インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#16 暗月の舞踏

「わりぃな、千冬。面倒かけさせちまってよ」

「お前の言う事ももっともだからな…気にするな」

 

第2アリーナIS整備室。

IS学園には第1から第5までISバトル及び訓練用のアリーナが建設されている。

第1が最大規模のアリーナとなっていて、IS高速レースであるキャノン・ボール・ファストの訓練にも使われる。

またその規模から入学式等の式典もこのアリーナで行われている。

第2から第4アリーナは、基本的にはISの実技訓練などで使われる事が多い。

訓練用の大量のISはアリーナごとに配備されているわけでは無く、地下にある格納庫からハンガーに架かった状態で機械が持ってくる形になっている。

各アリーナごとに配備していたら、それだけで施設がでかくなってしまうからな…人工島に建設されていると言う都合上、可能な限りスペースを節約したいと言う設計者の努力を感じてしまう。

で、放課後の今、俺は何をやっているのかと言うと、来週のお披露目の準備である。

訓練用のIS――この学園では日本の倉持技研の打鉄とフランスのデュノア社のラファールを採用している――を弄っている。

一夏にしろ、セシリアにしろ専用機持ちが相手になる事は確定している。

で、あれば多少は使う機体を選んで、『好み』に合わせたチューニングをしておきたいってものだろう。

 

「…本当に器用だな」

「ありがとよ。まぁ、知り合いに機械いじりが得意な奴が居てな。そいつ手伝ってたら嫌でも覚えるし、ましてや俺は人形遣い…人型の取り扱いは手慣れたもんさ」

 

千冬が差し出してきたラチェットを受け取り、作業を進めていく。

俺がチョイスしたのはデュノア社のラファールだ。

フランス語で『風』を意味するこの機体は打鉄よりも脆い分、速度が出る。

どこぞの狼みたいに速度馬鹿って訳でも無いが、足が速いに越したことはない。

 

「そういうものか…?」

「そういうもんだ。で、一夏の方は待ってやれんのか?」

「あぁ…お前の言葉が効いたのか、理事長から承認は降りている」

「なら、良い。ったく、訓練機じゃねぇんだからフィッティングくらいはしてやらなきゃ駄目だろうが」

 

俺は一旦ISを弄る手を止めて、千冬をジト目で睨む。

千冬は、そんな俺の目から逃れる様に俺から視線を逸らして逃げようとする。

結構スパルタが過ぎるからな…こいつ。

一夏が未だ腑抜けた状態である以上、過酷な状況に叩き込んで気を引き締めさせるのは良いが、これは決闘。

対等な立場でなければお話になりもしない。

 

「千冬が考えていたことも分かるけどな…コレがいくら安全だっていってもダメージ自体は通る。一方的に嬲られる方が一夏の為になるか?」

「それは…」

「ただ優しいだけの優しさは温さだがな、厳しいだけの厳しさは優しさじゃねぇ…自己満足だ。飴がなきゃ、人間はやる気出さねぇからなぁ」

「言いたい事は分かる…だがな、お前は兎も角、一夏はただの子供なんだ。少しでも強くなって身を守れるようにならなければ…」

 

千冬は片腕を掴む様にして腕を組み、爪が白くなるほど強く握り込む。

千冬の胸中に過るのは、言うまでも無くモンド・グロッソにて起きたあの事件。

姉弟揃ってトラウマ化してる辺り、本当にそっくりだな…。

 

「千冬、そう言うのは付け焼刃って言うのさ…鈍ら以下だぞそんなもん」

「分かっている!分かっているんだ。だが…たった一人の家族なんだ…」

「ブラコンシスコンで本当にそっくりだなテメェ等は…」

「返す言葉も無い…」

 

千冬は授業中一夏に対して厳しく接しているが、社会の枠組みから外れた家族と言う立場に戻った時、なんだかんだで甘くなる。

で、なければ日頃の激務で疲れている体を休めるべき時に一夏と組手をしようとはしないだろう。

大事に大事にしすぎて、逆に焦っている…ってところだな。

 

