デート・ア・ライブ-GOLD KIGHT GARO-   作:深淵騎士

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第二十話 装甲

冴島邸――AM 7:36

 

 

「おはようございます、ゴンザさん」

 

 

早朝、冴島邸の玄関前を箒で掃いていたゴンザに黒髪の美しい少女が声を掛ける。

 

 

「これは狂三様、おはようございます。今日もお元気そうでなによりです」

 

 

時を操る精霊、時崎狂三は微笑み

 

 

「ふふ、ありがとうございます。千牙さんはいらっしゃいますか?」

 

「千牙様ですか?……実はなのですが……」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

天宮市・上空――AM 8:00

 

 

「……」

 

 

天宮市の空港を発った旅客機、その席に一人、白いコートを羽織った青年が目を閉じて座っている。

 

 

『飛行機に乗るのは久しぶりだな』

 

『ああ、今のうちに休んでおけ』

 

『そうさせてもらうぜ』

 

 

念話による会話、話し相手は彼の左中指にはめられた指輪だ。

 

 

「しかし……」

 

 

窓を覗き景色を眺める魔戒騎士、冴島千牙は数刻前の事を脳裏に過らせる。

 

 

 

 

 

 

白の管轄・番犬所――AM 6:02

 

 

「“或美島”?」

 

 

何処かの島であろう、その名を復唱するとメディルは頷き

 

 

「貴方にはその島に赴き、ホラーを殲滅してきてほしいのです」

 

「そこの管轄の騎士は?」

 

「ホラーにより返り討ちにあい、意識不明の重症を負いました。そのホラーの詳細は不確かではありますが、とても強力な防御を誇ると言われております」

 

「そこで俺が代わりに、と言う訳か」

 

「はい」

 

 

千牙は頷き了承しようとしたが

 

 

「この件については請け負いましょう、しかし問題は一つ……シャジェドニの事です」

 

 

以前取り逃がした影に潜むホラー、シャジェドニの事だ。調べによると過去にシャジェドニは人間を喰らった形跡は一度も無いという異質なホラーであり、今回の宿主の鳶一折紙との関係も比較的良好。人間を襲う意思も見せず、基本は折紙の言うことを聞くとのこと。

 

今回は士道達を襲ったが、死傷者は誰も出ておらず番犬所はシャジェドニを観察対称とし、不審な動きがあれば殲滅するという異例な処置が下された。

 

勿論、千牙はあまり納得いかず何処で奴が手のひらを返すかわからない、その為何度かメディルにこの話題を持ちかけているのだが

 

 

「冴島千牙、シャジェドニの事は以前伝えた通りです。今は或美島へと行き、その島の人々の平穏を確保するのです」

 

 

 

 

 

 

天宮市・上空―― AM 8:12

 

 

千牙は思う、果たしてどのようなホラーなのか、話を聞けば或美島を含めた“朱の管轄”。そこに所属していた魔戒騎士は相当の手練れだという。それを返り討ちにしたとなれば生半可なホラーではないことは確か。

 

勿論、ホラー討伐の時は何時だって気を引き締めている。しかし今回は敵がどのような存在かは把握しきれていないため、一層注意せねばならない。

 

だが彼の受け継いだ称号の名に懸けて、必ず討伐する。それが彼の、黄金騎士の運命(さだめ)だから。

 

 

「俺も少しだけ休むとするか……」

 

 

彼は瞼を下ろし、少しづつ意識を微睡ませて行く。次に目が覚める時は決戦の地、その時まで身体を休める。

 

 

 

 

 

 

 

冴島邸―― AM 8:12

 

 

「なるほど、御仕事でですか……」

 

 

狂三はゴンザから紅茶を淹れてもらう。

 

 

「はい、その為2.3日は最悪戻らないと仰っていました」

 

「それで私達はお留守番というわけです……」

 

『ほんとは行きたかったけどー、仕事じゃ仕方ないよねー』

 

 

仕事の千牙についていくわけにも行くまい、よしのんは流石に自重したようだ。

 

 

「けど、千牙さんが居ないのは寂しいですね……」

 

 

四紙乃の言葉に狂三は共感し

 

 

「確かに……せっかく千牙さんに会いに来たのに」

 

 

紅茶を一口飲み、狂三は軽く両手を合わせ

 

 

「そうですわ……♪」

 

「どうしました、狂三さん?」

 

