インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~ 作:ラグ0109
放課後の第三アリーナ。
俺は、一夏、箒、セシリアの3人の訓練を観客席で眺めながら、それぞれの機体から送られてくる稼働データを確認していく。
オルコットは少しずつではあるが、俺の渡した自主訓練メニューの成果が見え始めたのか積極的に一夏や箒に近寄り、まだまだ甘い近接武器の呼び出しの訓練を行っている。
拡張領域内に量子化して収納されている武装は、別に思考だけで呼び出さずとも音声認識による実体化が可能だ。
しかし、こと高速戦闘において音声入力と言うのは非常に危険だ。
声で呼び出すということは、相手に次に何をするのか伝えているのとそう変わらないからな。
オルコットはブルー・ティアーズを受領してから、その類稀なBT適性の高さもあって、常に遠距離で相手を仕留めてきたのだろう。
だから、無意識化でこう思っている…『近接戦闘をする必要なんてない』、と。
だからこそ、一夏に付け入る隙を与えてしまい、ピンチに陥る羽目になってしまった訳だが。
「オルコット、馬鹿正直に一夏達と張り合うな。近接戦闘に限りゃ、お前は3人の中でドベだからな」
『はっきり、おっしゃいますわね…!!』
「なら、生温ーく言ってやろうか?」
『結構ですわ!』
バトル・ロワイヤルの様相を呈してきた訓練は、一夏と箒が切り結んだ隙を見計らってセシリアがビットを追従させながらスラスターを全開にして急加速。
まだ制御が上手くできないのか、甘い狙いのままビットからレーザーを乱射させて箒と一夏を分断し、そのまま手に持ったインターセプターを振りぬこうとする。
しかし、一夏はあくまでも冷静に雪片弐型を構えてインターセプターを受け止めて、刃の上を滑らせるように受け流していく。
箒は、苦い顔をしながらがら空きになった一夏の背中を見つめ、しかし躍りかかるような真似をしない。
「箒ー、何か困りごとか?」
『い、いや…くっ!!』
俺は意地の悪い笑みを浮かべながら箒に声をかけるが、箒は首を横に振って雑念を捨てて打鉄の近接用の刀である『葵』を静かに構え直しつつ、勢いよく横に体を投げ出す。
なんとか鍔競り合いまで持ち込んだセシリアが、箒に向かってビットによる一斉射撃を行ったためだ。
戦場において迷いは命取り…一瞬の躊躇が自分を、或いは味方を殺す。
予め、このバトル・ロワイヤルにおいて正々堂々なんて考えは捨てておけと言ってこれだ。
今時珍しい昔気質なこの性格は…必ずしも箒を幸せにするものではないだろう。
悪いとは言わない…だが、綺麗事で世の中勝てていけるほど甘くはない。
一夏は手早くセシリアの脇腹を蹴り飛ばして距離を開け、動きの鈍っている箒へと手早く踏み込んで体勢が整う前に零落白夜を叩き込む。
俺の目に映る一夏は一切の情を捨て、勝ちにこだわっている。
…これはこれで問題ではあるか。
「がら空きでしてよ!」
「ぐっ!!」
蹴り飛ばされたセシリアは、力の流れに逆らうことなくそのまま空中を流れながら背後からレーザーライフルである『スターライトmk-Ⅲ』の高出力射撃を正確に浴びせ、白式に残されていたエネルギーを削り切る。
結果、このバトル・ロワイヤルにおける勝者は、セシリアとなった。
流石に、英国代表候補生…IS素人相手に負けるほど落ちぶれてもいないか。
「んじゃ、お前ら…ピットに集合なー」
『くっそ…これ、俺かなり不利じゃないか?』
『相性はありますが、そうも言ってはいられませんよ、一夏さん』
『…フン』
