ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか Two Rabbits 作:朝灯
投稿遅れまして申し訳ございません。
「おーい、ベル~!」
「あっ!シキ......神様は?」
「あぁ、何かバイト先の打ち上げだってさ」
ギルドに着くと換金を終えたベルが待っていた。
先にシルさんの職場に行ってて良かったのに律儀なやつだな、本当に。
「じゃあ行くか」
「うん!」
確かメインストリートの辺りだったよな?
あとは酒場って言ってたっけ?
「...そうだ、ベル。ちょっと走ってみてくれよ」
「へ?どうしたの?急に」
「あれだけ【ステイタス】が伸びてたんだからどれだけ反映されるのかが気になってな」
敏捷は53程伸びていたはずだ。
2とか3なら効果は分かり辛いと思うけど、あそこまで急激に伸びたら体感出来るはずだ。
「そうだね。じゃあ走ってみる」
グッと足に力を込めたベルは一気に加速する。
試しに並走しようとして追いかけるが、距離が縮まるどころか離される始末。
昨日まではまだ並走は出来たのに......これが
「すごいよ!シキ!今までと全然違う!」
急に立ち止まったベルは幼い子供のようにはしゃぐ。
微かに頬を上気させ、深紅の瞳がキラキラと光っている。
「そりゃあれだけ数値伸びてるのに今までと変わらなかったら【ステイタス】なんて更新する意味が無くなるしな......」
しかし、本当に差をつけられたな......
追いつけるのはいつ頃になるだろうか?
...いや、あのスキルがある限り俺はきっと追い付けないだろう。
誰かへの想いが具現化するほどのスキル、羨ましいし、嫉妬だってする。
...だけど、それ以上に......それほどまで強く想える相手が出来たってことがただ単純にスキルよりも羨ましい。
「シキ、ここじゃないかな?シルさんが働いているっていう酒場って」
どうやら考え事をしている間も俺の足は動いてくれていたらしい。
2階建てでやけに奥行きがある建物、多分この辺りの酒場で1番大きいんじゃないか?
「あぁ、多分ここだな。『豊饒の女主人』...か」
うわぁ、すげえ名前。
看板を見上げながら俺はそのまま視線を下ろして少しだけ中を覗いてみる。
店内には活気が溢れ、店員さんが忙しなく動き回っている。
...あの恰幅の良さそうなドワーフの人は絶対女将だな、うん。
あれって獣人キャットピープル......おいおい、エルフまでいるのか?
全員が女性でしかもウエイトレス。
「シキ......僕たちには難易度が高すぎる気がするんだけど......」
「そうだな......俺も同感」
さて、店を目の前にして帰るという選択肢が眼前に浮かぶがシルさんの笑顔が頭をよぎる。
っていうかこのシルさんの笑顔何かすごいリアルだな......
「いらっしゃいませ!お二人とも来てくださったんですね!」
...あぁ、これ俺の想像とかじゃなくて本物か......道理でいい匂いまですると思った。
そんな現実逃避すらも許されないのか、俺とベルはシルさんに背中を押され、店内に押しやられる。
所々から乾杯の音と料理のいい匂いが立ち込める店内のカウンター席の隅へと腰を落ち着ける。
「ん?あぁ、アンタらがシルが言ってた冒険者かい?......中々可愛い顔つきをしてるじゃないか!」
男にとって可愛いっていうのは褒め言葉じゃないんだよ......ぜひ覚えておいてくれ。
そんなことを言ったら俺が料理されてしまいそうなので絶対に言わないが。
「何でも店の食料が空になるほどの大食漢らしいじゃないか!ジャンジャン腕を振るうからアンタらもジャンジャン金を使ってくれよぉ!」
誰が大食漢だって?
俺は恨みがましい視線をシルさんにブン投げる。
...速攻で目ぇ逸らしやがった!?
「ちょっと!?どちらかと言えば僕たち一般の人よりも食べないと思いますけど!?」
「...てへっ☆」
「可愛い!でもそうじゃない!!まずは誤解を解いて欲しいんだよ!!」
ダンっと拳をカウンター席に打ちつけながら渾身の叫び声を上げる。
「ちょっとした冗談です!少し奮発してくれるだけで十分ですよ!」
ヘスティア様、ごめんなさい。
少しだけ財布の紐を緩めることをお許し下さい......
女性の笑顔や頼みごとに滅法弱い、どうも俺です。
「とりあえず......パスタで。ベルは?」
「あ、うん。僕も同じのを」
注文を手早く決める。
もちろん値段は1番安いものにしておく。
「アンタら酒はどうする?」
別に飲めないわけじゃないけど......余計な出費は抑えたい。
「遠慮しておきま「ほら!」」
俺の返事を待つまでもなく、目の前にお酒がドンッと音を立てて置かれる。
聞く意味ねえじゃねえか......
