インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~ 作:ラグ0109
なんだか思いついてしまった戦闘回です…控えめだけど
IS…インフィニット・ストラトス。
篠ノ之 束が開発したそれは、宇宙空間活動用のパワードスーツとして世に放たれた。
今まで人類が足を踏み出せなかった領域へと押しやるその力は…まぁ、確かに世界を魅了しただろう。
束の願いと祈りとを無視する形で。
世界最強の戦略兵器として有名を馳せる事になったISは、各国代表が集まって作りあげられたIS委員会にて一元管理され、国力と言う名の国家間のバランスの元に467個のISコアが
皆、兵器としての側面とコアのその特殊な在り方にしか興味が無く、その存在は日夜兵器開発とコアのブラックボックス解析に費やされている。
新しい玩具を武器にしたがるのは人類の悪い癖…そう宣った奴がいたが、なるほどその通りだと納得させられる。
そもそも…『白騎士事件』と呼ばれるISのお披露目会がこの認識の際たる原因だとは思うけどな。
こればっかりは、今俺の背中に抱き付いて首元に顏を埋めている女が、子供の様な純粋さを持っていたのがいけなかったんだろう。
天才は、ズレすぎていたんだろう。
「束、邪魔」
「え~、ちゃんとレクチャー…スー…ハー…してるんだからぁ~」
「うぜぇ…」
今日何度目かのやり取りをしながら、俺は急速にこの世界の知識を蓄え続ける。
まぁ、今メインで蓄えているのは日本における教育に関する事なんだが…。
20代半ばくらいのオッサンが、学生服来てガキ共に混ざる訳にはいかない…あまりにも羞恥プレイ過ぎる。
通常、教員免許…というのが教師になるにあたって必要になるわけだが、当然のことながら俺はそれを持ち合わせていない。
では、どうやって俺にその免許を取得させるのか…と言う問題が出てくるわけだが、そこは背面パラサイトである束の存在を上手くダシにしたらしい。
篠ノ之 束はやたらと俺に懐いているから、上手く俺を飼いならせることができれば、暫くは俺の傍に篠ノ之 束がいるかもね…な~んてな。
束はISの開発者にして、ISコアのレシピを知る唯一の存在だ。
現状コアの再配布がなされていない以上、束と言う存在はどの国も我先にとコンタクトを取りたくて仕方がない。
束を御するものが世界の覇権を握ると言わんばかりだ。
…俺?
こんなヤンチャ娘の手綱なんて握りたくありません。
「クーはどうしたんだよ…放置してんじゃねぇだろうな?」
「まっさか~、これでもちょくちょく帰ってはいるんだよ?」
手に持ったペンをクルクルと回しながら、常に貼り付いている束を諌める様に言う。
この一か月…寝ても醒めても束が居る状態が続いている。
日本としちゃ、居てくれるのは助かるだろうがな…。
束は漸く俺から離れて、隣の席に座って寄りかかってくる。
「あっくんが寝てる間に、きちんと帰ってバイタルの確認くらいはちょちょいのちょいさ!」
「…此奴に任せたの失敗だったな」
「なにおう!?」
物は作れても飯は作れなさそうなんだよな…なんか、物作りながら軍用レーション食ってるイメージが強い。
最低限活動できるだけの栄養が確保できてれば、研究していたいっていうタイプの性格みたいだしな。
…テーブルマナーがなってないのは非常にいただけないが。
「クーちゃんに関しては、バイタルも安定してるし元気に歩き回れるし問題は無いさ~。後は、ISの訓練だけだしね~」
「実際にゃ、コアの数は468個ってとこか…」
「んっふっふ~、それはナ・イ・ショ」
束は上機嫌と言わんばかりの口調で俺に擦り寄ってくる。
心なしか、頭にあるメカニカルなウサ耳が嬉しそうにパタパタ動いてる気がする。
俺はそんな束の事をとりあえず無視して、参考書との睨めっこをしている。
…雇い主からの連絡は、俺が初めてISを動かしてから一切来ていない。
情報を寄越さない、依頼内容を言わないの二重苦はいつもの事なんだがな…。
言うまでも無くISはこの世界における中心に位置する存在だ。
そのISに関する知識を集約した機関に潜り込めるなら、それはそれで良しと言う事なのか…それとも、単純に俺が酷い目に合うのを見越してほくそ笑んでるのか…はたまた両方か…。
思わず、ため息が出てしまうが…まぁ、何かどうこう出来るわけでは無いし、下手に脱走でもしてみろ…全世界相手に面倒臭い鬼ごっこが始まるからな。
「帰りてぇ…」
「…何処に帰る気だ?」
「やっほー、ちーちゃん!愛を、一心不乱に愛を語ろうぜ!」
絞り出す様な声で独り言を言うと、何時の間に現れたのか千冬が俺の頭にハリセンの様に叩き落としてくる。
束は束で千冬に発情したみたいな顔を向けて、ハァハァ言うが、一切合切無視されている。
こいつら本当に友人関係を築いているんだろうか?
