ご立派なアインズ様   作:みなみZ

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(ご)前編

それは突然現れた。

具体的に言うならば、執務室で仕事を行っていたアインズ。仕事の区切りが付いた為、自室に戻って休もうとアインズは考えたのだ。アルベドとアインズ当番のメイドであるシスクスに一時間誰も部屋に入れるなと命令を下し、アインズは自室へと戻った。常にアインズを暗殺やアルベドの脅威から守っている八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)すらも下がらせている。正真正銘アインズ一人だけの時間と空間だ。

そしてベッドの上で疲れを癒すかのようにゴロゴロし、一人の時間を満喫している時にそれは唐突にやってきた。

 

「――何だ…これは?」

 

突然アインズの目の前に現れたのは一つの棒だった。

色は緑。30センチ程の大きさの短めの棒である。

それがアインズの目の前に転移してきたかのように現れたのだ。

 

アインズは考える。

何故自分の自室に突然現れた?アインズが居るナザリック地下大墳墓は幾重にも防御魔法や阻害魔法を展開している。ましてや自分の部屋にピンポイントに転移させるなど、それはもはやアインズ・ウール・ゴウン最大の秘宝の一つとも言えるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが無ければ不可能とすら言える。

もしや、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが何処かに流出したか!?

と、慌てるアインズの耳に一つの電子音が響き渡った。

 

ぴんぽんぱんぽーん♪

 

アインズは響き渡る電子音の音色に驚愕する。

これは―――ユグドラシルの運営からのお知らせ音!?

 

ユグドラシルでは運営から何か通達や緊急な事がある場合、この電子音の音色が先に流れるのだ。

だが、此処はユグドラシルではない世界である。この世界でこの音色を聞く事になるとは。

 

『おめでとうございます。貴方方のギルドは世界級(ワールド)アイテムを10個以上保持し、その保有期間は本日を持ちまして5年となりました』

 

続く機械的な女性の音声。これもユグドラシルからの運営からの通達があった際の音声である。ペロロンチーノは初音ミクの玄孫の音声だ!!とかって言っていたのを思い出した。

この世界にはありえないと思っていた現象に遭遇し、驚愕するアインズ。だが続く声はアインズを更なる驚愕へと導いた。

 

『その功績を称えまして、ユグドラシル運営部は、貴方方ギルドに、世界級(ワールド)アイテム。『天魔・第六天』を贈与します。誠におめでとうございます』

 

「なんだと!?」

 

アインズは真に驚愕する。そしてそれに呼応して発動する精神安定化。それも複数回発動する勢いでアインズは驚愕していた。

この目の前にある緑色の物体は世界級(ワールド)アイテムだというのか?

 

未だ目の前でふよふよ浮かんでいる緑色の棒にアインズは一つの魔法をかける。

 

道具上位鑑定(オール・アブレイザル・マジックアイテム)

 

鑑定魔法により本当に世界級(ワールド)アイテムか確認したのだ。

そしてその結果、間違いなく目の前の道具は世界級(ワールド)アイテムだと確信できたのだ。

世界級(ワールド)アイテム『天魔・第六天』

その効果は装備者に火系統攻撃威力増Ⅲ・特殊火系統攻撃スキル。

これは火系統の攻撃・魔法の威力を高める効果を持つ。

アインズは死霊系統に傾いた魔法詠唱者(マジックキャスター)ではあるが、他の系統の魔法も使える。勿論それは火系統もだ。

また、『天魔・第六天』を装備することによって新たな火系統の攻撃スキルが手に入るのだ。

 

此処までは、正直アインズにとってはそこまで魅力的な装備に思えない。

炎獄の造物主と呼ばれ、炎系統の攻撃方法を多く持つ、守護者のデミウルゴスの方がこの装備の適任者と言えるだろう。

 

だが、ここから先がこの世界級(ワールド)アイテムは破格の性能を誇っていた。

 

それは上位物理無効化Ⅴ。

 

上位物理無効化。それは一定以下のレベルの相手からの物理攻撃を一切遮断する効果があるスキル。アインズも上位物理無効化Ⅲのスキルを持っているが、その効果はレベル60以下の存在の物理攻撃を遮断するものだ。

それに対して上位物理無効化Ⅴは何とレベル90以下の存在の物理攻撃を遮断するものである。

これは物理攻撃に弱い魔法詠唱者(マジックキャスター)のアインズにとっては非常にありがたいスキルであった。

 

