デート・ア・ライブ-GOLD KIGHT GARO- 作:深淵騎士
???―― ???:???
「……」
男が一人、暗い空間に居た。辺りを見渡しても何も見えない、ただひたすらの闇。
「ここは……?」
背後から何か物音が聞こえ、そちらを向く。そこには……
「ひぃぃっ!!く、くるなっ―――」
言葉は途切れ、男は足首だけを残し消え去ってしまった。そして浮かぶ黒い霞のような物体。
『クジバ、ヤサリカナチリザカペカリア……』
※
冴島邸・ダイングルーム ―――AM 8:00
「それじゃいってきまーす!」
「出発、行ってきます」
来禅高校の制服を来た夕弦と耶倶矢は、この冴島邸の執事、倉橋ゴンザに元気良く挨拶をする。
「行ってらっしゃいませ、夕弦様、耶倶矢様」
一礼し二人を見送ると、彼は食卓へ。
「おや、四紙乃様、もう朝食はお済みになりましたか」
「はい、今日も美味しかったです」
『ゴンちゃんの作る料理はほんと最高だねー!』
「恐縮で御座います」
笑顔で頭を下げるゴンザ。
「食器片付けますね」
「いえいえ、四紙乃様はゆっくりしていてください」
彼はテーブルの食器を纏め始め
「ところで、狂三様。紅茶の御代わりは如何ですか?」
ティーカップを片手に持った狂三にそう尋ねると
「お願いしますわ」
「かしこまりました、ではすぐに御持ちします」
食器を持ちゴンザはキッチンへと。
『あれ?千牙君は?』
「そういえばまだ此処に来てませんね……」
四紙乃とよしのんは顔を見合わせ、冴島邸の主、冴島千牙の事を思い浮かべる。
「あいつなら今、地下に居るぜ」
台座に乗っかったザルバの方を向く狂三。
「確か千牙さんが何時も剣の鍛練をしている所ですよね」
「ああ、そうだ。間違っても行こうとするなよ、集中してるときのあいつは怖いからな」
※
冴島邸・鍛練場――― AM 8:12
「せいっ!はっ!」
斧の様な形状をした刃、グラウ竜の牙を弾き、時にはそれを交わす千牙。
「でぇあっ!」
脛で蹴り飛ばし床に足を着けると、千牙は突然
「!?」
視界が揺らぐ程の目眩に襲われ、思わず膝を着いてしまう。
「くっ……」
迫る牙が彼を切り裂こうとする……しかし
「……?」
銃声が一回聞こえ、牙は寸前の所で止まっており、全ての牙が天井へと戻っていく。
「千牙さん!」
扉の前には霊装を纏った狂三が。彼女は千牙の側に寄り
「大丈夫ですか!?」
「……ああ、ちょっと目眩がしただけだ。助かったよ」
ふらつきながら千牙は立ち上がる。何度か手を握り、閉じたりして身体の調子を確かめ
「何だったんだ、今のは……」
「疲れが溜まっているのではないでしょうか?少しは御休みになった方が……」
狂三の言葉に千牙は首を振り
「問題ない、それに休んでる暇なんて俺には無いからな。心配してくれてありがとう」
魔戒剣を鞘に納め、千牙は鍛練場を出ていく。
「……千牙さん」
※
来禅高校――― AM 8:39
朝、HRが始まる前のこの時間。士道は席に着き窓を眺めていた。
「よ、五河」
「……殿町か、おはよう」
クラスメイトの殿町宏人が声を掛けてくる。
「どうした、辛気臭い顔をして」
「いや、別に……」
ちらりと横を向くと
「おおー!そうなのか!やはり耶倶矢は凄いな!」
「ふふふ、当然よ。この我に掛かれば朝飯前……もっと褒め称えよ!」
何やらキラキラした眼差しで、得意気に胸を張る耶倶矢を見る十香。それと
「理解、なるほど、そういった仕草が男性の気になるポイントなのですね……流石はマスター」
「でもあまり露骨にやればダメ、自然にかつ視界の片隅に写るようにやらなければ」
何やら妙な事を伝授している折紙と、それを受けている夕弦。
「仲良いな、ほんと」
