9層を走り10層の『玉座の間』にたどり着いた。
「モモンガさん、お待たせしました。」
するとモモンガさんは弄っていた手元のコンソールから顔を上げ、入ってきたばかりの私を見て、
「は、早かったですねジンライさん。」
と、慌ててコンソールを閉じながら言った。
「あ、アルベドいる。セバスとプレアデスも連れてきたんですね。
ところで何をしていたんですか?」
「いえいえ何も、何もしていませんよ!?」
慌てるモモンガさん。怪しい…
「正直に言ってください。何をしていたんですか?」
「…笑いません?」
「笑いませんから。」
「…本当に?」
「本当ですって。」
「……じゃあ…」
そう言うとモモンガさんはコンソールを出した。
それを横から覗く。これは…アルベドの設定?そういえばアルベドは設定魔のタブラさんの三姉妹の内の次女だったっけ。
タブラさんの娘だけあって設定長いなぁ………あれ?
「あれ?『モモンガを愛している。』?
たしかアルベドはビッチ設定のはずじゃ?」
たしかタブラさんが自分のNPCを自慢してるときにアルベドはビッチ設定と隠し設定(モモンガさんだけに)だって言っていたような気が…
「それが、最後までビッチじゃあまりにも可哀想で。守護者統括としてもその設定はどうかと思いまして…」
「だからといって『モモンガを愛している。』って…て、私が言う台詞じゃないですね、自分のNPCにあんな設定付けているんですし。しかしモモンガさん?」
「はい?なんですか?」
「ログアウトしたらタブラさんに『お父さん、娘さんを僕にください』って言わないと駄目ですよ?」
「は?え?ちょ!えぇぇぇ!?」
「だってこれどうみてもそうじゃないですか。」
「あ、確かに…じゃなくて、いきなり何を言ってるんですか!」
モモンガさんは知らない。実はアルベドの設定の随所に『モモンガに恋をしていて』だの『モモンガを尊敬しており』だのが散りばめられていることに…
つまり父親公認なので、ログアウト後にモモンガさんがタブラさんに『すみません、アルベドの設定をいじり、モモンガを愛していると書き換えました。』と言っても『了承。というかむしろ貰ってくれるのが遅い』と帰ってくるのである。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。アルベド、好みなんでしょう?」
「いや、まあ…それは…その…」
「だったらいいじゃないですか。それにほら、最後なんですし悔いのないように…ね?」
「悔い…悔いですか…パンドラズ・アクターは直してる時間は無いしなぁ…」
「えー?パンドラズ・アクターは格好いいじゃないですか。軍服とかドイツ語とか。」
「私にとっては黒歴史なんですよ。ジンライさんにとってのマグロ食ってるやつなんですよ。」
「あ、それは許せんわ。」
「あっさり!?」
びっくりしてるモモンガさんを余所に、私はエセルドレーダとレンを私の前側左右に配置した後、『ひれ伏せ』コマンドを宣言した。
「しかしジンライさん、助かりました。ギルドの維持費俺1人じゃ大変だったので。」
「私も毎日来れればよかったんですがね。どうしても仕事の都合上来れなかったりしたもんですから。」
「いえ、それでも助かりましたよ。なるべく宝物殿の物には手を出したくなかったものですから。」
「宝物殿で思い出しました。実は私、ワールドアイテム3つ手に入れまして。」
「え!?ワールドアイテムをですか!?」
「はい。精神・パラメーター・ステータス異常完全耐性と防御・魔防Ⅳ、刺突・斬撃・打撃耐性Ⅳをつける『造物主の肉体』、単純にステータスやスキル、魔法の効果・攻撃力を倍増させる『限界突破の牙』、異形種・人間族に自由に肉体を変化させることのできる『千変万化』の3つです。」
「どうやって手に入れたんです?」
「もう最後だからということで、最強のワールドエネミーになった私と戦いたいと私と同じゴジラファンの方々や、個人的に親好の深かったギルド。あとは一昨日行った街防衛イベントの景品で貰いました。」
「はぁー、凄いですね…ん?街防衛イベント?なんですかそれ?」
「私が街に侵攻するので、それをプレイヤーの皆で防衛するというイベントですよ。『造物主の肉体』と『限界突破の牙』があったので楽勝でしたね。ちなみに発案は運営です。」
「運営発案!?クエストじゃないですか!?何人ほど集まったんですか?」
