最後までお付き合いいただけると幸いです。
あの日あいつの言った一言がずっと心に残っている。
「愛してるぜ川崎」
あいつはなんであんなことを?
あたしのことが好き…?って感じはあれからまったくない。
言われた当初は驚きと焦りで寝つけない日が増えたのを覚えている。
言った本人は何事もなかったかのようで、それこそ訳が分からなくなった。
ずっと聞いてみたいと思ってた。なんであんなことを言ったのか?
でもあれから特に絡みもなく、一言二言会話をするくらい。
もちろん第三者を交えての話しだ。
あー。結局聞けず終いだったな。
あたしとあいつは今日でお別れ。
だって今日は卒業式だから。
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クラスでの最後のHR。最後の挨拶。皆の涙。
あたしには何も関係ない。
あたしはあいつにふと目をやる。
あの件以来あいつの姿見るの日課みたいになってたっけ。
あいつもあたしと一緒。まったくの無関心。
この騒がしい教室の中であたしとあいつだけが別の世界にいるみたいで少し可笑しかった。
好きだったのか?と聞かれても答えられない。
あたし自身も答えを教えて欲しいくらいだ。
沙希「帰るか…」
あたしは教室を後にする。最後にチラッと目をやると…たまたま目が合った。
ただそれだけ。私はスッと目を逸らすと教室を出た。
お互い他人に干渉されることを嫌っている。
これでいい。たぶん二人の距離感はこれで正解だ。
沙希「…比企谷…八幡。」
校門を出た所でふと声に出る。
なんだろうこの気持ちは。
あいつが出てくるのを待とうか?
それで声をかけるか?
なんて?今さら話すことなんてないだろうに。
こんな最後の最後でなんでこんなことを考えてしまうんだろう。
沙希「あぁ。やっぱり好き…だったのかな。」
これが本当の答えなのかはわからない。
でももう二度と会うことはないだろう。
お互い同窓会とかってガラでもないし。
街でばったりとかも絶対にない。
きっとこれが本当に最後。
沙希「まぁいっか。」クスッ
お互いの距離が縮んでいれば違った結果になっていたんだろうか。
そうすればあたしにも青春と呼ばれるものがあったのか。
まったく…。始まる前に終わる青春って。
その矛盾が可笑しかったのか久々に家以外で微笑んだ。
全てが終わった。そう思っていた。
沙希「あ、あんた…!?」
八幡「か、川…?川崎…!?」
とあるアパートの前。
絶対に会うこともないだろうと思ってからまだ1ヶ月。
まさかの顔と遭遇した。
あたしは近くの大学に通うことになりこのアパートに今日引っ越してきた。
部屋の周りにはまだ運び込まなければいけない荷物が散乱している。
あいつが立っている隣の部屋の周りにも引越しの荷物とおぼしきものがある。
沙希「え…?あんたなんで隣…。」
八幡「う、嘘だろ…。」
誰がどう見てもそういうことだ。
こんな偶然があるのだろうか。
高校の同級生と隣同士になることなんてあるのか?
しかも…好き?だったかもしれないやつのとなりに。
心の中がざわつく。
今まで経験したことのないような感情が渦巻く。
あぁ。私の青春は終わってなかったのか。
つづく