箒は、ややご機嫌斜めと言った様子で一足早くピットに入ってしまい、一夏とセシリアはそんな様子を見て互いに顔を見合わせて肩を竦めて後に続く。
こう…なんと言うか箒は不器用だ。
自分を曲げると言うことを知らず、ただただ真っ直ぐに生きようとしている。
おそらく、そう言う生き方に憧れていると言うのもあるんだろうな。
「あ、いたいた。シショー、漸く見つけたわよ!」
「おー、どうしたよ?」
「弟子は師の傍を離れないものでしょ?」
座っていた席から立ち上がろうとした瞬間、両肩に衝撃が走ったと思ったら鈴が肩車の要領で俺に抱き着いて嬉しそうな声をあげる。
大して動じるような素振りを見せることなく、俺はそのまま立ち上がって鈴と共に観客席から通路へと入っていく。
「お前な…師匠だなんだって言う割には敬いってもんがねぇぞ?」
「別に良いじゃない。あたしとシショーの仲な訳だし」
「ハァ…もうちょい、年頃の女っつー恥じらいをだな…」
「…ハッ」
軽くため息を吐きながら窘めてやると、鈴は鼻で笑って(恐らく)肩を竦める。
女に幻想抱いてんじゃないわよ…と言う意味合いであろう。
「おう、一遍シメたろか…?」
「子供相手に何マジになってんのよ?」
「そーだったなー、チンチク鈴だもんなー」
「それはそれでムカつくわね…」
チンチク鈴…この上なく、鈴と言う少女を体現しているこの渾名は、言うまでもなく俺が与えたものだ。
最初こそ非常に嫌がられたものの、時が経つにつれて訂正するのも疲れたのか、鈴もこの渾名を受け入れる様になった。
俺以外が言うと烈火のごとく激怒する…とは一夏の弁だ。
鈴は俺の髪の毛を掴んで抜けない程度に引っ張り、抗議を示してくる。
「なんで、お昼シショーは食堂に来なかったのよ?」
「あー、パンダみたいに見られるのにウンザリしててな。いつも弁当持参で済ませてるんだわ」
「それって、やっぱり千冬さんの分も…?」
「アイツ、放っておくとコンビニ弁当とかで済ませるからな…」
鈴は、ふーんと返事を返すだけで、先ほどまでの元気さはどこに消えたのか黙り込んでしまう。
聊か俺の髪の毛を掴む手にも力が込められているのか、若干痛い。
「いきなり、黙り込んでどうしたよ?」
「…べっつにー?」
「その割には、不機嫌そうな声出してんじゃねぇよ」
鈴は俺の頭に頬杖をつく様にして、グリグリと脳天に肘を押し付けて鈍い痛みを与えてくる。
どうにも、俺と千冬が仲良くしているのが気に入らないらしい…。
「言いたいことはキチンと言えって教えたろうが…。そういうの嫌われんぞ?」
「ぐ…」
鈴が俺に弟子入りをして、一夏に対する恋愛相談を受けた時に最初に言った言葉だ。
想いは伝えて初めて形になる…言わなくても伝わるのは、それこそ人外の領域。
好意も嫌悪も、本当のところは口にしなければ伝わることは無い。
「あのな…お前みたいな上玉に好かれんのは悪い気はしねぇが、最低でももう一回りデカくなってからにしろ。警察案件だっつの」
「ナチュラルにフるんじゃないわよ!」
イエス・ロリータ・ノー・タッチ。
子供は好きだが、恋愛対象に見るのは…。
ゲンナリとした顔をしながらすこしばかり猫背になると、鈴は俺の首に足を絡めて思い切り絞め上げてくる。
しなやかに鍛えられた足は普通の男性なら喜びのあまりに恍惚とした表情で意識を刈り取られるだろうが、生憎と俺は悪魔…この程度の締め上げでヤられる程ヤワな体はしていないのだ。
鈴は歯を食いしばって必死に俺を絞め落とそうとするが、俺は何事も無いように歩き続ける。
「そういや、2組の代表になったんだって?」