そして炎系統攻撃吸収。

これが最高だとアインズは思った。

アンデッドであるアインズは幾つかの種族ペナルティがある。その中の一つに、炎ダメージ倍加というペナルティがあった。

それがこの装備を身に付けると、弱点が無くなる所か、自身の回復手段となるのだ。

攻撃無効ではなく、攻撃吸収。普通の回復手段ではダメージになるアインズにとって、新たな回復手段の手札が増えるのは非常に嬉しい。

 

「これは…いい物だ」

 

アインズは道具上位鑑定(オール・アブレイザル・マジックアイテム)による解析を読みながら『天魔・第六天』に手を差し出す。

 

これは非常に無用心な行為だった。

何故ならば、未知なるアイテムを―――それも世界級(ワールド)アイテムという未知なる中の未知のアイテムの解析結果を完全に読破する前に触れようとしていたである。

 

『未知なるアイテムには解析結果が出るまで、決して不必要に触ろうとはしない。つーか未確認のアイテムで遊んでるんじゃねーよ、るし★ふぁー』

 

アインズ・ウール・ゴウンの軍師たる、ぷにっと萌えの教えである。

アインズは常にこの軍師の言葉を愚直に守ってきた。

だが、アインズは思わぬ所で、棚から牡丹餅で手に入れたアイテム―――それも未知なる世界級(ワールド)アイテムを手に入れたという興奮でその教えを忘れてしまったのだ。

 

 

 

 

――――それが、この後とんでもない悲劇を呼ぶとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

アインズの手が『天魔・第六天』に触れる。

その時『天魔・第六天』が光輝いた。

 

「うぉぉぉ!?な、何だ!?」

 

激しい光だった。自分がいた世界における閃光弾を更に強めた光がアインズの部屋を包み込む。

突如発動した光にアインズは思わず瞼が存在しない己の眼孔を手で覆い、光から目を守る。眼球など存在しないが、鈴木悟だったころの名残で行ってしまった行動であった。

そして光が収まりだした時、アインズが目にしたのは、確かに目の前にあったはずの世界級(ワールド)アイテム『天魔・第六天』はその姿を跡形も無く、姿を消していた。

 

「な、ど、何処にいったのだ!?」

 

辺りを見渡すが目当てのものは存在しない。

どこかへ転移してしまったのだろうか。

 

「ワ、世界級(ワールド)アイテムを紛失したかもしれないだと!?じょ、冗談じゃないぞ!」

 

世界級(ワールド)アイテムは唯一無二の存在である。その価値は実用的にもコレクター的にも無くしました。で済ませれる存在ではない。運営のアナウンスは確かに貴方方のギルドに贈与すると言っていた。恐らく、『天魔・第六天』に触れると、ギルド拠点の何処かに転移する仕掛け(イベント)なのではないだろうか。そして転移した『天魔・第六天』を見つけた時、改めて手に入るというものなのだろうか。

というか、そうであってくれ、これがもしナザリックの外に転移していて、それを見つけ出せ。とかじゃないよな。運営そこまでご無体ではないよなぁ!?

 

何度も精神安定が作動するが、それでも落ち着かない精神にアインズは頭を抱えながら下を向いたときとんでもない物が目に入った。

 

それは己が纏うローブを突き破らんかという勢いでそそり立つ巨塔。

具体的にいうと骨盤辺りから突き出している巨塔。

更に具体的に言うと恥骨あたりから突き出している巨塔。

更に更に具体的に言うと―――チ○コだった。

 

『グワッハッハッハァー!ワシを呼び起こすとは。お主、命が惜しくはないようだのう!ワシこそは唯一無二の世界級(ワールド)アイテム『天魔・第六天』こと、魔王マーラ様じゃぁ!お前達とはモノが違うわ!モノがな!グワッハッハッハァー!!』

 

そしてチ○コは語りかけてきた。

 

「なんじゃこりゃァァァァァァァァァァァァァァァあ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

今までの人生+骨生の中で最大限の驚愕に満ちたアインズは某俳優並みの絶叫を心の底からあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天魔・第六天』

 

この世界級(ワールド)アイテムの開発にはある秘話があった。

元々はある異形種の男性プレイヤーからの意見メールからそれは始まった。

 

『異形種でプレイしていると…『あれ』の重みが全く感じられなくて…何か不安になるんです。何とかなりませんか?』

 

ユグドラシルは体感型ゲーム体感型ゲームDMMO―RPGである。

嗅覚・味覚は電脳法により完全に削除されているが、触覚は制限を受けている。

だが、制限を受けているとはいえ、触覚は存在しているのだ。

そして『あれ』とは男の最大重要箇所であり、男の象徴である。それをゲーム中だけとはいえ、その存在を感じれない事に違和感や不安感を訴えるプレイヤーが少なからずいたのだ。