ふと、店内の音が止まった気がして何気なく出入口の方をチラリと見やる。
ちょうど団体が入ってきたところだった。
しかし、オーラがある。
特にあの金髪の剣士......ってあれアイズ・ヴァレンシュタインさんじゃん!!
ってことは......あれが【ロキ・ファミリア】......
第一級冒険者の集まり......
入ってきた団体が【ロキ・ファミリア】だと認識された瞬間再び店内にざわめきが起こる。
「...ベルさ~ん?」
シルさんの声が聞こえる。
視線を戻してベルを見てみると完全に見惚れていた。
憧れの相手が目の前にいるんだ......無理もない、のか?
「ダンジョン遠征みんなご苦労さん!!今日は宴や!!飲めぇ!!」
その音頭を皮切りに【ロキ・ファミリア】の集団が騒ぎ始める。
こうして見るとその姿は貫禄ある冒険者ではなく、俺たち駆け出しとなんら変わりのない姿だと思える。
「そういやアイズ!お前あの話してやれよ!」
「...あの話?」
ピクッとベルの肩が動く。
必死に憧れの人の声を聞こうと集中しているのが分かる。
お前集中の使いどころ間違ってね?
「ほら!あれだよ!あの5階層で始末したミノタウロスの時の!全身に返り血浴びたトマト野郎の!!」
再びベルの肩がピクッと動く。
しかし、俯いているために表情は見えない。
「あぁ、あの17階層で襲ってきたミノタウロス?」
「そうそう!奇跡みたいにどんどん階層を上がって行ってさ!そしたら運悪く5階層にいかにも新米って感じの冒険者がいてよぉ!」
ベルが小刻みに震え始める。
恐らく怒りではない、他の感情で。
「そいつ兎みてぇにどんどん壁際に追い詰められていってよぉ!!......そのミノタウロスをアイズが切ったら血がドバッとかかって......そいつトマトみてえになってやんの!!笑えるだろ!?」
まぁ、間違いなくベルのことだよな。
あんな体験してるやつが他にいてたまるか。
「そしたらその冒険者が悲鳴を上げて逃げ出しやがって......助けたのに逃げられてやんの!!」
失笑、苦笑、忍び笑い、爆笑......様々な笑いが今話をしている獣人を中心に巻き起こる。
そんな中、ベルはただジッと俯いている。
「ったくよぉ!あんなに泣くんだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての!俺たちの格まで下がっちまうぜ!本当胸糞悪ぃ!」
あぁ、胸糞悪いな。
「なぁアイズ?お前あんな冒険者と俺だったらどっちを選ぶ?」
「...ベートさんだけはごめんです」
ここが俺が初めてちゃんと笑えそうなポイントだ。
ざまぁみろ、振られてやんの。
「でもあんな雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ!何より、弱いことが大嫌いなお前が許さねぇ!!」
「っ!!」
「おい、ベル!?」
ベルが椅子を蹴飛ばして店外へと走り去る。
「...あの子」
ヴァレンシュタインさんが何かを呟いているが、今の俺には届かない。
ベルが走り去ってしまったという事態と単純に怒り。
...この場面は事を大事にしないように切り抜けるべき、なんだけどな......
仲間をバカにされて黙ってられるほど......俺はバカじゃない!!
俺は獣人の方へと向き直り、震える膝に喝を入れる。
「さっきから黙って聞いてれば......アンタ何がしたいんだよ」
「あぁ?」
ケンカになればケンカにすら発展しないだろう。
だってアイツどう見ても強そうだし......絶対レベル高いし。
「元はと言えばアンタらがミノタウロスを討ち逃したのが事の始まりだろうが。それなのに自分たちのミスで死にかけた冒険者を笑うとか何様だ」
「おいおい、雑魚が何言ってんだぁ?ダンジョンでは何が起こるか分からないんだぜ?それなのに自分の力量も分からないカスが冒険者になる方が悪いだろうが!」
どうやら俺の言葉は取るに足らないものだと判断されたらしい。
嘲笑混じりに適当にいなそうとしている。
「...アンタの言う強者ってのは弱者のピンチを笑う為のもんなのか?随分と安い強さだな」
「...死にてえのか?」
獣人がゆっくりと俺の方へと近づいてくる。
正直言って超怖い。
今すぐ逃げ出したい。
「それにこうも言うぜ?弱い犬ほどよく吠える......ってな!」
店内の数名がプッと噴き出す。
この獣人は
彼の外見を皮肉に混ぜての挑発に【ロキ・ファミリア】の数名も笑いをこらえていた。
「俺は雑魚には絶対手は出さねぇ。雑魚をいたぶる強者なんてそいつこそ雑魚だ。......だが、テメェは別だ!俺を弱者呼ばわりしたテメェは殺してやるぜ!!」
獣人の青年は腕を振り上げる。
恐らく殴られて、俺は気を失うだろう。
だけど後悔はない、俺は言いたいことは全部言った。
それこそ胸を張って気絶してやるさ!
