デート・ア・ライブ-GOLD KIGHT GARO-   作:深淵騎士

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第二十二話 斬馬・後編

或美島・プライベートビーチ―― AM 9:50

 

 

令音に指定されたプライベートビーチへと辿り着いた千牙。彼の今の格好は、コートの下に着ている何時もの黒の鍛練服だ。

 

燦々としている太陽、彼の服装は他人から見れば暑苦しい極まりないだろう。だが仕方ない、冴島千牙は水着の類いを一切持ち合わせていないのだから。

 

彼は右耳に装着したインカムを起動させ令音に通信をいれる。

 

 

「聞こえるか、令音」

 

『ああ、聞こえるよ』

 

 

無事繋がり、千牙は幾つか質問をする。

 

 

「具体的に俺はどうすればいい」

 

『そうだね、チーは八舞姉妹に攻略されればいい』

 

「攻略?」

 

 

“攻略”とは、敵を攻めて勝利を収めることを意味する名詞である。いやそんなことはわかっていると、千牙は令音の言葉を待つ。

 

 

「二人にはインカムを渡していてね、君をデレさせるのに私の指示が有効だと理解させることが出来れば、此方で二人の行動をある程度はコントロールしやすくなる」

 

「なるほどな、俺は知らないふりをしていれば良いというわけか」

 

 

理解は出来た。しかし千牙は一つ気になることがある。

 

 

「俺を攻略させるのはいい、問題はその後だ。俺はあいつ等どちらかを選ばなくてはならない」

 

『それはチーが決めることだ、流石の私でもそこまでは助言は難しい』

 

 

令音からの返答は解っていた。結局の所、耶倶矢と夕弦のどちらかを選ぶ……消す事は彼自身が決めなくてはならない。

 

 

『そろそろ二人がそちらに着く頃だ、インカムは常に付けておいてほしい』

 

「……ああ」

 

 

一度令音との通信を切ると

 

 

「ザルバ、お前も手を貸してくれよ」

 

「まあ善処はするぜ、だが期待はするな。俺様でも女の事は理解しきれない」

 

 

難儀なものだ、そう呟く千牙はザルバと話終えると数分も経たない内に耶倶矢と夕弦の姿が見えた。

 

 

「待たせたな、千牙!」

 

「到着、お待たせしました」

 

 

耶倶矢は黒、夕弦は白の可愛らしい水着を着けている。対する千牙に耶倶矢が

 

 

「何だ千牙、貴様は水着とやらを持っていないのか」

 

「当たり前だ、そんなものを持っていても仕方ないからな」

 

 

冴島邸内をひっくり返しても恐らくは無いであろう。

 

 

「結論、千牙は普通の人間とは違う価値観を持っているのかもしれません。ですが、夕弦は千牙の着ていたコートと、その服が一番似合っていると思います」

 

「む、そうか?……そう言われたのは初めてだな。ありがとう、夕弦」

 

 

微笑みながら言う千牙、夕弦はしてやったりと耶倶矢を見る。また喧嘩が始まるだろうと察知した千牙は

 

 

「お前らの水着も良い、そうだな……可愛いと思うぞ」

 

「ほ、本当か!」

 

「ああ、似合っている」

 

「含羞、そう直球で言われると恥ずかしいです」

 

 

千牙からの言葉に耶倶矢は表情を明るくし、夕弦ははにかみながら恥じらう。ふと千牙は以前にも誰かにこんなことを言った気がするが、今は置いておくことにした。

 

「さて、まずはどうするか」

 

「そうだな、まずは――」

 

 

 

 

 

 

天宮市・ビル屋上 ―― AM 10:20

 

 

「……」

 

 

貯水タンクの上にて、狂三がやや不機嫌そうな表情で座っている。

 

 

「どうなさいました、私?」

 

 

分身体の狂三が背後に現れる。

 

 

「どうやら千牙さんの側に女の方が二人も居るみたいです」

 

「どうやってそれを?」

 

 

きひひと特徴的な笑い声を出し

 

 

「実は千牙さんの影の中に私を忍ばせているのですよ」

 

「そういうことですか……ですがよろしいのですか?ばれてしまったら千牙さんに咎められますわよ」

 

「その時はその時です……それに、千牙さんの居る島には何か不吉な兆しが見えています。何かあれば分身があの方の力になってくれるでしょう」

 