「外出手続きの書類だ。学園まで来てもらうぞ…?」
「え~、あれやるの~?あっくんSランク判定だし良いじゃん、やらなくてさ~」
「学園側でもデータを正確に取っておきたいそうだ」
束は千冬の言葉にあからさまに不満げにするものの、千冬は小さく溜息をついて片手で頭痛を抑える様に頭を抱える。
ISの操縦に関して、性別の他に適性が求められる。
下はC判定から始まり順番にB、Aとランクが上がり、最高ランクが束の言っていたSランクと言う事になる。
ISを操縦するにあたって、適正が高ければ高い程動かしやすくなると言う事だ。
Sランクに至っては、千冬を含めて世界でも数人しか確認されていないそうだ。
ランクの高さが操縦者の腕前に直結するわけではないが、それでも高いに越したことはないって事なんだが…聞けば聞くほど、ISって欠陥だらけな気がしてくるな…。
「あー、面倒くせぇ…実際に動かしているところもしっかり見ておきたいってのが本音か」
「すまないな…サインしたらすぐに準備してくれ」
ブーブー文句言っている束を無視して、俺はさっさと書類にサインをしてコートを羽織る。
久しぶりの外出と言う事もあって、気分的には大分楽だ。
これが晴れて自由の身って言うんだったら、尚更言う事は無かったんだが。
「ったく、高々ISに乗るだけだろうが…いつまで文句言ってるんだ?」
「え~、べっつに~、凡愚共に~、あっくん見られるの~、嫌なだけだしぃ~?」
「ガキか?」
「ガキだから放っておけ」
束は床の上に寝そべって、ゴロゴロと駄々っ子さながらに転がりながらぶつくさと文句を垂れ流し続ける。
千冬はそんな束を過去に嫌と言うほど見て来たのか、ガキと断定してさっさかホテルの部屋を出ていく。
此処で放っておくのも良いんだが、まぁ…帰ってきた後のご機嫌取りが非常に面倒なので少しばかり声をかける事とする。
そもそも、なんで俺が此奴の面倒を見てるのかは考えない…考えるだけで頭痛がする…。
「今日はそれなりに時間かかるだろうから、とりあえず帰れ」
「え~、なんでさ~?束さんが何処に居ようと勝手じゃないか~」
束は転がるのを止めて、俯せのままボソボソと恨み節のように声を出してくる。
幼児退行でもしているのかと思ってしまうが、他人を雑草程度にしか思っていないコイツは、認めている相手に対しては必要以上に素を曝け出す。
息苦しい仮面をかぶっているから身内には甘えていたい…けど、人付き合いのさじ加減が分からないので全力投球…と、まぁこんな具合か?
