デート・ア・ライブ-GOLD KIGHT GARO- 作:深淵騎士
「よう、俺様の名はザルバ。黄金騎士・牙狼の称号を持つ男。冴島千牙の相棒だ。今回とある日、その相棒に起こった不思議な出来事を話すぜ」
冴島邸―――AM 8:58
庭で響く勇ましい声。
「てえぇあぁっ!」
黒い服に身を包んだ青年が一切の呼吸の乱れもなく、鍔の無い剣を振るう。
「……」
静かに赤い鞘へと刀身を納め、青年は近くのテーブルへと近寄る。その側には執事服を着た男性と、髪の色、服の上から下まで黒に合わせた少女がティーカップを片手に座っている。
「お疲れさまです、千牙様」
「ああ」
この屋敷、冴島邸の主である冴島千牙は執事のゴンザが用意してくれた水を口に流し込む。
「さて、狂三」
少女の名を呼ぶと、微笑みながら
「何でしょう?」
「お前、このあと予定はあるか?」
「いえ、特には有りませんが……」
「ならば少し付き合ってくれないか?」
「?」
※
天宮市・市街地―――AM 9:12
「千牙さんから出掛けようだなんて、お珍しいですわね」
「一緒に誰かと外を出たい、そう思っただけだ」
「それでも嬉しいです」
自然と狂三は彼の右腕に組み付く。
「何だ?」
「何でもありません、ただこうしたいだけですわ」
「……少し動きづらいのだが、まあいいか」
白のコートに黒の衣服、綺麗なコントラストになっており中々目立つ。ふと千牙は気になる事が頭に浮かぶ。
「狂三、今のお前は本体か?」
「クスッ……そうですわ、千牙さんの御宅に訪問するときは何時も私自身で参ります。だって……別の私に千牙さんとの時間を作らせたくありませんもの……」
「……そうか」
一瞬、千牙の背筋にゾワリとした寒気がしたが、気のせいだろうと彼は判断する。
「千牙」
「どうした、ザルバ」
「妙だぞ」
「何が……?」
彼は立ち止まり、周りを見渡す。先程まで居た人並みが突然消え失せ、千牙と狂三だけになっている。
「気味が悪いですわ……」
「ああ……何が起こって……」
そして天より金色の光柱が彼等に降り注ぐ。
「ちっ!」
「きゃ!」
狂三を突き飛ばし
「千牙さんッ!!」
彼女の声と共に千牙は光に包まれてしまった……
※
「……」
眩しさで目を閉じた千牙だが、光が収まっていることに気づき
「……」
何処かの街であろう、辺りにはビルと街灯。空は暗く、雲の切れ間から満月が顔を覗かせている。
「ザルバ、ここは……」
「さあな、だが天宮市ではないことは確かだぜ」
「そのようだな、こんな場所は見たことがない」
知らない地へと転移させられたのであろう。千牙そう考え
「先ずは軽く情報収集と行くか」
千牙は歩き出すが、少しも経たない内に
「おい、千牙。ホラーの気配だ」
「何?」
「そのまま真っ直ぐ進め」
「わかった」
まさか此処に来てホラーが現れるとは想像もしていなかっただろう、だが今はザルバの導かれるままにホラーの場所を目指すだけ。
暫く歩くと、地下駐車場の入り口の前に辿り着く。
「この下だ」
「のようだな……」
入り口へと入り階段を下る。降りた先には、スーツを着た男性が一人。
「……奴か」
「間違いない、先手必勝だ!」
魔戒剣を魔法衣より取りだし、ホラー目掛け駆ける。奴は漸く此方に気づいた、千牙は抜刀し
「ふっ!」
そのホラーを魔戒剣で切り裂こうとしたが
「はっ!」
柱の後ろからほぼ同時にホラーへ斬りかかる青年が現れ、刀身同士がぶつかり寸前の所で止まってしまった。
「なっ!?」
「ッ……!?」
「ヒヒッ!」
ホラーは好機と言わんばかりに、二人を蹴り飛ばし逃げ去ってしまう。千牙はその青年から離れ、剣を構える。黒いコートに茶色の髪、それよりも彼は青年の左中指にはめている指輪に目がいく。
「ザルバ!?」
「何だと!?」
青年も驚いた表情を見せる。
「何であんた、ザルバの事を……ってか、あんたの指につけてるのって……!」
「……お前、何者だ」