 

狂三は立ち上がる。

 

 

「千牙さん、どうかお気をつけてくださいまし……」

 

 

 

 

 

 

 

或美島・プライベートビーチ

 

 

 

「……まあ、なんと言えばいいんだろうな」

 

 

先程まで、夕弦と耶倶矢からサンオイルを塗ってほしいと言われ渋々了承した千牙。

 

いざ始めようとすると、二人は我先我先と彼にオイルを塗ってもらおうと取っ組み合っており、作業が全く進まないまま暫くしない内にプライベートビーチに十香と折紙が迷い混み計画を少し変更することになってしまった。

 

 

「千牙さん、すいません……俺がちゃんと様子みてなかったから……」

 

 

小声で千牙に謝る士道だが、彼は首を振り

 

 

「気にするな、それに俺だけでは場が持たなかった。寧ろ助かったよ」

 

「ははは……そう言っていただけると気が楽です……」

 

 

千牙は軽く笑うと旅館で指示を出す筈であった令音に視線を移す。

 

 

「それで、令音。どうすればいいんだ」

 

「もう考えてるさ、これから皆でビーチバレーをしてもらおうと思ってね」

 

「ビーチバレー?」

 

 

彼の問いに令音は頷く。

 

 

「ああ、チームの振り分けは私で決めるよ」

 

「何でもいいのだが、一つ問題がある

 

「?」

 

「俺はそのビーチバレーとやらを知らない」

 

「「……」」

 

 

士道と令音は凍りつく、ホラーという魔獣から人々を守る誇り高き魔戒騎士、そして冴島財閥のトップに座する彼、冴島千牙がまさかビーチバレーという競技を知らないとは思ってもいなかったのだ。

 

何かマズイ事でも言ったかと感じた千牙は二人の顔を交互に見る。令音に限っては顔を背ける始末。

 

 

「えっと、千牙さん?よければ俺が教えますけど……」

 

「是非とも頼む」

 

 

生まれて初めてだろう、そして今後も無いだろう。自分よりも修羅場を潜った大人にビーチバレーを教えることになるとは……

 

 

 

 

 

「よーし!いくぞー!」

 

 

元気よく開始の宣言をする十香。チームの振り分けは、千牙、耶倶矢、夕弦のチームと士道、十香、折紙のチームだ。千牙には不安がある、ビーチバレーはチームワークが重要。耶倶矢と夕弦は見ての通り仲が宜しくない、そんな彼女等が何処までやれるか。

 

そうこう考えている内に十香がサーブする。

 

 

「ていやっ!」

 

 

彼女の腕は女の子らしく細い、しかし霊力を封印されてもやはり精霊か。想像もできない速度で彼女の腕から弾かれたボールは真っ直ぐ千牙へ。

 

あれを食らったらただでは済まないであろう。敵チームであるはずの士道が思わず

 

 

「千牙さん危ない!」

 

 

バシィィンッ!!

 

 

彼が叫ぶとほぼ同時に激しい音が聞こえる。千牙が片手で軽々と十香の豪速球を上空に弾いていた。

 

 

「な、何ぃ!?」

 

 

驚く十香と当然唖然とする士道、流石は千牙といった所であろう、身体能力は常人の比にはならない。

 

 

「ほら、来たぞ」

 

 

夕弦か耶倶矢のどちらかにボールを打ち込んでもらおうと声を掛ける。

 

 

「任せろ!我が破滅の――」

 

 

台詞を言う前に夕弦が動いていた。

 

 

「攻撃、てい」

 

 

士道達のコートにボールを打ち込む夕弦。

 

 

「夕弦、貴様!」

 

「鈍足、早くしないのが悪いです」

 

「言い争っている場合か、またくるぞ」

 

 

折紙がボールを返してきており、今度こそはと耶倶矢は

 

 

「てぇぇえい!!」

 

 

彼女はボール目掛けるが

 

 

「あうっ」

 

「ひぎゃ!」

 

 

勢いよく夕弦と耶倶矢はぶつかってしまい、ボールは砂にめり込む。

 

 

「くぅ……夕弦貴様!今のは我の領分ぞ!」

 

「反論、ウスノロの耶倶矢ではとれないと判断しました」

 

「何だとぉ!!」

 

 

ぐぬぬと睨み合う二人、もちろん千牙も頭を抑えて

 