「俺は、ガキの面倒キチンと見れる奴の方が
束は、
幾分キリっとした顔なのが、なんだか腹立つ。
とは言え、やる気に満ち溢れているのは良いことだ…多分。
「フフー!なら、束さんは用事を思い出したから帰るとするよ!」
「お~帰れ帰れ、あと出来れば暫く来るな…マジで」
束は俺の言葉も聞かずに、バルコニーに出る窓を開けて手すりに上る。
完全にテンションが上がっていて、こっちの言葉なんて全然耳に届いていない感じだ。
「ばっはは~い!」
「…躊躇なく飛び降りるあたり、度胸あるな…」
束は俺に向かってブンブンと手を大きく振ってそのまま、バルコニーから飛び降りて姿を消す。
微かにジェットエンジンの様な音したので、何処かへと飛び去ったんだろう…そのまま地上に着地してても無傷な気がする。
何処ぞのデビル○ンターさながらに。
俺は最後に一つ溜息をついて、バルコニーに続く窓を閉める。
早く千冬と合流しないと、あっちはあっちでブツクサと文句を垂れ流しそうだからな…。
IS学園側で用意された車に乗り込んで三十分…沖合に作られた人工島に繋がる長い橋を走り抜けると、すぐにIS学園が見えてきた。
態々、人工島を沖合に作り、そこにIS学園を建設したのにはそれなりの理由がある。
まず、IS操縦者と言うのは国の明日を担う存在となる。
と、なると各国軍隊や企業から熱烈なアプローチ…要はスカウト合戦が繰り広げられることになる。
そうなると学生は勉学どころの話ではなくなるので、そう言った余計な雑音から遠ざける為に学園は全寮制となっている。
洋上に作られたのも、訪問者を把握しやすくするためだ…なんせ、今しがた渡ってきた橋でしか渡る手段が無いからな。
そして、ここが一番の問題…IS学園は各国が制作した最新鋭機の実験場となっている。
現状、戦争なんてものは起きず比較的平和なこの世界は、起きてもテロ程度でIS同士での戦闘と言うものが殆ど起こらない。
IS同士の戦闘と言うと、強いて言えば国際IS委員会主催の大会くらいだが、それも頻繁に起こるわけでは無い。
と、なるとこう言った学園で次世代機の兵器試験を行う方が、様々なデータを取りつつ、他国に自国の技術をアピールする事が出来て一石二鳥で旨味が大きいわけだ。
去年から第三世代型試作機のロールアウトが相次いだって話なので、今年の新年生…とりわけ、国家代表候補生と呼ばれるガキ共はその新型機を引っ提げて学園に現れる事になるだろう。
さて…そんな最新鋭機だが、もちろん国家機密の塊だ。
そんなものをおいそれと外部の野次馬…所謂スパイとかの目に触れさせるわけにはいかない。
機体の盗難なんて以ての外だ。
IS運用法において、スパイ行為やそれに準ずる行為に対しては厳正に処罰される事になっている。
と、なると外部の干渉が難しくなる洋上に建設する事になるのは、火を見るよりも明らかだ。
また、外部からの攻撃に対しても
俺と千冬を乗せた車は学園の地下へと続く通路へと入っていき、ある区画まで来たところで停止する。
どうやら、目的地に着いた様だ。
「随分とまぁ…金かけてんな」
「扱っているものが扱っているものだからな…こっちだ」
千冬は此方の歩調に合わせる様に通路を歩きはじめ、俺は千冬の隣を歩いてついていく。
学園だと言うのに、職員の姿が殆ど見受けられない…少しばかり不振には思うものの、今更此処まで来てやっぱり帰りますとはいかないので黙って歩くしかない。
「一夏は元気か?」
「あぁ…お前が居なくなった後も、元気にトレーニングしていたよ。まったく、変な事は吹き込んでいないだろうな?」
一夏の話題を軽く振ってやると、千冬は幾分か声のトーンを優しくして笑みを浮かべながら話しだす。
聞いてる限りじゃ、会ったばかりよりかは逞しくなっているようで、俺としても嬉しい限りだ。
一夏との共同生活の中で、一夏に土下座までされて鍛えてくれと頼まれていた。