「遅れてすいま......ってベートさん!?何をしてるんですか!?」
俺の顔の前でピタリと拳が止まる。
今出入口からから聞こえてきた声が原因ではなく、彼の手を止めているヴァレンシュタインさんのおかげだ。
「...チッ!命拾いしたな」
さしもの彼もヴァレンシュタインさん相手では分が悪いらしく、興醒めと言わんばかりに俺に背を向けて獣人の青年は元の席へ戻っていく。
「...助けていただいてありがとうございます。ヴァレンシュタインさん」
「ううん、先に失礼なことをしたのは私たちの方だから......ごめんなさい」
わずかに沈んだ表情をしながらヴァレンシュタインさんが謝罪してきた。
「これってどういう状況なんですか?アイズさん」
とアイズさんの後ろから声が聞こえる。
さっき店に入ってきた少女だ。
銀色の髪を持ち、瞳は薄い黄色。
「...エル。気にしなくていいよ」
エル、それが彼女の名前みたいだ。
...可愛い。
思わず見惚れてしまった。
「...あの子、ベルって言うの?」
「はい、ベル・クラネル......俺と同じ【ファミリア】に所属してます」
「...君は?」
「...シキ・アスティリアです」
ゆっくりと頭を下げてお辞儀する。
この人は尊敬に値する人だ。
「そう......あの子にも謝っておいて。嫌な思いと怖がらせてごめんなさいって......」
「...分かりました」
別に怖がって逃げたわけじゃないんだけど......それを俺が言うのは野暮ってものだ。
あいつが自分で言わなきゃいけないことだし。
「それじゃ俺はこれで、店内で騒いですいませんでした!これあいつの分の代金です!」
ドワーフの女将さんにいつでも土下座に移行できる姿勢で謝罪する。
「...まぁ店内で殴り合いを始めたら摘み出すつもりだったし、この店で食い逃げとかいい度胸をしてるよあの子」
よーし、土下座だ。
頭上から降る怒りが滲んだような声に俺は膝を地面に着き始める。
「でも勘定はアンタから貰ったし、何も文句は言わないさ。また来な!それでチャラにしてやる!」
「ありがとうございます!」
結局、感謝の意を表すのに俺は土下座をした。
「...あの、何があったかは分かりませんけど......ベートさんがすいませんでした」
数秒ほどの土下座の後、俺は店から出た。
すると、エルと呼ばれた少女が背後から声をかけてきた。
何があったかは分からないけど謝ってくるなんて......なんていい子なんだ......
「いや、あれは俺がケンカを吹っ掛けたんですよ。悪いのは俺で......」
「それでも先に手を出そうとしたのベートさんですよね?......あっ、申し遅れました!私はエル・グラウスと言います!」
「あっ、俺は「アスティリアさんですよね!」」
そうか、俺この人の前で名乗ったんだっけ?
「あぁ、シキでいいですよ......正直アスティリアって長くて言い辛いし......」
「分かりました、シキさん。それなら私のこともエルとお呼び下さい!それに敬語は必要ないですよ?恐らくですが私の方が年下ですし」
「...うん、それならエルも敬語じゃなくていいよ」
「私は誰に対してもこうですよ?お気になさらず」
すっかりと暗くなり、月明かりと街灯が辺りを照らす。
エルの銀髪に反射してかなり輝いて見える。
「じゃあ、俺はこれで......機会があったらまた会おう」
「はい!それでは!」
既に見えなくなったベルの背中を見つけようと、俺はとりあえずヘスティア様が待っているであろうあのボロボロの教会がある方へ足を向けたのだった。
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キャラ紹介
エル・グラウス
職業:冒険者 性別:女 人種:ヒューマン ステイタスLv:2
武器《小太刀:虎月》二つ名【銀獅子】
所属:【ロキ・ファミリア】
本作のヒロイン。年齢は14歳。
アイズに次ぐロキのお気に入りの秘蔵っ子。
肩甲骨の辺りまで伸びた銀髪の少女。
純粋無垢な少女で例え嘘でも信じやすい。
生来の芯の強さとアイズ直伝の剣の腕を合わせ持ち、更には生粋の努力家。
Lv:はまだまだ低く、駆け出しの域を出てはいない。
年齢も若いが、剣姫の跡継ぎとして囁かれているホープでもある。
こんな感じです。
次回もよろしくお願いします。