「ISに触れて扱っていけば、自ずと覚悟が決まってくるはずだ。()()()()をした事が無い人間が、玩具を持って遊んだところでなぁ…」

「ISを玩具と言うか…」

「束にゃ、悪いけどな。現状、物事の本質を見据えないで地上で遊んでるんなら、此奴らは玩具以外の何物でもないさ」

 

ISは宇宙空間での使用を想定して開発されている。

これは真耶の授業でも取り上げられた一文なんだが、宇宙開発に利用されているのかと思って調べてみれば、そんな情報は一切なかった。

ちまちまと宇宙ステーションを作って観測や研究をしているだけだ。

では、ISはどこに使われているのかと言えば、軍事力と言うその一点だけだ。

究極の兵器と言う謳い文句が宇宙開発と言う未来を閉ざし、一人の人間の夢を踏みにじった。

俺は、そう読み取ったんだ。

 

「世に出すべきではなかったのかもな」

「ハッ、いずれ出る。遅かれ早かれな。そして、仮に遠い未来に出たとしてもやる事は現状と変わらないさ」

「随分と悲観的だな」

「リアリストって言って欲しいもんだねぇ。まぁ、夢見るのを悪く言うつもりはねぇさ。強いて言えば、欲が悪い」

 

課程はどうあれ、善意から出た欲望と言うのは質が悪い。

国を守りたい、豊かにしたい、結果的にそこに住む人々を幸せにしたい…その結果が今の世情ってのも悲しいもんだが。

 

「欲、か…到底打ち倒せそうにないな」

「そういうもんじゃねぇだろ…欲あっての人間だからな。それに?欲がなきゃ悪魔は生きられねぇからなぁ」

 

けっけっけ、と意地の悪い笑い声を上げながら、手に持ってたラチェットを片手でジャグリングする様にして弄ぶ。

欲が無ければそれは人間とは言わない…ただの機械だ。

そんなものを愛せる程、俺は酔狂では無い。

 

「どうしたって、地上であれこれやるには『此処』は狭すぎる。その内ソラに目を向けるさ」

「動機が些か不純では無いか?」

「人間なんて、そんなもんさ…不純だろうがなんだろうが、最後に成し遂げた奴が勝ちだ」

 

俺は再びラファールと向き直って会話を切る。

余裕がないと言う訳ではないが、無駄話をするほど暇と言う訳でもない。

アリーナは、基本的に寮の門限である20時には閉まる様になっている。

つまり、この整備室も使用時間が限られてくる。

日中は勉学に仕事にと時間を割くことができない。

放課後のSHRは17時30分に終わるので、移動時間を考慮すると実質2時間しか使えない計算となるわけだ。

これが小さな人形なら話は変わるが、生憎と触れた事のないIS。

突貫作業故の整備不良なんて目も当てられないので、慎重にならざるを得ない。

まぁ、それでも常人よりは手早くやれてるって自負はあるけどな。

 

「千冬、手ぇ借りても良いか?」

「構わないが…何をさせる気だ?」

「ん、それはだな――」

 

 

 

 

結局、実質二時間しか使えない所為もあって、機体のチューニングを終える事は出来なかった。

それでも全体の4割程は終わらせているので、なんとか決闘後のご褒美には間に合いそうだ…機体はな。

意地悪…と言う訳ではないが、今回千冬に頼んだ内容と言うのは、IS関連で保管されている、所謂試作兵装と呼ばれる火器の調達だ。

いずれも稼働テストを行っていないとの事だが、一夏が勝ってもセシリアが勝っても良いように使える兵装を選んでおく必要があった。

何れも第二世代で使える、と言う触れ込みだが、あくまで机上の空論の産物であり、その動作は保証されているものではない。

しかし、打鉄同様に幅広い拡張性をもったラファールであれば積むこと自体は可能なので、千冬に無理を言ってリストを渡しておいた。

…あの、目を丸くさせた千冬ってのは中々面白かったが。

夕食を無事に済ませれば、寮長室には戻らず玄関を出て、石段を椅子代わりに腰掛ける。

ぼんやりとした顔で空を見上げながら取り出すのは煙草…寮長室が俺一人で使うと言うのならば、気兼ねなく吸うんだが、今は千冬が一緒だ。

で、あれば誰にも迷惑が掛からないであろう場所で煙草を吸う他ない。

喫煙者ってのは何でこんなに肩身が狭いのやら…。

寮から漏れる光や、玄関を照らす灯り、そして街灯があるとは言え視界は暗い。

煙草を口に咥えて懐からオイルライターを取り出し、火を点けた瞬間に手から取りあげられる。

 

