インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#17 剣聖、魔刃、桜花嵐舞

「…ふー…」

 

油臭い機械だらけの部屋の中で、俺は静かに煙草を吸う事で自分の苛立ちを少しでも和らげようとしている。

結局、楯無と学園の警備部は侵入者たちを捕えることなく、逃がす結果となってしまった。

どうやら、組織の規模もでかいようで、完全に足取りを見失ってしまったと言う事で、此方からはアクションを起こすことが出来ないと言う事だ。

 

「みゅ、ミュラー先生!ここ禁煙ですよ!」

「ん~、まぁ、硬い事言いなさんな。どうせ、ガンパウダー臭くなるんだからよ?」

「だからですよ~…織斑先生~」

 

真耶は煙草を吸っている俺の姿を見咎めると、頬を膨らませて叱り付けるものの、のらりくらりとしている俺の態度にすぐ涙目になって千冬に助けを求める。

教師の威厳ってなんだろうな…?

千冬は軽く頭を抱えて溜息をつくと、俺の近くまで歩み寄って煙草を奪い取ろうとするが、

俺は軽く状態を逸らして千冬の魔の手から煙草を死守する。

 

「アモン、控えろ」

「やなこって」

 

時は流れて月曜日…第二アリーナの観客席は学園中の教師や生徒達で所狭しと溢れかえり、盛況なんて言う言葉が生易しく見える。

俺と千冬、真耶は第二アリーナにあるピットで、一夏の専用機が到着するのを彼是2時間近く待っている。

昨日の段階で倉持に連絡した際には、遅くとも4時までには送り届けると言う話だったんだがな…。

時計の針を見ると、既に時刻は4時をまわってしまっている。

俺はピットの壁に備え付けられている通信機を手に取り、俺たちのいるピットとは正反対のピットで待機しているセシリアへと連絡をとる。

 

「もしもし、聞こえるか?」

『漸く、専用機が届きまして?』

 

アリーナの通信機器は、ISに備えられているデータ通信ネットワークシステムであるコア・ネットワークにプライベート回線で繋ぐことが出来る様になっている。

俺は直にセシリアの専用機であるブルー・ティアーズに通信を繋いでいる。

セシリアは待ちくたびれたと言わんばかりに、声色に苛立ちを乗せてくる。

俺は相手が目の前に居ないにも関わらず、力なく首を横に振って口を開く。

 

「んにゃ、まだ届かねぇ…まだ待てるか?」

『えぇ、待ちますとも。決闘となったからには、しっかりとどちらが上かはっきりさせてさしあげねばなりませんし』

「そら、良かった。ったく、倉持の奴ら何やってんだかな…」

 

倉持技術研究所…略して倉持技研は日本国内のISメーカーでもトップシェアを誇る、有数の大企業だ。

国産としては初の量産型ISとなる第二世代型IS打鉄の生産に始まり、千冬の専用機暮桜の開発…そして、一夏の専用機の『組み立て』とその企業としての力を見せつける様に、IS技術発展に寄与している…筈だった。

現在、世界は第三世代型ISの研究開発を加速させている。

第三世代型ISの最大の特徴は、思考することによって機体制御を可能にするイメージ・インターフェース・システムとセカンド・シフト以降に使えるようになると言う単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティ)を再現した兵装…第三世代兵装を備えている事だ。

ワン・オフ・アビリティは文字通り各機体ごとに発現する()()()()()()能力を発揮させる事が出来る。

例えば風を自在に操り、分身すら作り出す能力や、一番有名な所では千冬の暮桜が発揮したワン・オフ・アビリティ『零落白夜』によるエネルギー無効化能力だな。

こういった能力をファースト・シフトから使える様にしようと言う目論見を持って作り上げられているのが第三世代型なんだが、倉持は次期主力量産型として開発していた第三世代型ISの開発の中止を正式に決定した。

理由は言わずもがな、篠ノ之 束が設計した第三世代型ISの研究調査に重きを置いたためだ。

それだけならば良かった…企業の発展には必要な犠牲だよねで済んだんだが…。

問題は、中止された第三世代型ISは1年の中にいる日本の代表候補生が受領する予定だった機体だと言う事だ。

専用機を持つ、と言う事は、IS乗りにとって大きなステータスになるし、何よりそこに至るまでの道のりは非常に険しい。

代表候補生と言う立場自体が狭き門である上に、その中から専用機持ちになるなんて言うのは、ほぼ無理と言っても違いない。

代表候補生に専用機をあげるくらいならば、国家代表に専用機を渡した方が良いからな。

そんな茨で覆われた千尋の谷を這いあがってきた日本の代表候補生の心中は、察するに余りある…。

本来なら一夏が受領する予定の専用機は、その娘が乗るべきなのだ。

 