「だいたい6~7、800人ほどですね。最初の放射熱線で1/3が吹き飛びました。さすがは残った猛者だけはありましたよ、HPが久々にレッドゾーン行きましたもん。」
「ジンライさんHPが赤くなってからが本番ですもんね?バーニングしたりスパイラル熱線吐いたり体内放射(全体攻撃)連発したり…あれ?ワールドアイテム装備してたのにレッドゾーンいったんですか?」
「はい。ワールド職業持ちやワールドアイテム持ちも居たみたいです。あとは超位魔法も何十発喰らいましたかね?」
「それでまだ余裕があると…」
「だって運営からバーニングやスパイラル熱線、全体攻撃連発はHPレッドゾーンになってからってお達しが…やろうと思えば最初からクライマックスにできたわけですし。ま、お遊びですよ、お遊び。」
「ところで『千変万化』なんですが、前2つに比べてワールドアイテムにしては些か地味な能力ですね?」
「実はとんでもないアイテムなんですよ?」
「と、いいますと?」
わくわくした声でモモンガさんは問う
「人間種・異形種の制限無く、つまりどんな種族にもなれます。それこそ雑魚モンスターから人間種、ワールドエネミーだろうが何にでも。正直パンドラズ・アクターの能力の完全上位互換なんですよ。しかもレベル制限も無く、スキルも完全再現なんですよ。さすがに装備品やアイテムは別ですが。」
「…ドッペルゲンガー涙目ですね。外装データとスキルデータさえあれば誰にでも成れるアイテムですか…結構なチートですね…」
「しかもモンスターデータは『千変万化』内に登録済みですからね。人間種《盗賊》にも《ワールドエネミー》にでもなれますよ。ついでにオリジナルも出来てしまう優れもの。」
「しかしワールドアイテムが景品の単体クエストって何か変じゃないですか?普通難解な連続クエストをクリアするか隠しエリアに隠されてるかですよね?」
モモンガさんが怪訝そうな声で尋ねる。
「もともと運営も『ドッペルゲンガーのお株を奪うから』ってことでもて余していた所に最後の最後になって『せっかく創ったのに最後まで公表しないのは勿体ない』からってことで奮発したそうですよ。」
「奮発って…そんなレベルじゃないでしょうこれ。仮にもワールドアイテムですよ?」
「ま、我等がアインズ・ウール・ゴウンにまた3つ、新たなワールドアイテムが登録されたということで。」
「軽いなぁジンライさん。」
などと近況報告や雑談をしていると、終了の時間が近付いてきた。
「そろそろですね…」
「ですねぇ…」
その骨の指を旗に向けながらモモンガさんが旗を数え始める。
「俺、たっち・みー、死獣天朱雀、餡ころもっちもち、ヘロヘロ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、タブラ・スマラグディナ、武人建御雷、ばりあぶる・たりすまん、源次郎……」
ギルドの皆の名前を上げはじめる。
「……そしてジンライさん。」
全41名の名を上げ終えた。
「楽しかったなぁ……」
「私もです。給料どのくらい注ぎ込んだことか。」
「俺なんかこれ《流れ星の指輪(シューティングスター)》1つ手にいれるためにボーナス全額くじに注ぎ込みましたからね?」
「それたしかやまいこさんが昼飯一回分で当てたやつでしたよね?」
「あの時は転げ回って悔しがりましたよ。」
「……ほんと、楽しかったなぁ……」
「ええ……」
もう間もなく皆で楽しんだユグドラシルは終わりを告げようとしている。
「俺、このサーバーが落ちたらすぐ寝ないと明日の仕事に差し支えが……」
「私もです。朝一でシフトが入ってます。」
時計がもうすぐ0時を指す。
「ジンライさん、最後まで居てくれてありがとうございます。」
「こちらこそ。最後まで一緒に居てくれてありがとうございます。また新しいゲーム始めたら真っ先に連絡しますので、一緒に遊びましょうね?」
「はい、ぜひ。」
そして私とモモンガさんは目を閉じた。
時計は0時に迫り、そして……
0時を過ぎた。
「……ん?」
「……あれ?」
「どういうことだ?」
「どういうことなんでしょう?」
0時を過ぎてもサーバーダウンが起こらない現状に慌てだす。
「サーバーダウンが延期になった?」
「わかりません。コンソール……は開きませんし、GMコールは……繋がりません。強制終了もやってみましたが出来ません。」
コンソールやら色々いじってるが何の反応もない。どったのこれ?
