艦これTSモノ   作:五々階道寺希ノ之乃

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 タケちゃんの元で訓練に励み、あっというの間に1週間が過ぎた。今では基本動作なら大体完璧にできる程にまでなってる……はず。

 1週間ほぼ休まずに訓練を続けてきたが、意外とどうにかなったというのがオレの印象だ。ただ、本当に辛かった。タケちゃんの訓練はまず目標を設けるんだが、行けるか行けないかギリギリのソレを5回連続で達成できるようになるまで絶対に休ませてくれない。まぐれでの成功はノーカウント。鬼だった。

 しかもタケちゃんは絶対に声を荒げない。いつもの穏やかな口調で、表情もにこやかに「もう1回やりましょうか」と言うのだ。別に有無を言わせないオーラを放ってる訳でも目が笑ってないとかそういうのでもない。とにかくもう1回、もう1回と繰り返すのみ。多分こっちが勝手に怖がって若干萎縮しつつやってた。

 

 取り敢えず言えることは心身ともに強く鍛えられたということくらいだろうか。

 

「1週間お疲れ様でした。新人の中でも非常に高い練度になったと思いますよ」

「うっす、あざす」

「刀に関しては私からも文句のつけようがありません。寧ろ私が教わる立場になる程に、と言えるでしょう。後の課題は砲撃と雷撃ですが……まぁ砲撃は一般並なので良いとして。雷撃は周りに笑われない程度になるまではとにかく頑張って下さい」

「……うっす」

 

 最終日の訓練を終えてプールから上がり最後のタケちゃんからのお言葉をいただく。

 残念ながらオレの技量は近接戦闘ならずば抜けていいんだが、雷撃に関しては酷い。何で目の前で撃った魚雷が真後ろに進んで行くのか訳が分からないと言われたんだが、オレだって意味がわからない。多分直接手で持って投げた方が当たる。

 

 とまぁオレの技量なんてどうでも良い。

 ともかくとしてオレが艦娘になり1週間。そろそろあの女が帰ってきてどっかしらに連れてく筈だ。

 

「では一六○○になりましたら玄関前へお願いします。彼女が待っているはずですから」

 

 言われて、時計を確認する。時刻一四三○。時間まではまだしばらくあるし、シャワーでも浴びておこう。

 

 その後タケちゃんと別れ、アリーナを出た。多分、もうここに来ることはないのだろう。さようなら、と背中越しのタケちゃんの言葉に「さよなら」と返し、薄暗い廊下を行く。

 

 

 

 結局、タケちゃんの詳細はわからずじまいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関ホールは思った以上に庶民的な空気を感じる場所だ。小窓の受付が2つ並び、待合席として安い4人掛けのソファーが数列。天井も一般的常識的な高さで、多分もう少し身長が……男だった時ならジャンプすればギリギリ届くくらい。

 ホールを照らす照明はどこか薄暗くて、人影がないこの空間は非常に静かで哀愁が漂っていた。

 

「やぁ天龍。1週間ぶりかな」

 

 時間通りに玄関ホールへ向かうと少女が1人であの時と同じ笑みを浮かべていた。白い第2種軍装に身を包む姿は、低身長でのちぐはぐさが際立つ。しかしその表情が曖昧さを打ち消して、あたかも彼女が軍人であるように見せる。実際に軍人なんだろうが。

 

「っと、そう警戒しないでくれ。訓練がしっかり身に着いたのは良い事だが、それは私に向けるモノじゃないぞ」

 

 そう言って彼女はオレの頭を指差してから、両手で兎の耳を真似るようなジェスチャーをした。釣られて頭の方に手を持っていくと、天龍の電探に指先が当たったのがわかった。無意識に出してしまっていたらしい。

 小さく深呼吸をすればそれもたちまち消える。艦娘は意志により自分の艤装を自由に出し入れできるのだ。市街地でのむやみやたらな顕現は禁止されているが。

 

「さて、では艤装もしまったところで移動するとしよう。表で車が待ってる」

 

 小さな背中に着いていくと、外には黒塗りの高級車っぽいのが止まってた。無駄にピカピカだし多分相当手入れされた奴だ。

 

 ふと振り向くと1週間オレが泊まり込んでいた施設が目に入った。

 そこは総じて、どこにでもありそうな鉄筋コンクリート2階建ての、角張ったコミュニティセンターのような灰色の建物だった。広さも傍目から見たら大したことのない、小さな小学校程度の敷地面積だ。

 

 …………あの全貌の見えないアリーナはどこにあったんだ……? 地下か?