 

「おい、そろそろ止めたくなったのだが」

 

「まあそういうな、チー」

 

 

ケンカを続けている二人をみながら、令音に呆れたように彼は言う。そんな二人に対し

 

 

「なんだ、夕弦も耶倶矢も対したことないな!」

 

「その程度で私達に挑むなんて愚の骨頂」

 

 

十香、折紙の言葉にピクリと反応。

 

 

「……やっちゃおうか、夕弦」

 

「同調、やっちゃいましょう」

 

 

 

次のセットへと移行したビーチバレー、折紙が打ったボールは千牙達のコートに来ると千牙の真上に。

 

 

「千牙!」

 

「わかっている」

 

 

先程のように彼はボールを上空に弾き飛ばす。

 

 

「ナイスだ千牙!」

 

 

耶倶矢は夕弦の方へ走り

 

 

「夕弦!」

 

「応答、耶倶矢、今です!」

 

 

耶倶矢が一気に勢いをつけて跳躍すし、同時に夕弦は片膝を突き、両手を組み合わせて手のひらを上に向けて、耶倶矢を軽々と空に放り投げた。

 

 

「とおぉぉりゃあぁっ!!」

 

 

宙へ浮かぶボールを、耶倶矢は叩き落とす。放たれた弾丸の如くボールは敵陣に行き十香達が反応することなく大地にボールが激突した。

 

 

「な、なんだとー!」

 

「不覚……」

 

 

悔しそうに十香は唸り、折紙はチッと下を打つ。耶倶矢達は

 

 

「いやっほぅー!」

 

「歓喜、いやっほー」

 

 

仲良さげに喜び手を合わせていた。

 

 

『何だ、やるじゃないか嬢ちゃん達』

 

『のようだな、喧嘩するほどなんとやら……か』

 

 

ザルバと二人を見ていると、直ぐにハッとなりぷいと顔を背ける。そんな二人の様子を彼は微笑ましく思っていた。

 

 

 

 

ビーチバレーは終了、結果は千牙チームの勝利となった。十香と折紙が心底悔しがっていた気もするが、千牙は気にすることもなく。

 

千牙は手を洗いに、トイレへと向かい入り口へ入ろうとするが

 

 

「……どうした、耶倶矢」

 

「き、気づいてたの……」

 

 

物陰からひょこっと顔を出す耶倶矢。

 

 

「実はね、話したいことがあって……いいかな?」

 

「構わん」

 

 

令音からの指示だろうと考える。

 

 

「それでね、話っていうのはね……」

 

 

彼女の次の言葉を聞き、その可能性は消えることになる。

 

 

「千牙には……夕弦を選んでほしいんだ」

 

「……」

 

 

想像もしてなかった言葉に彼は黙りこむ。

 

 

「夕弦さ、ちょっとは愛想はないかもしんないけどさ可愛いし頭私より良いし……八舞の名に相応しいの夕弦だと思うんだよね……それに、夕弦には私の代わりにもっと生きて、これからの人生、楽しんで貰いたいからさ……だから、夕弦を選んでね、お願い」

 

 

千牙の返答を待たないまま、耶倶矢は何処かへと。そして彼女が居なくなって直ぐの事、夕弦がやってくる。

 

 

「夕弦か」

 

「請願、貴方に頼みがあってきました……千牙、夕弦と耶倶矢を選ぶこの勝負――」

 

 

彼女もまた、彼に対し

 

 

「耶倶矢を選んでください」

 

 

今度は夕弦だ。

 

 

「……理由を聞いてもいいか?」

 

「説明。耶倶矢の方が夕弦よりも遥かに優れているからです。耶倶矢は多少強がりなところはありますが、夕弦よりも可愛らしいですし面倒見はいいですし……耶倶矢を選べばきっと千牙にも得があるはずです」

 

 

千牙は数秒沈黙し

 

 

「……良いのか、お前は。消えてしまうんだぞ」

 

「返答、確かに消えてしまうのは寂しいです。結構千牙と接するのも悪くなかったですし、耶具矢ともっと共に時間を過ごしたい……けど、そういわけにもいきません。なので、是非耶倶矢を選んでください、お願いします……」

 

 

 

 

 

 

或美島・海岸 ―― PM 4:46

 

 

 

士道達と別れたあと、千牙はずっと海岸で夕日を眺めていた。

 