 

その救済処置として作られたのが『天魔・第六天』の前身のアイテムである。

 

だが、そのアイテムは実施される事がなかった。

それはユグドラシル運営上層部がこのアイテムが広まったら、15禁に触るんじゃないか?と判断したからである。

ユグドラシルはエロに非常に厳しいゲームである。このアイテムを悪用したプレイヤーのアカウント停止を危惧したのだ。

 

しかし、スタッフが手間隙かけて作った装備を、そのまま廃棄するのはもったいない。

 

その時スタッフにあるアイディアが閃いた。

 

『このアイテムが広まるのがまずいのだったら、広まらないアイテム。つまりは世界級(ワールド)アイテムにすればいいんんじゃね?』

 

それは正しく逆転の発想だった。

 

世界級(ワールド)アイテムはユグドラシルで同じものは一つとして存在しない、ユニークアイテムである。

ましてユグドラシルでは、情報は大いに価値がある存在。

200ある世界級(ワールド)アイテムの詳細も殆どのプレイヤーはわからないのが現状である。

その中の一つにこのアイテムを加えようと決めたのだ。

 

このアイテムが世界級(ワールド)アイテムに加わる。

そうと、決まるとスタッフはこのアイテムを世界級(ワールド)アイテムに相応しい存在にしようと、改良を加えた。

そしてスタッフの一人は100年以上前のあるゲームに登場する偉大なる魔王をモチーフにしたアイテムに作り上げたのである。

 

そのモチーフにした偉大なる魔王こそ、マーラ様である。

 

そうしてその後も様々な試行錯誤と倫理観の揺らぎあいを繰り返し、ついに世界級(ワールド)アイテム『天魔・第六天』は完成した。

それは200ある世界級(ワールド)アイテムの中でも最も馬鹿げた。そして尚且つ最もご立派な世界級(ワールド)の誕生であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、な、何だというのだ…?これが『天魔・第六天』なのか…!?」

 

『グワッハッハッハァー!そうだといっておるだろう!小僧よ。どうした?ワシのあまりの偉大さに恐れおののいたか?グワッハッハッハァー!』

 

アインズの否定してくれと言わんばかりの言葉を、己の股間から生えた逸物はいきり立ちながら、肯定してきた。

逸物の声は頭の中に直接聞こえてくる。それは伝言(メッセージ)に似た感じを覚えた。

 

(何だというのだ…!?ナニと会話しているなんて、人類史上初…というか、生命史上初なんじゃないだろうか!?お、俺はいったいどうしてしまったというのだ)

 

何度も何度も精神安定が発動するが、それでもアインズの心は涅槃の彼方にあった。

 

『どうした小僧?まるでミシャグジがメギドを喰らったような顔をしおって。そんなことではしなびれてしまうぞ!ほれ、ちょいと体でも動かしてリラックスせい!』

 

「わからん。例えの意味がさっぱりわからん。というか、屈伸運動をしながら会話をしないでくれ。だんだん気が遠くなってくる…」

 

アインズに屈伸運動をしながら語りかけてくるマーラ様に、アインズはアンデッドなのに気を失いそうになっていた。精神安定が先ほどから何度も効果を発揮しているが、精神の安定が追いついていないようだ。

 

ぐっと気を取り戻して改めて自分の股間を見る。

そこには正しく巨塔がそびえ立っていた。何人たりとも寄せ付けぬ王者の風格。正しく魔王である。

 

(な…何たるご立派な)

 

アインズはごくりと出もしない唾を飲み込む。己のローブを掻き分け、突き出ている存在。

冒頭で30センチ程の大きさの短めの棒。何て説明をしたが、冗談じゃない。30センチはでかい…!でかすぎる…!ご立派だ…!ご立派過ぎるよ…!

 

マーラ様に戦慄するアインズであったが、ふつふつとある感情が芽生えてきた。

 

(な…何故だ?今ならば、たっちさんや、ウルベルトさんにだって勝てる気がする…というか、二人同時にかかってこられても、無双すら出来る気がする…!!)