モンド・グロッソの時の様にはなりたくない、千冬の迷惑になりたくない…なんて言ってな。
最初の内は一方的にボコボコにしてたもんだが…。
「あの癖は相変わらずかねぇ?」
「アレだけは中々な…性格もあるし、一度痛い目をみなければ変わらないだろう。さて、お前は此処でスーツに着替えてくれ」
「スーツ…着なきゃ駄目か?」
ISを身に纏うにあたってISスーツと呼ばれるボディスーツの着用が推奨されている。
耐刃、耐弾だけではなく、耐熱耐寒性能に優れていて、生命維持機能まである優れものなんだが…とにかくピッチリしている。
俺がそれを着るわけでは無いと思うが、デザインも旧スク水的な物からハイレグレオタードまで…羞恥を煽るデザインばかりだ。
女尊男卑社会とは言え、情熱的な野郎共の熱い拘りを感じずにいられない。
「安心しろ、男性用の特注品だ。…流石に私としてもお前にあの恰好をさせる訳には…な」
「どっちにしてもピチピチスーツなんだろ?」
「それは諦めろ」
「はぁ…」
俺は渋々諦め、ため息を漏らしながら更衣室へと入っていく。
更衣室に入ると、ビニールに包装されている新品のISスーツが畳んでおいてあるのが見える。
色は灰色…スキューバダイビングなどで使われる、ウェット・スーツの様なデザインだが、背中と腹部、太ももの一部は穴が開いていて素肌を露出する構造になっている。
…露出部分の安全が守られてないと思うんだが。
ぴっちりとした全身スーツは、全裸で着用されるのが普通だ。
股間部分に関しては、キチンとサポーターが入っているので万が一に関しては考慮されているらしい…。
だったら、穴も塞げって話だが。
手早く着ている物を脱いで、スーツを身に纏う。
材質はゴムっぽい感じがする…妙に肌に吸い付く様に引っ付いて、着るのにも一苦労だ。
髪の毛は適当にポニーテールにして纏めておき、IS装着の際に邪魔にならないようにしておく。
着替えを更衣室のロッカーに入れて部屋を出れば、部屋の前で待っていた千冬と目が合う。
「大道芸人…と、言う割には最低限鍛えている感じか?」
「腕っぷしがなきゃ、痛い目見るのが一人旅ってな。で、検査会場は?」
「あぁ、この通路を真っ直ぐ行った先の突き当りにある扉の奥だ。私は私で準備があるから、また後でな」
「あいよ~」
千冬とはその場で別れて、暫く通路を真っ直ぐに歩いていると突き当りに扉が見えてくる。
ISの搬入口でもあるのか中々大きいその鉄扉は、俺が近づくと左右にスライドして扉が開く。
扉の奥は、所謂アリーナのようになっていて、中心にケーブルに繋がれている純日本製IS、『打鉄』が鎮座している。
どうやら、あれに乗れってことらしい。
以前搭乗した時に、ISの基本的なマニュアルは強制的に頭に叩き込まれている。
叩き込まれている、と言うよりかは本能的に知っているって感じなんだけどな。
打鉄に近づき、その日本の鎧武者の様な装甲に触れて声をかける。
「ま、少しばかり付き合ってくれや…」
打鉄に背を預ける様にして寄りかかると、微かな発光と共に全身を打鉄の装甲が覆っていく。
それと同時にハイパーセンサーから送られる情報がダイレクトに俺に反映され、脳裏に360°の情報が共有されていく。
機体整備に不備はなく、整備班が一生懸命整備していることも十分理解できた。
言うまでも無く、ISは精密機械の塊だ…それを常に万全の状態に保てていると言う事は、それなりに優秀なスタッフを抱え込んでいるってことか。
打鉄に装備されているのは、近接用の日本刀『葵』、アサルトライフル『焔備』の二種。
拡張領域に格納されている装備を実体化させて、軽く振り回して感覚を確かめる。
パワードスーツ…と、言う事だけあって生身で振り回しているような感覚だな…。
『なんだ、説明もしていないのに装備の呼び出しも熟したのか?』
「頭ん中に叩き込んできたし、叩き込まれてるからな。理論が分かりゃ、何とかならぁな」
