インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~ 作:ラグ0109
#1 少年と悪魔
ジリジリとした太陽が照り付けてくる夏真っ盛りだと言うのにも関わらず、俺は着古されたボロコートを羽織り、これまた使い古されたトランクを担いで辺りを見渡している。
「ったく…また情報無しのワンマンアーミーかよ…勘弁してくれ…」
俺は陽の射さない薄暗い路地を歩きながら『雇い主』のいつもの無茶振りに応える為、今居る土地を調べ回っている。
表向き大道芸人として生計を立てている俺は、特定の居住地を持たない放浪者と言う事になっているそうだ。
これらの戸籍は全て雇い主が用意してくれるんだが…一体この世界で何が起きていて、何をすればいいのかと言う事を一切知らせてくれない。
と、言うか異物である『旅行者』である俺を、この世界にぶち込むので手一杯らしい。
…あぁ、どういう立場の存在なのか教えてなかったな。
俺は一般的に『悪魔』と呼ばれる存在だ。
勿論、そんなものは今俺が居る世界においては、ホラ話として処理されるようなものなんだが…。
本来俺が居る世界においては悪魔どころか神なんてのも居る、常識が通用しない世界だ。
正直、俺なんかは末端も良い所の存在で、大して強力な力を持っているわけでもない。
そんな存在は、大体誰かしらの庇護下に入って細々と生きている。
で、そんな俺を庇護してくれてるのが『桜花』って言う俺の雇い主になる。
「見た所科学技術はソコソコってところだな…」
雇い主の願いはただ一つ…あらゆる世界を観測し続ける事。
要は覗き魔だな。
本を読む様に、音楽を聴く様に、演劇を鑑賞する様に…そうして世界を見て、聞いて、知って、知識として蓄える俗物。
知りたいと思う事はトコトン調べ上げ、自身の糧にしなければ気が済まない強欲者…何とも俺の雇い主に相応しいものだ。
本人が調べに行けば良いんだろうが、本人は所謂引き籠りの出不精…だからこうして俺が調べに出向いてる訳だ。
…何を調べりゃいいのかくらい、伝えろってんだよクソが…。
大通りに出ると、昔ながらの街並みと近代化の進んだ街並みとが入り乱れる景色が視界に広がる。
通りには等間隔に街路樹と街灯が設置されていて、無駄に開発をしていない風に見受けられる。
便利さを突き詰めてしまうと、環境を破壊し兼ねないからな…なるほど、自然との折り合いはソコソコつけてるらしい。
人の流れに沿って道を歩いていくと、街の至る所に何かの大会が開催している事を告げる垂れ幕が視界に入る。
第二回モンド・グロッソと書かれたそれらの垂れ幕には、参加国を示しているのであろう国旗と『インフィニット・ストラトス』なる単語が目に止まる。
「無限の成層圏…?なんだそりゃ…?」
首を傾げて立ち止まっていると、いきなり背中をバックか何かで叩かれる。
どうも、随分とこの世界の人間は野蛮みたいだな…こりゃ。
俺は若干苛立ちつつも穏便に事を済ませようと怒りを腹の中に押し込んで、穏やかに振り返る。
「なんか用か?」
「あんた邪魔よ!小汚いホームレスが立っていて良い場所じゃないの!!」
「あぁ、そりゃ悪かったな。キビキビ歩くとすっかね」
振り返った先に居る40歳手前くらいのショートヘアのブロンド女性は、金切り声を上げながら俺に抗議の文句を浴びせてくる。
合わせて、周囲の男性は巻き込まれまいと視線を逸らし、そそくさと歩いていくのが見える。
つまり、此処は女性が特権階級にいるって事を示してるんだろう。
なんつー、面倒臭い世界なんだ…や、此処よりも面倒臭い世界はゴマンとあるんだが。
そんな俺の面倒臭そうな気持ちが表情に出てしまっていたのか、或るいは最初から『八つ当たり』目的で突っかかってきたのか女性は益々顏を赤くして此方を睨んでくる。
「なに、その態度は!警察呼ぶわよ!?」
「これは失礼をした、レディ…これで満足か?」
慇懃無礼にならない程度に…胸元に手を添えて軽く会釈すれば、女性は呆けた顔で俺の顏を見つめてくる。
それを隙と見た俺はそそくさと歩きだし、人込みに紛れる様に歩いていく。
また捕まったら面倒だし、そもそも騒ぎは起こさないに越したことはないからな。
後ろから金切り声が響いてくるが、俺は素知らぬ顔で離れていくだけだ。
人の流れに沿って歩いていくと、古代の剣闘士が戦うコロッセオの様な外観のスタジアムへと辿り着く。
どうやら、此処が例のモンド・グロッソの会場らしい。
会場入り口前の広場には大小様々な屋台があり、良い匂いが漂ってくる。
この世界に来て既に3時間…そろそろ小腹が空いてきたんで、俺は屋台のある方へと向かう。
こちらも盛況な様で、人でごった返している。
飯にあり付けるのは何時になるのやら…等と内心ため息を吐くと、スタジアムから大きな歓声が上がる。
大会はどうやら大盛り上がりの様だ…スタジアムの外側に付けられた巨大な液晶スクリーンには、チフユ オリムラと書かれたテロップと機械を身に纏った女性が、輝く太刀を振り払っている姿が映し出されている。
…どうも、あの機械が『インフィニット・ストラトス』ってやつらしいな。
「やっぱブリュンヒルデは格が違うなぁ!」
「だー!このままじゃ、またチフユの優勝かよ!」
「アリーシャだって強いんだから!今回こそ彼女がブリュンヒルデになるのよ!」
楽し気に観戦している少年少女達の声に耳を傾けながら、屋台でエールとソーセージを購入して手早く胃に納めていく。
ブリュンヒルデ…っていうのは、確か悲恋のワルキューレの名前だったよな…?