「ここ、禁煙ですよ~せ・ん・せ♪」

「あー…食後の一服は命の水より大事なんでね…変な小細工しないで返せ、小娘」

 

音もなく俺の背後から近付いてきたのは、この学園の生徒会長…赤い瞳に水色の髪は跳ねっ毛の猫…と言うより雌豹と言った印象を受ける女、更識 楯無だ。

楯無は大仰な演技でよよよ、と体勢を崩し、下手っくそな演技で泣き真似をする。

…馬鹿にしてるんだろうか?

 

「え~ん、先生の健康を思ってライターを取り上げただけなのに~」

「あーそーかい、だったらもう手遅れだから返せ。そいつはお気に入りなんだからよ」

「ひどーい、こんなに美人で可愛い女の子が泣いてるのに、フォローもしてくれないのかしら?」

 

楯無はクスクスと笑いながら俺の隣に座り、手早くオイルライターを俺に放り投げてくる。

奪っておいて返し方が雑すぎる…頑丈だから良いんだけどな。

 

「そんな仏頂面にならないでくださいよ。それともこんな美女が相手じゃ不服?」

「ハッ、もう一回り歳食ってから色仕掛けするこった…ったく、余計なもんつけるなって言ったろ?」

 

俺は煙草に火を点けた後にライターのケースからオイルタンクを抜き取り、仕込まれていた盗聴器を抜き取って握りつぶす。

楯無は不満げに唇を尖らせて、パンストに覆われた美しい脚をバタバタと振る。

 

「ぶ~ぶ~、なんで分かったのかしら?」

「あのな、手品とかその類いは俺のお家芸なんだよ…ガキんちょとは培ってる年季が違うのさ」

「おじさん臭いわ…」

「…ガキからすりゃ、俺なんておっさんみたいなもんだろ」

 

懐から取り出した携帯灰皿に灰を落しつつ、ゆっくりと口から煙を風下へと吐き出していく。

風下に座らなかった辺り、おめでたい頭をしてるってわけでもないらしい。

 

「んで、俺に何か用か?」

「あら、用が無ければ近づいちゃいけないのかしら?」

「そうは言ってねぇよ…。年頃の娘っ子がおっさんに興味持つもんかなってな」

「あら、持つわよ。目つきは悪いけど充分顔は良い方だもの。それになにより…」

 

楯無は一度言葉を切ると、にんまりとした笑みを浮かべ、俺の顏を覗き込む様にして近付けてくる。

俺は慌てて煙草を消せば、顏を背けて煙を吐きだす。

煙草吸ってるっつーのに顏を近付けるんじゃない…と言おうとする前に先に口を開かれる。

 

「同型機…ブリュンヒルデは専用にチューニングしていて拮抗するだけの腕前を持っている。どういう経緯があったのかは分からないけども、天賦の才と言う感じでもないし…興味を持たないと言う方が無理な話よ」

「それは学園最強だからか?」

「それもあるわね…だって、私は生徒を代表する学園の頂点だもの」

 

楯無は勢いよく扇子を開いて口元を隠し、不敵な笑みを隠す。

敵意、ではなく、戦意を滾らせるその瞳は、今すぐにでも戦ってみたいと言う様に訴えかけてくる。

IS乗りってのは血気盛んなのが普通なのかねぇ…セシリア然り千冬然り…。

俺は楯無の額を指で軽く弾いて顏を遠ざけさせ、新しい煙草を取り出す。

 

「一本じゃ足りないのかしら…?」

「ヘビースモーカーなんで…」

 

此方を観察する様な視線にうんざりとしながら、再び煙草を口に咥えて首を軽く傾げ、楯無を突き飛ばす。

 

「ちょっ!?」

「ったく、おちおち煙草も吸えないわな…」

「吸ってるじゃない!」

 