 

「……」

 

 

彼が今頭の中で思い浮かべているのは二人の少女。

 

互いにいがみ合っていたのは何だったのであろうか、恐らく好意の裏返し。互いを思っているからこそだろうか。

 

何故あんなにも思っているのに、どちらか片方しか存在できないのであろうか。片方が消えれば片方の心に消える事のない、癒える事のない永劫の傷が出来てしまう。それは二人にとって避けたい事であろう、勿論千牙もだ。

 

 

「……耶倶矢、夕弦」

 

「千牙、わかっていると思うが……」

 

「ああ、今は俺の方を優先、だろ」

 

 

前々から決めていた、夕弦と耶倶矢との時間が終えたら再び内なる魔界へと向かうこと。

 

 

「俺様がお前さんの魔界にゲートを繋げる」

 

「頼んだ」

 

 

さて、とザルバは前置きし

 

 

「準備はいいか、千牙」

 

「ああ」

 

 

千牙は深く息を吸いそして吐き出す。瞼を閉じ、己の世界……内なる魔界へと意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

魔界―― PM 5:00

 

 

 

「……来たか」

 

 

緑の瞳で千牙を射抜くように睨む、金色の騎士。静かに牙狼剣を構え

 

 

「新たなる力、欲しくば剣を抜け、そして乗り越えて見せろ……この俺を!」

 

「……」

 

 

言われるまま千牙は魔戒剣を引き抜き正眼に構える。

 

 

「あんたが誰かは知らんが……望むところだ」

 

 

白いコートをはためかせながら千牙は牙狼目掛けて剣を振るう。その一撃は容易く防がれ

 

 

「何を恐れている、冴島千牙」

 

「何?」

 

「はぁっ!」

 

 

力強く牙狼剣が振られ彼は後方へ飛ぶ。

 

 

「今の一撃で解った、お前の剣は迷い恐れている」

 

「戯けた事を、俺は迷ってもいなければ恐れてもいない」

 

「ならば……」

 

 

牙狼剣の切っ先を千牙に向け

 

 

「何故後退した、お前ならばそのまま斬りかかっていただろう」

 

「ッ……黙れ!」

 

 

もう一度肉薄し魔戒剣による一撃を加えようとするが牙狼の左手に掴まれ失敗に終わる。

 

 

「ちっ!」

 

「鈍っているぞ、お前の剣……ふん!」

 

「ぐああっ!!」

 

 

金色の剣に切り裂かれ、魔戒剣を手放す。

 

 

「ふっ……ぐぅ……」

 

 

胸を抑え膝をつき視界に牙狼を映す。彼は初めて気づく、目の前の存在が何れだけ大きな物なのかを。だがこちらとて引くわけにはいかない、千牙は拳を握りしめ

 

 

「うおおおおっ!!」

 

 

前のめりに走り、勢いをつけた蹴りを放つ。

 

 

「お前は確かに強い」

 

 

彼の足は牙狼に受け止められ、脹ら脛を斬られる。

 

 

「ぐうっ!」

 

 

よろめき後ろへと後退するが、牙狼は目の前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

或美島・海岸―― PM 5:32

 

 

「あれ、千牙何処に行ったんだろう……」

 

 

千牙が旅館に戻らず、令音から彼は海岸に居たと聞き耶倶矢は心配し彼を探しに来ていた。

 

夕弦を選べと突然言ってしまった、彼は真面目だ。その事で悩んでしまっているのではないかと耶倶矢は負い目を感じている。

 

 

「……でも、あれでいい。千牙が夕弦を選んでくれれば――」

 

「質問、それはどういうことでしょう」

 

「!?」

 

 

背後を向くと、いつの間に居たであろう夕弦が。彼女もまた、千牙を探しに来ていたのだ。

 

 

「ゆ、夕弦……」

 

「……質問、先程の事はどういうことでしょうと聞いているのですが」

 

「そ、それは……」

 

 

夕弦は少し身体を震わせる。耶倶矢は内心焦っている、まさか夕弦が側にいたとはと、完全に失言だ。

 

 

「ゆ、夕弦、あのね……」

 

 

次に言葉を放とうとしたが、凄まじい地響きと共に彼女達が居た地面が盛り上がる。

 

 

「くっ!」

 

 

そこから飛び退き、視線を変えると彼女達よりも数倍近くある体躯の異形が居る。

 