「いえ、何でもありませんわ」

 

 

彼女は紅茶を飲み終え、椅子から腰を離す。

 

 

「すいません、急用を思い出したのでこれで失礼しますわ」

 

「かしこまりました、玄関まで御送りします」

 

 

 

 

 

 

朱の管轄・番犬所――AM 10:43

 

 

数時間のフライトが終わり或美島へと到着した千牙。彼は直ぐに番犬所へと赴き状況を聞こうと試みた。

 

 

「よく来たね、千牙」

 

 

千牙の目線の先に居るのは、この番犬所の神官だろう、何処かあどけなさを見せる四紙乃位の身長をした少女だ。

 

彼女は『ララ』。年齢は千牙よりも遥かに上であるが、保有する力が強く見た目にも反映され外見がその時から変わっていないという。

 

千牙は彼女の前で軽く頭を下げ

 

 

「話はメディルから聞いているだろう?」

 

「はい、早速ですがそのホラーは今何処に」

 

「それなんだが……」

 

 

何か言いづらそうな雰囲気を見せる。

 

 

「気配が読めないんだ」

 

「気配が?」

 

「うん、この或美島を何かが覆っているような状態で、気配が遮断されてるんだよ」

 

「……厄介な」

 

「この管轄の騎士も動ける状態じゃない、だから確実に奴を仕留めるとしたら黄金騎士の称号を持つ、千牙。君の力が必要だったんだよ」

 

「わかりました、俺の方で探し、殲滅しましょう」

 

「頼んだよ……」

 

 

 

 

 

番犬所を離れ、歩き続け既に夜。千牙はとある廃屋の側へとやって来たのだが

 

 

「どうだザルバ」

 

「駄目だ、気の流れが掻き乱されて気配が辿れん」

 

 

何者かがこの或美島に術か何かを施しているのだろうか。ララ曰く今までこんなことはなかったという。

 

建物の角を通ろうとしたが、突然千牙はバク転しながら後方へ移動する。彼が歩み出そうとした地面が抉り取られたように陥没していた。

 

巨大な何かが此方へと来ている、ズシリズシリと足音が聞こえそれが明らかに。

 

 

「こいつか……」

 

 

姿を表したのは両肩に強固な装甲を携えた大型のホラーだ。

 

 

「千牙、奴はハンプティだ。奴は相当硬い身体を持っているぞ、生半可な攻撃じゃ傷一つつけれないぜ」

 

「なるほどな、こいつがここの管轄の騎士を……」

 

『グオオオオ!!』

 

 

ハンプティは吠え大きな手で千牙を掴もうとする。

 

 

「遅い」

 

 

容易く交わしハンプティの腕に飛び乗る。そのまま走り、魔戒剣で円を描き鎧を召還する。

 

 

「でぇぇあっ!!」

 

 

空いている片方の手で振り払われそうになるが、それも回避しハンプティの眼球に牙狼剣を突き立てる。

 

 

『オオオオォォォォ!!!!』

 

 

苦しみ、彼を引き剥がそうとする。しかし寸での所でハンプティから飛び退き地に足をつける。

 

 

「眼球は柔らかいが、次は簡単には攻撃させてくれないだろうな」

 

 

千牙は尚も痛みでもがくハンプティを正面に捉え、呼吸を整える。どんな強固な装甲であろうとも、一切の乱れもない鋭い斬撃ならば切り裂ける、一息置き、彼は地を掛ける。

 

 

「ウオオオオオォォォッ!!!!」

 

 

斬ッ!!

 

 

横一閃にハンプティの装甲もろとも切り裂き、血を払うような動作をし牙狼剣を鞘に納める。

 

 

「……!?」

 

 

振り向くと切り裂いたハンプティはまだその場に残っている。それだけではない、ハンプティの身体に黒い霧のような物が入り込みゆっくりと断面が戻っていく。

 

 

「バカな……!」

 

 

倒した筈のハンプティは完全に復活、奴の装甲は先程よりも肥大化し一対の歪んだ棘が生える。

 

 

「ザルバ、どういうことだ」

 

「俺様にもわからないぜ、気を付けろさっきよりも邪気が強くなってやがる!!」

 

「……」

 

 

無言でハンプティに同じように斬りかかる。しかし

 

 

「何!!」

 

 