「お上の命令よ!シショーと一夏のデータ取りしてこいって!学園に行く為に飲んであげたんだけど、ねっ!!」
「ったく、ガキを利用すんなっつーに…」
鈴は漸く諦めたのか、俺の首に絡めていた足を緩めて俺の頭に体重をかける様に寄りかかって息を整えていく。
ガキが俺を絞め落とそうなんぞ、100年早いっつーに。
「しっかし、そんなに俺や一夏に会いたかったかね?」
「一夏なんてついでよついで。あたしはシショーに会いたかっただけだしね」
「ったく、昔は一夏、一夏ってうるさかったのにな…」
「あたしだって、決死の覚悟の告白を曲解されれば目が覚めるわよ…」
鈴は大きくため息を吐き、俺は俺で眉間を指で強く揉み解す。
兎に角、一夏の友人の一人である五反田 弾や鈴から聞く一夏の学校での恋愛模様は薄ら寒いを通り越して滑稽と言えるレベルであった。
とあるエピソードに於いての話ではあるが、とある女生徒に放課後呼び出された一夏は、真っ直ぐに『貴方の事が好きなので、付き合ってください』と言われたことがあったそうだ。
それに対して、一夏は『ん、いいぜ?買い物、どこに付き合えばいいんだ?』と返したそうな…。
もちろん、女生徒は泣きながらその場を逃げ出すように走り去り、一時期不登校にまでなってしまったと…。
流石に脚色されているんだろうなと思っていたが…盲目的に慕っていた鈴がこれ程までになると言うことは、一夏にまつわる女性関係の話は殆ど真実と思っても差し支えないだろう。
「シショーみたいにズバズバ言うなら良いわよ…でも、なんであんな曲解するのよ…?」
「俺に聞くな俺に…」
鈴と同時にため息を吐きながら漸くピットへと入ると、俺と鈴の視界に異様な光景が広がる。
一夏はISスーツを着たままピットの床に正座して、だらだらと冷や汗をかいている。
理由は言うまでもなく、ISを展開し鬼と化したセシリアと箒にインターセプターと葵の切っ先を突き付けられているからである。
「あ、アモン兄…!助けてくれ!!」
「…ミュラー先生、今回ばかりは口出しはしないでくれ!」
「えぇ、えぇ…女心を傷つける様な殿方は此処で性根を正す必要がありますわ!」
「なにこれ…」
一夏は藁をも縋る様な顔で俺を見つめ、箒とセシリアは首を横に振って手出し無用と言う…鈴ではないが、本当になんだこれ?
「凰さんも凰さんですわ!なんでそんな飄々としていられるんですの!?」
「そ、そうだ!告白したのに、曲解までして…!!」
「あー…一夏に聞いたわけね…」
鈴は俺の頭に手をついて跳び箱の要領で飛び降りると、すたすた歩いてセシリアと鈴に近づく。
俺も鈴の後に続いて2人に近づき、それぞれの得物を撮む様に掴んで静止する。
「怒ってるのは分かったが、人殺せる武器を容易く人に向けるな。千冬に知られたら反省文だけですまねぇぞ?」
「だ、だが!」
「師であるミュラー先生の監督不行き届きでもありますのよ!?」
2人は得物を軽く振って俺の手を振り払おうとするが、ピクリとも動かないことに気付きじっと俺の事を見つめてくる。
その眼にはうっすらとした恐れの色が混じっている。
「…とにかく、落ち着け」
「っ…はい」
「わかりました…」
2人とも異常事態に頭が冷えたのか、得物に入る力が緩みISの展開を解除して生身に戻る。
もちろん、箒は打鉄をハンガーに戻してから、だが。
俺は箒とセシリアから目を逸らし、一夏と鈴へと目を向ける。
「で、今更あたしの言葉の意味を知ったわけ」
「もがもがもが」
「鈴、鈴、足どかしてやれ」
鈴は腕を組んで一夏の顔面を思い切り踏みつけている。
こう、積年の恨みはらさでおくべきか…みたいな?