士道は呟く。ちなみにだが、夕弦と耶倶矢がこうして高校に通っているのは千牙が琴里に、二人を十香の時と同じように通学させてほしいと頼み込んだからである。
当初は彼の唐突は事に噛みついていたのだが、精霊の事を知っている士道が側に居ればある程度の不測の事態に対応はできると踏み、更にラタトスクとしても都合がいいと判断し了承したとか。
「そうだ、五河」
「ん?」
「お前知ってるか?サッカー部の顧問の、石崎先生が自宅で亡くなってるて話」
「何だよそれ……あの先生昨日まで元気だった筈じゃ……」
士道はその教師の元気な姿を昨日しっかりと見ていた。それが突然亡くなったと聞き、彼は不信に感じた。
「外傷も無いし、特に病気でもなかったらしい……それに」
「それに?」
眉間に皺を寄せて言いづらそうな殿町、重く口を開く。
「軽く耳に鋏んだんだけどよ、この世のものとは思えない凄い形相でやつれて、髪が真っ白になって見つかったってよ」
「うわ……何があったんだろうな、石崎先生……」
「さあな……けどテレビで見たんだが、似たような死に方してる人が二日前にも居たような……」
偶然だろう、そう言うつもりの士道であったが何故かそうでは無い気がしたのだ。
「……ん、どうした?」
「なんでもない……俺の思い過ごしであればいいけど」
※
冴島邸・ダイングルーム――― AM 9:02
「千牙様、紅茶を御淹れしました」
「ありがとう」
置かれたティーカップの取っ手を掴み、口をつけて喉に流し込んでいく。何気無い一連の動作、だが四紙乃は千牙を見て
「千牙さん……疲れてませんか?」
「……そうか?」
『そうだよー何か何時もよりこう……覇気がないもん』
「覇気ってなんだ、覇気って……」
「あまり無理をしないでくださいね」
テーブルにカップを置き
「大丈夫、無理もしてなければ疲れてもいない。問題ないさ」
彼はそう言うが、狂三と四紙乃は黙ってもいられない。
「千牙さん、先程もそう言っていましたが、いくら魔戒騎士といえども少しの休息は必要ですわ」
「千牙さんは……自分を大切にしなさすぎです……」
『そうそう!他の人の事はすっごく気にするのに自分の事は無関心だもんね!』
捲し立てられるように言われ、聞いていたザルバが笑い
「お前さんを思ってくれる奴がこんなにいるとはな、勿論あの風の嬢ちゃん達も同じ事を言うだろうよ。たまには肩の力を抜いたらどうだ?」
「そうは言ってもだな……む?」
何かに気づいた千牙はふっと笑い
「珍しいな、お前が来るなんて」
「え?……ひゃあ!」
「ぉおうっ!」
いつの間にか、民族風の仮面をつけた小柄な少女が四紙乃が座る椅子の側に立っていた。千牙はその少女に近づく。
「だ、誰ですか……?」
「この娘は“メメ”と言ってな、俺が何時も指令を貰う番犬所からの使いだ」
「全く気配に気づかなかった……神出鬼没ですわね……」
狂三はメメの異質さに舌を巻く。
「時折こうしてくるのだが……指令か?」
こくりと頷き赤い封筒を取り出し、千牙がそれを受けとり魔導火で燃やす。彼は浮かんだ文字を読み始める。
「『人間の夢と魂を貪り喰らう悪しきホラー“ドナローブ”出現。これを討伐し人間に安寧を』……ドナローブ……ザルバ」
「ああ、厄介だ、すこぶる厄介だぜ」
腕を組み、表情を曇らせる千牙とため息をつくザルバ。勿論、四紙乃や狂三には何のことが解らず、頭に疑問符が浮かぶ。
「ドナローブというホラーはかなり特殊なホラーでな、人間から人間へ移り変わり、眠った人間の夢に現れ魂を喰らう……のだが」
「奴に関する文献はかなり少ない、俺様も奴の事は殆ど知らないからな」
「そんなホラーが……」
組んでいた腕を組み、ゴンザに向け
「だが先人達が残した書物に少なからず手掛かりがあるかもしれない、書庫を漁るぞ」
