嘗てマギ・ヴァル大陸全土を震撼させた通称〝マギ・ヴァル戦乱〟からおよそ数十年。
嘗ては戦乱に荒れた諸国だが、今では平穏を取り戻している。
〝賢王〟ヘイデンが治めていたフレリア王国は、ヘイデンの死去後、父王譲りの知略を持つ〝氷の王子〟ヒーニアスと〝健気な野花〟ターナ王女の活躍により、再建の道を順調に進んでいた。
〝白沙の女王〟イシュメアが治めていたジャハナ王国は、若くして即位した〝風沙の剣聖〟ヨシュアの手により、国内を騒がせた反乱も鎮まり、人々は再び穏やかな生活を送り始めた。
〝正教皇〟マンセルが治めていたロストン聖教国は、マンセルの孫である〝黄金の薔薇〟ラーチェルの手により、一度は陥落の危機にあったロストン城の聖域を守りきり、グラドの残敗兵の侵略から守ったと同時に国民の信仰心をより一層高めた。
一度は親グラド派とフレリア派に分かれたカルチノ共和国も、他国からの援助により何とか立て直していった。
そして、戦乱の全てが始まったグラド帝国では、リオン皇子が側室との間に儲けていた子供達が新皇帝として即位した長男のヴァレスを支えながら復興の道に進んでいた。
そして〝勇王〟ファードにより統治されていたルネス王国は、父王亡き後即位した〝勇猛なる炎〟エフラムとそれを支える妹の〝気高き旋風〟エイリークの手により、嘗てはグラドの侵略により荒廃していたルネス王国も、徐々に復興していき、事実上の大陸を束ねる盟主となった。
しかし、運命とは残酷なものである。
一度狂い出せば取り返しのつかなくなる歯車と同様、一度何処かが狂えばそれは全てに影響する。
しかし、もしも運命という名の歯車が狂っているのに気付き、それを直す者がいたら。
この物語は、そんな狂いだした運命の歯車を直そうと奮闘した英雄逹の物語である───
*
*
*
─ルネス城事務室─
ルネス王国第一王子アーサーは、額に手を付き唸り声を上げていた。
母親譲りの性格と華麗な剣術。
異性の気を引くのには充分すぎる美貌を苦渋に歪ませている。
その理由は、手元に握られた一つの報告書にあった。
それは、〝マギ・ヴァル戦乱〟にてエイリークの補佐をしその功績によりルネス領の一つマレス領侯爵となった〝真銀の騎士〟ゼトの息子エドワードが領内の見回りにいった際の報告書だった。
《ルネス王太子アーサー様。
父の命令により領内の見回りを数名の部下と共にしたところ、突然黒ずくめの一団に襲撃され、大半の部下を失い残った部下と逃亡しました。父上にこの事を報告したところ、他にも見回りに出掛けた他の者達も全員帰還しておらず彼等は騎士崩れの山賊である可能性があると申していた為、急遽報告書を製作する事になりました。急な報告書の提出を忙しい中受け取って下さり、誠に申し訳ありません。それでは、どうか御元気で。
ルネス領マレス公子エドワード》
この報告書の内容は、アーサーの悩みの種となった。
只の山賊ならば正視の訓練を受けている騎士が負ける筈が無い。
しかし、それが騎士崩れの山賊ならば話は別だ。
騎士崩れの山賊はその名の通り正視の騎士が山賊に成り下がった者達だ。
その為、その辺の山賊よりも武具や防具も充実しており、騎士に格好を似せる事も出来る為食料の徴収に来た騎士を装って村に簡単に侵入出来る。
しかし、何より恐ろしいのは正視軍に所属していた時に施された訓練がそのまま村等を襲う時に実力に投影されるという事だ。
その為、並みの賊よりも手強く、殺生を平気で繰り返している為人の命を奪う事に抵抗が一切無く、実力も合わさって正視の騎士でも負ける事がある。
もし何か被害が出てからでは遅いのだ。
しかし、いくら信頼を置くエドワードの話でも、俄に信じがたい話だ。
けれども、嘗て父が仕えていた主君に法螺を吹く等到底考えられない。
そう自問自答を繰り返す為、何時まで経っても名案はアーサーの脳裏に浮かばない。
また自問自答の沼に沈みかけたアーサーを救ったのは、思いがけないも者だった。
事務室の扉が勢い良く開き、そこから新人騎士のホリルが姿を現した。
戦闘の支障を来すのを防ぐ為に眉毛の辺りで切られた前髪が自身の内心の慌てさを表す様に左右に揺れている。
ホリルはアーサーに報告を大慌てで告げた。
「アーサー様!ボルゴ峠の山賊共が周囲の村を襲っています!」
唐突にホリルの口から伝えられた山賊の出没に慌てたアーサーだが、ふと脳裏に伯父のエフラムの言葉が過る。
『軍を率いる将が不安や苛立ちを見せれば、それは兵士達にも伝わり、やがて軍は壊れてしまう。将は何時も冷静を保つのが重要だ。』