「……どういうことだ?」
モモンガさんの疑問の声が玉座の間に響く。と、
「どうかなさいましたか?モモンガ様?ジンライ様?」
初めて聞く女性の綺麗な声。
私とモモンガさんがそちらを向くと――
それは喋ったり勝手に動かないはずのNPC、アルベドのものだった。
「何か問題がございましたか、モモンガ様?ジンライ様?」
それに私とモモンガさんは答えを返せずにいる。
なぜなら
〈モモンガさんモモンガさん〉
〈うぉぅあ!?ジ、ジンライさん!?あ、メッセージか。〉
〈アルベドが、アルベドが喋ってますよ!?口も動いてるー!?どうなってるのこれ!?〉
絶賛混乱中だったからだ。
〈ちょ、おちつ…落ち着きましょうジンライさん。焦ってはだめです、ぷにっと萌えさんの教えを思い出すのです。〉
〈どうしてそう落ち着いていられるんですか!?あれ?匂いまでする…って匂い!?ユグドラシルに匂いは搭載されてませんでしたよね?〉
〈はい。搭載されてないはずです。それとさっきから気分が高揚するたびに落ち着くんですよ、まるで抑制されているみたいに。〉
〈なにそれ便利……あ、落ち着いてきた。〉
〈やっとですか。とりあえずアルベドに返答してみますね?〉
〈お願いします。〉
「うむ、……GMコールが効かないようだ。アルベド、何か解らないか?」
するとアルベドは恐縮したかのように畏まり、こう言った。
「お許しを、無知な私ではGMコールについてお答えすることができません。この失態を払拭する機会を戴けるのであれば、これに勝る喜びはございません。」
「よい、お前の全てを許そう。アルベドよ。」
うーん…NPCが喋ったり口が動いたりだからなにかしら知っているかと思ったんだけどなぁ…
……ん?NPCが喋ったり口が動いたり?匂いもあるしこれってもしかして現実?100年ほど前に小説や二次創作、アニメで流行った現実から異世界への来訪系?これで魔法やスキルも使えればまんま異世界来訪チート系じゃないか?
うひゃっほい!…と喜ぶ前にまずは現状確認だな。
〈モモンガさん、もしかしてこれ、ユグドラシルが現実になってるのでは?〉
〈そんなまさか。アニメやゲームではあるまいし。〉
〈ですが現状を考えるとそうとしか思えませんよ?アルベドもコマンド外の言葉にも反応してますし。〉
〈うーん…もう少し情報が欲しいところですね。そうだ!〉
「セバス!」
「はい、何でございましょう?モモンガ様。」
セバスも喋るのか。これはいよいよゲームが現実になった線が濃厚だぞ。
「プレアデスの内1人を連れて、ナザリックの周辺1kmを探れ。知的生命体がいれば友好的に連れてくるのだ。よいか?あくまで友好的にだぞ?交渉の際は相手の条件をほぼ聞き入れても構わない。残りのプレアデス達は9層にて警戒にあたれ。」
『はい、かしこまりました。モモンガ様。』
セバスとプレアデス達はそう言うと一礼をして玉座の間から退室した。
なるほど、まずは周辺の地形の把握からか。流石はモモンガさん、私より現実を見ている。
「ではモモンガ様。私はいかがいたしましょうか?」
「ああ……そうだな……私の元まで来い。」
「はい」
ん?モモンガさんアルベドを呼んで何を…ってアルベド近い!?近いよ!?もう少しでモモンガさんに抱きつけるよ!?
そう思っているとモモンガさんはアルベドの腕を掴んだ。
「んっ…」
あれ?アルベドの表情まるで痛みに耐えつつも嬉しそうな顔で…痛み?
〈モモンガさんモモンガさん、アルベド痛がってません?〉
〈痛がる?俺は痛みを与えるような事は何も…まさかアクティブスキルの《負の接触(ネガティブタッチ)》か?フレンドリーファイアが解禁されている?〉
〈とりあえずネガティブタッチは切りましょう。いつまでもアルベドに痛みを与えてはいけませんし。〉
〈そうですね。〉
そう言うとモモンガさんはネガティブタッチを切った。アルベドの顔から痛みが感じられなくなったのがうかがえる。
しかしモモンガさんは何故アルベドの腕を掴んだのだろう?
〈ジンライさん、アルベドの腕から体温と脈拍を感じとることができました。アルベドは生きています。〉
〈あ、その為に掴んだんですね?〉
〈はい。あとは……あの、ジンライさん?〉
〈なんでしょう?〉
〈これからすることに対してその…引かないで下さいね?〉
〈…あの…なにを…〉
「ア、アルベドよ!!」
「はい、何でございましょう?モモンガ様。」
「む…胸を触ってもよ…よいか?」
なに言っちゃってるのモモンガさぁぁぁぁん!?
