幽鬼うさぎも異世界から呼び出されたようですよ? 作:グリアノス
それでは第2話、お楽しみいただければと思います。
上空4000mに突如として放り出された幽鬼うさぎとその他の少年少女。
先程、幽鬼うさぎは居場所を見つけられるかなどと思ったがそれよりも大切な事に気づいた。
──────あ、これ死んじゃう。
そうなのだ。先程までは華麗にスルーしていた問題が音を立てて目前に迫っていた。この身が人間と変わらないのであれば、この高さからの落下は致命的だと。
どうやら落下地点は湖になっているようだがそんなものは気休めにもならない。
当然だ。この高さから落下すれば水面の硬度はコンクリートと同等。皆等しく潰れたトマトになるだろう事は想像に難くない。
──────というか死ぬよね。
現在上空3000m地点。このまま湖の水面に叩きつけられれば無事はありえない。瀕死の重傷で済むことさえ奇跡だろう。
──────どうしよう。というか私が一体何をしたの?
私は自分の居場所を探したいだけなのに、と表情豊かとは言いがたい幽鬼うさぎは先程とは違う意味で泣きたくなった。一体誰が差出人不明の手紙の封を切ったら上空4000mに放り出されるなどと想像出来るだろうか。
──────これはあれか。私に居場所など作らせるわけ無いだろうとでも言うつもりか。
気に入らないのは結構だが、随分と手の込んだ殺し方をしてくるものだと思うと無性に腹が立ってきた幽鬼うさぎ。先程までの期待感はとうに消え失せ、今の彼女を支配するのは理不尽に対する怒りだ。
自分はただ肉体を持っただけでなぜこんな仕打ちを受けねばならないのか。しかも肉体を得たのは自分の意志と関係無くなのにだ。
──────良いだろう。ならばそんな意思などに屈するものか。そのよくわからない意思が私自身を否定するなら私だってその意思を否定してやる。
スッと目からハイライトを消した幽鬼うさぎは揺るぎない意志をその心に抱く。
──────舐めるな。元はただのカードであったとはいえ、れっきとした肉体を持つこの身。黙って殺されてなんてやるものか。
既に元の口調さえ崩れているがそんなことは幽鬼うさぎにとってはどうでも良かった。誰しも命の危機に晒されれば口調のひとつやふたつ崩れる事もあるだろう。
まあこれも、得られる筈の未来を失った矢先の為に陥ったヤケクソ状態だからではあるのだが。
ただいま上空2000m地点。このあんまりな状況を覆す為に出来る事を探す幽鬼うさぎ。そんな彼女に一筋の光明が差す。
──────! この体は飛ぶ、とまではいかないまでも浮く事は出来る。そしてこれは私だけでなく周りにも使えるらしい。
近くにいた猫に対して能力を行使した事で得た情報は
だが事は自分の思い通りには進まないのが世の常、当然のように新たな問題が浮上してきた。幽鬼うさぎが宙に浮ける事を認識したのまでは良かった。が、しかし…………
──────だめ。私だけならともかく、他の人も一緒だと減速で手一杯。
まだまだ能力を手探りで模索している幽鬼うさぎに、自分だけならともかく三人と一匹を支えるだけの力はまだ無かった。
──────これは落ちるね。
おおよそ自由落下の三分の一程の速度にまで減速に成功はしたが、湖に落下するのはもう避けようが無かった。
──────でも、これなら死にはしない筈。後の事は後で考えよう。
能力による減速が途絶えないように意識を向けながら、幽鬼うさぎをはじめとした少年少女は予め用意してあった緩衝材の役割を果たすであろう水膜を突き抜け、湖にその身を落とし込んだ。
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──────うん。こうなるってわかってたけどさ。
「流石にあんまりじゃないかな」
一先ず、生きている事に安堵した幽鬼うさぎは全身の力を抜き、水面を漂いながらポツリと不満の言葉を漏らした。
そんな抗議の声に同調する声が二つ。
「全くよ! 問答無用でいきなり引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
「ホントにな。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。ファミコンの理不尽ゲーかっつーの。どうせなら空じゃなくて石の中にでも呼び出された方がまだ親切だ」
「…………いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「俺は問題無い」
「そう。身勝手ね。そこの貴女もさっさと上がってきなさい。そのままでは風邪を引いてしまうわ」
「うん。そうする」
彼らとは少し遅れて陸に上がった幽鬼うさぎは、やはり陸は良いものだと僅かに顔を綻ばせる。 間違っても上空4000mを何の装備も無く落下するなど金輪際経験したくないと思うのも仕方ない。
「ここ…………何処だろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、何処ぞの大亀の背中だったりするのかもな」
ショートカットの少女の言葉に答えたのは金髪の少年だった。もっとも、答え自体は酷く哲学的で理解出来るものは限られそうだったが。
「まず間違いないだろうが一応確認しとくぞ。お前達も変な手紙を開けて此処に飛ばされたのか?」
「その通りよ。けどその“オマエ”っていうのは訂正してくれるかしら。私は久遠飛鳥よ。以後気をつけて。そこの猫を抱えた貴女は?」
「…………春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。で、そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」
「高圧的な自己紹介ありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義者と三拍子揃ったダメ人間なので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「あらそう。なら取り扱い説明書を用意して下さるかしら十六夜君。そしたら考えてあげても良いわ」