 

それはとてつもない万能感。まるで神に崩される前のバベルの塔が己に存在しているような感じすらするのだ。

 

『グワッハッハッハァー!ワシの偉大さに圧倒されたか。どれ、ワシに触れてみい。ワシは偉大なる魔王の身なれど、今はお主の体の一部。好きに扱えい』

 

「あ、貴方様は魔王の身でありながら、俺のチ○コである現状を受け入れるというのですか!?」

 

『なぁに、長い魔王生。時には他人のナニになるのも一興よな。お主も魔王を志すというのならば、ワシを使いこなしてみせい。グワッハッハッハァー!』

 

すっかりマーラ様がアイテムだという事も忘れたアインズはマーラ様の溢れんばかりの、男気・豪胆さ・魔王っぷりにアインズは恐れおののいた。そしてかなり憧れた。というか、いつの間にか敬語にすらなっていた。混乱のしすぎで、自分が何を崇拝しはじめたのかを気付いていないのか。魅了状態(マリンカリン)にでもなってしまったのか。

 

ありがたや、ありがたや、霊験あらたかやで。

そんな事を呟きながら震える骨の手をマーラ様に近づける。びくんびくんと跳ねるマーラ様に触れるその直前。

 

「アインズ様!!先ほどの叫び声はいったい!!??」

 

「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

どがんと、大きな音を立てて守護者統括たるアルベドが部屋に乱入してきた。

それに反応したアインズは己が持てる最大の速度を持って、即座にローブの前を押さえ、アルベドに対して後ろ向きへと体を動かした。その身のこなしは疾風のような素早さであった。とても魔法詠唱者(マジックキャスター)の動きとは思えない。もはやその動きは熟練の兵の動きすら彷彿させた。

アインズの気分は一人自室で自慰行為を行っていたら、部屋に急に家族が乱入してきたので、慌ててナニを隠した気分だ。ありがとう…今は亡き母よ。貴女の今までの突入経験のお陰で、恥をかかずにすんだ…!アインズは亡き母に心の底から感謝した。

 

『ぬぅ。やりおるわ小僧。今のはレベル70相当の戦士に値する動きよな…』

 

頭の中にマーラ様の賛辞が聞こえてくる。

 

「アインズ様、先ほどの叫び声はいったいなんでしょう!?もしや御身に何かがあったのでしょうか!?」

 

確かにアインズのナニかに何かはあった。

 

「ななな、何でもない!ちょっと考え事をしていたら、思わず叫び声をあげてしまったのだ!うん、ただそれだけだ!」

 

「し、しかし…とてもそうとは思えない尋常ならざる叫び声でしたが…?」

 

「ほ、本当に何でもない。よいかアルベド。私が呼ぶまで決して部屋には誰にも入らせるな。お前やメイドは勿論の事、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)もだ。これは命令である」

 

「わ、私もですか!?し、しかしそれは…」

 

「い・い・な!?」

 

「か、かしこまりました。御身の御心のままに…。外で待機をしておりますので、何か御用がありましたらお呼びください…」

 

アインズの問答無用な勢いと言葉に、アルベドはしぶしぶながらも了承し、部屋から出て行った。

もっとも、未練がましく何度もちらちらとアインズの方を振り返っていたが。

アルベドが部屋から完全に退出したのを確認したアインズは大きく息を吐き、恐る恐るローブの前を開いた。

 

『ふーむ。今の女子。なかなかのものよなぁ。まるでカーリーの如くよな』

 

そこにはやっぱりご立派様がそびえ立っていた。アインズは更に大きな溜息を吐いた。

魅了状態(マリンカリン)がとけたのか、何とか冷静に考える事ができた。

 

「カーリーってなんだよ…。とりあえず直ぐにでも装備を外さなくては…」

 

『ぬ?外すってワシをか?』

 

「当たり前だ。お前を装備したまま、配下達に会う等、考えただけで切腹ものだ」

 

『それを外すなんてとんでもない!!とはさておき、ワシは外せんぞ』

 

「は?」

 

『ワシは、一度装備すると外せんわ』

 

マーラ様の言葉に、骨の顔面を蒼ざめるという奇跡を成し遂げたアインズは慌てて己の逸物に道具上位鑑定(オール・アブレイザル・マジックアイテム)を発動させ、先ほど途中まで見ていた解析結果を急いで見る。

 

『かつて仏陀が悟りを開くことを阻止しようと、あらゆる手を尽くした煩悩の化身、天魔マーラ・パーピーヤスを象った世界級(ワールド)アイテムである。装備者は、火系統攻撃威力増Ⅲ・特殊火系統攻撃スキル・上位物理無効化Ⅴ・炎系統攻撃吸収を得る。また、この装備者は男性プレイヤーには畏怖と尊敬を。女性プレイヤーには魅了の効果があるかもしれない。そしてこのアイテムを装備したら決して外すことはできない。……非常にご愁傷様である』

 

「か…かは…」

 