「かしこまりました、ただいまお持ちします」
直ぐにゴンザはダイングルームから駆け足で居なくなる。
「すまないな、少し埃っぽくなる」
「構いません、よければ私も手伝いますけど……」
「気持ちはありがたいが……ホラーに関する書物は魔戒語だが……」
四紙乃は両手をぐっと握り
「大丈夫です!ゴンザさんから魔戒語を少し教えてもらってます!」
『一応魔戒語の本はある程度読めるからね!』
千牙は驚く、まさか四紙乃とよしのんが魔戒語について学んでいたとはと。彼女なりに千牙の力になりたいと日夜励んでいたのだろう、彼は笑み
「なら頼りにしているよ」
「はい!」
『おっまかせー!』
よしのんもガッツポーズを取る。なお一方の狂三は
「それでは、私は千牙さんが書物を手に取っている間、街の様子を伺おうかと。何か変わった事があれば、
「すまんな、お前にまで面倒なことをやらせる流れになってしまって」
「いえ、私がやりたいだけですから♪それでは」
スカートの端を軽く上げて華麗に影の中へ沈んでいく狂三。
「……本当に皆、頼りになる」
※
天宮市住宅地――― PM 4:12
帰宅最中の士道と十香。夕弦達とは既に別れ、彼女達も冴島邸に向かっている所であろう。
「それからだなー」
「うん……」
心ここにあらずといった所だろうか
十香の話があまり頭に入っていない士道。
「……どうしたのだ、シドー?朝から少し変だぞ?」
「そ、そうか?」
「うむ、何か悩みごとか?私で良ければ相談に乗るぞ?」
「んー大したことじゃないから気にしなくてもいいぞ」
それでも十香は、彼が何時もと様子が違うことに表情が曇る。
「……シドー!」
十香は気づく、何処からともなく現れた黒い煙のようなものが一瞬士道に迫っている事に。突然叫んだ十香に向き直る士道。
「いきなり大きな声上げてどうしたんだ?」
「いや……その、なんだ……」
当の士道は何事もなかったかのように首を傾げる。
「見間違いかもしれんな……忘れてくれ、シドー」
「?」
※
冴島邸――― PM 4:15
「ただいまー」
「帰宅、ただいま戻りました」
夕弦と耶倶矢は屋敷の扉を開けるが、何時も来るはずのゴンザが来ない。彼女達は人の気配がするダイングルームへ向かう。
「うわっ!何これ!」
「動揺、何故本がこんなに……」
ダイングルームを見て第一声がこれである。室内の机や椅子には大量の古めかしい本が重ねられて、ゴンザは立ちながら、四紙乃とよしのんはその場に座りながら、千牙は壁に寄り掛かりながら本を読んでいた。
「夕弦、耶倶矢、おかえり」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさい」
『お帰りー』
それぞれから出迎えの言葉を受けると、二人は千牙の元に行き
「疑問、皆さんは何をしているのですか?」
「ホラーについての調べものだ」
「えっと……ホラーって、前にあの島で千牙が倒したあれと同じ奴?」
ハンプティ、哭竜の事を思い出しながらに言う耶倶矢。
「ああ、かなりの本を読み漁ったのだが全く手掛かりがなくてな」
「そうなんだ……何か手伝えることある?」
読み終えた本を閉じ、千牙は悩む。
「ふむ……特には、だな。学校帰りなんだ、ゆっくりしていても構わん」
「「……」」
千牙はそんな風に言うが、二人は横目で四紙乃を見る。自分達では彼の力になることは出来ない、だが自分達よりも小さな四紙乃が彼の力になっている……
こうして二人で居られるようにしてくれた千牙に、少しでも恩を返したいと思う夕弦と耶倶矢。俯いて立ち尽くしている二人に、千牙は
「……そうだな、ここに読み終わった本、結構な量がある。制服から着替えて、少しづつで構わんからそれを書庫に戻して来てほしい、頼めるか?」