鈴は俺の言葉に素直に頷いて足を退かし、深く息を吐き出す。
その顔は疲労一色だ。
「い、いや…最初は味噌汁的なアレかとは思ったんだけどさ…」
「いいわよ、言い訳は。…聞きたくもないし、あたしの恋心はあそこで終わってんの。でなきゃ、酢豚なんて作ってこないわよ」
「凰さんはそれでいいんですの!?」
セシリアは納得がいかないと言わんばかりに唇を尖らせ、鈴に声を荒げる。
それは恋心を踏みにじられてしまう事の痛みに対する、怒りの代弁と言えるだろう。
「あたしが良いって言ってんの。外野がとやかく言う事でもないでしょ?」
「だが、凰…流石の私でも今回の一件は…」
「はいはい、そういうの、良いから。それともなに?ライバル増やしたいっての?」
鈴は面倒くさいと言わんばかりに、同情を振り払うようにひらひらと手を振る。
そこに一夏に対する執着は無いし、自分の言った言葉に嘘は無いようだ。
「そりゃ、振られて落ち込んで、気付いたら自分を虐める様に勉強して…そうやって代表候補生にまでなったわよ?けど、そうやってあたしは立ち直ったし、もう終わってんのよ」
「り、鈴…俺は…」
「一夏、これに懲りたら女心って言うものをキチンと考えなさいよ?今まで、知ろうともしないで無自覚に傷つけてきてたんだから」
「っ…わ、分かった」
一夏は鈴の言葉に顔を俯け、深々と頭を下げる。
箒とセシリアに怒られ、鈴に窘められ…今回ばかりは良いところなしだな、一夏。
俺は乱暴に一夏の頭を撫でた後に平手で頭を叩く。
「痛っー!?」
「ったく、お前は何でもかんでも考えねぇからこうなるんだよ。ほんと、反省しろよ?」
「はい…」
一夏が力なく返事をすると、鈴は俺のスーツの裾を掴んで軽く引っ張ってくる。
「ねぇ、シショー…ちょっと一夏借りて良い?」
鈴は良いことを思いついたと言わんばかりに、悪魔顔負けの邪悪な笑みを浮かべるのだった。
静寂と闇に包まれる室内…俺は窓際の席に腰掛けて、1人で酒を飲む。
千冬は一足早くベッドに潜り込み、可愛らしい寝息を立てて眠っている。
あの後、俺は鈴に押し出される形でピットを追い出されてしまい、鈴の企み事を耳にする事は出来なかった。
大方、一夏をパシりの様に扱って俺と自分とをくっつける算段をしろと言ったところなんだろうが…。
鈴の恋心ははっきりとした物ではないだろう。
憧れから来ているものに過ぎない…優しくしてくれて、きちんと話を聞いて構ってくれる…汚い部分を知らないからこそ憧れてしまう、いわゆる近所の気の良い兄ちゃん現象だ。
俺みたいなのは真っ当な存在ではないし、それよかもっとマトモな男を引っ掛けるべきだろう。
「等と、意味不明な供述をしており~」
「お前は本当にいきなり現れんじゃねぇよ…束」
「えへへ~」
ぼんやりとグラスを傾けながら窓から差し込んでくる月明りを眺めていると、束が対面側の席に座って此方を見つめている。
頭の中を読まれていたようで、束の笑みは深い。
「あっくんは…アモンはさ…優しいよね?」
「はぁ?」
俺はグラスをテーブルに置き、真っ直ぐに束の事を見つめる。
束は終始笑みを絶やすことなく、俺のグラスに酒を注いでいく。
「可能な限り傷つけない傷つかないように立ち回って、それでいて自分は別に傷ついても構わないなんて思ってるでしょ?」
「どうだかな~?」
「本当はこの世にいないから」
「…」
流石に動揺を隠せず、俺はごくりと生唾を飲み込む。
この世界に来るにあたって、雇い主である魔法使いは不備がないように情報の改ざんを最低限度ではあるが、行っている筈である。
簡単にバレてしまうようでは、仕事に支障をきたす可能性があるからだ。
「へっへ~、束さんも千冬さんもとっくに勘付いてるんだぜ?」
束は舌打ちしながら指を振り、してやったり…と言った顔をする。
「どうしてバレたか知りたいかな~?」
「ったく、体質だけで死人扱いとか良い度胸だな」