道具上位鑑定(オール・アブレイザル・マジックアイテム)の鑑定結果を隅から隅まで見たアインズは思わず絶望の呻き声をあげた。決して装備を外すことはできない。説明文のこの文章にアインズは絶望の淵に立たされた。

 

「こ、こんなの呪いの(カースド)アイテムではないか!?世界級(ワールド)アイテムが呪われている等、あっていいは…ず…が…」

 

アインズは自分の言葉に…ふとある事を思い出した。

あったのだ。世界級(ワールド)アイテムが呪いの(カースド)アイテムだったいう過去の出来事が。

 

ユグドラシルの公式ラスボスであるワールドエネミー。

その数は二十が確認されているが、その内の七体は、七大罪の魔王と呼ばれている存在である。

そしてその七大罪の魔王の一体はユグドラシルプレイヤーだったのである。

ユグドラシル公式チートの一つである、ワールド・チャンピオンがある世界級(ワールド)アイテムを所持した為に、呪われワールドエネミーとなった。これが七大罪の魔王の一体の正体である。つまりは、この『天魔・第六天』は同じ類ということなのだろうか。

 

「ワールドエネミーになるか、チ○コが付くかのどっちかだったら、まだワールドエネミーになる方がマシだった…」

 

ガクリとアインズは床に手を着き、俗に言うorzのポーズで暫しうなだれた。ちなみにこのポーズをすると、目の前にマーラ様が飛び込んできた。アインズは益々うなだれた。

 

『なんじゃ、小僧。お主ワールドエネミーになりたかったのか?それは惜しい事をしたのぅ』

 

「―――惜しい事?」

 

目の前のマーラ様がビクンビクンとちんぴくしながら答えた。

 

『小僧がワールド・チャンピオンかワールド・ディザスターどちらかの職業であったならば、ワールドエネミーになれたぞ』

 

その答えにあんぐりと顎が外れる勢いでアインズは驚愕した。

まさか、本当にワールドエネミーになる可能性があったのか!?

 

「な、何だと!?それは本当か!?」

 

『うむ。超天魔・真第六天魔王マーラとなるのだぁ!』

 

超天魔・真第六天魔王マーラ。

何故だろう…。名前を聞いただけだというのに、嫌な予感が止まらない。

だが、ユグドラシルを遊びつくしたと言えるアインズが知らないワールドエネミーの情報。

廃人プレイヤーとしては詳細を聞かずにはいられなかった。

 

「そ、それはどんなワールドエネミーなのだ…?」

 

恐る恐るアインズはマーラ様に尋ねる。

その問いにマーラ様はビンビンになりながら答えた。

 

『グワッハッハッハァー!超天魔・真第六天魔王マーラ!それは全長100メートルを超える巨体のワシじゃぁ!三千世界どの世界においてもこれほどの偉大さをもった存在もおらんだろう!グワッハッハッハァー!』

 

聞かなきゃよかった。アインズは後悔した。

そして同時にある事を思った。

アインズは強さを度外視したロールプレイのプレイヤーである。ゆえに、自分より強いプレイヤー等、ユグドラシルには幾らでもいたのだ。

アインズとしては自分の選択になんら後悔はしていない。

していないが、ふと思うときがあったのだ。

最強の戦士職であるワールド・チャンピオンのたっち・みーや、最強の魔法職であるワールド・ディザスターのウルベルト・アレイン・オードルの強さを羨ましいと思ってしまうことがあったのだ。

 

だが、今なら言える。高らかに言える。死霊魔法に特化した魔法詠唱者(マジックキャスター)でよかった…!何かが間違ってワールド・チャンピオンやワールド・ディザスターにならなくて本当によかったと…!!

 

「100メートルを超えるチ○コなんぞ、15禁どころか、もはや18禁だろうが!!」

 

『安心せい。TPOは弁えておる。お主が超天魔・真第六天魔王マーラとなった際、モザイク処理がかかるようになっておる。しかも、ぼかし処理・反転処理のどちらかが選べるという気配りも万全じゃ』

 

「いらねえよそんな気配り!?ていうかモザイク処理することによって更に卑猥度が上がる気がするわ!?」

 

『まぁ、モザイク処理如きでワシの威光は全く隠せんがなぁ。グワッハッハッハァー!』

 

運営完璧に狂ってやがる。

アインズは確かに確信した。

 

自分はこのまま、股間にマーラ様を装着した状態でいるしかないというのか。そんなことでは、自分は後の世に『偉大なる死の支配者でありご立派なアインズ・ウール・ゴウン』や『漆黒の英雄でありご立派なモモン』等々、語られるのではないのだろうか…?い、嫌だ。嫌すぎる。考えただけで死にたくなってくる。モモンは己の未来想像図にかつて無いほど恐れ戦いた。