『…随分、苛ついてますわね?』

「んん?大人は悪いものを直視して、受け止めなきゃならねぇ事もあんのさ。八つ当たりの様に感じたのなら謝る」

『いいえ…何とも思っていませんので』

 

セシリアは何処か俺の事を小馬鹿にしたような声色で言い、通信を切る。

セシリアのあの男嫌い…一体何が原因なのやらな?

大方、親父が腑抜けだったか何かで、嫌気がさしているとかそんな所なんだろうが…年頃の女の子ってのは扱いが難しい。

セシリアの父親には同情を禁じ得ない。

なんにせよ、一夏の専用機が来ない事にはお話にならないな…。

 

「アモン、お前が一番落ち着いていないな?」

「んなことあるかよ…苛つきはしてるけどな」

「倉持の件は把握しているが、あれは国の意向でもある…我々ではどうにもできないだろう?」

「だからって、努力を無下にする仕打ちをして良いって免罪符にはならねぇだろうが」

 

千冬は呆れたような表情で言うが、俺の反論を聞くと目を伏せ口を噤む。

IS学園に入る前に代表候補生になる…つまり、この学園に入学した生徒の誰より知識と技術と経験を体に叩き込むと言うのは、前にも言ったように並大抵の努力では実らない。

そんな努力を裏切られたと思えば、俺だって義憤に駆られると言うものだ。

 

「そ、それにしても!倉持技研さん遅いですねぇ!渋滞に巻き込まれたんでしょうか?」

「んっ…ったく、納期守れないのは企業としては下の下なんだけどな」

「そうだな…ふむ…すまない、少し席を外すぞ。山田先生、織斑の専用機が届き次第フィッティングを始めてくれ」

「え、あっはい!」

 

千冬は何か考え込んだ後に小さく頷き、真耶に仕事を頼んだ後に俺の事を見つめる。

俺はガシガシと頭を掻いて溜息をつき、付けていた伊達メガネを外して羽織っていたコートを脱ぐ。

千冬は俺の行動に満足げに頷けば、スタスタと歩いてピットを出て行ってしまう。

 

「ミュラー先生?」

「適正検査の時の再戦だとよ…ったく、俺の相手はガキの筈だぞ…」

 

男性用にデザイン――二の腕、腹、太腿部分が露出した黒いウェットスーツの様なデザイン――されたISスーツ姿になれば、ハンガーに架けられた専用にチューニングしたラファールを身に纏う。

真耶は、慌てた様子で通信機器に向かって何処かに連絡しているが、時既に遅し…と、言うか元々そう言う段取りだったのか、進言は無視されたようでガックリと肩を落とす。

…本来、千冬はISに乗る事を許されていない。

表向きはモンド・グロッソ棄権及び、千冬の専用機とは言え日本のISをドイツ国内にて無断使用してしまった為とされている。

だが、本音で言ってしまえば、千冬を止められる人間が居ないと言うのが最たる理由となっている。

仮に、千冬がISに乗って暴走してしまった時…それこそ手が付けられなくなる。

だから、教師と言う形でIS学園内で飼い殺しにしていた。

千冬を教師として使うよりも、国家代表の専属コーチとして使用した方が遥かに有益な筈なんだが、な。

ラファール側からハンガーを操作してISのロックを外して地上に降りれば、ゆっくりとした動作でカタパルトまで歩き、ハッチを開ける。

 

「真耶、ラファール出すから下がってな」

「で、でも!」

「賽子振られてんだ…どっちが勝つにせよ、時間稼ぎくらいにはなるだろ?」

「~~っ…分かりました。けど、あの検査の時みたいな殴り合いはダメですからね!」

「へいへい…じゃ、ラファール出すぞ~」

 