「どうぞ!!お好きなようになさってください!!」
アルベドOKしたぁぁぁぁ!?しかも凄く嬉しそうに……嬉しそう?……まさか、設定がそのまま反映されているのか?もしかしてフレーバーテキストも反映されているのか?だとしたら私の異形《ゴジラ》形態がかなりヤバい事になるぞ……調子に乗ってあんなこと書くんじゃなかった…
「…んっ……あっ………あん……んあっ……はぁ……」
〈っていつまで揉んでんのモモンガさん!?〉
〈あ!?いえ!?これは18禁行為に触れる行動をとれば運営と連絡がつくかもと思いましてですね…〉
〈まずはその手を離してから言おうか?〉
「ア、アルベド…すまなかったな。」
「あぁ、私はここで初めてを迎えるのですね!」
「は?」「え?」
「服はどういたしましょうか?脱いだ方がよろしいですか?それともモモンガ様が?」
アルベド大★暴★走♪
「ま、待つのだアルベドよ!今はそういう事をしている場合ではない!」
「そ、そうですアルベド。少し落ち着きなさい。ほら、深呼吸深呼吸。」
「すぅー…はぁ……取り乱してしまい申し訳ありません、モモンガ様、ジンライ様。」
〈なんとかなりましたねジンライさん。〉
〈ですね。とりあえずこれからどうしましょうか?〉
〈まずはナザリックの機能を確かめなければいけません。その後に魔法やスキル・アイテムの確認、NPC達の忠誠度を確かめないと。後ろからグサッと殺られたくないですからね。〉
〈なるほど。あ、私のNPC達の忠誠度は大丈夫かもしれません。設定にあんなこと書いてますし。〉
〈それでも一応は調べておきましょう。なんらかの不具合があってはいけませんし。〉
〈それもそうですね。〉
「アルベドよ、命じたいことがある。」
「なんなりとお命じください。」
「うむ、では命令だアルベドよ。今から2時間後、第6層アンフィテアトルムに全階層守護者を集めよ。アウラとマーレには私が直接向かうので連絡は不要だ。」
「はい。かしこまりました。…ところで」
「ん?どうした?」
アルベドは此方を…より具体的には先程から一言も喋らず、私の前に膝まづいたままじっと此方を見ているエセルドレーダとレンを見ていた。
…というか私が見たとたん喜色満面の顔をしてないか二人共?より具体的にはエセルドレーダは頬を赤らめ陶酔したような目を向け、レンはただただ此方をじっと…ただしぼーっと上気した瞳で見ている。
「そちらの二人はどうするつもりなのですか?」
「…私達はマスターの命のままに。」
「…………(コクコク)」
あぁ…エセルドレーダがちゃんと設定した声で喋ってる…レンはやっぱり喋れないんだな。まぁそう設定したんだけれども。…メッセージならいけるかな?
まぁ、その前に。
「アルベドよ」
「はい、何でございましょう?ジンライ様?」
「この二人はナザリック所属ではあるが、厳密には私個人の所有物だ。これはモモンガさんにも許可をとってある。」
〈いいですよね?〉
〈まあ、いいですよ。というかみなさん元々そんな感じで見てましたからね?〉
〈え?そんな感じに見られていたんですか?〉
〈まあ貴重なレベル100NPC二人をどこにも配属させず、個室に置いたままでしたからね。〉
〈だって私の理想の嫁達ですよ!?二人別々の所に配属は嫌でしたし、二人一緒となると能力的にシャルティアと組む事になりますよね?ペロロンチーノさんに聞いたんですけど、シャルティアには同性愛も設定してあるって言われてそれも嫌だったんですよ!?〉
〈ペロロンチーノェ…〉
「まことでございますか?モモンガ様」
「あ…ああ、本当だ。私をはじめ、40人全ての了承を得ている。」
というかさっき所有物扱いしてから二人からの視線がさらに熱くネットリとしたものに変わってきてるんですけど!?
何!?所有物扱いされたことがそんなに嬉しかったの!?そんなに私個人の物扱いされることに喜びを感じたの!?どんだけだよ忠誠心(愛情)!?
「ジンライ様、それでは二人に何とお命じになるのですか?」
「私の所有物だからな。私の傍に仕えるのが当然だろう?」
「あぁ…マスター…」
「…………(ぽーっ)」
なんかより視線が熱くなったよ!?
「しかし常に私の傍に仕えさせる訳ではない。場合によっては使い潰す予定だ。」
まぁ、使い潰す(意味深)予定ではあるけどね?
「あぁ…マスター…使い潰して頂けるなんてなんと光栄な…」
「…………(ぼんっ)」
「至高の御方直々に使い潰して頂けるなんて……なんて羨ましい。わ、私もモモンガ様に…」
なんかより悪化したよ!?いや嫌われるよりはましだけど。というかアルベドお前もか…
「ん゛っんん、アルベドよ、そろそろ行動に移せ。」
「は、はい!申し訳ありません、モモンガ様。」
そう言うとアルベドは一礼をして玉座の間から去っていった。
「はぁ……ジンライさん、俺はタブラさんの設定を歪めてしまった…」
「それについては後で報告が、今は後悔より先に行動ですよ。まずは玉座の間の機能から確認していきましょう。」
「いやしかし…ですが、そう…ですね。今はやるべきことをやらないと。」
私とモモンガさんは行動を開始した。
色々と荒がありますが、とりあえずこれで。
…なんかズレてる感じがするんですよねぇ…