彼の提案に顔をあげ表情を明るくする、夕弦と耶倶矢。
「うん!任せて!」
「承諾、わかりました」
千牙がの横にある本を何冊か重ねて持っていく二人。
それからというもの、目的のホラーに関するものは一切見つからず、数時間が経過していた。
「ふぅ……流石に目が疲れますなぁ……」
「疲れましたぁ……」
目頭を抑えるゴンザと本の束に突っ伏す四紙乃。千牙は今読んでいた本を閉じ
「ゴンザ、そろそろ止めにして皆の夕食を作ってやってくれ。俺は街に出てくる」
「かしこまりました」
コートに袖を通し、ザルバを台座から取る。
「……ザルバ」
「ん、なんだ千牙」
明らかに寝ていたザルバに千牙は目元をひくりと動かし
「なんだ、じゃない。行くぞ」
「手がかりは見つかったのか?」
「それらしい書物はなかった、街に出て奴を探す」
ザルバを左の中指に嵌め
「四紙乃、よしのん。それに夕弦、耶倶矢。ありがとう、手伝ってくれて。後は休んでいてくれ」
それだけ言い残し、彼はダイングルームを出ていく。
※
五河宅―――PM 10:48
「俺は寝るよ、おやすみ」
居間にいる琴里と十香に向けてそう言い、自室へ向かう士道。
「……なあ、コトリ」
「なーに?」
棒つき飴を舌で転がしながら反応する琴里。
「今日のシドーは何処か様子がおかしかったんだが、コトリは何か知らないか?」
「……そーねぇ、特にこれといってね」
「そうか……」
「心配なら聞けばいいじゃない」
「聞いても大丈夫と一点張りだろう」
ふーむと琴里は声を出し
「それもそーね……ま、明日になったらケロっとしてるわよ」
「そうだと良いんだが……」
ベッドの上で士道は今日の事を脳裏に浮かべる。殿町からあの話を聞いてから、妙な胸騒ぎが止まらない。何かが起こりそうな気がしてならないのだ。
「……考えても仕方ないか、今は寝よう……」
瞼を閉じ、ゆっくりと微睡んでいく士道。
※
「……ん」
不意に士道は目を開けると、窓の外は明るく太陽が顔を覗かせている。
「朝……か、あんまり寝れてない気がする……」
熟睡出来なかった彼は欠伸をしつつ、ベッドから下りようとすると、部屋の扉が開く。彼の部屋に入ってきたのは十香のようだ。
「十香、おはよう。どうした?」
「……シドー」
ゆらりと近づき、彼女は突然霊装を身に纏い
「うわっ!!」
鏖殺公を士道に振り下ろす。彼は直前でかわし、彼女の後ろへとすっ飛び倒れる。
「いきなり何するんだ!」
「シドー……すまない……」
次の言葉に士道は驚愕する。
「死んでくれ」
「!?」
再び鏖殺公で士道を切り裂こうとするが、直ぐに立ち上がり部屋を飛び出す。
「一体何があったんだ、十香……!」
急いでやって来たのは居間だ。
「琴里!」
ソファーに座りテレビを見ていた琴里。
「聞いてくれ、十香の奴が……」
「うるさいわね」
「えっ―――」
彼の横を火球が通りすぎ、机などを蹴散らしていく。
「こと……り……?」
「士道、突然だけど……ここで死んでもらうわ」
砲台となった灼熱殲鬼を士道に向ける。
「何でだよ……十香もお前も、どうしちまったんだよ!」
「士道が知る必要は無いわ……いいから死になさい」
灯る灼熱殲鬼の砲口。歯を食い縛り、彼は居間から全速力で駆け出す。
「待ちなさい!」
彼女の声は耳に届かず、士道は居間を出て玄関へ。そして靴を履き扉を勢いよく開けて外に逃げる。
「何なんだよ……何で十香と琴里が……くっ!」
悪い夢なら覚めてくれ、そう士道は願いながら道路を駆けていくだけだった……。
人間の心ってのは強い。
どんな闇もどんな邪悪も打ち払う光を持っている。
そしてあいつはその人間の心を守り、信じる魔戒騎士だ。
次回、『黒翼』。
暗闇に舞い上がれ、漆黒の翼!!