金属のぶつかり合う音と共に火花が起こる。ハンプティの身体には全く攻撃が通っておらず千牙は一度後退。

 

するとハンプティは挑発するように千牙を手招きする。

 

 

「こいつ……!!」

 

 

ハンプティはその巨体を生かした突進を繰り出す。

 

 

「っ!!」

 

 

辛うじて回避したものの勢いの強さに体勢を崩してしまう。不意の隙を突かれ、千牙はハンプティの腕に捕らわれる。

 

 

「ぐぅっ!!何て……力だ……!」

 

 

このままでは鎧が解かれ、握りつぶされてしまう。千牙は牙狼剣を逆手に持ち直し、ハンプティの眼球目掛け投擲する。

 

それも弾かれる、だが視界を襲った事でハンプティは怯み身体を装甲に収納、何処かへと飛び立ってしまった。

 

 

「……ザルバ、奴の気配は――」

 

「追えないぜ」

 

「チッ……」

 

 

思わず舌打ち、千牙もダメージを負ってしまい今日の所は引き上げるしかなくなってしまった……。

 

 

 

 

 

 

或美島・郊外―― AM 6:03

 

 

ハンプティが退いた後、千牙は或美島にいる離れの魔戒法師の家へと招かれていた。

 

 

「ッ……」

 

 

彼の右腕は赤黒く痛々しい内出血を起こしていた。ハンプティの突進を引っ掻けてしまい、鎧越しでもここまでの物となっている。もし直撃したらひとたまりもなかったであろう。

 

 

「まさか冴島さんが倒せないホラーがいたなんて……」

 

 

千牙の腕に法力で治癒を施しているのは、この家主の魔戒法師。彼は『大空(ソラ)』だ。

 

 

「復活して更に強力になるとはな」

 

「今までにないタイプですね、ザルバさん。ハンプティはそういうホラーなのですか?」

 

「いや、奴にはそんな能力は備わってない筈だがな」

 

「なら何故……」

 

 

包帯を巻き終え、千牙は確かめるように腕を動かす。

 

 

「ありがとう、大空。助かったよ」

 

「いえ、僕にはこれくらいしか出来ませんから……」

 

 

服を着直し、千牙は立ち上がる。

 

 

「俺はこの島を探ってくる。気配を遮断する原因がわかるかもしれん」

 

「なら僕も……や、やっぱり止めときます」

 

「?わかった、それではな」

 

 

 

 

 

 

或美島・郊外道路―― AM 10:28

 

 

 

千牙は現在、海の見える道路を歩いていた。今日の或美島の天気は快晴、観光ならば絶好の日であろう。

 

 

「いい陽気だな、眠くなっちまうぜ」

 

「ああ、だが寝るなよ……仕事なんだからな」

 

「わかってるよ……む?」

 

 

ザルバが何かを感じ取ったのか、妙な声を上げる。

 

 

「どうした」

 

「……どうやら厄介事に巻き込まれそうな感じだぜ」

 

「……これは」

 

 

快晴から一変、空には分厚い雲が掛かり風が強くなってきた。

 

 

「急だな……何かおかしい」

 

 

普通の人間ならば、体勢を低くしないと飛ばされてしまう程の強風。やはり魔戒騎士か、この風ではびくともしない。

 

 

「それだけじゃないぜ、この道の先、馴染みある奴がいるようだ」

 

「?」

 

 

 

 

 

「どうなってんだよ、これ!」

 

 

制服を着た五河士道、夜刀神十香が風に煽られていた。

 

 

「急ぐぞ、十香!」

 

「ああ……危ない、士道!」

 

 

十香に押され尻餅をつく士道。そんな彼女に

 

 

「はひっ!」

 

 

プラスチックでできたゴミ箱が十香の頭に当たり

 

 

「はにゃ!」

 

 

更にもう一発

 

 

「ぎゃふぅ!」

 

 

今度は金属のゴミ箱が顔面に直撃、十香の頭に星が浮かび気絶してしまう。

 

 

「十香、十香!ってうわああっ!!」

 

 

彼に迫るのは大きな看板だ。今まさに士道も十香と同じ運命を辿ってしまう、と思われたが

 

 

「はぁっ!!」

 

 

士道の視界に激しく揺れる白いコートが映りこむ。

 

 

「全く、つくづくお前達とは縁がある」

 

「せ、千牙さん!?何で此処に!?」

 