俺は真耶の警告を適当に聞き流しつつ、カタパルトのハッチを閉めてカウントをスタートさせる。

まるで、ラファールが自分の着ている服の様に感じられる…どれだけ保つのかは分からないが、全力で動いても問題は無さそうだな。

ISはどうしても関節部に機械的な部品を使って動かしているので、俺みたいに無駄に力が強いとついて来られない可能性がある。

そうならないためのチューニングではあるが、如何せん第二世代且つ訓練機。

性能的に限界があるのは諦めるほかない。

とは言え、条件はほぼ千冬と対等…ISでの戦闘経験は雲泥の差があるものの、場数の多さだけならば、友人達以外に他の追随を許さない自負はある。

感覚の違いは本番でどうこうするしかないだろう。

 

「んじゃまぁ…行くかい」

 

カウントがゼロになった瞬間機体がふわりと浮かび上がり、電磁力の力でカタパルトレールに沿ってアリーナ内へと撃ち出される。

慣性に流されるままにそのまま飛行してアリーナの中央まで移動し停止すると、観客である生徒達から一斉に動揺のざわめきが響き渡る。

俺はそういった同様の声を無視して腕を組み、静かに決闘相手の登場を待つ。

 

『これは、どういうことなのでしょうか?』

「さて、ね…世界最強の女にでも聞いてくれ」

『…まさか、貴方の相手と言うのは…っ!?』

 

ラファールのコア・ネットワークのプライベートチャンネルに、セシリアからの通信が入る。

本来、俺はオマケとして今回の決闘の勝者と闘う事となっていた。

俺自身の実力を認識させるために。

だが、予定を繰り上げて出てきた俺にセシリアは抗議しようとしたのだ。

俺は機先を制する形で千冬の名前を出してセシリアを黙らせ、一方的に回線を切断する。

断じて意趣返しと言う訳ではない。

 

『え、え~っ!?これ、本当ですか…!?…コホン、織斑 一夏君の専用機の搬入に遅れが生じていると言う事で、これより予定を変更して教師陣によるエキシビジョン・マッチを開始します!!』

 

アリーナに響き渡る歓声は大きな動揺となり、俺に対して注目が集まる。

何せ、IS歴これで2日のド素人が国家代表や代表候補生だった教師とやりあうと言うのだから。

まず、間違いなく一方的なワンサイド・ゲームになると思われている。

誰だってそう思うだろう…俺だって普通だったらそう思う。

ましてや、相手が…

 

『あ、あれは…暮桜!?』

「随分と、過大評価が過ぎやしねぇか…千冬よぅ?」

「…手は抜いてくれるな…お前とは全力で死合を演じたい」

 

目の前に現れたのは、鮮やかな桜色の武者鎧を思わせるIS…暮桜を身に纏う千冬だった。

その顔は、全力で打倒すると言う覇気で満ち満ちている。

…だが、どうして暮桜があるんだ?

あれは、日本所有の国家代表用の専用機…千冬が引退した時に没収されたはずなんだが。

 

「…初心者に本気でやれとか無茶言いやがる」

「無茶な物か…()()()()()()()()()()癖にな」

 

千冬は量子化していた一振りの刀…雪片を呼び出して手に馴染ませるように持つ。

対する俺は、分厚い刃の付いた巨大な片刃大剣(エンハウンス・ソード)を右手に呼び出す。

これは千冬に搭載する様に頼んでいた、ドイツのIS企業が寄贈してきた『欠陥品』だ。

ゆっくりと右手だけで千冬に大剣を差し向けて、睨み付ける。

 

「千冬…何か焦ってるのか?」

「いや…ただ、お前との死闘を楽しみたい…それだけだ!!」

『ば、バトルスタート!!!』

 

千冬は昂る自分を抑えきれないのか、試合開始のゴングが鳴ると同時に瞬時加速を使って一気に俺の間合いの内側へと潜り込んでくる。

速度にして1秒にも満たない…それ程の速度で肉薄した千冬は、先手必勝とばかりに雪片に光を纏わせての横薙ぎを叩きつけてくる。

『零落白夜』…エネルギー無効化による強制的な絶対防御を発動させる事で、エネルギーを削り取る攻撃は当たれば確かに脅威だ。

だが、俺は素早く左手に切れ込みの入った短剣を呼び出して雪片を受け止め、拮抗状態に持ち込む。

零落白夜は確かに強力だ…エネルギーに対して天敵とも言えるほどの力を持っていると言える。

しかし、しかしだ…それはエネルギーに対して強いのであって、ただの鉄の塊には温かい光でしかないと言う事だ。

エネルギーに触れる事が無ければ、零落白夜はそこらの懐中電灯と変わらない。

 

「ちっ…!」

「さってと…時間はかけてやれねぇ…ただのラファールだからな」

 