「まっさか~、これでも束さんは天才だから色々と調べてたんだぜ?」
フフン、と束は優越感に満ちた笑みを浮かべ、グラスに注がれた酒を一口で飲み干す。
流石に千冬を起こす気は無いのか、乱暴にグラスをテーブルに置くことはしない。
その間、俺は必死に頭を回転させる。
どうやって言い包めるかだ…束にはちょっとした嘘は通じないだろう。
此奴はある意味、人の本質を見抜くことに特化している。
「まぁ、でもあれだね…一番の決め手はやっぱりISに乗り込んだ事かな。ISは生体補助機能があるでしょ?アレで送られてくるデータに不可解な点が多くってさ~」
「…だったら、なんだってんだ?」
俺はゆっくりとした動作で煙草を取り出し、口に咥えてライターを手に持つ。
「アモン、煙草…逆さなんだぜ」
「流石にそこまで動揺せんわい」
「ちぇー」
俺は煙草に火を点けてゆっくりと煙を吐き出していく。
しかし、あれだな…案外終わりはあっけないものか…雇い主側で不備、と言うか面倒を察知したら勝手に引き上げる事がある。
こうして存在バレがある時なんかは良く引き上げてきたものだが…。
「別にどうこうしようってわけじゃないよ…ただ、人じゃないとかそういう事を気にするほど野暮じゃないってこと」
束はテーブルに乗り出して俺に近寄ると、首に抱き着く形で俺の体を無理矢理抱きしめてくる。
月明りに照らし出される束の顔は、いつもの様に不健康極まりない青白い顔色でもなく、僅かばかり頬を紅潮させて色っぽく見える。
「ねぇ、アモン…束さんは、
「別に俺でなくたっていいだろうし、態々悪魔になんぞ恋せんでm…っ」
束は、俺の口を塞ぐ様に顔を近づけてキスをし、まるで嬲る様に舌を絡めていく。
此方から動かないのはせめてもの抵抗…俺はやんわりと束の体を押して離れさせ、しかめっ面になる。
「へっへー、初めてを捧げてやったぜ!これで赤ちゃんできるね!」
「お前の頭ん中、お花畑か何かか…?」
束は満足したかの様に口端からこぼれた唾液を手でぬぐい取り、まるで妊婦の様に愛し気に自身のお腹を撫でている。
…流石に、天才を自称しているんだから、子供のでき方に関して知っていると思いたい。
「まっさかー、アモンが私の事を愛してくれたら孕ませてくれるんでしょ?」
「いきなりキスする人はちょっと…」
「私の本気度を知ってもらうためだからね!」
束は妖艶な笑みを浮かべて舌なめずりをし、俺は俺で窓の方へと顔を背ける。
束の愛情表現は、とにかくド直球のドストレートと言って差し支えないし、そういう好意の表し方に関してなんら不満もない。
なんせ、美人でボインだ…俺だって悪い気はしない。
かと言って、それに応えて良いかどうかは…。
「アモン、君がいつまで生きられるかは知らないし、分からない…流石にそこまで調べられないしね。けど、良いんだ…私は」
…人間じゃない、と言う点が明確にバレただけで、他所の世界の存在かどうかはバレていないらしい。
いや、生体データとかで其処まで身バレしたら、凄いなんてもんじゃねぇが…セーフと言えばセーフか…?
どちらにしろ、今後はもっと慎ましやかに生きていく必要はあるだろうが。
「どうあれ、お前らは置いていくことになるし、そんな奴に愛されたって仕方ねぇだろ」
「そういう優しいところが、私は好きなんだよ…アモン」
束は嬉しそうな顔で俺の事を強く抱きしめ、まるで子供をあやすように背中を撫でていく。
愛されることに忌避感があるわけじゃない。
ただ、只管に俺と言う存在は欲に塗れる…1つ得ればもう1つと際限なく欲しがってしまう。
一過性で束なり千冬を愛しても、一過性では済まない。
最悪、他の全てを殺してでも手中に収めたくなってしまう。
それだけは、やってはならないだろう…こいつらには…こいつらの…。
月明りが照らす部屋の中、俺は束に抱きしめられながらどうやって嫌われようか…ただそれだけしか考えていなかった。