 

「気になるところ済まないが、早く乗りたまえ。質問なら車内で聞けば良いさ」

 

 そう言われ、考えるのは諦めて大人しく車に乗り込む。後部座席に座り、隣にも少女が座る。

 車中は何とも慣れない匂いがする。高級車特有の鼻につく匂いだ。

 隣の彼女は見た目にそぐわず懐から太い葉巻を取り出して咥えた。マッチを擦り先端にじっくりと火を通す。

 絵面的に完全にアウトだ。って言うか本当に成人してるのか怪しい。

 

「……むっ? どうした、葉巻が珍しいか?」

「いや、別に……成人してんのかなって」

「くははっ、何を言う。人は見た目にはよらんぞ。しかし若く見られるのなら重畳だ、この高級葉巻をやろう」

 

 ニタニタと擬音のつきそうな笑みの誘いを丁重に断り、これ以上話すことはないと窓の外に目を向け、肘掛けに腕を乗せて頬杖をつく。

 彼女と下らないやり取りをしている間にも車は進み始めており、既に車窓からの景色は初見のものだった。と言いつつも車道は左右を森で挟まれていてずっと同じ景色が続くだけなんだが。こんな近くに深い森があったのか、なんて思いながらボーッと外を眺める。

 

 その後はしばらく無言だった。ラジオから吐き出されるジャズ風味の音楽がエンジン音と混ざり合って耳に染みる。静かな時間だった。

 

「さて、まずは1週間お疲れ様と言っておこうか。タケちゃんから報告書はあがっているから、君の練度がどの程度のモノかは私も把握してるんだ。雷撃に難アリ、とね?」

 

 葉巻が半分程無くなったくらいか。見た目にそぐわぬ趣味を酷くゆっくりと楽しんでいた彼女が口を開き、クツクツと喉の奥で笑って肩を震わせた。

 やめろ、やめてくれ、オレだって気にしてるんだ。神様を呪いたくなる程度には理不尽さに(さいな)まれてる。

 

「はは、すまない、そう不機嫌になるんじゃあない、私が悪かった。まぁしかしそれはどうでも良い事だ。総合的な評価で言えば充分及第点なのだから。戦力面で特に問題はないと、私は考えている。重要なのは生活面や精神面に関することだ」

 

 フゥー、と紫煙を吐き出し、こちらの表情を窺うように視線を向けて来る。それからまた一息葉巻を吸って、彼女はこう言った。

 

女になった気分はどうだ(自分の姿を見てヌいたか)?」

「ぶっ!?」

 

 コイツ、今なんて……!?

 

「くふふ、顔まで真っ赤にして(うぶ)な処女だな君は。ということは流石に自分を見て致す程ではない、と。しかし、まじまじと見たんじゃないか? そりゃあ女体の神秘は気になるものなぁ?」

 

 ヒヒヒッ、と鋭い犬歯を覗かせとてもとても愉しそうに笑う。コイツ、完全におちょくる気だ。

 

「ま、まだ、見てない……」

「まだ? それでは見る予定はあるのだな? これは良いことを聞いたぞ。その予定はいつだ、日付を教えてくれればその日の新鮮な感想を伺おうじゃないかね」

「一生見ねぇよバカ!! 斬るぞ!?」

「やれるものならやってみろ、処女(ヴァージン)。どうせ無理だろうがな、二重(ふたえ)の意味で」

「ぐ、ぅっ……!!」

 

 コイツ本当にイラつく、斬りたい。

 そりゃあ中身男だ。興味がないと言えば嘘になる。けど、ここで一線を少しでも超えたら……一応この身体は借り物だ。下手な事をして後で責任を負わせられてみろ。地獄だ。

 

 ……まぁ、その、上は見えちゃったけど……。

 

「まぁ別に処女だろうが処女でまいが、私は気にせんよ。それを失うのは全て当人の自由だからな。ただ、処女(ソレ)は大事にしておきたまえ。よく聴くだろう、その痛みは一生の内一度だけだと。元男だった君が経験できると言うのは貴重な体験だ、使いどころは重要だぞ?」

「言われれば言われる程やる気が失せる。事が終わって元に戻るまでぜってぇ誰にも渡さん」

「カカ、その意気だ処女(ヴァージン)。最期まで意志を貫いてくれ。あぁ、貫かれた時の報告は期待して待ってるぞ」

「誰がするか。あと処女って呼ぶのヤメロ」

 

 コイツはセクハラ魔だ。下ネタ大好きの男子小学生か。無自覚じゃなくてわかっている上でやって来てるんだろうから余計に質が悪い。

 