 

「こ、こうなったら、星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)を使ってでも…!」

 

己が浮かべてしまった未来予想図を振り払うように、ぶんぶんと頭を振ったアインズは、自分の手の指に嵌っている一つの指輪を撫でた。

 

流れ星の指輪(シューティングスター)はアインズがまだ鈴木悟だったころ、ボーナスを全額捧げて手に入れた超希少アイテムである。その効果は代償無しに、星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)を三回使えるというものである。ユグドラシル時代の星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)はプレイヤーの願いを選択肢が幾つか出現し、願いを選ぶといったシステムであったが、転移したこの世界では、消費した経験値に応じ、文字通り何でも願いを叶えるという凄まじい魔法となっている。正直、世界級(ワールド)アイテムに匹敵するアイテムだとすらアインズは思っている。

だが、その提案はアインズの中で即座に却下された。

 

こいつ…世界級(ワールド)アイテムだった。

 

世界級(ワールド)アイテムはあらゆる干渉を排除する。それは星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)も例外ではない。シャルティアが世界級(ワールド)アイテムで洗脳された際、星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)の効果をはじいたので意味が無いのは確認済みだ。

 

なら…こいつをどうする!?

アインズは未だかつて無いほど思考を廻らせる。

そしてある答えが閃いた。

 

「おい…お前…いや、貴方様はその…縮むことはできるか?」

 

取れぬなら・縮めてしまえ・ホトトギス。

それがアインズの出した答えだった。

 

『縮めということは、ワシの雄姿を汚すということか!!』

 

怒ったようにいきり立つマーラ様。

それをなだめるようにアインズは話す。

 

「いや、確かに貴方様の姿はご立派だ。本当に嫌になるくらいにご立派だ。だが、今は私の股間に貴方様は付いている。ならば、宿主というか私の都合も考えてくれないか?」

 

『ふむ…。仕方が無いか。結論だけ言うとそれはできる』

 

その言葉にぱぁっと表情を明るくするアインズ。

 

「そ、そうか!ならば直ぐにでも」

 

『だがそれをするにはお主の協力が不可欠よ』

 

「私の…協力?」

 

『うむ。そもそもワシは既にお主の体の一部よ。そしてその体の一部たるワシがギンギンということは、お主自身の性欲の干渉を受けているからよ』

 

チ○コにお前エロいこと考えてるなと指摘されるという人生初の出来事に、アインズは衝撃を受ける。

 

「だ、だが、私はこの体になってから、殆ど性欲を感じてはいないぞ!?」

 

『それでもだ。お主は元々は人間だ。そして人間に限らず、生物は一様に欲を持つ。食欲・睡眠欲・性欲よな。いかにアンデッドに生まれ変わろうと、元のお主の魂が欲を忘れておらんのだ。食欲・睡眠欲は魂が要らないものと排除したようだが、性欲は魂が無くすことを拒絶したようじゃな』

 

まあ、まったくの無機物にでも生まれ変わったというならば話は別じゃがな。と、話を締めるマーラ様。

 

「で、では私の性欲が満たされれば、お前は縮むということか…?」

 

『その通りじゃ。しっかしお主も不憫な奴よのぉ。アンデッドになったゆえに、性欲はかなり抑えられている。まあ、煩悩の化身たるワシを身に付けたゆえに、性欲は人間並みに戻っているとは思うが。もし人間のままだったら、その性欲は更に増す。と、なるとワシの雄雄しき姿が更なる高みに至ったというのに』

 

「な、何だと…?もし私が人間だったらお前はどうなっていたというのだ…?」

 

『そうじゃのう。人間で言う所の1メートル程の雄姿になっていたと思うわな!グワッハッハッハァー!』

 

良かった。アンデッドで本当に良かった。アインズは心の奥底から異形種を選んだ自分に感謝していた。

 

「しかし…性欲の解消か…」

 

この件がアルベドやシャルティアに洩れた場合、即座に彼女達はアインズの性欲解消相手に立候補してくるだろう。何が何でもこの二人だけにはばれてはいけない。アインズは心に誓った。

 

『あと補足だが。ワシは既にお主の体の一部じゃ。痛覚・触覚・性感等も既にお主と繋がっておる。お主が女子と交わり、仮に子を成した時は、お主の遺伝子情報を基にした子が生まれて来るはずじゃ』

 

「ア、アンデッドの私に、子供ができるのか!?」

 

