デート・ア・ライブ-GOLD KIGHT GARO- 作:深淵騎士
冴島邸・ダイニングルーム―― AM 8:03
「……」
朝食を取っている千牙と四糸乃。スープを飲んでいた千牙は手を止めて数秒間、物思いに耽る。
『どうしたんだい千牙くん?』
「具合……悪いんですか?」
「いや、何でもない」
とは言うものも何処か暗い雰囲気を出す千牙。
「えっと、何か悩み事でしたら私に言ってください……私、出来ることは少ないですけど抱え込むよりはいいと思いますから……」
「四糸乃……」
彼は微笑み四糸乃の頭を優しく撫でる。
「ありがとう四糸乃、そう言ってくれると嬉しいよ。けど大丈夫だ、気持ちだけ受け取っておくよ」
「……」
スープを飲み終え、千牙は椅子から腰を離し台座に置いていたザルバを手に取る。
「起きろザルバ、行くぞ」
「あー……なんだ、千牙。もっと休みたかったぜ」
「……フッ」
ザルバを指へと嵌め
「行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
『行ってらっしゃ~い』
千牙は扉を出ていき、部屋に残った四糸乃とよしのんは顔を見合せ
「千牙さん……大丈夫かな、思い詰めてるような気がしたけど……」
『四糸乃は千牙くんの事心配なんだね?』
「……だって千牙さんは私にとって……」
玄関へと向かう途中、ゴンザと鉢合わせした千牙。
「千牙様、街へ行かれるのですね」
「ああ、留守は頼んだぞ」
「かしこまりました……ああ、それとですね」
何やら胸ポケットからチケットを四枚程取り出す。
「先日商店街で福引きをしたらオーシャンパークの無料券が当たりまして」
「おお、凄いな、よく当てたなゴンザ」
「いえいえ、私が持っていても仕方ありませんので、千牙様にお渡ししようと思いまして」
ゴンザからチケットを受け取り、千牙は少し苦笑いになる。
「それこそ俺のような男が持っていても仕方がないだろう、けどありがたく受けとるよ、何か機会があるかもしれないからな」
コートに仕舞い
「それじゃあ行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
※
天宮市・住宅地――AM 9:05
「確かこの辺りだったな」
「なあ千牙、何処に向かってるんだ?」
「着けばわかるさ」
街に出て早々、彼は住宅地へと足を運び何処かへと向かう。その目的地とは……
「んん?ここは……」
五河と書かれた札、ザルバは「成る程」と声を出す。千牙はインターホンを鳴らすと一分もしないうちに玄関が開く。
「どちら様で……」
出てきたのは士道だ。
「千牙さん……」
「少し話しがしたいのだが」
「は、はい、上がってください」
千牙を家に招き入れる士道。
「コーヒーしかないんですけど……」
テーブルにカップを置く。
「すまないな、突然来てしまって」
「気にしないでください」
「……」
千牙は横目で居間を見渡す。部屋は彼と士道しか居らず、静けさが感じられた。
「士道、十香と琴里はどうした?」
「今、二人ともフラクシナスに居ます……千牙さん」
士道はテーブルに額が付きそうなほど頭を下げる。
「琴里を止めてくれてありがとうございます。琴里も感謝してると言ってました」
「別にいい、お前らが無事で何よりだ……それより、どうなんだ琴里の状況は」
「……琴里は――」
士道は先日の事の後に令音から聞いたことを一部千牙に話す。
“彼女は精霊の力を持った人間”であり、五年前に精霊となったと。彼女が狂三に更に攻撃を加えようとした時、精霊の力を抑えきれなかった故にと。そして今の彼女が彼女で居られるのは時間が無く、明後日デートをし、霊力を封印しなければ次のチャンスは無いと。
「俺、怖いんです琴里が琴里じゃ無くなってしまうのが……」
「だからこそ救いたいんだろう、十香と同じように」
「はい……けどもし上手くいかなったらと思うと……」
内気な士道にザルバがふんと笑い
「随分と腰抜けになったもんだな、俺様はお前さんを少しは勇気のあるボウヤだと見込んでたんだが、検討違いのようだな」
「ッ……」
「ザルバ、少し静かにしてろ」
千牙はザルバから士道に視線を戻す。
「俺はお前なら琴里を救うことができると思っていると確信しているし、それにお前は俺には無いものを持っている」
「千牙さんに無いもの……?」
「妹を思う気持ちだ」
「!?」
何処か悲しげな眼で千牙は語る。
「俺には兄弟は居ない、だが兄はどんなときだろうが妹を守るものだと、助けるものだと知っている。士道、琴里を救えるのはお前しか居ないんだ……臆するな、自分を信じろ、そして……琴里を救うんだ」