俺は切れ込みの入った短剣…マインゴーシュを素早く振って雪片を弾き、右手に持った大剣を思い切り振りかぶる。

千冬は力に流されるままに素早く後退し、距離を開けようとするが一歩遅い。

振り下ろす瞬間に、柄につけられたトリガーを引くと大剣の峰に備えられたロケットブースターが一斉に火を噴き、凄まじい速度で振り下ろされる。

…マインゴーシュは見たまんまの時代遅れの鈍ら…そして、この片刃大剣はどうあがいても制御しきれない暴れ馬として欠陥品扱いされた作品だ。

そもそも、ISバトルは射撃戦が基本となる事が多い。

つまり、こんな近接兵装で戦う機会と言うのは相当上手く接近するか、互いに近接武器が決め手でも無ければ発生しないのだ。

よって、マインゴーシュは時代遅れと揶揄され、片刃大剣は暴れ馬として倉庫で腐る事となってしまった。

 

「くっ!!」

「オルァ!!!」

 

ぶっきらぼうに叩き込まれる片刃大剣を、千冬は両手で構えた雪片の刃で受け止める。

膂力と重量、速度から成る衝撃は千冬を以ってしても受け流し切れず、図らずとも暮桜をボールか何かの様に地面に叩き付ける形となる。

俺は素早くトリガーから指を離して火を消しつつ片刃剣を肩に担ぎ、左手のマインゴーシュを手放しながら量子化し、新たに単発式のピストルを呼び出す。

…アメリカの某銃会社が作り上げたこの銃は、弾丸の装填こそパススロットから行えるものの、一々薬室から薬莢を排莢しなくてはならないと言う、やっぱり欠陥品と言わざるを得ない銃器だ。

たしか日本語で『競技者』だったか…?

俺は粉塵で見えなくなった千冬目がけて引き金を引き、『競技者』から弾丸を吐き出させる。

貫通力に特化した弾丸は、ラファールのパワーアシストを以ってしても凄まじい反動が腕に走るが、俺は構わずに排莢を行って次弾を装填。

すぐさま、千冬が飛び出してくるであろう方角に弾丸を撃ち込んでいく。

しかし、千冬は俺の予想に反して動かず、あろうことか初弾を切り飛ばして真っ直ぐに此方へと突っ込んでくる。

 

「欠陥品ばかり、よくも使う!」

「刀一本しか積めないお前に言われたかねぇわ!!」

 

排莢作業は間に合わない…この銃は単発しか撃てないために、零落白夜同様に『一撃必殺』で当てる必要がある。

相手が千冬で無ければ充分に時間を稼ぐことも出来るだろうが、生憎と万全の状態の暮桜に乗っている状態の千冬だ…時間稼ぎは許されない。

俺は肩に担いでいた片刃大剣をしっかりと両手で握りしめ、千冬と切り結んでいく。

鋭い金属音がそれこそマシンガンの様に響き渡り、雪片と片刃大剣が巻き起こす旋風は、まるで俺と千冬の闘志のぶつかり合いの如く荒れ狂い、さながら台風の中で戦っているかの様だ。

 

「シィッ!!」

「ちっ!!」

 

大剣と言う重量物を扱う都合上、刀相手にはどうしても防戦一方になってしまう。

かと言って、高速切替(ラピッド・スイッチ)じゃ遅すぎるくらいの猛攻を受け流し続けている。

確かに、世界最強なんて肩書は伊達じゃない…だが、俺はこれでも負けず嫌いなんでね。

だから、俺はあっさりと片刃大剣を弾かれる事にした。

 

「貰ったぞ、アモン!!」

「そうかい!!」

 

宙高く舞う片刃大剣、がら空きになる胴体、会心を確信し笑みを深める千冬…。

全てがスローモーションに感じる中、俺は両手に武器を呼び出せば瞬時加速を行って千冬に向かって体当たりを行い体勢を崩させる。

 

「ぐっ!往生際が…!」

「勝利に貪欲でなければ勝てねぇからなぁっ!!!」

 