楯無が突き飛ばされたことを抗議しようとするが、背後の扉を見て意識を切り替える。

理由は簡単…扉に弾痕が出来ているからだ。

俺は楯無を突き飛ばした瞬間に煙草に火を点けつつ立ち上がり、弾道から狙撃犯の居る方へと目を向けてコメカミを指先で軽くつついて嗤う。

 

「楯無、適当に逃げてるから狙撃犯に気取られない様に始末しろ。どうせ、海上だろうからお手の物だろ?」

「あら、情報早いのね?」

「教師だからなっ!」

 

狙撃犯から目立つように煙草をふかしつつ寮から離れる様に駆け出し、()()()()()()()()()()()()()()()()が当たれば痛いので、木々の多い雑木林を逃走先に選ぶ。

IS学園の寮はあらゆるテロに対応できるように、窓から壁に至るまで薄くではあるがシールドエネルギーが張り巡らされている。

停電でも起こらない限り、外部からの衝撃は基本的には通用しない。

出入り口である扉には、あの時シールドエネルギーが張り巡らされてなかった。

理由は単純にして明快、寮の住人である俺が扉の前で居座っていたからだ。

流石に出入りする際にシールドエネルギーを張り巡らせたままでは、人が通れない。

…風は通すんだけどな…どういう技術なんだか…。

ハンドスプリングの要領で前方に体を投げ出し、弾丸を紙一重で避ける。

向こうも大分苛立ってきたのか狙撃の精度が甘くなってきている。

その代わりに連射速度が上がってる気がするんだけどな!

 

「ったく、食後の運動はベッドの上だけで良いっつーに!楯無はまだかねぇ?」

 

走り始めてから既に十分…楯無が足止めを食らっているのか、それとも…俺が誘導されているのか?

漠然とした勘でしかないが、弾丸に込められた殺意は本物であることは間違いないって言うか、煽った結果余計に殺意がこもったと言うか…。

とりあえず、スコープごしに見える様に中指立てつつ舌を出して狙撃犯を煽り、太い桜の木の幹を盾にして隠れる。

 

「ったく、煙草くらいゆっくり味わわせろっつーに…」

 

木の幹からフィルター近くまで吸った煙草をそっと出すと、正確に煙草を撃ち抜き鎮火してくれる。

便利便利…俺はニヤニヤとした笑みを浮かべながら携帯灰皿に吸殻を捨て、新しい煙草を咥えて火を点ける。

さて、そろそろ続きを始めようと立ち上がると、此方へと歩いてくる足音が響いてくる。

 

「あら、こんなところで一服かしら?」

「関係者以外立ち入り禁止だぜ、お嬢ちゃん」

 

現れた人物は豊かなブロンドと千冬顔負けのバストを持った、所謂セレブと言った風貌の美人だ。

まぁ、その殆どが造り物なんだがな。

見た目は20代後半…実年齢は40代って所かね?

この世界にも随分と綺麗な義肢を作る奴が居たもんだ…。

 

「海上に居るお嬢ちゃんは、あんたの子飼いかい?」

「さぁ…どうかしらね?」

 

ブロンド美女は艶やかな笑みを浮かべながら、しゃなり、しゃなり、と歩み寄ってくる。

まるで獲物を見定めた肉食獣のソレだな。

俺は辟易としながらため息をつきながら、煙草の煙を一気に吐き出す。

 

「まぁ、なんでもいいけど…ナンパなら他所をあたるこった。これでも身持ちは固い方なんでね」

「そんなつれないこと言わないの…私はそそらないのかしら?」

「見る目は鍛えてるんでね…」

 

軽く肩を竦めて鼻で笑う。

こいつの中身は炎だ…それもドス黒い怨嗟の炎が渦巻いている。

その為には手段を選ばない覚悟もあるようだ。

俺のこの反応に、少しばかり目の前の美女は頬をひくつかせるがすぐに表情を改める。

 

「これでも、自信はあったのだけれど?」

「人は人として老いさらばえるからこそ、美しい」

「あら、どういう意味かしら?」

「なんだ、口で言ってほしいのかい?」

 

不敵な笑みを俺が浮かべると同時に、美女は能面の様な無表情になる。

おそらく秘密にしている部分なのだろう…それと同時に触れてはならない部分でもある。

それが、望むと望まずとに関わらずできた秘め事であったとしても。

まぁ、俺には関係が無い。

 