千牙は青年に問いかけるが、警戒心むき出しのまま彼も剣を構え
「そっちこそ何者だ、何故ザルバをつけている!」
鋭い視線が交差する。そんな中に
「流牙!」
彼の背後から女性が駆け寄ってくる。
「莉杏、来たか」
「ホラーは?」
「逃がした、そいつのせいでな」
「えっ?」
莉杏と呼ばれた女性は千牙の方を向く。
「貴方は……魔戒騎士?」
「そうだ、そちらは魔戒騎士と魔戒法師だな」
“魔戒法師”とは遥か昔、魔戒騎士が誕生するまでホラーと闘い法術を駆使して封印する存在であった者達だ。今は主な戦闘は魔戒騎士が行うことになり、それのバックアップを勤めるのが魔戒法師となっているのが現状だ。
千牙は莉杏の表情を見て、彼女は此方に戦意を向けていないと読み構えを解く。
「そちらの魔戒騎士、名は?」
「訪ねる前に自分から名乗ったらどうだ?」
「……それもそうか、俺は冴島千牙。黄金騎士・牙狼の称号を受け継いだものだ」
「はぁ!?」
青年は思わず妙な声を上げる。
「それで、名は?」
「俺は道外流牙……牙狼の称号を持つものだ」
「何……?」
今にも飛びかかりそうな青年、流牙の前にたつ魔戒法師。
「私は莉杏、流牙のパートナーよ。詳しい話を聞かせてもらえないかしら」
「……構わん」
千牙は剣を鞘に戻す。
「赤身の鞘……」
彼の持つ魔戒剣を見て呟く。流牙もまた、赤い鞘を取りだし、刀身を鞘へ納める。
「さて、ではどこから話そうか」
千牙はこれまでの経緯を二人に話す。自分は突然光に包まれ、この街へとやって来てしまい、ホラーの気配を追ったら偶然流牙と蜂合わせ、互いを不審に思い剣を向けてしまったと。
「じゃあ貴方は正真正銘の牙狼ってこと?」
「そうだ」
「とてもじゃないが信じられないな……俺以外に牙狼が居るなんて……」
「それは同感だ」
今まで黙っていた、流牙をザルバが口を開く。
「もしかしたら、そっちの牙狼は別世界からやって来たんじゃないか?」
「「別世界?」」
「ああ、その光ってのが恐らく原因だろう。その光が時空を歪ませ、此方とそちらの世界を繋ぎ、そいつを此方へと飛ばしてしまったんだろうよ」
「奇遇だな、俺様もそう思ってたところだぜ」
何気に意気投合しているザルバ達。
「確かにそう考えた方が納得がいく……どう戻るか考えなければな」
「そればかりはお手上げだ」
千牙は腕を組み
「だが、今は目先の問題だ。先程取り逃がしたホラーを追う」
「待て」
その場を去ろうとした千牙だが、流牙に呼び止められる。
「奴は俺の獲物だ」
「ちょっと流牙!」
流牙は千牙の横を通りすぎていく。
「……ごめんなさい」
「お前が謝る必要はない、しかしあの男は何故あそこまで敵意を向ける」
「それは……きっと貴方が牙狼だからよ」
「……何か訳がありそうだな」
「実は……」
※
「……」
流牙は黙したまま、ホラーの足取りを追っていた。
「どうしたんだ、流牙。そんなピリピリして」
「別に」
素っ気なく返す。
「そんなにあの男の事が気に入らないのか?」
「……」
「図星か、けどな流牙。それは的外れな考えだと思うぜ?」
「わかってるよ、けど……」
ふと流牙は立ち止まり
「ザルバ、何か匂わないか」
「ん?……ああ、うっすらとだがホラーの気配を感じるぜ。よく解ったな」
「何処にいるかわかるか?」
「ああ、解るぜ」
「案内頼む」
※
「成る程……な。母との約束か」
彼は莉杏から、流牙の事について聞いていた。彼は努力し牙狼の称号を得、以前“ボルシティ”と呼ばれる街で仲間と共に死闘を繰り広げ、その最中黄金を失った牙狼の光を取り戻し、その手でホラーの身体になった母を殺めてしまったと言う悲劇を乗り越え今に至ると言う。
「確かに突然現れた奴が“俺は牙狼だ”といわれたら不愉快になるのも頷ける」
「流牙の事を悪く思わないでほしいの、彼は本当は優しい騎士だから……」
千牙は首を縦に振る。