液晶スクリーンに映し出されているトーナメント表を見る限り、どうも出場しているのは女性ばかりらしい。
と、なるとこの大会の優勝者に送られるのが『ブリュンヒルデ』と言う称号と言う事か。
周囲でお祭り騒ぎをしている連中の中から少しばかり、不思議な話が出てくる。
曰く…『インフィニット・ストラトスは女性しか乗れない』、だ。
どうも、あの機械は女性にしか扱えず、男性が使おうとしてもウンともスンとも言わないそうだ。
こう、どうにも嫌な予感がしてしまって、堪らなく帰りたくなる。
だが、此方から帰還しようにも、桜花が満足するまでは帰れないのでどうしようもない…。
途方に暮れて肩を落としながら歩いていると、人の波に押されてスタジアムの入り口まで押されて行ってしまう。
どうもこれから、さっきのチフユってやつとアリーシャってやつの決勝戦が始まるらしい。
どちらも人気の選手らしく、会場内はどちらが勝つのかの話題で持ちきりになっている。
少しばかり、興味の引く存在であるインフィニット・ストラトスを間近に見るのも悪くないと考え、立ち見席のチケットを購入して人の少ない道を歩いていく。
…一歩一歩踏み出すのにやたらと勇気がいるのは気のせいと思いつつ、歩いていくとトイレが視界に入ってくる。
さっき飲んだエールが効いたのか尿意を感じた俺は、そそくさとトイレに入ろうとしたところで騒ぎが耳に入る。
「クソガキっ!大人しくしやがれ!」
「むー!!むー!!!」
「うわぁ…」
嫌な予感がしつつもトイレに入ると、大の大人数人が中学生くらいの少年をトランクに押し込もうとする場面に遭遇したのだ。
…直感に頼るとロクな事が起きないが、頼らなくても巻き込まれるんだな…クソが…。
俺を含めた全員が固まり、トイレの中を嫌な沈黙が支配していく。
先に動きだしたのは、目の前の男たちの方だった。
「て、てめぇなにもんだ!?」
「なにもんって…芸人?」
「おちょくってんのか!?まぁ、いいや…テメェもついてこい!!」
「ションベンしてぇんだけど、先にしていいか?」
「良いわけあるか!!」
男たちは
拳銃を見た少年は恐怖に顏を真っ青にするが、それでも諦めていないのか男たちの隙を伺っている。
何をしでかすか分からないので、俺は少年の目をジィッと見つめて首を横に振る。
今は、大人しくしていた方が生存確率が跳ね上がる。
下手に暴れて少年を巻き込んだら、きっと今以上の面倒事に巻き込まれるからな。
「へ~へ~、わかりましたよ…。ったく、トラブル体質はどこ行っても変わらねぇなぁ…」
俺はトランクを奪われ、後ろ手に親指を結束バンドで縛られて拘束されて、トランクに押し込められた少年と一緒に男たちに囲まれてトイレから連れ出される。
…どうも、組織ぐるみの犯行みたいだな。
これだけ人が多いってのに、俺が今歩いている通路には人っ子一人いない状態だ。
なんで、俺がそんな所に入り込めたのかは分からないが、兎も角…少年には絶体絶命の大ピンチにしか感じてないんだろうなぁ…。
地下駐車場へと連れ込まれた俺は、促されるままに小型トラックの荷台に乗せられる。
少年はトランクごと助手席に乗せられている。
ここら辺、頭は良いらしい…。
一先ずは、潜伏先まで
「なぁ、そのトランク仕事道具だから大切に扱ってくれよ?」
「黙ってろ…」
「へいへい…」
トラックが動きだす振動を身に感じつつ軽く肩を竦め、銃を突き付けてくる男の様子を見る。
銃を突き付けてこそいるが、どうやら命までは取る算段ではないらしい。
と、なると…こいつらは雲隠れに大層自信のある連中みたいだな。
ただ、俺自身も大人しく掴まっているつもりはないんだが。
時間にして2時間ほど…舗装されていないであろう道をガタゴトと揺れながら呆けていると、トラックがゆっくりと減速してドアの開く音がする。
どうやら、潜伏先に着いたようだ。
無言で降りる様に促されると、元は何かの家屋だったのかボロボロの廃墟が視界に入ってくる。
なんつーベタな…。
「とっとと歩け、時間が迫っているからな!」
「んなに怒鳴んな…漏れるだろうが」
茶化す様に言いながら前後を男に挟まれる形で家屋へと向かうと、まだ無事だった地下室へとトランクの中に押し込められていた少年と一緒にケツを蹴り飛ばされて放り込まれる。
だから漏れるつってんだろーに…鬼か?
