インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~ 作:ラグ0109
シャルルは芝居がかってはいるものの、上手く女生徒達をあしらいつつ一夏の貴重な男友達ポジションをキープして常に傍に居続ける。
放課後の自主訓練時も2人で良く行っているようだが、目立った模擬戦闘を行っておらず一体何のために男装しているのか分からなくなってくる。
そんなシャルルが女だと言う事を知らない箒やセシリアは、一切警戒することなく舌戦でのキャットファイトを時折繰り広げている。
鈴が時折仲裁に入るので――ついでに適当な餌の用意――をするので、大事に至ることは無い。
ラウラはラウラで純粋に織斑 一夏と言う人物に興味があるのか、箒達の目が離れた隙を突いてちょこちょこと親交を深めている。
一夏もそんなラウラに友好的に接していて、交友関係はすこぶる良好と言えるだろう。
時折軍隊格闘の訓練も施してもらっているらしい。
さて、ここで問題になるのがクロエの存在だ。
兎に角、他人と言うものを寄せ付けようとしない…休み時間の時は俺の傍を雛鳥の様について回り、時折不安そうな顔で此方に顔を向けてくる。
今までにない環境が幾許かのストレスとなり、何時傷つけられるかわからない状況に怯えているようにも見える。
一筋の光明があるとするならば布仏 本音の存在だろう。
時々飴をあげてはクロエにけしかけているんだが…そも取りつく島が無ければ中々交友関係にまでは発展しない訳で…。
「クロエよぅ…もうちょい、人付き合い上手くなろうと思わねぇ?」
「…それは、必要な事でしょうか?」
「まぁ、必要だろ。いつまでも束の傍に居られるわけでもねぇぞ?」
放課後の教室で机に腰掛けて、椅子に座るクロエを見つめる。
教室には生徒が
「私は命を救ってくれた大恩あるアモン様と束様にご奉仕する事でしか、その恩に報いる術がありません」
「お前が命を拾ったのは偶然だろ…確かに施術したのは束だが、少なくとも俺に恩義を報いる必要はねぇ」
「いいえ、アモン様が居なければ…私はあのまま無残な木偶人形として辱めを受け続けて居た筈なのです。で、あるからこそ…私は…」
クロエはふるふると首を横に振り顔を俯かせる。
クロエ自身は本当に何も持っていない。
生まれた時から死にかけ、朽ちる寸前まで…使えるものは自分の体しかないと思い込んでいる。
俺はガシガシと頭を片手でかきむしりながら、深くため息を吐く。
こういった手合いは非常に頑固だ…悪い事ではないが、今回に限った話で言えば悪い事だろう。
「俺はな、見返りが欲しくてお前を拾ったわけじゃねぇ。俺が気に食わねぇから拾ったんだ」
「ならば、これは私が勝手に関いている恩義なのです。それに報いなければ私は、私のちっぽけなメンツすら保てない」
「…なら、俺がこれから言いたいことも分かるな?」
「…それが、本当に望みなのであれば」
人間関係は矯正されて出来上がる物ではない。
そんな人間関係など脆いもので、必ず何処かで破綻しなかった事になる。
俺は深くため息を吐いて肩を落とし、首を横に振る。
「とりあえず、束の相手してやってくれ…」
「わかりました。それでは、また後程」
クロエは席から立ち上がると小さく頭を下げて教室を出ていく。
俺は腕を組んで天井を見上げながら思案してはため息を吐き、すぐに眉間を揉んで教室の隅に配置されている掃除用具入れのロッカーを睨み付ける。
「出てきなデバガメ猫。出てこなきゃ、扉を瞬着で塗り固めんぞ?」
「……えー、何時からバレてたのよ?」
「最初っから…つーか、授業はどうしたんだよ…お前午後の授業から居ただろ?」
教室に置いていたトランクから仕事道具である操り人形…サニティを取り出して両手に瞬間接着剤を持たせて構えさせる。
すると、観念したかのようにロッカーの扉が開き、此処にはいない筈の生徒…更識 楯無生徒会長殿が悪びれもせずに出てくる。
一応国家代表とは言えこの学園の2年生である此奴には、いかにハードワークであろうとも生徒として授業を受ける義務がある。
此奴は堂々とその義務に反して、俺と一夏…そしてシャルルの行動を観察していたのだろう。
暇人め。
「ふっふーん、基本的に運営がメインになる生徒会長は、ある程度の授業は免除されてるのよ?」