俺の両手に呼び出されたのは黒塗りのオートマチックタイプのハンドガン…ただし、銃身に銃剣が付いたもの。

この銃剣、溶断させるために高熱になる仕組みになっているのだが、如何せん高熱が災いして長時間稼働させると銃身が歪む。

よって使うならば短時間…しかも使った後の銃弾の発射は保証しませんよと言う代物だったりする。

なんで、俺こんなの乗せたんだろう…。

ともあれ、ナイフと同じ感覚で使えるのはありがたい。

素早く腕を振り下ろすと、千冬は雪片で銃剣を受け止めようとするが、素早く身を捩って受け止める事を止める。

事実として、その判断は正しかった。

この武器、元々はハンドガン…つまり、斬りながら銃弾を放つ事ができる。

…熱展開できないけど。

 

「このっ!」

「そらそらそらぁっ!!!」

 

所謂ガン・カタの様に腕を大仰に振りながら銃弾を撒き散らし、俺は千冬の行動を阻害しながら責め立てる。

銃剣を受け止める事はできず、弾丸は絶えず吐き出され続けて防戦に徹するしかない。

だが、千冬はまだ諦めていない…強引に攻め込んでも良いが、無用な被弾は避けたいと言った所だろう。

なんせ、この武器ではISのシールドエネルギーを削りきるには足らない。

そして、突然の弾切れである。

 

「弾数少なっ!?」

「今度こそ…っ!!」

 

あっけない幕切れ…とは行かずに、俺がハンドガンを捨てると同時に千冬は素早く後退する。

タイミングよく片刃大剣が落っこちてきたからだ。

 

「っと…流石によく見てるな」

「…バッサリやられるのはつまらないからな」

 

ISには生体補助機能がある…にも関わらず、千冬は額を汗で濡らし、俺は逆に涼しい顔だ。

…本気でこっちに突っ込んできてくれるのは純粋に嬉しいもんだ。

俺は視界のハイパーセンサー越しに表示されるアラートを無視して、片刃大剣をゆっくりと構える。

 

「さて…つっこんだ武器のデータも取り終わったし、心行くまで切り結ぶか」

「ふん、その機体でよくもまぁ…だが、次で決める。暮桜は大喰いだからな」

 

千冬もゆっくりと雪片を構えると、長いにらみ合いが続く。

凄まじいプレッシャーに気圧されたのか、観客も実況も静かに黙りこくり、アリーナ内は物音ひとつしない状況だ。

1分か…それとも1時間か…永遠に続くと思われたこの静寂は、誰かが落とした容器の音で打ち破られる。

 

「はああああっ!!!」

「おおおおおっ!!!」

 

瞬時加速…互いにゼロからトップスピードに乗り、景色を置き去りにしながら前進。

千冬は零落白夜を展開した雪片を逆袈裟から斬り込むために体を捻り、俺は片刃大剣に残された推進剤を全てつぎ込んだ大上段を叩き込もうと思い切り振りかぶる。

裂帛の気合と共に叩き込まれる互いの斬撃…しかし、どちらも攻撃が当たる事は無かった。

千冬は俺の脇腹に当たる直前で腕を止め、俺は、千冬の額をかち割る直前で動きを止める形になる。

 

「ば、ばかな…!?どうした、暮桜!?」

「ちっ…!!」

 

俺は両手の片刃大剣を量子化すれば、()()()()()()()()()()()()()様に見せかけて俺の飛び出してきた方のピットへと突撃し、アリーナから身を隠す。

とてもじゃないが、見せられるものじゃない。

理由は、暮桜のコア反応が突如消えた為だ。

束の作ったコアに限ってそんな事はあり得ないだろうが…一体…?

 

「織斑先生、ミュラー先生!!」

 

ピットに不時着する様にして侵入した俺と千冬を心配する様に、真耶が此方へと駆け寄ってくる。

俺は両腕の中に居る千冬と暮桜を見て眉を顰める事となった。

 

「おい、千冬…()()()()()()()()()()()()

「し、知らん…なんなんだ、これは…?」

 

端的に言うと、暮桜が石化している。

ラファールが掴んでいる部分の装甲は風化したように脆くなり、少しでも乱暴に扱えば崩壊してしまうような危うささえ感じる。

 

「と、兎に角お二人ともISをハンガーに!暮桜は整備班に至急回します!」

 

真耶はいつも以上にテキパキとした動作で機材の準備に入る。

暮桜の突然の石化現象…どうにも不吉な前触れに感じて仕方がない…。

とりあえず考えても仕方がない事なので、俺と千冬は身に纏っているISをハンガーに架けて真耶に運搬を任せる。

静かに溜息をつくと、見慣れない人物が大型のコンテナと共にピットへと入ってくる。

 

「お待たせしました、織斑 一夏さんの専用機をお持ちしました」

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