「取り敢えず精神面は問題無さ気だな。それだけ啖呵が切れるなら充分やって行けるだろうさ」

 

 あとは今後の生活環境への適応だな、と彼女は言った。

 

 これからオレが行く場所は【鎮守府】と呼ばれる艦娘を運営する専用施設の1つらしい。海辺に港と併設される特殊軍用施設、深海棲艦に対抗するための重要拠点の1つだ。そこには【提督】と呼ばれる人がいて、鎮守府に配属される全艦娘の指揮を担当するらしい。提督には随時【運営】と呼ばれる場所から戦術方針が【任務】として通達され、それに応じて各所の鎮守府が連携を行いつつ事を進めるとか。

 鎮守府には様々な艦娘がいて、オレみたいな軽巡洋艦の他にも駆逐艦や戦艦や……その艦娘たちには宿舎が与えられ、そこで住み込みのまま任務に従事する。

 

「君が行くところはまだ鎮守府としての歴史は浅くてね。何分最近できたものだから佐世保や舞鶴に比べればずっとずっと規模は小さい」

 

 曰く、その新設鎮守府は創設1ヶ月も経っていないとか。そんな場所にオレみたいなのが行って大丈夫なのかと言ったが、彼女は自信満々に「全くもって問題ない」と言い切る。

 

「今回はテストケースとしての実証も兼ねているんだ。何か失敗しようが必ず補填が効く。ようはどんどん色々試してくれということだ」

 

 得意気な顔で掌のマッチの箱を弄び彼女は笑った。言い分としては筋が通ってるように思うが、良いんだろうか、それで。

 

「そら、見えたぞ。君の着任する鎮守府だ」

 

 不意に彼女が顎で車の前方を指したのを見て視線を前に向ける。左右の森が開けた真正面、レンガ造りの衛門が見えた。

 車が速度を落として近付いて行くと衛門の左右から軍人らしき人が出てきた。手には初めて目にする銃が1丁ずつ。アクアグレーの軍服を着込み、腰のホルスターには拳銃があった。よく鍛えられてるらしく体格もガッシリしてるし威圧感が何よりスゴい。

 随分と前に護衛艦だったかミサイル艦だったかの見学に行ったこともあり戦場の人間を見たことはあったけど、ここまで殺気を放つような人間は初めてだった。思わず居住まいを正していると、隣からクスクス笑う声がした。

 

「……なんだよ」

「いや、艦娘でもあろう君が、高々人間にビクビクしてるのを見てるとどうも笑ってしまうんだ。そう言えば、駆逐艦の子もああいう奴らを見るとそうやって怯えるんだ。可愛いぞぉ」

 

 仕方ないだろ、見慣れないんだから。

 ムスッとしてると車が衛門前に停車、窓が開き例のガタイのいい男達が覗きこんで来る。思わず、息を飲んで前の座席をじっと見つめた。

 

「御勤めご苦労だ衛兵諸君。野暮用で来たんだ、少し邪魔するよ」

 

 いいね? と少女が隣で窓の外にいる男の鼻先へ葉巻を突き付ければ、すぐさま男は低い声で「奥へどうぞ」と抑揚の無い声で言い敬礼。オレの方の男も無言のまま敬礼した。コイツらを御する彼女は、本当に何者だ?

 

 車がまたゆっくりと発進し、門を通り過ぎて鎮守府の中へ入って行く。

 

「……何もないな」

 

 窓の外を見て思わずポツリと呟く。

 門の内側に入ると木々は見受けられず、ひたすら平らな土地が広がっていた。所々に重機が止まっているが動いている様子はなく、人の気配もない。視界が開けて奥までよく見えるが、辛うじて海があるくらいだ。

 

「言っただろう、まだ稼働を始めたばかりだと。今は様々な施設を実験投入予定だが、如何せんこちらに集中できるほど我々の状況も良い訳ではないからな」

「……深海棲艦はそんなに厄介なのか?」

「それもあるが、何より物資不足が拍車をかけているな。貿易を潰された今じゃあ国内で賄える量には限界があるし、今もその限界ギリギリのところでやりくりを繰り返す状況だ。今回はあるモノ全部を賭け(ベットし)ての大博打だが、上層部では日夜悲鳴と怒号の嵐さ。そして責任の押し付け合い。1週間会議に出掛けていたんだがね、もうウンザリだ。ここで君を弄っている方がよっぽど楽しい」

 

 つまりさっきまでの弄りは自身の鬱憤を晴らす為だった訳だ。酷い八つ当たりじゃねぇか、と小さく呟く。

 