「おー、公的な不良生徒めが…ようも言いよるわ。で、この時間まで残ってたのはどんな理由だ?」
「あら、それは貴方が一番理解している事ではないかしら?」
楯無は、此方へしゃなりしゃなりと蠱惑的に歩み寄りながら笑みを深める。
楯無の言う通り、俺も少しばかりこの生徒会長…いや、この学園の黒い面を司っている更識には用事があった。
千冬が交渉しているであろう外出許可はそう簡単に下りないだろうし、なにより今は時間が惜しい。
先を見据えて行動しておかないと、ガキが1人臭い飯食わされる羽目になるからな。
そこで、この目の前の猫の出番となる訳だ。
俺は若干憮然とした表情になりつつも小さく頷き口を開く。
「なら、話は早ぇわな…ぶっちゃけ何処まで把握してる?」
「それはもう根掘り葉掘り。手、貸してほしいでしょ?」
「あぁ、そりゃもう人形になってくれるなら喜んで借りたいわな」
俺の言葉に楯無はより一層に笑みを深める。
根掘り葉掘り知っていると言う事は、いつでも莫迦親父にトドメを刺せると言う事だ。
だがここで安易に手を取ると、絞り粕になっても絞られ続ける未来がちらちらと見える。
楯無の所属国家はロシア…アメリカと張り合い続ける大国は、できる事ならば男性操縦者と末永いお付き合いをしたくて仕方ないだろう。
「あら、そのお歳でお人形遊び?」
「おいおい、俺は人形遣わせたら右にも左にも出るもの居ないんだぜ?」
軽く肩を竦め微かに指を動かせば、サニティに可愛らしくお辞儀をさせる。
楯無はそれをあまり興味なさそうに見つめ、すぐに俺へと視線を移す。
「学園としては立ち位置を変えるつもりはないわ。あくまでも、騒ぎを起こさなければ現状維持。だって、そのままでも問題はないのだもの」
「情が無ぇのは為政者として当然の有り方だ。一応確認しとくが、騒ぎが怒ればシャルルは学園から追放されんだな?」
「えぇ、そうなるわね。シャルル君にその気が無い事を祈るばかりねぇ」
楯無は扇子を開いて口元を隠し、その笑顔を隠す。
俺は対照的に、眉間に皺を寄せて仏頂面になっている。
言質を取ることはできた。
問題は手段とタイミングになる訳だが、こればっかりは運否天賦に身を任せるしかない。
義母がどれだけやれるのか、シャルルがどこまで隠し通せるかと言う所に掛かっている。
最悪一夏だけにバレるだけならまだいい。
鈴も…まぁ、良いだろう。
しかし、箒とセシリア…あいつらにバレるのだけは不味い。
一夏が関わる事になると簡単に顔や態度に出てくるからな…。
「俺としちゃ、陰謀だのなんだのはガキ巻き込まねぇで他所でやれって感じだな。IS自体が若いせいで、乗り手まで若いにしてもだ」
「ISに関わるのなら、遅かれ速かれ歯車に巻き込まれるのは当然の事よ。人1人が主張したところで、歯車は容赦なく噛み砕く。だから、先生も限界を知るべきなのよ」
「それは忠告かい?」
「えぇ、もちろん。貴方は良い教師だと思うわ。自身を飾らずに居られるのだから」
パン、と乾いた音を立てて扇子を畳んだ楯無は、クスリと笑って俺の周囲を回る様に歩いていく。
俺の存在に対して懐疑的だった楯無は、どうやら1人の存在として俺の事を認めてくれたらしい。
とは言え、認めただけでありだから無償で手を貸すなんてことはあり得ない訳だ。
今後とも末永いお付き合いをする為、餌のチラつかせをしている事には変わりない。
どこまで本気でそう考えているのかは、俺には分からないのだが…。
「忠告痛み入るって所だが、忠告聞いても止まらねぇのが俺でな?」
「でしょうね。無鉄砲は悪徳よ、セ・ン・セ?」
「悪徳を成すのが悪魔の本分だろうよ。まぁ、でも…お前の手はギリギリまで取るかどうか悩ませてもらうかね?」
なんにせよ選択肢が増える事は好ましい。
この身は所謂囚われの身みたいなもんだからな…コネが多少はあれど、連絡を取る手段が限られている。
状況に一番近い部分に居るであろうあの男と連絡を取るのも、戸惑いとためらいがあるしな…他所の軍隊所属の人間に相談する訳にもなぁ…基地1つ壊滅させてるし。
「あら、案外慌ててないのね?」
「大人は慌てても顔や態度に出さねぇもんなのさ」
「ヒューッ、見ろよあの鋼みたいなメンタルを。こいつは何かしでかすつもりのメンタルだぜ!」
「褒めるな、照れるぜ」