「それはこっちの……」

 

 

言葉を閉ざし空を見上げる。

 

 

 

「何だあれ……」

 

 

空には二つの光が何度もぶつかり合っている。光が此方へと落ちてきたかと思うと、風が一層強まり士道と十香の身体を飛ばしてしまう。千牙は二人の手を掴みその場に踏みとどまさせる。

 

 

「ありがとうございます、千牙さん……」

 

「礼はいい、あれを見ろ」

 

「え……」

 

 

千牙が顎で指す方向には、橙色の髪、拘束具のような衣服で身を包んだ二人の少女達だ。

 

 

「精霊か?」

 

「た、多分……」

 

 

少女達は士道と千牙そっちのけで話始める。

 

 

「ふっふっふ……やるではないか、夕弦。流石は我が半身。だがそれも今日で終いよ」

 

 

「反論、100戦目を制するのは耶倶矢ではなく夕弦です」

 

「愚かな、いい加減真なる“八舞”に相応しいのはこの我と認めよ」

 

 

争っているのは確か、千牙は士道に

 

 

「士道、フラクシナスと通信がとれないか?」

 

「えっと、ちょっと待っててください」

 

 

士道はインカムを取り付け起動するが反応が無い。

 

 

「あ、あれ……」

 

「通じないか」

 

「はい……おかしいな……」

 

 

ふと風の精霊に視線を戻すと、片や威厳ある口調であった『耶倶矢』と呼ばれた少女が子供っぽい口調へと変わり、『夕弦』に反論をしていた。

 

千牙はため息を吐きながら

 

 

「なあ、士道……俺はどうしてこういう事に巻き込まれると思う?」

 

「えーと……何ででしょう……」

 

 

珍しくブルーな千牙に苦笑しながら士道は言う。風の精霊達は口論を続けていると、風を己に纏わせ臨戦態勢となる。

 

 

「不味い、このままじゃ……」

 

「下がれ、士道」

 

 

耶倶矢と夕弦、二人が弾丸の如くぶつかり合おうとした、その時千牙は魔戒剣を抜刀しながら二人の間に衝撃波を放ち進行を止めさせる。

 

 

「人間だと?」

 

「驚嘆、驚きを禁じえません」

 

 

ようやく止まったか、と千牙は魔戒剣を鞘にしまい

 

 

「お前ら、争うのは勝手だが他所でやれ。他の者達に危害を加えるな」

 

「何だと?己れ、人間。我らの神聖なる決闘に横槍を入れるとはどういう了見だ、答えによっては我が……えっと」

 

 

途中で言葉につまる耶倶矢。千牙はまた軽くため息をつき

 

 

「先程言っていたこっぱずかしい“シュトゥルムランツェ”とやらの事か?」

 

「そうそう!……ってこっぱずかしいとか言うなし!」

 

「同感、その人間の意見と同じく。こっぱずかしいですよ、耶倶矢」

 

「うう、うるさいうるさいうるさーい!」

 

 

耶倶矢は子供のように叫び

 

 

「むぅ、このままでは腹の虫が収まらんぞ!……そうだ、良いことを思い付いたぞ」

 

「質問、一体なんでしょう」

 

「我と貴様は様々な勝負をしてきた……しかしそろそろ思い当たる種目がなくなってきた……だが一つ、未だ勝敗を決していないものがあるであろう?」

 

「疑問、それは一体……」

 

 

耶倶矢はニヤリと笑い千牙達の方を向く。嫌な予感がしたのは千牙だけではないはずだ。

 

 

「我等が勝敗を決していないもの、それ即ち“魅力”!」

 

 

ドーンと効果音がなりそうな程胸を張って言う耶倶矢。対する千牙は半分呆れたように彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

 

「颶風の巫女たる八舞は森羅万象全てのものを嫉妬させる色香が必要とは思わぬか?」

 

「回答、確かにその通りです」

 

「この最後の決闘……そこの男を先に己の魅力で墜とした方が真なる八舞ぞ!!」

 

 

ビシッと指差されたのは士道ではなく……

 

 

「……は?」

 

 

魔戒騎士、冴島千牙であった。

 

 




どちらを生かすか、どちらを消すか。
揺れる守りし者としての心。
そして決意を新たにした騎士に金色の蹄が鳴り響く!!
次回、『斬馬・前編』。
選択は二つとは限らない。
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