「ああ、別に邪険にするつもりはない。俺も同じ反応をしていただろう。しかし良いのか、会って間もない俺にそんなことを言って」
「貴方なら流牙の事を理解してくれるって思ったから、同じ黄金騎士として知っておいて欲しかったの」
「そうか……」
彼はザルバに向け
「取り逃がしたホラー、気配を追えるか?」
「当然だ」
「……俺は奴を追うが、お前はどうする?」
「私も行くわ」
「わかった」
彼は踵を返し歩き始め、莉杏もその後ろに付く、逃したホラーを殲滅するために。
※
流牙は目の前のホラーと対峙していた。だが、ホラーは女性を人質に取り流牙は迂闊に動くことが出来ない状況に追いやられている。
「どうした、魔戒騎士。掛かってこないのか?」
「貴様……!」
下卑た笑みをホラーは浮かべる。
「どうしても助けたいか?……ならおまえが俺に喰われてもいいっていうんなら、この女を助けてもいいぞ?」
「何!?」
心が揺れ動く自分が奴に喰われたら尊い命が救われる。だが、ここで自分が喰われてしまったら、次の犠牲者が出てしまう。
「流牙、奴の馬鹿な誘いに乗るな!」
「……くっ!」
少しして、剣を下げ流牙は歯を喰い縛り、肩を震わす。
「ふっふっふ……そうだ、それでいい……」
ホラーが口を開くと、気味の悪いほど舌が伸び魔戒剣を弾き飛ばし、流牙の首に巻き付く。
「がっ!」
「愚かな魔戒騎士だ」
すると、女性がホラーの手から解放されるがその女性も不適に笑う。
「まんまと騙されるとはな」
「な……に……っ!?」
女性の瞳が白く濁る。捕まっていた筈の女性も、やつと同じくホラーという事実を突きつけられる。
「まさ……か……」
「気配を上手く隠していやがったな!」
「くくく……」
首を絞められる強さが上がっていく。
「魔戒騎士を喰らうのは初めてだ……」
「まずは抵抗出来ないよう、その手足をもいでやる!!」
少しづつ意識が遠退いてく中、女ホラーが彼へと近寄ってくるのが解る。
「こんな……所で……!」
奴の手の届く範囲に入った。今まさに流牙を襲う邪悪なる魔獣が……だが
「ぐぇあっ!」
「ぎぃっ!!」
回転しながら飛来する何かが舌を、流牙の目の前に来ていたホラーを切り裂き遠退けさせる。
「がはっ……!」
空気が一気に肺へと入り咳き込む流牙。彼の側には
「無事か、流牙」
「あんた……」
ブーメランの様に投げた魔戒剣を右手で受け止める、白き魔法衣を身に纏った青年。冴島千牙が流牙の横に立っていた。
「……ありがとう」
「礼は不要だ、今は奴等を倒すぞ」
「ああ!」
千牙と流牙は魔戒剣を構える。
「おのれ魔戒騎士……まさか二人いたとはな……ふん!」
「シャァッ!」
皮膚が弾け飛び本性を表す。一体は右半身が、一体は左半身が黒く禍々しく伸びた爪がそれぞれ左右違うという、半々の姿になる。
「奴はガリガエウス、双子のホラーだ。気を付けろ、二体同時に倒さないといけない面倒な奴だからな」
「ほう、だがこちらも二人……」
「調度いいな……いくぞ!」
それぞれ彼等はホラーに近づく。
「シャッ!」
流牙が接近したガリガエウスは左手の爪で凪ぎ払うがしゃがむことで回避、顎に掌を打ち込む。仰け反るガリガエウス、直ぐに体制を立て直しもう一度爪による攻撃を仕掛ける。
「ふっ、はっ!!」
「ギャッ!」
左手で手首を抑え、下から剣で切り上げ
「うおおお!!」
跳躍しガリガエウスの顔面を殴り飛ばす。
一方の千牙、彼はガリガエウスの攻撃を全ていなし
「でぇあっ!!」
「ぬぅぅ!」
蹴りを何度も決める。千牙の足を払いのけ、ガリガエウスは叩きつけるように右手の爪を彼に振り下ろす。
「ふっ」
脛で受けとめ、軽い火花が散る。
「何ぃ!?」
「悪いな、俺の靴と脛の所にはソウルメタルのプレート仕込んでいるのでなっ!」
「ぐぎゃぁ!!」
頭目掛け、ガリガエウスを脛で蹴り飛ばす。
二人に飛ばされたガリガエウスは空中でぶつかり地面に倒れる。千牙と流牙は横並びになり
「流牙、合わせれるか?」