一転し彼の眼は鋭くまさに狼のような力強い眼光となる。
「……解りました、俺やってみます、琴里を救って見せます!」
彼もまた覚悟を決めた表情へと変わっていた。
「ならこれを持っていけ」
コートの内から出したのは朝、ゴンザから受け取ったオーシャンパークのチケットだ。
「ゴンザから貰ったんだ、俺がこういうのを持っていも仕方ない、琴里とのデートに使え」
「ありがとうございます……俺、千牙さんに助けてもらってばかりで……」
「ふっ、気にするな。次いでに十香でも連れていけばいい……しかし一枚余るな……」
一人、彼の頭のなかに少女が思い浮かぶ。
「すまないが、四糸乃も連れていって貰えないだろうか」
「えっ、四糸乃ですか?」
「何時も家に居てばかりではと思ってな、たまには思いっきり遊んで来てほしいんだ」
「そうですね……令音さんに言っておきます」
「助かる」
彼は士道に淹れてもらったコーヒーを口にし、ふと士道を見ると何か言いたげな顔をしておりカップの置く。
「あの、千牙さん」
「何だ?」
「あのときは状況が状況だったので聞けなかったんですけど、千牙さんと狂三ってどういう関係なんですか?」
まさかの質問に千牙は驚く。
「何でそんなことを聞く?」
「昨日の狂三の様子を見てて、千牙さんに尋常じゃなく執着してるような気がしまして」
「ふむ……」
軽く唸り腕を組む。
「昔にあいつと何かが合ったらしいのだが……覚えてないんだ……朝もそれで考え事をしていて四糸乃に心配されてしまってな……」
「そうだったんですか……」
「まあいずれ思い出すだろうからな。さて、そろそろ失礼する」
「はい、本当にありがとうございます、千牙さん」
居間を出て玄関から出ようとしたが、千牙は途中で止まり
「琴里の事、救ってやれよ」
「はい、必ず……!」
千牙は頷き五河宅を後にする。
※
天宮市・市街地―― PM 7:32
太陽は沈み、街の光が夜を照らす時刻になった天宮市。人混みの中を通り抜け、魔戒騎士は今日も標的を探す。
『千牙、奴の気配だが少しだけ感じるぞ』
『わかった、このまま続けてくれ』
そのまま歩き続ける千牙。
夜には目立つ彼の魔法衣には、彼の事を知る者以外の目から認識され難い特殊な細工が施されてある。その為このような人混みでも注目されることはまず無い。
「……?」
彼は歩みを止め、何処か一点を見つめる。
『どうした?』
『……いや』
誰かが呼んだような気がした、千牙の視線の先にあるのは以前、士道が十香の霊力を封印した公園だ。
「何だ、一体……」
同時刻、高台の公園にてツインテールの少女が明かりの灯った天宮市を見下ろしている。
「……」
精霊、時裂狂三の表情は優れない。彼女の頭のなかに有るのは一つの青年の事だけ。
「千牙さん……」
彼は自分との約束を忘れていた、自分は再会を楽しみに待っていた、だが彼は何も覚えていなかった。あの時は子供だったから?違う、きっと何か原因があって彼は自分との記憶が無いのだろう。そうに決まっている、冴島千牙はそう簡単に他人を忘れるような男ではない。
柵に乗せている手を強く握りしめる。
「……誰ですの?」
振り替えると黒一色に染まった青年が居る。
「あらあら、見つかってしまいましたわね」
「ククク……ようやく会えたな、本体様よ」
輝は巨大な鎌を右手に持つ。
「今度こそお前を喰らわせてもらうぞ」
「そう簡単にはいきませんわよ」
右手を掲げ
「おいでなさい、
狂三の背後に自身の天使、刻々帝を出現させ両手に銃を構える。
(とは言ったものの……今の疲労した私で何処までやれるか解りませんが……)
先日の琴里との戦いが想像以上に堪えている狂三。
「無駄だ、お前では俺には勝てない」
輝は柄頭を地面へ突くと、彼は姿を変え異形の鎧騎士の姿へと変貌する。
「七の弾《ザイン》!」
相手の時間を止める弾丸、七の弾を輝に撃ち込む。
「無駄だと言っているだろう」
振るわれた鎌から黒い斬撃が発生し、七の弾を打ち消しつつ狂三へと向かう。
「くっ!一の弾《アレフ》!」
一の弾を頭に撃ち込み、斬撃を回避する狂三だが
「遅いな」
「ッ!かはっ!!」
回避した先に輝が移動しており、掌打を腹に受ける。地に横たわる狂三は腹を抑えながら輝を紅と金の瞳で睨む。
「どうした、その程度か?」
「舐めないでくださいまし」
彼女の影が広がり、そこから五人の狂三が現れる。
「分身体か……そんなものでどうするつもりだ」
狂三達は輝を囲み銃口をそれぞれ向ける。
「私達!」
彼女の言葉と共に皆引き金を引く。弾丸は輝の身体に当たるが、どれも弾かれ傷一つつけることも出来ない。煩わしくなった輝は鎌を水平に持ち
「鬱陶しい」
その場で回転、斬撃を飛ばし狂三の分身体を全て掻き飛ばした。