 

「こいつ、なによ……」

 

「怪奇、気味の悪い気配がします……」

 

 

ホラー、ハンプティを夕弦と耶倶矢の前へ姿を現した。

 

 

「何かは知らないけど……」

 

「応戦、敵意を向けるなら……」

 

 

空へと手を掲げ

 

 

颶風騎士(ラファエル)――穿つ者《エル・エレム》!」

 

「呼応。颶風騎士(ラファエル)――縛める者《エル・ナハシュ)》」

 

 

霊装を身に纏い臨戦体勢に移る。

 

 

「「打ち倒すのみ!!」」

 

 

 

 

 

 

魔界――PM 5:54

 

 

 

「ぐうぉおっ!!」

 

 

金色の剣に斬られた千牙は地面に転がる。

 

 

「どうした、もう終わりか」

 

「まだ、だ……俺はまだ、諦めてはいない……!!」

 

 

片膝を着けながら何とか立ち上がろうとする千牙。

 

 

「先程も言ったが、おまえは強い……だがそれはお前だけの力ではない……」

 

「……」

 

「思い出せお前を支える者達を、お前が守りたい者達を」

 

 

牙狼の言葉に千牙は自分の掌を見る。

 

確かに彼は何時も誰かが側にいてくれただから戦ってこれた……守りたい、その一心で戦ってきた。それは今も昔も変わらない、そして今彼の思い浮かぶのは彼を支える者達……

 

 

「ゴンザ、四糸乃、よしのん、狂三……」

 

 

よろめきながらゆっくりと立ち上がる。そして思い浮かぶのは彼が守りたい者達……

 

 

「士道、琴里……耶倶矢、夕弦……!」

 

 

手を前に翳すと掴まれていた魔戒剣が牙狼の腕を弾き、彼の元へと帰っていく。

 

 

「あんたのお陰で解ったよ……確かに俺は迷っていた……耶倶矢と夕弦……どちらを救えばいいかを、そして恐れていた、本当に俺は皆を守れるのかと」

 

 

魔戒剣を構え

 

 

「だが俺はもう迷わない、恐れはしない……俺は魔戒騎士だから……!!」

 

 

天へと切っ先を向け

 

 

「我が名は冴島千牙!黄金騎士・牙狼(ガロ)の称号を受け継ぐ者!!」

 

 

円を刻み時空が割れ、彼の受け継いだ鎧が装着される。紫水の瞳は相対する同じ金色へと向けられる。

 

 

「来い、黄金騎士よ!」

 

 

二人の牙狼が駆ける。両者間合いに入った、後はただ剣を振るうのみ!

 

 

「「ウオオオオオッ!!!!」」

 

 

一閃。千牙と牙狼はすれ違い動きが止まる。

 

 

「……くっ」

 

 

先に鎧を解除し肩を抑える千牙。

 

 

「……冴島千牙」

 

 

牙狼は振り向き

 

 

「それでいい、曇りないその剣……確かに受け止めた」

 

 

口元から血を吹き、それを拭う。

 

 

「感謝する、お前に改めてわからされた……意思の強さを」

 

「感謝するのは俺の方だ。俺は自分自身の弱さに気づけなかった、だがあんたの剣を受けてそれに気づかされたよ……まだまだだ、俺は」

 

 

すると牙狼の鎧が解かれ内なる存在が明らかになる。千牙と同じ白い魔法衣に茶色の髪。

 

 

「あ、あんたは……一体?」

 

「俺はお前と同じ、冴島の姓を持つ者……千牙、今のお前なら操ることが出来るだろう……『轟天』を」

 

 

白い魔法衣の男は千牙の元に近づき、肩に手を置く。

 

 

「お前に一つ言っておこう、選択は二つとは限らない……もう一つの答えがあることを忘れるな」

 

「えっ……」

 

「行け、お前を待つものがいる……そして―――」

 

 

手を離し背を向け

 

 

「千牙、強くなれ……!」

 

 

その言葉を最後に千牙の視界は真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

或美島・海岸―― PM 5:59

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「もう、本当になんなのこいつ……」

 

 

夕弦と耶倶矢は肩で息をしハンプティを視界をに納める。彼女達の攻撃はハンプティに一切効かず、此方ばかりが消耗していた。

 

 

「苦行、このままでは……」

 

