艦これTSモノ 作:五々階道寺希ノ之乃
新設鎮守府は見た目はただの平屋だ。
今時滅多に見れなさそうな木の引戸の玄関があり、内部はまるで小学校。左右に板張りの廊下が伸びていて、玄関側の壁は全て窓になっている。縁の下に雨具かけらしきフックがかつての名残として残っていた。
対面には教室だったであろう少し広い部屋。黒板と、後ろには正方形の棚が格子状に並び、角には掃除用具入れがある。平屋にはこのような教室が2部屋程用意されており、しかし使われることは今まで無かったとか。
他には、初日に案内された部屋で、元は校長室だったらしい部屋を改造した執務室がある。提督が居座る部屋でここが一番充実してると言えるだろう。ソファもあるし珈琲や紅茶も完備されている。吹雪や電も基本ここでくつろぎつつ提督の手伝いをするか、それか訓練や哨戒に出るのが殆どだ。
寝泊まりする場所は休憩室。畳張りの部屋だ。艦娘専用部屋になっているようで、提督は隣の資料室を改造してそこで夜は寝てるらしい。
そして大事なのがシャワー室。ここの施設だと風呂まで作るのは無理とのことでシャワー室が一室だけある。まぁ、なんとなく予想はしていた。
以上を鑑みて、やっぱりというかここの鎮守府はえらく廃れている。そう判断する他ない。
なんて小さく言ってたら提督に苦笑された。アイツもアイツで少し不満はあるらしい。
しかし残念なことに資金がない。【鎮守府】の中でも新参、上からの息がかかった試験的施設、投資も初期のうちにほぼ使いきってしまい充実させる将来は程遠い。
陸側から見ても、そして今のように海側から見ても、平坦な地にぽつんと建てられた平屋は質素だった。
「天龍さんっ」
横合いから声がしてそちらを向く。視線の先から吹雪と電が艤装を着けて波間を進んで来ていた。
オレは今、2人と同じく海に立っている。【鎮守府】の訓練海域に相当するこの場所は背中にあの平屋も見える場所だ。
今日は昨日と変わって訓練日。2人の教導を頼む、というのが提督からのお達しだ。
「よし、じゃあちと早いけど始めるか」
はいっ、という吹雪の威勢の良い……若干張り詰めて緊張した声音。逆に「は、はぃ……」と電のか細い怯えたような声音。対照的な返事に表情の裏でどうしたモンかと悩む。
目下の懸念事項は2人との距離だ。会ってから1日が過ぎようとしている今現在、一夜過ぎても距離感は空いたままだった。一応艦隊を組む以上はしっかりとした連携をとらねばならず、その為にはお互いの距離を縮める必要が出てくる。人間関係と同じく時間がかかるかもだが、早い内からやっていくのは大事なことだ。
特に、戦場で背中を任せる上では重要である。
「聞いての通り、お前らの教導をするよう提督から指示が出てる。無論のこと手を抜くような事は絶対にさせないし、オレもしない」
この台詞は……そう、タケちゃんだ。初めて艦娘になった時、艦娘として初めて水の上に立つ時、タケちゃんに言われた。
『私が教えるべきことを、余すことなく全て教えます。ですので、訓練中は何時如何なる時でも集中して下さい。私も全身全霊で
まぁキツかった。泣きたくなった。やめたかった。
だけど、今はそうでもない。アレが今のオレを確かに形作っている。
だからこそ、これを伝える必要がある。艦娘として、1人の生きる
「最初に言っておく。多分、やめたくなるくらい厳しいぞ」
オレがそう言うと、2人の表情があからさまに変わった。吹雪は頬を引き攣らせて冷や汗を流し、電は顔を顔を青くして泣きそうになる。
「オマエ達が今まで何やってきたかは知らん。昔はどうだったとかオレには聞こえねェ。愚痴る暇があったらケツ蹴っ飛ばしてやるからな」
最後は冗談だが。ケツを蹴る暇すら惜しい。それがタケちゃん式訓練である。
「――――とまぁ散々脅しておいてアレだが、初回だしな。今日はそこまではしないさ」
「そ、そう、なんですか……?」
「当たり前だろ。お前らがどこまでできて何ができないのかわからないからな。今日は現時点での実力テストだ」
構える必要はない、と言うと2人ともホッとした表情になった。
流石にオレも鬼じゃない。それだけは言っておく。
「ま、今日の結果次第で明後日からの訓練が変わる。テストだからって今日だけ全力を出すなんてのは止めとけ。いつも通りの自然体、自分が常に出せるベストでやることだ。それじゃあ始めるぞ」
テストと言ってもそんな難しいことをする訳じゃない。寧ろ最も基礎的なことだ。
航行訓練、制止射撃、雷撃訓練、エトセトラ。実戦は全てが基礎の組み合わせになるからこそ、そこを重視する。
「砲撃用意」
オレの前に間隔を開けて並んだ吹雪と電が艤装を構えた。視線の先には的が複数個。2人にはこれら全てを狙って破壊してもらう。