「君なら充分受け止められるだろう、これくらい許せ。――――と、さぁ、到着だ」

 

 降りよう、と少女が扉を開けたのを見てオレも後部座席を降りる。

 外に出た瞬間、潮の匂いが鼻についた。潮風が強く吹いて髪をかき乱す。手で髪を押さえながら周囲を見渡すが、目の前にある田舎の集会場のような木造建築以外は特に何も無かった。

 引き戸の玄関を構える平屋は、自分が一昔前にタイムスリップしたような感覚に陥る。初めて見るというのに、その哀愁に懐かしさを覚えるのはなんなのだろうか、と思う。

 

「さて、ここが今日から君の着任する鎮守府だ。取り敢えず提督の元へ行くが良い。君の話は予め通してある。詳しい事は彼に聞くことだ」

「わかった。……アンタは?」

「私か。私はここまでだ。以降君の管轄は全てここの提督に移譲される。君と会うのも、恐らくはこれっきりになるだろう。まぁたった2回しか会わなかった訳だが」

 

 丁度葉巻を吸い切った彼女は携帯灰皿に残りを押し込みオレを真っ直ぐ見上げる。最初に会った頃と同じ、先の見えない真っ赤な瞳がオレの中を覗き込んで来る。

 

「きっとこれから君を取り巻く環境で様々なことが起こることだろう。いや、確実に起こる。精々死なぬよう、自身のできることを着実にこなして行く事だ。では、さらば。武運長久を祈る」

 

 

 

 

 

 内地へと戻って行く黒い車を見送る。何だか異界の地にでも取り残された気分だ。彼女の言う通り衣食住はしっかりと整備されているとのことだから餓死するなんてことはないので大丈夫だろうが……何分、初めての場所というのは不安になる。

 

 車も見えなくなったところで1つ息を吐き出し、こうしている暇ではないなと再び振り返り木造の平屋を見上げる。いつぞやテレビで見たような、どの付く田舎の学校のようだ。全生徒数が10人もいないような。

 

 取り敢えず提督とやらに挨拶に行かないとか、と思っていると、突然ガラガラッと音を立てて引き戸が開いた。

 音に釣られて目を向けると、そこにはセーラー服を来て髪をうなじで纏めた少女が1人、惚けた顔でこっちを見ていたのであった――――。

 

 

 

 

 

 




解説

【タケちゃん流トレーニング基礎編】
 5回連続目標達成まで休ませま10。タケちゃんはとっても優しいので何とか乗り切れます。

【砲撃・雷撃+α】
 砲撃:艤装の砲を用いての射撃。センスが問われる。本作の天龍は及第点。
 雷撃:魚雷を用いて一撃必殺(?)。センスが問われる。本作の天龍は正攻法では因果を覆さない限り目標に当てれない程下手。水面下を進ませるよりかは直接投合した方が命中する。
 刀:天龍が持ってる片刃のアレ。センスが問われる。本作の天龍は異常な程扱いに長けている。何故かは本人もわかってない。

【艤装】
 艦娘が扱う兵器の総称。天龍で言う腰の砲塔や刀など。頭のピコピコしてる電探も含む。艦娘はこれらを全部や一部など自由に出し入れが可能。この行為は【艤装顕現】と呼ばれる。

【鎮守府】
 艦娘運用専用施設。泊地や基地の名前もあるが機能としては全て【鎮守府】の総称に含まれる。艦娘専用の宿舎や演習施設、工廠があり、必ず海辺に沿って港と一緒に併設される。横須賀、呉、佐世保、舞鶴が四大鎮守府と呼ばれ国内の戦力はこの4か所が殆どを所有する。

【提督】
 1つの【鎮守府】を統括する人間。艦娘に対して絶対的な指揮権限を持つ。適性が必要で、適性があれば老若男女でも動物でもいい。世の中には犬や猫が喋って提督をしているところもあるとかないとか噂があるが定かではない。

【運営】
 全【鎮守府】の上にある大本営。【鎮守府】の大まかな運営方針はここから指示される。少女の言う上層部にはこれも含まれる。

【任務】
 【運営】から【鎮守府】へ通達される戦術方針のこと。

【衛門】
 鎮守府への入り口。常に誰かしら監視員がいる。見た目はゴリラみたいでサングラスかけてるから怖い。イメージは旧横須賀軍港逸見波止場衛門をもうちょっと大きくした感じ。

【少女】
 えらい。イメージはロリカード。わからない人は検索しよう。CV.中田譲治でいいかな。
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