「ああ、任せろ」
「……頼もしいな」
二対の魔戒剣は高らかに空へと向けられ、円を刻む。剣を振り下ろしたと同時に時空が割れ、夜の闇を照らす金色が召還された。
「な、なんだと……」
「そんな馬鹿な……!」
ガリガエウスは後ずさる。眼前に居るのは“希望”の名を持つ最強の騎士。
「黄金騎士……だと!?」
本来なら有り得ることのない。しかし現実、今ここに冴島千牙と道外流牙、二人の黄金騎士が揃ったのだ。
「牙狼の黄金は失われた筈……しかも二人も居る筈がない!!」
「だが此処に確かに居る、俺達……黄金騎士が!」
「ガリガエウス、貴様の陰我……」
黄金騎士は金色の剣、牙狼剣をガリガエウスへ翳し
「「俺達が断ち斬る!!」」
牙狼は駆ける、金色の風の如く。ガリガエウスはどちらも舌を勢いよく突きだし、彼等を迎撃しようと試みる。
だがそのような攻撃、彼等には通じる訳がない。千牙は右へ、流牙は左に回避し
「せえぇああああ!!!!」
「たあぁああああ!!!!」
牙狼剣による一閃は一切の乱れもなく同時にガリガエウスの身体を寸断した。
「こんな……事が……」
「クソ……」
ガリガエウスは消え失せる。二人は鎧を魔界へと還し
「流石は牙狼の称号を継ぐ者、だな」
「いや、あんたの方こそ。流石は黄金騎士だよ」
「流牙ー!」
「?」
遅れてやってきた莉杏、不機嫌そうな表情で千牙に向き
「もう、急に走っていくなんて。レディを置いてくなんてなってないわよ?」
「すまんな、だがホラーは倒せた。結果オーライだろ?」
「え?もう倒したの?」
莉杏は流牙に視線を変えると彼はにこやかに頷く。
「えっと、千牙……」
「ん?」
「その、ごめん……食って掛かっちゃって……俺……」
「皆まで言うな、俺は全然気にしてないよ」
「ありがとう……あ!」
すると、千牙の身体が足から光になっていき透けていく。
「この感じ、光に包まれたときと似ているな……」
「もしかしたら戻れるかもしれないぜ?」
可能性は無きにしもあらず、流牙は一歩前にでて
「もう行っちゃうのか」
「のようだ、短い間ではあるがお前と共に戦えて良かったよ」
「……千牙、また会えるか?」
無言で千牙は首を振った。
「これは何かの偶然、奇跡的に起こった事象……もう会うことはないだろう」
だが、と彼は拳を作り流牙の胸に当てる。
「俺達は黄金騎士、その身は共に居なくても魂は何時も一緒だ」
ゆっくりと拳を離し
「流牙、強くなれ……!」
「!!」
その言葉を最後に千牙は光となり空へ昇っていった。
「……強くなれ、か」
「流牙?」
「なあ、俺は強くなれると思うか?」
彼女は笑い悩むことなく
「当たり前でしょ?流牙は黄金騎士なんだから!」
「……そうだな、もっと強くならないとな!」
※
「……ん」
視界が戻って来ると、何処か見慣れた風景が彼を出迎えた。いや、風景だけではない。
「千牙さん!」
「狂三?」
突然、狂三に抱きつかれる千牙。
「いきなりどうした?」
「心配したのですよ?いきなり居なくなったと思ったら、直ぐに現れて……もう会えないんじゃないかって……」
流牙との時間は、此方の世界ではほんの数分に満たなかったようだ。涙目になる狂三の頭にポンッと手を置き
「あー……すまない、けどこうして戻って来たじゃないか」
「そうですけど……」
「それとだ、そろそろ離れてくれないか?人が見ている」
辺りを見渡すと、通行人が彼等を何事かと視線を向けていた。
「もう少しこうさせてくださいまし……」
「……参ったな」
晴れ渡る空を千牙は見上げ
(道外流牙……まだ未熟だがあの瞳には俺には無い強さが籠っていたな……闇から人々を守る……)
脳裏に浮かぶのは黒いコートに希望に満ちた瞳を持つ青年……
「闇を照らす者……か」
見知らぬ島から届きし指令、そこで待ち受けるは強固なる魔獣。
そして現れた双風の巫女。
次回、『装甲』
お前さんも妙な事に巻き込まれる運命のようだな。