召喚に応じて貰えるかという適性がマスター適正であり、彼女はそれがからっきし、つまり0だった。

 

その事実を知った周囲の面々の反応は残酷極まりない物だった。

否、もとより優秀であったか彼女は疎ましく思われており、それゆえにその弱みに付け込んで鬱屈した感情が一気に噴き出したのだ。 ‘やはり貴様には無理だ、カルデアを残してとっとと去れ、私達が有効活用してやろう’ という言葉が一番わかりやすく、端的に示している物だろう。

 

ありとあらゆる人物、唯一たった一人の男を除いて皆からそう言われた彼女は、そのたった一人の男の支えに立ち上がり、自分のカルデアを手放さないために動いた。

 

その結果考案したのが世界中からマスター適正のある存在を集めてレイシフトで現地の誤差を修正するという物だった。

 

 自身に才がないのであれば優秀な自分が才のあるものを率い、指示すればいい。 そうすればカルデアを他の奴らの物にすることなどないままでいられる。

 

必死の努力もかいあって、結果は成功。 そうして選ばれたマスター候補の48人のうち46人は自分には劣るもののそれなりには優秀な魔術師、精々役に立てばいいと笑っていた。

 

だが残る二人、遠坂士郎と立花来音は違った。 二人は只の一般人だった。 魔術が何たるか、深淵の学問がどんなものであるか欠片も知識がないくせにただ一つ、マスター適正がある(私の持っていない才能がある)だけで選ばれた一般人だった。

 

逆恨みと言われればそれまでだが、それでもオルガマリーにとって許し難いことだった。 自分はマスター適正がないだけで散々な言われようだったのにこの二人はマスター適正があるだけで此処に呼ばれるほど優秀扱いかと。

 

癇に障る、気に障る、腹に据えかねる、どうせ役に立たないくせに、どうしてお前らが持っていて私は持っていない。 言葉では言い表しきれないマグマのような怒りの奔流が渦巻いた。

 

 だが、それでもオルガマリーは客観的に見てマスター適正を持つものは重要だと判断する程度の理性は合った。 両者がレイシフトに関する知識、そしてカルデアが何たるかを理解し、努力する姿勢を見せれば使ってやろうと考えるつもりはあった――――自身の講演で開始五秒で寝た上に特異点に関する初歩的な知識すらないという事実に気付くまでは。

 

 故にその事実を知った時、オルガマリーは迷わず二人をカルデアに触らせないために外に追い出そうとした。 否、実際遠坂士郎は追い出したし立花来音も追い出そうとした。 レフに止められなければ来音も追い出していたであろう。

 

 その行為は実際正しい物であると客観的に見ても言い切れる。 一年先にまで迫っている世界のタイムリミットの中、何が起きるか分からない現状で理論を一つも知らない赤子のような素人に手伝わせるなんて正気の沙汰ではない。 だがレフが言うのであれば、扱ってみる価値はある。 そう判断したが故に来音をD班に配属してレイシフトの準備を始めて――――突如意識が飛んだと思ったら彼女は此処、汚染された都市に一人でいた。

 

 混乱しなかったとはお世辞にも言えない。 突然崩壊した都市、それも今もまだ炎が燻っているどころか燃え盛っている上にまるで時が遡ったかのように濃い大気中の魔力の中に放り出されてなお混乱するななど異常でもない限り無理な話だ。

 

 だが彼女は優秀な魔術師である。 世界を俯瞰し、客観的に見つめることが魔術の基本でありそうである以上、長い間混乱したままということなどありえず、数分あれば冷静になることが出来た。 原因は何か、何があったのか? 直ぐ様そこに考えを巡らし、しかしそれを探る事には頓挫する。

 

 魔術で大きいことを成すには触媒が必要であり、カルデアではない此処では、ましてや事前準備など何もしていない今では出来ることなどたかが知れている。 現状把握など到底無理だと理解して、どうしようもなくなった彼女は歩き出す事しか出来なかった。

 

 一人ぼっちで荒廃した都市をひたすら歩きまわり、孤独感と恐怖心を押し殺して誰かに会えないかと、誰か助けてくれないかと思い、そんなわけないと諦めの弱音を吐きながら川にたどり着いて、そして川岸で死んだように寝ている立花来音を見た。

 

 当初、見た最初オルガマリーは彼女を死んでいると判断するような有様だった。 体全体にある傷。 とても浅い呼吸。 非常に青白い顔色。 根絶した意識のどれもが彼女を一目見ただけでは死んでいると印象付ける者だった。 オルガマリーもカルデアの制服を着ている存在でなければ無視しただろう。 だけど、近づいて生きていると知った時、オルガマリーは迷わず彼女を救うために動いた。

 

 それはオルガマリーがいい人だったからではなく恐怖から。 一人ぼっちの孤独はもう嫌だ、耐えられないという思いからだった。 傷を癒して、魔力を供給し、何とか安定したと思えるレベルまで達して五分くらい、早く目覚めなさいよと悪態を吐きながら頬を突き続けて、ようやく意識が回復して言った一言。 ママという寝言にビンタしながら、彼女は自分以外にようやく生存者がいたという事に安堵した。 一人ではないという事に、ようやく生きた心地が着いたのだ。

 

 そうして彼女が何も知らないことにも悪態を吐けるレベルまで回復して、ようやく自分らしく振る舞えると思った時に来音に気付かず爆弾を落とされた。

 

「ありがとうございます、オルガマリー所長」

 

 感謝の言葉、ありがとうの声。 どこまでいっても普通で、どこにでもあるありふれた言葉だった。 だがそれは魔術に染まった世界にはない純粋な声と、色を持って、オルガマリーが初めて触れた100%善意といえる言葉だった。

 

 オルガマリーは優秀だった。 やれることには全て手を打ち、当然の結果として成功が来る。 彼女にとっては当たり前であり、周りにとっても当たり前といった物だった。 レフだって、彼女が出来るのを当然とみなしていた。 そこには約束された称賛しかなく、形だけを繕った物だった。

 

 だから、来音のたった一言そのシンプルな言葉は、純粋な感謝の声は、オルガマリーにとって最も欲しかった自身を褒めてくれる、自身を認めてくれる言葉だった。 言葉で言い表せないくらい嬉しくて、初めてで、だから恥ずかしくて悪態付くしか出来なくて、それでもついてきてくれた来音に、彼女は初めてレフ以外に少しだけ心を許せることが出来た。

 

 自意識では認められなくても、無意識では多分、きっと来音なら私を見てくれると、少しだけ期待が生まれていた。

 




オルガマリーちゃんはチョロイン(死亡フラグあり)
だから来音とちゃんと絡ましたい(ゲス顔)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。