実際問題、一番最悪で一番最良な手が無い訳でもない。
あれこれ尽くしてやれば喜び勇んで行動起こす人間が、超身近な場所に居るからな。
絶対に取らない手ではあるけども。
「ほんと、先生とは末永いお付き合いをしたいわね~」
「お、あんまり甘く見てると食い散らかすぞ?」
「やだ~、先生ったらだ・い・た・ん」
話すことはある程度話したので世間話でもして適当に終わらせようとすると、教室の扉がガタッと言う音を響かせる。
2人して扉へと目を向けると、扉に設けられた小窓の端に目の前の楯無と同じ色をした髪が見える。
ふ、と楯無の方を見ると大して気温が高い訳でもないのに全身をびっしょりと汗を濡らしていた。
「…大丈夫か?」
「え、え、えぇ…大丈夫…更識 楯無は狼狽えない…狼狽えないのよ」
楯無は表情を隠すように扇子を震える手で広げるものの、センスにはばっちりと『狼狽』の二文字が描かれている。
恐らくイメージインターフェースシステムを応用した、ハイテク扇子なのだろう。
つまり、目の前の人間が狼狽える程度には、聞かれたくない言葉を聞かれたと思っているわけだ。
俺は、少しばかりそんな存在に対して興味が湧いたので、指を軽く舞わせてサニティを動かし、扉の前に待機させる。
「めっちゃ狼狽えてるじゃねぇか。んだよ、オボコじゃあるめぇし…」
「生まれてこの方恋なんてしたことないけど、経験はそれなりにあるわよ!?」
「まぁ、暗部は色々あるもんなぁ?」
楯無は上目遣いで顔を真っ赤にしながら此方を睨み付けてくる。
…俺はと言うと、内心複雑な心境ではある。
や、貞操がどうとか言うつもりは無いが…こう、オッサンとしてモやっとしたものがだな?
俺は拳で自分の側頭部を軽く小突く動作でサニティを動かして、扉を勢いよく開ける。
果たしてそこに立っていた人物は、扉に耳を押し付ける様にするポーズのまま固まっていた。
「え、えっと…」
「か、簪ちゃん…」
「…っ」
簪ちゃん…要は楯無の妹はコホン、と軽く咳ばらいをしながら姿勢を正してキリッとした顔で此方を見つめてくる。
対照的に頬をひくつかせて気まずそうな顔をする姉の顔を見て、俺は必死に笑いを堪える。
さっきまで此方を手玉に取ろうと画策していた人間のペルソナが簡単に剥がれ落ちたからな…こういうのはいつ見ても愉悦がこみ上げてくる。
なんせ、悪魔なもんで。
「ご、ごゆっくりぃっ!!」
「待って!簪ちゃん!待ってぇッ!!!」
「ぶはっ…くくっ…!!」
簪はその場から逃げ出すように走り出し、楯無は誤解を解く為に凄まじい速さで駆け出して簪を追いかける為に慌てて教室を出ていく。
俺は俺でついに堪えきれずに笑い出して、大声で笑いだす。
別にそうと操作したわけでもないが、サニティはどこか呆れたように俺を見つめ続けていた。
IS学園1年寮はサロンや図書室、さらに大浴場にエステルームとおよそ学園の寮とは思えないほど充実した設備で溢れている。
さもありなん、女性が扱うISは本人のボディスタイルが強調された機体デザインになるのが今のトレンドだ。
必然的に若い身空から美を磨き続けなければならない宿命となってしまっている。
最新の機械設備にこうしたケア設備…寄付やら学費やら日本の血税をつぎ込んでも維持するだけでも大変だろう…。
あまり、俺には関係は無い訳なんだが。
そうした設備に不備が無いかを確認するのも寮長の役目であり、定期的に各施設を回って点検したり、利用者に意見を募っては纏めたりしている。
そんな訳で寮に戻っても書類仕事をちょこちょことやっている訳なんだが、今日俺の姿はサロンの一角にあった。
部屋では所構わずに束がへばり付き、そんな姿を見て千冬もへばりつきと、身動きが取れなくなるためだ。
正に男冥利に尽きる。
両手に華ってのは非常に美味しい要素ではあるが、お仕事だけは真面目にこなしておきたい俺は2人の額に
普段、制服姿で――改造しているとはいえ――キッチリしている姿を校舎内で見ている身としては此処に来てから2か月ほど経ったとは言え、ギャップが中々面白い。
勿論一夏や俺を意識しているのか、いささかセクシーな格好で歩いている者がいるものの、決してそういう素振りを見せない所為か大多数が自身の恰好をあまり気にしなくなってきている。
一種の家族のような共同生活が生んだ信頼関係とでも言うのだろうか…?