『ふむ…では、どれだけやれるのか見せてもらおうか』
千冬から連絡が入ると、些か興奮しているような声で話しかけられる。
努めて気付いていないフリを装いつつ、両手に持ったそれぞれの武器を量子化して格納し、徒手空拳の状態で地上に立ち続ける。
前方に見える扉が開くと同時に爆発音、俺は素早く地を蹴って横に飛び、突撃してくる物体による攻撃を紙一重で避ける。
「今のを反応して見せるか!」
「あからさまだってんだよ!やっぱり相手はお前か千冬!!」
突撃してくる物体…それは薄紅色で鮮やかなカラーリングが施された打鉄を身に纏った、織斑 千冬だ。
千冬は何時になく眼光を鋭くさせて、手に持った葵を振り下ろしたまま俺を睨みつけている。
俺は格納した焔備を手早く呼び出して、ハイパーセンサーの伝えてくる予測位置から少しだけずらして、三点バーストによる射撃で牽制を入れていく。
千冬は忌々し気に舌打ちして俺から距離を開け、様子見をする様に地面を滑る様に移動して、必殺の瞬間を待つ。
モンド・グロッソの液晶でチラッとだけ見た、千冬の戦闘スタイル…そのまんまな『一撃必殺』。
凄まじい速度での踏み込みからの振り下ろしは、速度が乗ってる事もあって脅威に尽きる。
だが…。
一定の距離を保っての射撃で、データが取れるまで付き合うのも悪くはないが、売られた喧嘩をそのまんまってのも面白くない。
だから、前に出る。
千冬が回避動作に入った瞬間に、思い切り地を蹴ってスラスターの出力を全開にして前進。
焔備を三点バースト射撃からフルオート射撃に切り換えて弾丸を雨あられの様に吐きださせる。
「猪武者戦法で勝てると思うなよ?」
「まさかな!」
千冬は俺の突撃戦法を見切っていたのか、爆発音と共に凄まじい速度で俺の背後へと回りこみ、慣性に沿った薙ぎ払いを叩き込もうとする。
俺はその瞬間にスラスターを下方向に向けて無理矢理跳躍し、背面宙返りを行って薙ぎ払いを避ければ千冬の顔面に焔備の銃口を向ける。
「Jackpot!!」
「遅い!」
引き金を引き絞る瞬間、千冬はその場で超高速で回転。
二度目の薙ぎ払いを焔備に叩き込んで銃口を逸らし、そのまま分断しようとする。
唯一の射撃兵装を潰されたら堪ったもんじゃない俺は、インパクトの瞬間に無理矢理量子化して焔備を格納。
同時に左手に葵を呼び出して逆手に持ち、着地しようとした瞬間に機体が強制的に天地を正そうとしたためにバランスを崩しそうになる。
イチかバチか、PICの制御を行って千冬から離れる様に後方に急加速しつつ一気に上昇する。
こいつ、何か機能が働いてやがるな?
「千冬~、天地正そうとして動かしにくいぞコレ」
「初心者用にPIC制御をオートにしてあるからな…と、言うよりだ…お前、本当に初心者か?」
「ISの一般常識知ってるだろうが…これで二回目だよ…」
溜息を吐きつつ、ハイパーセンサーによる視界内に浮かぶコマンドでPICの項目を選択し、オート制御をカットする。
宙に浮いている間、常に感じている強制力から解き放たれて少しばかりバランスを崩してしまうものの、すぐに体勢を整える。
感覚的には魔法で空を飛んでいる時と大した差がないな…これなら十分にやれるだろ。
「初手で叩き潰すはずだったんだがな…」
「叩き潰すって言ったか、おい!?」
「聞き流せ…では、第2ラウンド開始だ」
「ったく、本当に戦闘狂だなテメェはよっ!!」
千冬は真正面から俺に向かって突撃し、刀を下段から逆袈裟で斬り上げてくる。
俺も突進に負けない様にスラスターの出力を限界まで引き上げて突撃し、両手に持ち直した葵を袈裟で振り下ろして鍔迫り合いに持っていく。
金属同士がぶつかり合う音がアリーナ全体に響き渡り、衝撃波が床の砂埃を撒き上げていく。
ギリギリと刃同士が擦れ合い、互いに一歩も退かない力の押し合いは徐々に熱を帯び、赤熱化しはじめる。