その言葉に、アーサーは顔を引き締める。
(戦上手の伯父上の言葉だから、大切にしなければ。)
内心に慌てた心を押し隠し、アーサーは母親から譲り受けたレイピアを腰に差し、毅然とした足取りで初の戦場ヘと向かった。
*
*
*
─某村─
ボルゴ山賊団の幹部であるザグは、戦場に姿を現し始めたルネス騎士団に対し不安を覚えた。
軍を率いる将が不安や苛立ちを見せれば、それは兵士達にも伝わり、やがて軍は壊れてしまう。
ルネス軍にとって重要な基盤であるこの戦に措ける知識が欠けていたザグは、不安の余り村を意味も無く徘徊し始めた。
それを見た部下も無論不安の感情を抱く。
やがてそれは、人を理解不能な心理ヘと導く。
ザグは僅かな希望を賭け、精鋭と名高いルネス騎士団に特効を仕掛ける事を部下に命令した。
意味も無く賛同した彼等は、哀れにも出陣したルネス騎士団に特効を仕掛ける。
無論、アーサーも敵将を倒す為戦場を移動中襲撃された。
しかし、無駄な動き一つ無いアーサーの剣術に返り討ちに逢い、戦場に横たわる骸と化す。
そしてとうとう、ザグは絶望的な状況に追い詰められてしまった。
レイピアの切っ先をザグに向け、アーサーは言う。
「お前は今此所で死ぬか牢獄に収監されるか、どっちが良い?」
その言葉に、ザグは数秒地面に視線を落とした後、こう言った。
「そりゃ無論、牢獄に入る…………訳ねぇだろうが!死ね!」
次の瞬間、一瞬の隙を付きザグがアーサーに襲いかかって来た。
寸でのところで斧を回避したアーサーは、ザグの隙を探る。
自身が殺される事を理解してか、滅茶苦茶に斧を振り回すそれは哀れな者だった。
隙は至る所にあったが、ザグは自分に向かって突進してくる。
隙を抉ろうにも、レイピアという細身の剣では振り回す肉厚の斧には耐えきれない。
思案したアーサーの脳裏に突然一つの奇策が浮かび上がった。
それは失敗すれば大怪我どころでは済まされない。
けれども成功すれば多少怪我はあれどザグの隙を的確に付ける。
それは自身の命を天秤に賭けた大胆な奇策だった。
二.三歩後退したアーサーは突然、ザグに向かって逆に突進していった。
その馬鹿げた行為に一瞬ザグの手が止まる。
それがアーサーの狙いだった。
助走をつけたアーサーは一気にザグの前で跳躍した。
勢いに任せザグの後ろに着地すると、レイピアをザグに突き立てる。
ザグは数秒宙を泳いだ後、数十人の部下と共に戦場に横たわる骸と空しく化したのだった。
*
*
*
山賊を一掃したアーサー等は、城に帰還した。
そのまま疲れきった体に鞭打ちながら、事務室ヘと入る。
謎の黒ずくめの一団の問題が事務椅子に座った途端、押し寄せてくる。
そんな負の気を払う様に首を左右に振ると、アーサーは報告書やルネス内で勃発した問題が記された紙が山積みとなった事務机ヘと減なりとした気持ちを含んだ視線を向けた。
やるしかない。
気合いを入れたアーサーは再び事務机に山積みとなった資料に手を伸ばした。
空はすでに濃紺に変わりつつあった────
*
*
*
*
キャラクター紹介パート1
アーサー
国籍:ルネス
年齢:16歳
両親:母親 エイリーク 父親 ヒーニアス
クラス:ロード
使用武器:剣
(これから先増える可能性があります。)
初期装備
レイピア
傷薬
レベル:1
武器レベル:剣D
属性:光
スキル
追撃
見切り
指揮官
(アーサー専用スキル。周囲に味方がいる場合その味方の攻撃力、防御力、攻速が+5される。)
未完の器
(ロード専用スキル。スキル発動率が5%上昇する。)
ルネス王家の王子。伯父に変わり、ルネス王国の政事の一部を手伝っている。心優しく、母に似て争い事を嫌う。美形で、異性からの人気は絶大。
ホリル
国籍:ルネス
年齢:17歳
両親: 母親 アメリア 父親 フランツ
クラス:ソシアルナイト
使用武器:剣 槍
初期装備
鉄の剣
手槍
傷薬
レベル:1
武器レベル:剣E槍D
属性:光
スキル
追撃
必殺+5
ルネス騎士団の新米騎士。ルネス騎士フランツとグラド騎士アメリアとの間に生まれた少年。(今章では余り出ている場面は少なかったが、次では機会を設けるつもりです。)
今章をお読み頂き誠に有り難う御座います。序章でかなりの文字数となってしまった事をここに御詫びします。
スキルについてですが、《ファイアーエムブレム》シリーズの一つ、《聖戦の系譜》のスキルを採用しています。
コメント御待ち致します。
それではまた次回、お会いしましょう。