「精霊が……ホラーとである俺に勝てるわけが無いだろう」
「……」
さて、と輝は狂三に向き直り
「初めてお前を見たときの事を思い出すよ、お前は美しく、強く、そして残虐だ……そんなお前を手に入れたかった……今それが叶う……」
「……ッ」
ゆっくりと近づいて来る輝。
(やはり私では勝てませんの……?こんな所で終わるわけには……)
小さく、誰にも聞こえない声で呟く。
「千牙さん……」
その時、輝の動きが止まり
「全く、良いところで邪魔をするんだな」
背後には白いコートの騎士が、剣を彼に突きつけている。
「悪いな、何分空気を読めない性分でな。はっ!」
魔戒剣で切り裂こうとするが、横っ飛びに移動し交わされる。騎士は狂三の横に立ち
「無事か、狂三」
「千牙……さん」
牙狼の称号を受け継ぐ者、冴島千牙がここに推参した。
「クク……千牙、傷はどうだ?」
「お陰さまでな、もう完治した」
「そうか、なら思いきり戦えるな」
千牙は前方へ跳躍し輝に斬りかかる。案の定柄で防がれ
「さっさと鎧を召還しろ、でなければ詰まらないだろう?」
「言われるまでもない」
剣が弾かれ、縦一閃に冥黒鎌を振り下ろされるが千牙は受け流しつつ横に跳ぶ。刃が地に着いたまま、勢いよく振り上げると黒き斬撃が起こる。
「ふっ!」
コートを翻し魔戒剣を天に向けながら、横に回りそのまま円を刻む。魔界とこの世が繋がり、裂け目から金色の鎧が召還される。鎧はそれぞれ千牙の身体に装着され、最後に頭部を覆い、魔戒剣は鎧と同じ金色の牙狼剣へと変わる。
「行くぞ!」
地面を滑るように駆ける。
「ほう……」
上から牙狼剣を叩き付け、冥黒鎌の柄と激突し火花が散る。
「ウオオオオッ!!」
「何ッ!」
輝の体は鎌と共に圧され、千牙から鋭い蹴りを受ける。
「ちぃ!」
よろめきながら前を向くが千牙の姿はない。
「何処に……!?」
空中に千牙は居た。鎌を頭上で回し勢いを付けたまま斬撃を放つ。
「ふっ、おおおおお!!」
牙狼剣に魔導火を纏わせ振るい、緑の斬撃となり輝の放った斬撃とぶつかり爆散する。
地へと足をつけた千牙は煙を払うと眼前に輝が迫っていたことに気づく。
「ぬうぅっ!」
彼の命を狩り獲ろうとする鎌を、剣を横にすることで防ぐ。
「やはり面白いな、黄金騎士!」
「俺は面白くはないがな」
再び圧そうしたが、突然側方から衝撃が襲う。
「な、何が……」
目を疑う、輝の横には彼と同じ鎧を纏った何者かが立っている。
「何だと……」
「奴め、分身できるのか!?」
ザルバは驚愕の声をあげる。二人の輝は千牙を左右から挟むように囲み、肉薄する。
「くぅっ!」
右から来る鎌は牙狼剣で、左から来る鎌は鎧の腕に設けられた刃で辛うじて抑える。そして―――
「ぐおおっ!」
背中に痛みが走り前のめりになるが、立ち直しそちらを向く。二人どころか、三人目の輝が現れていた。
一瞬の隙を突かれ、三つの鎌から切り裂かれる千牙。
「グアアアッ!!」
後ろへ吹き飛び、狂三の目の前に背を付け鎧が魔界へと戻される。
「千牙さん!!」
彼の元に寄り身体を起こす。
「クハハハ……どうだ?」
「この分身は俺の力を完全に復元したものだ」
「千牙……俺達に勝てるか?」
その言葉に歯をぎりっと噛み締め魔戒剣を杖代わりに立ち上がろうとするが、方膝から上がらない。
「狂三、逃げろ」
「私が逃げたら千牙さんが……!」
彼は首を横に振る。
「俺は良い、お前さえ生き残って居ればそれで……それに俺は死ぬつもりはない」
「ッ……」
胸を締め付けられるような思い。狂三は今まで感じたことの無い感情に支配されていた。狂三一度眼を閉じ決める。
「千牙さん……昔、貴方は私と約束したのですよ」
「約束……?」
「はい……今、此処でその約束……果たしてくださいまし」
「何を言って、うむっ」
狂三は千牙と唇を重ね、それと同時に彼の身体に何かが流れ込んでくる。ゆっくりと二人は離れ
「ふぅ……」
「狂三……?」
「勝ってください……千牙さん」
突如、千牙と狂三は光に包まれた。
「この光は……!!」
光が晴れると、牙狼の鎧を身に纏った千牙が。しかし鎧の形状は少しだが変わっている。
左耳部は欠けたように短くなり、左肩は鋭利な形状から丸みを帯び、表は黒く裏は赤地で染められたマントが腕を覆うように装備されていた。瞳は左右で違く、左目だけが金色に煌めいている。
マントの裏から狼の装飾があしらわれた黄金の銃を取り出し
「闇に飲まれし貴様の陰我、俺が撃ち抜く!!」
思いの強さは何時だって不可思議な事を起こす。
今だってそうさ、アイツの思いが奇跡を起こした。
次回、『装天』
たまには違う武器を使うのも悪くはないもんだぜ?