「単刀直入に言うわ、貴方モルモットになってもらうわ」

「はいそうですかって言うと思うか?」

「思わないわ、だから…」

「そこで何をしている!!」

 

美女から発せられる気配に殺気が混じった瞬間、暗闇の奥から複数人の足音と大声が響き渡る。

援軍にしちゃ遅いが…まぁ、俺も逃げ回ってたし文句は言えないか。

声から察するにやってきたのは、千冬だ。

 

「もう、仕方ないから今日は此処で手を退くわ。また会いましょう、Mr.ミュラー」

「会いたかねぇよ、物騒な女にはな」

「女に危険はつき物よ」

 

殺気を消した美女は、自身の名を名乗ることなく踵を返し、悠然とした歩調で夜闇に紛れて姿を消す。

海上で俺を狙撃したやつ、今回の女、それと侵入と脱出を手引きした馬鹿…最低でも三人、何れも女と言った所か。

狙撃にしろ侵入にしろ最低限の装備が必要になってくるし、その最低限をコンパクトな形に納める事ができるとなるとISしかない。

現状男性で使えるのは俺と一夏だけしかいない事を考えると、女性だけで構成されたチームであると考えるのが妥当だろう。

IS学園の要塞は対軍隊なら如何なくその防衛力を発揮できるんだろうが、こういうネズミが入る隙間と言うのは防ぎきれないんだろう。

人員も、技術も限界がある。

カバーできるとしたらあの三月兎くらいだろうが…。

 

「アモン!無事か!?」

「おー、ピンピンしてらぁ」

「そうか…まったく、どうして寮に逃げ込まなかったんだ!!」

 

千冬は駆けつけるなりホッとしたような顔をするが、すぐに表情を怒りに染めて抗議の声をあげる。

千冬の連れてきた人員はすぐさま散開して、侵入者の追跡にあたっているが…恐らく無駄だろう。

つくづく、ISと言うのはチート染みているな。

 

「ガキ共巻き込むわけにはいかねぇだろ?もし、集中して重火器を使われたらどうなるよ?」

「それでも、だ。あの寮だってそれなりに頑丈には造られている。反撃に出ることだって…」

「侵入を許してる時点で俺たちの負けだよ、千冬。俺を殺せれば儲けもんと思ってたんだろうな…あちらさんは」

 

生きたデータは一夏がとってくれる。

で、あれば特に関係のない俺を解体解剖して仕組みを調べた方が有益になる、とでも考えた奴が居るんだろう。

物騒な世の中だな…男性に権利が無いからこそ、か?

そんな事は無いか…。

 

「これではおちおち外出も儘ならなくなるな…」

「おい」

「仕方ないだろう?お前を殺させるわけにはいかない」

「勘弁してくれよ…こんな辺鄙なところで缶詰とか息が詰まる」

「そう言うな…お前も自分の立場は理解しているだろう?」

 

俺ががっくりと肩を落とすと、千冬はフルフルと頸を横に振って俺の肩を叩いて慰める。

根無し草の放浪人が、自由に外出できないなんて苦行も良い所だろう。

俺はこれからの学園生活に大きな不安を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見抜かれた…まさか、ね?」

「どうした、スコール?」

 

うすぼんやりと外からの明かりがカーテンの隙間から漏れる室内。

女性特有の甘ったるい香りが充満するこの部屋の中で、二人の女性がベッドを共にしている。

スコール、と呼ばれた女性は、アモンが出会ったあのセレブ然とした美女だ。

 

「いいえ、何でもないわ。一先ず、これで先方の依頼通り彼を学園内に釘付けにする事ができる。欲を言えば体の一部でも欲しかったところだけれど…欲張りは身の破滅を招くわけだし…」

「んっ…なぁ、だったらもっとご褒美をくれよ…」

 

もう一人の女性はまるで恋する乙女の様にスコールの体にしがみ付き、キスを強請る様に顏を近付ける。

この、淫靡な空間を邪魔するものは誰も居ない。

スコールはすぐに仕事の事を頭の片隅に追いやり、少女の様に強請る女性の体を愉しむ事に注力した。

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