『恐らくという解釈がつくがな。試した事がないからわからん。だって、ワシ。健全ゲームの健全アイテムだから。そんな18禁使用なんて考えて作られていないし』

 

こ、これだけ卑猥な存在で、健全ゲームの健全アイテムとか言う資格が何処にも見あたらねぇ。

アインズはこの言葉をぐっとこらしめ、これからの事を考える。

 

親友達が残したナザリックの愛する子供達で性欲を解消する等以ての外だ。

ここは、自分一人で性欲を解消しよう。

 

震える骨の手でマーラ様に初めて触れる。

 

「あふ」

 

マーラ様に触れた瞬間思わずそんな声がアインズの口から洩れていた。鈴木悟の体を捨てて以来の懐かしい感触である。まあ、サイズは規格外だが。

気を取り直してそのままマーラ様をこする。脳裏に思い浮かべるのは鈴木悟の時代に散々お世話になっていたAV女優達だ。

久しぶりのオ○ニーなのだ。あっという間に終わるだろう。そう、楽観視していたアインズだったが、暫し時間が経過していくと共にその考えがあまりに楽観的だったことを知る。

 

(な…何故だ?全然興奮できない…)

 

脳裏に浮かぶのは散々お世話になっていたAV女優。エロ漫画。ペロロンチーノに薦められたエロゲ。と、様々なエロネタを思い浮かべているというのに…まったくといっていいほど興奮しないのだ。

アインズは更なる刺激をマーラ様に送るというのに、まったくといいほど効果はなかった。

 

『小僧…それではだめよな』

 

焦るアインズにマーラ様は語りかけた。

 

「な、ナニ?」

 

『今、お主が思い浮かべているものでは駄目だというこよな』

 

「ナニを言うか!俺が生前散々お世話になっていた女神達だぞ!?」

 

『グワッハッハッハァー!女神とは笑止!お主は気付いていない…否、気付いていない振りをしているだけよ。御主が言う。女神とやらよりも魅力的な存在にな』

 

「――――――」

 

マーラ様の言葉に、アインズの心に浮ぶのは親友達が残してくれた愛しい子供達の姿。

アインズの残された宝物達である。決して汚してはいけない宝物達。

 

『己の心をさらけだせい…。本当に魅力的な存在とは誰と考えるまでも無く、お主は知っておる。何故それに気付かないふりまでして目を逸らす?』

 

「そ、それは…彼女達は俺の親友達が残してくれた宝。そんな彼女達に劣情したことなどない!」

 

だが、マーラ様はアインズの心をさらけ出そうと囁く。

 

『一度たりとて、無かったと言えるか?言えんよな?ワシにはわかる。シラを切るのはよせ。ワシを誰と心得る?ワシは悟りを開かんとする釈迦を誘惑し、その道を閉ざさんとした煩悩の化身たる天魔マーラ・パーピーヤス。そして何より今は御主の一部。ワシは御主。御主はワシよ。自分自身に嘘は付けんわ』

 

俺は…マーラ様なのか。

かつて悟りを開かんとする釈迦を誘惑し、その道を閉ざさんとした伝説の魔王マーラ様の言葉にアインズは激しく心を揺さぶられた。古の昔。釈迦はマーラ様の誘惑を跳ね除けたが、アインズに同じ事ができるだろうか?

 

駄目だ。とても自分にはこの誘惑を跳ね除ける気がしない。

悪魔たるマーラ様。そして悪魔と対になるのは天使。自分には天使の助けが必要だ。

だが、アインズ・ウール・ゴウンのメンバー達は全員が異形種。天使のキャラは一人もいなかった。

 

だがな…!なめるなよ。俺達のギルド。アインズ・ウール・ゴウンを…!!

 

天使といえば翼。翼といえば鳥。鳥といえばバードマン。バードマンといえばペロロンチーノ!!

 

追い詰められたアインズの無理やりな連想ゲームで選ばれたのはペロロンチーノ。

アインズの最も親しい友人とも言える存在であり、弓矢を用いた長遠距離攻撃を得意としたプレイヤー。

 

ペロロンチーノさん、助けて!