「ヤハハハ! 斬新な切り返しだな。それじゃあ今度作っとくから覚悟しとけお嬢様。さて、残るは最後まで湖に浮かんでた白髪ロリだな」
そこで皆の視線が幽鬼うさぎに集中する。幽鬼うさぎは己を見定めるような視線を気にせずに口を開く。
「私の名前は幽鬼うさぎ。皆、どこか痛い所はない…………?」
「痛い所、ねえ。空に放り出されてた時に体を持ち上げられた感覚があったが、あれをやったのはお前か?」
「うん。でも皆浮かせる程の力はないみたいで減速させるので精一杯だった」
幽鬼うさぎは十六夜の質問に特に隠す理由も無いのでありのまま答えた。
「そうか。まあ礼は言っておく。質の悪いイタズラならアレで死んでてもおかしくなかったんだからな。お嬢様と春日部も礼くらい言っとけ」
「貴方に指図されるのは気に入らないのだけど理には叶ってるわね。ありがとう幽鬼うさぎ……少し言いにくいわね。ユキ………と呼んでもいいかしら?」
「良いよ。皆も私の事はユキって呼んでくれたら嬉しい」
「よろしく。ユキ」
「うん。素敵な名前をありがとう。飛鳥」
そう言ってふにゃりと顔を僅かに綻ばせる幽鬼うさぎにその場にいた全員が優しい気持ちになった。出会って間もない彼らも今なら団結して幽鬼うさぎを守るだろう。
十六夜は見た目に似合わず子供好きな一面を刺激され。
飛鳥はこんな妹が居れば良いなと思い。
耀は幽鬼うさぎの小動物的な可愛らしさに魅了され。
元の世界ではイレギュラーとしてまともとは言い難い生活を送ってきた者が、恐らく自分より年下の少女に助けられた上に、悪意もなにも無い純粋な笑顔を向けてくれるのだ。
彼らにとってこれほど嬉しい事も無いのである。
各々の形で彼女に魅了された三人はお互いの顔を見合わせると視線だけで会話をする。
(オイ、これも何かの縁だ。コイツを守るために共同戦線を張ろうぜ)
(共同戦線…………良いわ。乗ってあげる。この子は少し危なっかしいもの)
(私も協力するよ。ユキが傷つくのを見たくないから)
今の三人に言葉などなくても意思の疎通が容易に行える程だった。三人の考えに多少の差異はあれど思う気持ちはただ一つ。それはユキを泣かせる奴は許さない、だ。
こうして極めて密やかに、非公式ではあるが幽鬼うさぎ親衛隊が作られたのである。
ただまあ、件の幽鬼うさぎはわけがわからずにキョトンとしていたが。
そしてそんなやり取りを茂みから見ていた人物が一人。
(あ、あれ? なんか仲良くなりました?…………さっきまで協調性なんてまるでなかったのに…………)
彼らを異世界より呼び寄せた張本人であるウサ耳の少女は出ていくタイミングを完璧に見失っており、茂みより見続けるしかなかった。
「で、呼び出されたは良いがなんで誰も居ねえんだよ。。この展開なら招待状に書いてあった箱庭とやらの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「同感ね。何の説明もなしでは動きようがないわ」
「…………二人共落ち着いてるね。必要以上に」
(全くです)
ウサ耳の少女は三人のやり取りにこっそりとツッコむ。いっそ大混乱の真っ只中の方がまだ出ていきやすいのだが、如何せん場が落ち着き過ぎていて出るに出れなくなっていた。
「…………くしゅん!」
そしてウサ耳の少女がまごついていた間に状況は更に悪くなる。
「…………もう良いや。四の五の言ってたらユキが風邪引くしな。手っ取り早く
「ええ、そうしましょうか。この子が風邪でも引いたらどうしようもないもの。それに春日部さんも“アレ”には気づいてたんでしょう?」
「当然。風上に居れば嫌でもわかる」
「へえ、面白いなお前」
たったひとつの小さなくしゃみで逃げ道を完全に塞がれたウサ耳の少女は殺気立った彼らを前に出ていく他ない事を悟った。
観念して茂みから出てきたウサ耳の少女を出迎えたのは三人の殺気立った視線で、彼女からすれば出来ることならこのまま逃げ去ってしまいたいと思ってしまえる心境だった。
「や、やだなあ皆様方。そんな肉食獣もさながらの怖い顔をされては黒ウサギは死んでしまいますよ? ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここはひとつ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいのですよ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「……寒い」
「あっは、取りつく島もないですね♪ そしてそこの貴女は大丈夫でございますか!?」
バンザーイと降参のポーズを取りながら幽鬼うさぎを案じるという妙に器用な真似をする黒ウサギ。しかしその眼は冷静に三人を値踏みしていた。
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まあ、些か扱いにくいのは難点ですし寒がっている方はどうもふわふわしてて判断に困るところではありますが)
そんな事を考えていた黒ウサギだったが、ふと彼らに目を向けると自分に向いているのに気づいた。
「あ、あのー、どうかなさいましたか皆様?」
黒ウサギの疑問には皆を代表して十六夜が答えた。
「ああ、言いたいこと聞きたいことは山のようにあるが、その前に確認させろ。俺達を呼び出したのはお前って事で良いんだよな?」
「はいな。その通りです」
「そうかわかった」
そこまで聞いた十六夜は聞きたいことは聞き終えたようで、黒ウサギから視線を外して飛鳥と耀に視線を移した。そこで行われるのは視線での会話。視線で語り合った時間は僅か数秒だったが、しっかりと意思の疎通はできたようである。
「ならまずお前に言いたいことは────」
「「「あんな呼び方した詫びに焚き火でも用意しろやこの駄ウサギ」」」
用意しなければ分かってんだろうな?とでも言うかのようにかけられたプレッシャーに黒ウサギは泣く泣く焚き火の用意を始めるのであった。
読んでいただきありがとうございます。