そんな中、少し異様な格好の少女が俺の元へとやってきた。
「少し、いいか?」
「ラウラか…ちっと待ってな」
声をかけられチラッと横目で見ると、そこには制服姿のラウラが立っていた。
時間にして20時…もはや授業なんて無いのにだ。
普通であれば、すでに大浴場で今日の垢を洗い流してパジャマなりなんなりに着替えているもんなんだが…。
「…用件があるのが分かってて聞くんだけどな?」
「うむ」
「なんで制服なんだ?」
サロンに居た生徒達も同じ疑問が浮かんでいたのか、一斉にコクコクと頷く。
そんな反応を見て、俺も一瞬だけ安堵する…認識を間違えちゃいないか少しばかり不安だったからな。
そんな俺たちの思いとは裏腹に、ラウラは何を言ってるんだ?と言わんばかりのドヤ顔になる。
「服など制服だけあれば問題ないだろう?」
「者ども出合えい!!!」
「「「「ははーっ!!!」」」」
指をパチンと鳴らし集合をかけると、サロン内に居た生徒達が一斉に俺の元まで集まり立膝を着いて一斉に傅く。
その異様な光景はドイツ軍特殊部隊隊長の目には異様に映ったらしく、一歩後ずさっている。
「殿、何事でありましょうか!」
「うむ、そこなドイツの小娘に御洒落と言うものを教えてやれ」
「ハッ!承知いたしました!」
「さぁ、みんな!ラウラちゃんを確保して出荷よ~!」
「どこへだ!?」
新しい玩具を見つけたと言わんばかりのギラついた目で、ジリジリとラウラを取り囲む生徒達。
ラウラは腰に下げていたナイフを握りながら、周囲を警戒しながら壁際へと追い詰められていく。
「お前な、良い歳した乙女が制服だけで充分とか言うんじゃねぇよ」
「「「そうだそうだー!」」」
「ラウラちゃんは美少女なんだからもっとおめかししなきゃダメ!」
「わ、私はこの学園に遊びに来たんじゃないんだぞ!?」
ラウラは、鬼気迫る
確かにそれは正論である…この学園は優秀なIS操縦者や技師を排出するために作られた専門学校である。
だが、IS操縦者がISに乗る以外に行っている仕事を思い出してほしい。
そうだね、グラビアアイドルだね。
「あのな、IS操縦者と言うのはISに乗るだけを求められるものじゃねぇ。言ってしまえばアイドルだ。普段の私生活や己の美と言うものが必然的に求められてくる。にも拘わず、制服だけで十分だとか言うんじゃねぇよ」
「ぐ…」
「お化粧だってしてないでしょ?」
「すっぴんでそこまで綺麗って嫉妬ものだけどね!」
正論を振りかざし、更にやいのやいのと生徒達が取り囲む状況に諦めたのかラウラはがっくりと肩を落として深いため息を吐く。
女の子って言うのはな…もっとこう…キラキラと輝いていなきゃいけないんだよ…。
「何虐めてんのよシショー!」
「っだー!?」
突如スパーンと言う快音と共に後頭部に衝撃が走り、俺は痛みに頭を押さえる。
声をかけられた方向へと目を向けると、ハリセンを肩に担いだ鈴が呆れた顔で此方を見つめている。
「ばっか、これは正当な教育だっつの」
「涙目の女の子取り囲んで言葉攻めしてるようにしか見えないわよ」
「り、鈴音…」
「鈴で良いって言ったでしょうが…まったく、あんたらもやり過ぎないようにしないとトラウマになっちゃうわよ?」
「「「「ハーイ…」」」」
鈴は散れ散れと発破をかけて生徒達を散らし、鈴が少しだけ涙目になっているラウラの手をとって俺の前まで引っ張り出す。
「で、なんか話があるんでしょ?」
「あ、あぁ…今まで、アモン・ミュラーが何をしていたのか聞きたくてな…」
「そんな面白い話でもねぇぞ…?」
先ほどまでの騒がしさと打って変わって、サロンの中に生徒達が居るにも関わらずしん。と静まり返る。
皆、ソファーなり椅子なりに腰掛けて談話するでもなく、興味津々と言った感じで俺の方へと目を向けている。
俺は諦めたように1つため息を吐いて、ラウラと鈴に向かい側に座って待つように伝えて席を立つ。
長話に必要なお茶とお菓子を用意するためだ。
一体どこから話すべきだろうか…?
恐らく織斑家に世話になっている間の事は基本的に伝わっているだろう。
何か、面白いエピソードでもあれば良いんだろうが…俺はそんな事を考えながら給湯室へと入るのだった。
改変してなぞろうか、いっそ一気に崩壊させるか…非常に悩んでおります。