 

アインズの心の叫びに、ペロロンチーノさんは降臨する。勿論、アインズの心の中の話で、実際には存在しないが。

 

太陽を射殺した英雄の名前を冠された弓、ゲイ・ボウを携えたその姿は正しく爆撃の翼王。

そして爆撃の翼王はアインズに語りかける。

 

『モモンガさん。俺…思うんだ。NTLって人類の至高の文化の一つだって。親友の彼女を…恋人の妹を…妻の妹を…親友の妹を…親友の娘を…相手に気付かれないように、静かに静かに…でも時には大胆に奪っていく。これは正しく至高の文化だよ…ああ、早くどっかのメーカーでロリ専門で姉ちゃん以外の声優を使ったNTLゲーム作ってくれないかなぁ。あ、でもNTRは勘弁な!』

 

『エロゲーイズマイライフ』を豪語する漢の生き様だった。

 

親友の言葉に後押しされたアインズは脳裏に今まで意図的に排除していた存在。つまりはNPC達を思い浮かべる。

なんということでしょう。あれだけ、やる気のなかったアインズ様の精神はあっという間にピンクの妄想だらけになってしまったのです。

 

『グワッハッハッハァー!ようやく素直になりよったな。さぁ、旅人よ。知恵の実を食べた希望と未来に溢れる旅人よ。煩悩の世界へと旅立つがよい』

 

マーラ様のお言葉―――神託が頭の中に鳴り響く。

その神託に従い、アインズは更なる煩悩の世界へと旅立んとする。

 

さあ、旅立とう。世界は未知(エロ)で満ち溢れている。今こそ冒険の旅に出るときだ。

 

41人の人造人間(ホムンクルス)のメイド達。

そして6人の戦闘メイド(プレアデス)

 

ユリ・アルファのあの豊満すぎる胸。

ルプスレギナ・ベータの健康的な肢体。

ナーベラル・ガンマのあの献身的な忠義。

シズ・デルタの人形めいた美貌。

ソリュシャン・イプシロンのあの触ると何処までも柔らかい体。

エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの幼さを残した危うさ。

 

その全てが魅力的だった。

 

『まだだ、まだ御主が思う存在がいるはずよ…旅人よ。更なる旅を続けるのだ』

 

そうだ。自分にはまだ想う相手がいる。

それは守護者達。ナザリック地下大墳墓の最高幹部達。

かれらを思うと更なる高みへといける。

 

『よいぞ。滾ってきた!滾ってきたわぁ!』

 

股間を見るとマーラ様は更にご立派になっていた。最初の30センチ状態からの更なる変化。アインズの煩悩に呼応し、その姿は更なる威光を放つ。

 

アウラ・ベラ・フィオーラの幼いながらも、幼さゆえの眩しさ。

シャルティア・ブラッドフォールンを復活させた際、見てしまった裸体。

マーレ・ベロ・フィオーレの守護者達と風呂に入ったときに堪能した裸体。

そして―――アルベドのこの世界に転送した際に確認した胸の柔らかさ!!

 

カッ!!とアインズの髑髏の眼孔の燈火が強く迸る。アインズは今、絶頂の間際にいた。

アインズは心のパトスのままに叫んだ。

 

「アルベド!アルベド!アルベドォォォォォ!!」

 

 

「はい!!お呼びでしょうか!アイ…ン……ズ…様」

 

 

「うっ!!…………あれ?」

 

『見事よ!小僧!良くぞ煩悩の道を……あれ?』

 

そこでまさかのアルベドの部屋の乱入。

アインズは髑髏の顔面を蒼ざめた。そういえばアルベドは外で待機していたはずだ。そして自分はこう言った。決して自分が呼ぶまで部屋に入るなと。先ほどのパトスの叫びをアルベドは主人が自分を呼んでいると勘違いして部屋に入ってきたのだ。

 

賢者タイムの心地よい倦怠感に浸れる事無く、アインズは出もしない汗が流れ続ける感触がする。

 

ど、ど、ど、どうすればいいのだ。この後どうすればいいのだ。

マーラ様丸出しのアインズは必死に考える。時計の針が動く音が大きく聞こえる。

だが、アインズが答えを出すより先にアルベドは動いた。

 

 

 

 

「くふぅ―――!ア、ア、アインズ様…ご立派様ですわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

その後辛抱溜まらんとばかりに襲い掛かるアルベドを、アインズとマーラ様は協力して鎮圧することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが後の世に語られる『唯一統一王にしてご立派なご立派なアインズ・ウール・ゴウン』の伝説の始まりだった。

 

 

 

 




ご立派様『ナニ?ワールドエネミーには既に、『第六天天主』という存在がいるだと?愚かモノがぁ!そやつの方がワシをぱくったのじゃ!ワシこそが真なる第六天魔王マーラ様じゃ!グワッハッハッハァー!
ナニ?転移後の世界にGMコールやアイテムが転送してくるのはおかしい?馬ッ鹿モノがぁ!ワシのモノは世界を超えるということじゃ!グワッハッハッハァー!』

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