川崎沙希の距離感   作:満福太郎

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8.川崎沙希の贈り物

7月も終わりに差し掛かった頃。

日々の暑さも相変わらずひどい。

比企谷はエアコンが復活してから落ち着いて生活を送っている。

あたしはというと今はかおりの対応に追われている。

 

かおり「どっか遊びにいこうよー!」

 

沙希「嫌よ。暑いもん。」

 

かおり「そんなんじゃ比企谷と進展しないよー?」

 

沙希「そうだけど…。この暑さだから遊びに行くのはちょっと…。」

 

沙希「比企谷もたぶん家から出ないよ。」

 

かおり「まぁたしかにねー…。」

 

朝からずっとこんな感じで家にこもっている。

 

かおり「もうすぐ8月かー。早く秋になればいいのにねー。」

 

沙希「うん。とりあえず少し涼しくなって欲しい。」

 

かおり「あ。」

 

沙希「何?」

 

かおり「聞きたい?」ニヤニヤ

 

沙希「なんか怖いからいい。」

 

かおり「聞かないんだ?あたしにありがとう!って言いたくなるのに。」ニヤニヤ

 

沙希「……何よ。」

 

かおり「今度アイス奢ってくれる?」

 

沙希「奢ってあげるから早く言って。」

 

かおり「あのね…。8月8日は比企谷の誕生日なのよ!」

 

沙希「……かおり!ありがとう!!」

 

かおり「ふっふーん!感謝しなさいよね!」

 

沙希「するする!アイス3つ奢ってあげる!」

 

かおり「ラッキー!ちなみにあたしはあげるプレゼント決めてるから。」ニマニマ

 

沙希「は?かおり手出さないって言ったじゃん。」

 

かおり「手は出さないけどプレゼントはあげるよ。」

 

沙希「ち、ちなみに何をあげるの?」

 

かおり「絶対教えない!」ケラケラ

 

沙希「けち!!」

 

かおり「大いに悩みたまえ!」ケラケラ

 

思わぬナイス情報により暑さが吹き飛びやる気が出てきた。

でも人にプレゼントって何あげたらいいんだろう?

妹とかにあげるようなものはなんとなく分かるんだけど…。

大学生だもんね。やっぱりそれなりのもんじゃないと…。

ここからあたしの苦悩が始まる。

 

~~~

 

沙希「これも却下。これも…ダメかなー。」

 

あたしはいろんな雑誌を読み漁りプレゼント候補を絞っていた。

絞ると言ってもまだ案は出ていない。

 

沙希「比企谷って結局何が好きなんだろ?」

 

沙希「そういえばあんまり比企谷のこと知らないなー…。」

 

沙希「マッカンが好きなのは知ってるけど誕生日にマッカンあげたって仕方ないし…。」

 

沙希「やっぱり服とか?でもサイズわからないし好みもあるしなー。」

 

沙希「……。やっぱりあの手しかないか。」

 

 

~~~

 

あたしは喫茶店で人を待っていた。

本当ならこんな手は使いたくなかったんだけど。

でも初めてのプレゼントだから失敗したくないし。

 

???「あ、あのー?こんにちは…。」

 

沙希「あ!ごめん!ボーっとしてて!す、座って!?」

 

???「あ、はい。」

 

沙希「ごめんね?急に呼び出したりして…。えっと小町ちゃん?だよね?」

 

小町「はい!ご無沙汰です!大志君のお姉さん!」

 

沙希「あ、沙希でいいよ。」

 

あたしは大志にお願いして小町ちゃんにあたしが会いたいってことを伝えてもらった。

まぁ普通なら断られてもいいもんだけどちゃんと会いに来てくれた。

 

小町「あのー?沙希さんお話しというのは兄のことですか?」

 

するどい。でも普通に考えたらそれくらいしかないのか。

 

沙希「う、うん。そうなの。あたし今比企谷…君の隣に住んでて割と良くしてもらってるんだ。」

 

小町「そうなんですか!?小町何も聞いてない…。あのごみいちゃんめ。」ボソッ

 

沙希「こ、小町ちゃん?」

 

小町「あ、いえ!じゃあ兄の好きなものが知りたくてですかね?」

 

この子怖い。なんでわかるの?

 

沙希「よ、よくわかったね!」

 

小町「そういえばもうすぐお兄ちゃんの誕生日ですから。」

 

沙希「そうなの。仲良くしてもらってるからプレゼントをね…あげたいな…って。」

 

小町「ほー。」(やるじゃんごみいちゃん!)

 

沙希「あ、あたしあんまり比企谷君のこと詳しくないから何あげたらいいか全然分かんなくって!」

 

小町「なるほどー。」(小町の新しいお義姉ちゃん候補!)

 

沙希「だから小町ちゃんに好きなもの聞きたいなーって思って…。」

 

小町「構いませんけど本当にいいんですか?」

 

沙希「え?何が?」

 

小町「小町お兄ちゃんの好きなもの言うのは簡単ですけど沙希さんがそれでいいのかな?って。」

 

沙希「……。やっぱりそうだよね。」

 

小町「お兄ちゃんは家族以外からプレゼント貰うって経験が皆無に等しいと思うのでもらったらなんでも嬉しいはずです!」

 

小町「それにやっぱり自分で選んで喜んでもらえた方が沙希さんも嬉しいかと。」ニコッ

 

沙希「うん。そうする。ありがとう小町ちゃん。」クスッ

 

小町「でも悩んでおられるならこれは余談ですが、形が全てではないと思います。」

 

沙希「あ…そうか。」

 

小町「そういうことですよ。」ニコッ

 

賢い子だ。とても比企谷の妹だとは思えない。

何かをあげることにこだわりすぎていた。

形にはのこらなくとも記憶に残る。

そういうこともありなんだ。

この短時間で女子高生に気づかされるとは…。

最後に小町ちゃんとは連絡先を交換し別れた。

よし。何か見えてきたきがする!