「――
オレの合図で砲撃開始。吹雪の手に構える連装砲が、電の肩越しに伸びる連装砲が火を噴いた。
ドンッ、と腹の底に響く低い音。海風に硝煙が揺れ火薬の臭いが潮風に混ざり込んだ。
砲弾はどちらも一瞬で的へ。吹雪の弾は真ん中を貫き、電は右端を抉った。両方とも命中判定だ。
続けて次の的へ照準を合わせ砲撃。等間隔に並んだ赤と白の的が次々と破壊されていく。
吹雪、電、共に命中率は6割程度。精度は吹雪に軍配が上がる。どうやら経験値は多少ながら多めらしい。
「撃ち方
30秒間、休みなしの砲撃が止む。落ちる沈黙を余所に2人を見ると、若干肩で息をしていた。
照準を絞る際、自ずと集中する必要がある。ヒトは息を吐く、または止めている間が意識的な緊張感を生じさせることが可能だ。また息をすれば僅かながらに視界はぶれる、となれば必然的に息を止め的を狙うだろう。30秒間休みなしというのはほぼ無呼吸状態を維持するということになる。疲れるのは当然。
まぁこのまま改善しなければの話だけど。
「……ん、じゃあ次だ。雷撃用意」
目についた箇所のメモを取り、次。
雷撃とは即ち魚雷による近接戦だ。魚雷は真っ直ぐにしか進まない以上、避けられることのないようどうしても肉薄する必要が出てくるのだ。
オレの合図で狙いを定め、発射菅から魚雷を射出。軽い音を立てて魚雷が頭から海へ飛び込み、白い筋を海面に浮き上がらせながら目標へ進んでいく。
数秒後、海面下から爆発、水柱が立ち上がり目標を破壊したのを確認した。
…………綺麗に当たるな。オレとは大違いだ。
「目標の破壊を確認。続いて第二波、用意」
その後も淡々とテストは続く。
操舵訓練ではスラロームや艦隊運動を意識した動きをやらせて、最後は一対一の模擬戦を行った。両者共に無傷、と言うのは撃った弾も魚雷もかすりもしなかったからだ。避けた、と言うよりも、動き回る状態で照準を合わせるのは慣れてないらしい。戦闘中という、一つのことに集中できない環境では尚更だった。
ざっと三時間程度でテストは終了。午前を丸々使い切り、若干午後に食い込む形になった。
陸へは桟橋に飛び上がる形で上がり、着地前に主機など偽装を解除する。古典的だが、この鎮守府に専用施設を期待するだけ無駄だ。
2人には「昼食後に結果を知らせる」と告げ昼食を促した。オレはテストの結果をまとめるのと、提督への報告だ。バインダーに走り書きした内容をもう一度斜め読みで見直しつつ、提督のいる執務室へ向かった。
ノックをして入室すると、こっちに気付いた提督が「ご苦労」と出迎えてくれる。
執務室では相変わらず大量の書類にひたすら目を通す提督がいた。艦隊指揮は完全に副業だな。
「テストは無事終わったかな?」
「ああ。ざっと見た感じ、極端に悪い箇所もない」
予想よりは良かったな、と2人の成績を書いたバインダーを手渡した。
実のところ、初対面の時から見て悪い方向を想像してたが、そんなことはなかった。実戦ではないので本当のところは未知数だが、あれだけ動けるなら練度もそこそこと見ていいのだろう。寧ろオレ自身の方が心配だ。
1人そんなことを考えてる間、提督はバインダーの成績を見て小さく頷いていた。
「ふむ……何だ、着任したての時よりかは少し向上してるじゃないか。いいことだよ」
「ほーん。ま、一応実戦じゃないしな、これくらいしてもらわなくちゃ困る」
「はは、手厳しい教官だ」
「演習だけなら死ぬほどやってきたからな……」
タケちゃんサマサマってやつだ。
「ありがとう。取り敢えず目標と課題は見えたね。今夜、今後の訓練について打ち合わせとしようか」
「おう、諒解。んで、この後は?」
「俺はまだ仕事がある。天龍には特に指示はないが……」
「待て待て、昼飯は? オレはこれからだけど、提督も食わねぇとだろ」
「あー、そうなんだが……如何せん、なぁ?」
肩を竦め、執務机の上の資料を見て提督は苦笑い。なるほど、味方に忙殺されたか。
「またそーやって飯抜く気か? ダイエットじゃあるまい……いいよ、手伝ってやる。さっさとキリのいいとこまでやって飯だ」
「すまん、助かる」
「このワーカーホリックめ」
「……返す言葉もない……」
解説
【新設鎮守府】
天龍の配属先。
まだ正式名称が決まっていない鎮守府。仮設のため色々と未完成な施設が多い。というかほぼ着工すらされてない。
廃校となった超少人数の学校校舎をそのまま代用して鎮守府としている。詳しくは本文にて。
配属されていた艦娘は吹雪と電の2人だけ。提督と共に新設の鎮守府に配属となった。
食堂はなく、調理場(という名の家庭科室)があるので、そこで各自が料理を作る。たまに周一てお手伝いさんが保存の効く料理を作りに来てくれるらしい。