「諦めるのは早いって、まだなにか方法が―――」

 

 

一瞬の油断、耶倶矢はハンプティの巨大な腕に捕縛される。

 

 

「動揺、耶倶矢!っく!」

 

 

夕弦も動揺に掴まれてしまう。

 

 

「ゆ、ゆづ……る」

 

「かぐ……や……」

 

 

掴まれながらも尚、自分の事よりも夕弦は耶倶矢を耶倶矢は夕弦を心配する。ハンプティが二人を握る強さが徐々に上がっていく。

 

 

「ごめん、ね……さっきのこたえ……せんがにゆづるをえらんでって、いったんだ……」

 

「きぐう……ゆづ、るも……です……まさかかぐや、もおなじこと……をしてるとは」

 

 

幸い握れていない片方の手を二人は伸ばし合う。

 

 

「もっと……いっしょにいたかった……な」

 

「どう、かん……ゆづるも……です」

 

 

彼女達の瞳からぽろぽろと涙が流れ始める。

 

 

「しにたくないよぉ……ゆづるといっしょにもっと……」

 

「かぐ……や……」

 

 

一緒に居たい、そんな願いは叶わないのであろうか……否

 

 

「うおおおっ!!」

 

 

何処からともなく聞こえる声、ハンプティは眼球に衝撃が走り仰け反り耶倶矢と夕弦を手放してしまう。宙に浮かんだ二人を白い風が運び、地面へとそっと下ろす。

 

 

「せん……が?」

 

「なんで、ここに……」

 

 

魔戒剣を構えた騎士、千牙は二人を守るように前に立ち

 

 

「お前達を守るためだ」

 

 

そういい放つと鎧が召還される。金色の光が彼女達に触れると

 

 

「暖かい……」

 

「何でしょう……とても、落ち着きます」

 

 

牙狼の黄金の輝き、それは見るものに希望を与える……千牙はハンプティに向けて走る。

 

 

「ふっ!」

 

 

拳を作り、千牙を殴ろうとするが彼はスライディングしつつハンプティの股下をくぐり抜け、足を斬りつける。だが傷つけることはできない。

 

 

「ちっ」

 

 

舌を打ち立ち上がりながらハンプティを正面に捉える。

 

吠えながらハンプティが此方に向かってくるのを確認すると千牙は牙狼剣で何かの紋様を刻み始める。ハンプティは直ぐ側へ、しかし最後の一閃が刻み終えると、ハンプティの巨躯が吹き飛ばされる。

 

すると紋様が光輝き、馬のような嘶きが聞こえる。

 

 

「轟天!!」

 

 

名を呼ぶ、試練を越えしものに受け継がれる、金色の馬を。紋様の光が消えると、千牙は“魔導馬・轟天”に跨がっていた。

 

 

「無事召還できたな相棒」

 

「ああ……行くぞ、轟天!!」

 

 

手綱を引き、轟天は大地を掛ける。

 

 

「グオオオオオオォォォォ!!!!」

 

 

ハンプティは千牙を迎え撃とうと拳を振るおうとするが、轟天の速度は奴の動きよりも圧倒的に早い、懐に潜り込み切り裂き、轟天は後方を向かせ、ハンプティを後ろ足で蹴り飛ばす。

 

 

「相変わらず固い奴だ」

 

「承知!」

 

 

再び手綱を引き、轟天は前足の蹄を大地へ下ろすと、轟天を中心に衝撃が生まれる。

 

 

「うっ……!」

 

「っ!」

 

 

夕弦と耶倶矢は巻き起こる衝撃に飛ばされぬよう、身体を強張らせる。

 

衝撃を受けた牙狼剣は変化を起こす、千牙の身の丈以上の剣……“牙狼斬馬剣”へと変貌した。

 

そしてハンプティへと駆ける。

 

 

「ウオオオオオッ!!!!」

 

 

ハンプティの胴体に牙狼斬馬剣を突き立てると、容易にその装甲を貫き

 

 

「はあぁっ!!!!」

 

 

装甲もろともハンプティの身体を一刀両断、地面に火花を散らし轟天は止まると同時にハンプティは爆発し消え失せたのであった。




試練を越えし騎士に再び驚異が立ちふさがる。
二人の少女の思いを受け止めしとき、奇跡は再び。
次回、『双迅』。
二振りの剣が闇を払う!!
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