 

~~~

 

8月8日当日。

大学から帰ってきたあたしは最後の準備にとりかかる。

小町ちゃんいわく、兄が帰ってくる予定はありませんとのこと。

なら比企谷は部屋にいるはず。

あたしは急ピッチで準備をすすめる。

それと同時に比企谷にメールを送る。

ご飯を一緒に食べようと。

わかった。とだけ返信が帰ってくる。

よし。これで下準備はバッチリ。

いろいろ考えたけどあたしにはこれくらいしか出来ない。

 

沙希「いらっしゃい。」

 

八幡「お邪魔します。」

 

沙希「いつものとこに座ってて。」

 

八幡「おう。……ってなんだこれ。すげぇごちそうじゃねぇか。」

 

沙希「でしょ?ちょっと奮発してみた。」

 

八幡「奮発って何かいいことあったのか?」

 

あぁやっぱり。自分の誕生日だってことは頭にないらしい。

 

沙希「今日はいい日だから。比企谷。誕生日おめでとう!」

 

八幡「あ…。」

 

ようやく理解したのか照れ臭そうに視線を逸らす。

こういうところは相変わらずね。

 

八幡「知ってたのか。」

 

沙希「この前たまたまかおりに聞いて。」

 

八幡「そうか。…なんていうか。その。ありがとな。」

 

沙希「いいよ。さぁいっぱい作ったから食べて食べて!」ニコッ

 

八幡「ああ、頂きます。」

 

二人でご飯を食べる。

珍しくうまいうまいと言いながら比企谷は食べてくれた。

良かった。あれから小町ちゃんに比企谷の好きな食べ物聞いておいて正解だった。

 

八幡「ふぅ。ごちそう様。」

 

沙希「お腹いっぱいになった?」

 

八幡「あぁ。でもこの料理俺の好きなもん多かったけど…。」

 

沙希「え?か、かおりに聞いたんだよ!」

 

八幡「折本に言ったことあったか…?」

 

さすがに小町ちゃんに聞いたとは言えなかった。

 

沙希「比企谷。これも良かったら。」

 

八幡「ケーキ?」

 

沙希「うん。甘いの大丈夫でしょ?」

 

八幡「ああ。これもしかして…。」

 

沙希「そう。あたしが作ったの。」

 

八幡「すげぇな。売り物みたいだ。」

 

沙希「ま、まぁ、味の保証はできないけどさ!」

 

八幡「…いただきます。」

 

沙希「ど、どうかな?」

 

八幡「すげぇうまい。」

 

沙希「ほ、ほんとに!?」

 

八幡「ああ。ほんとすげぇわ。」

 

沙希「コーヒーもあるから!」

 

八幡「すまんな。ズズッ…。ん?このコーヒー?」

 

沙希「甘いでしょ?マッカンみたいな感じで作ってみたんだけど…。」

 

八幡「うん。これもうまい。」

 

良かった。よろこんでもらって。

作ったケーキほとんど食べてくれた。

 

八幡「あーもう食えねぇ…。」

 

沙希「いっぱい食べたね。」クスクス

 

八幡「悪かったな。こんな風に祝ってもらって。」

 

沙希「ほんとはプレゼントあげようと思ったんだけど思い浮かばなくって。」クスッ

 

沙希「だからあたしの得意分野の料理がプレゼントってことで。」

 

八幡「十分すぎるプレゼントだ。」

 

沙希「ほんとに?物じゃなくても良かった?」

 

八幡「おう。俺がボケない限り今日のことは忘れない。」

 

沙希「あ、ありがと…///」

 

忘れないって言ってくれた。

それがとても嬉しかった。

少なくとも比企谷の心の中にあたしは入り込めた。

今はまだ小さいかもしれない。

でもこれからもっと大きな存在になれるように頑張らないと。

 

八幡「じゃあ。きょうはありがとな。」

 

沙希「うん。また明日ね!」

 

 

~~~

 

かおり「比企谷!」

 

八幡「ん?おわっ!?」

 

かおり「ナイスキャッチ!それあたしからのプレゼント。」クスッ

 

八幡「ありがたいけど投げるなよ…。」

 

かおり「いいじゃん別に。それより沙希のプレゼントどうだった?」

 

八幡「まぁうまかった。」

 

かおり「何それウケる。」クスクス

 

八幡「まぁプレゼントありがたく受け取っとくよ。じゃあな。」

 

かおり「比企谷。」

 

八幡「…なんだ?」

 

かおり「あたしが言うのもなんだけどさ。ちゃんとしてあげてね。」

 

八幡「……。」

 

かおり「比企谷って案外賢いからさ。なんとなくわかってると思うんだけど。」

 

八幡「……。」

 

かおり「だからこそ中途半端なことはやめてね。」

 

八幡「……なんの話しかわからん。じゃあな。」

 

かおり「最後に1つだけ。一応今さらって感じだけど…。あたしもだから。それだけ!じゃあおやすみ!」

 

八幡「……。」ガチャン

 

かおり「ふぅ。ほんと頼むよ比企谷。逃げないでちゃんと決めてね。」

 

つづく

 


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