「随分と嬉しそうじゃねえか!」
「中々、張り合う奴が居なければな!っ!」
ピシッと言う音が葵から響き始める。
葵の刀身が力に耐えきれずに亀裂が入り始めた為だ。
このまま続ければどちらかの武器が無くなる形になるし、いつまでも押し相撲をしていては決着が着くわけがない。
なので、俺はあっさりと葵を量子化する。
押して駄目なら引いてみろ、だ。
力の押し合いがいきなり終った為に、千冬は無様に体勢を崩す。
俺はその瞬間を見逃さずに素早く葵を再度呼び出し、思い切り振りかぶる。
「間抜け…こいつで終わりだ!!」
「まだだ!!」
「くそっ!!」
千冬は悪あがきとも言えるような無謀な突進を俺に敢行し、俺の打鉄の肩にある二枚の盾を掴んで組み付き、凄まじい速度で俺を床に叩きつけようとする。
俺とて黙って見ているわけにも行かないので、スラスターが焼き付いてしまうのも構わずにエネルギーを全開にして対抗、結果として互いが互いの行きたい方向に行こうとして凄まじい軌道を描いて飛行する事になる。
「テメッ!離せってんだよ!!」
「離すか!ただで負けてやるわけにはいかないからな!!」
「往生せいやぁっ!!??」
千冬の打鉄のスラスターを破壊しようとするものの、自身の機体制御でまだ手一杯な状況で、中々破壊できない。
分の悪い賭けになるが、激突してダブルノックダウンは御免こうむりたい…これでも負けず嫌いなんでね。
なので、俺はISを
凄まじい速度で落下するものの、絶対防御が働いて怪我することなく床をごろごろと転がっていくと、遥か前方で衝突する音が響き渡る。
「あったたた…どうだ!?」
「クッ…馬鹿か貴様は!怪我をしたらどうするつもりだ!!」
腰をさすりながら体を起こすと、粉塵の中からボロボロになった打鉄を引きずるように歩きながら、千冬が鬼の形相で俺に向かってくる。
どうやら、相当ご立腹の様だ。
「お前が往生際悪いからだろうが!」
「なにおう!?」
俺も起き上ればゆっくりと歩きだし、徐々に徐々に走り出して互いに真っ向からストレートパンチを繰り出してクロスカウンターを決める。
「ごっ!」
「げぅっ!」
互いに後ろによろめけば、素早く体勢を整えて二度目のストレートを叩き込み、真正面から拳と拳がぶつかり合い、打鉄のマニュピレーターが粉々に砕け散る。
こうなると互いに止まる事はできず、打鉄のエネルギーが切れるまで殴り合いが続くのだった。
「うわぁ…」
「た、たははは…どうしましょ…?」
「はっはっは、いいんじゃないですかね?」
地下アリーナ管制室…そこに三人の影があった。
一人はこの学園の制服を着ている為、生徒であることが分かる。
その少女は眼前で繰り広げられる泥仕合に若干引きつつ、曲がりなりにも世界最強と張り合っている男を注意深く観察している事が、視線の鋭さから分かる。
一人は席に座ってコンソールを操作してデータをとっている女性…少々幼い顔つきではあるものの、その豊満な胸は目を見張るものがある。
その女性は、泥仕合を繰り広げている先輩とその知人男性に恐れを感じており、微妙に涙目になっている。
そして、最後の一人は温和な好々爺然とした初老の男性…しかし、その柔和な顏からは感じさせない老獪な雰囲気が一筋縄でいかない事を感じさせている。
「まぁ、彼自身は大人しいようですし、もう一人の子同様学園で保護する形で構わないでしょう。彼の場合は篠ノ之博士くらいしか後ろ盾がいませんし、好き勝手されてしまうのも面白くありませんからねぇ…」
「年上の後輩って相手しにくいのよねぇ~、大丈夫かしら?」
「こ、恐い人でなければいいんですけどね…」
初老の男性は、パンパンと手を叩いて二人の気を引き締めさせる。
「はいはい、私達には私達にしか出来ない事でバックアップする事にしましょう。織斑 一夏くんだけではなく、彼の事もね」
「了解了解♪」
「はい…わかりました」