地下室の扉は何かの保管庫だったのか頑丈な作りで、錆びているとは言え分厚い鉄扉が備えられていて普通の人間では蹴破るのは無理な様に見える。
俺は横たわってグッタリしている少年の体を、軽くつま先で突いて様子を見る。
「応、生きてるか~?」
「生きてるよ…くそっ…早く帰らないと…!」
「つっても、あんな頑丈な扉どうやって破壊する気だよ?」
「無茶でも無理でもやらなきゃダメなんだよ!」
少年はすぐに気が付いたのかモゾモゾと体を動かして上体を起こし、俺の事を睨み付けてくる。
その目にはなんで、あの時抵抗しなかったんだと言う恨み節の様な意思が感じられる。
俺は軽く肩を竦めて、指の結束バンドを引き千切りつつ少年の前にしゃがみ込む。
「そういう気概は買ってやるんだけどな?無茶でも無理でもやるってのはただの蛮勇ってやつでよ…死ぬぞ、ガキ」
「っ…!!」
「手慣れているところから見て、ありゃダーティ・ワークのプロ…それもそれなりに力のある組織がやってんだろうさ」
「なんで、そんな風に言い切れるんだよ…」
少年は不満そうに唇を尖らせながらも、俺の事をジィッと見つめてくる。
俺は軽く溜息を吐きつつ、少年の拘束を優しく解いていく。
「単純な話だ…あんだけ人でごった返してんのに、あのトイレ近辺だけ人気が無かっただろ?どうやってんのかは別として、普通じゃありえねぇことをやってのけているからな…」
「で、でも、だからこそ俺は戻らなきゃ…!千冬姉の大事な試合を潰しちまう!」
「ん…お前、あのチフユってやつの弟なのか?」
少年の拘束を解いてやって、少しばかり思案に耽る。
どうも、この弟君を誘拐した理由はそのチフユってやつに勝たれると困る所がやったってとこか?
問題はこの弟に警備をつけなかったのかって事なんだが…キナ臭いな…。
今以上の厄介事が俺にふっかかりそうだな…おい。
「あ、あぁ…織斑 千冬は俺の姉だけど…」
「なんつーか…トラブルに困らなさそうな立ち位置だな、お前…」
「ち、千冬姉は何も悪くない!」
「んなこたどうでも良いわい…お前、連絡取る手段は?」
これくらい科学技術が発達していると、通信機器の普及ってのはどんな世界でも進んでる。
と、なれば携帯型の通信手段ってのがあったりするもんなんだが…。
目の前の少年は服のポケットを弄って、その通信手段を探しているが一向に見つかる気配が無い。
「っ…携帯…あの時に落としたみたいだ…」
「しょうがねぇなぁ…俺は見た通り持ってる訳もないし、少しばかり急いで脱出するかね?」
目の前の少年は連絡をとる手段が無いと知ると、希望が絶たれたとでも思ったのか座り込んでしまう。
俺はそんな少年を尻目に扉へと近づいて、優しく掌を押し当てる。
この世界に来て一つだけ伝えられた禁止事項がある。
それは御呪いを除いた魔法の使用禁止、だ。
このルールを破ったら非常に…非常に面倒な事になるので破るなと念押しされている。
そもそも、この世界は悪魔とか神とかが駆逐された人の世界…魔法なんて使える筈もないんだけどな。
ただ、この禁止事項…魔法を使うなと言うだけであって、ある一点においては問題がなかったりする。
それは…
「よっこらせ」
所謂中国拳法における発剄…それも密着状態から放つ寸剄を扉に
「え、えぇぇぇぇぇぇ!!??」
「うら、行くぞガキんちょ。姉ちゃん試合を棄権しちまうかもしれねぇんだろ?」
何てことは無い、『悪魔としての身体能力はルール適用外』である。
俺は懐から煙草を取りだしながら、オイルライターで火を点けて煙を吐きだしていく。
少年は、そんな俺の姿を崇敬と畏敬の混じりあった目で見つめてくる。
「が、ガキじゃない…お、織斑 一夏って名前がある…」
「応、そうかい…なら俺も名乗らなきゃな…ガキんちょ」
俺はニィッと笑みを浮かべながら、少年…織斑 一夏へと背を向けて地下へと駆け下りてくる足音が響く階段へと目を向ける。
「アモン・ミュラー…なんてことねぇ悪魔ってやつさ」
と、言う訳でリメイクになります。
エタらせてしまって本当にすまない…だけど、主人公は同じなんでどうか許してほしい…。
展開もなるべく変えていくように努力しますので、今後ともよろしくお願いします。