インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#38 パリで出会う雨

その日、IS業界…ひいては世界に激震が走った。

 

『デュノア社社長ダニエル・デュノア辞任。後任は元フランス国家代表デボラ・デュノアに』

 

デュノア社の業績が芳しくなかったのは確かな事ではあるものの、現在のラファール・シリーズのシェアを考えれば辞任に至るほどでは無かったのは明白…では、何故辞任をすることとなったのか?

それは言うまでも無くヴィクトル少将閣下に渡した、ありとあらゆるスキャンダルがフランスメディアに一斉に報じられたからだ。

政治家に対する賄賂から脱税、果ては火遊びのお相手まで詳細に報じられてしまったダニエルは、役員会での弾劾決議の果てに辞任へと追い込まれることになったのだ。

会社の名に傷が付いてしまったものの、俺には関係が無い。

なんせ、俺はシャルルがシャルロットとして生きられるようにすることだけが目的で、今までお膳立てをしてきたのだから。

 

 

 

 

―――話は少し遡る。

 

 

 

 

フランスはパリにある古い教会…サンテティエンヌ・デュモン教会の礼拝堂で、俺は静かにステンドグラスを眺めながら人を待つ。

サンテティエンヌ・デュモン教会はパリの守護聖人である『ジュヌヴィエーヴ』が眠っている教会で、パンテオンの裏手にあるため目立ちにくいもののそれなりに規模の大きい教会となっている。

中でも絵画の様に繊細なステンドグラスが有名で、それを目当てに観光客がやって来るのだそうだ。

俺が待っている人は言うまでも無くデボラ・デュノア夫人…シャルロットの継母であり、千冬にSOSを求めてきた御仁だ。

俺は、場や相手から浮かないように黒のスーツに血の様に赤いネクタイを締めて佇んでいる。

約束の時間の5分前…と言うタイミングで俺の隣に1人の女性が歩み寄る。

ベリーショートのブロンドに陶磁の様なきめ細やかな肌、少しキツめの目つきではあるものの女性らしく美しい顔立ち…俺とは真逆の純白のスーツをビシッと着こなしている。

 

「この教会のステンドグラスはお気に召したかしら?」

「まぁまぁな。それで、()()()()()()()()()

 

暫らく互いにステンドグラスを眺めてから、デボラが口を開く。

ややハスキーな声色は何処か彼女にクールな印象を与えさせる。

もっとも、彼女の半生を多少なりとも聞きかじっていると、とてもじゃないがクールな女性と言う評価を下すことはできないんだが。

 

「貴方と契約をする為に」

「出血程度じゃ済まされねぇ…誰かの首が必要だ」

 

俺が静かに歩き始めると、俺の隣を歩く様にデボラもそれに追随してくる。

俺の言葉にデボラは生唾を飲み込むものの、静かに頷く。

元より覚悟の上…と言った顔つきだ。

 

「もう、後戻りはできない…それならば、私はまだあの子の未来を取るわ」

「結構…そう言ってこなきゃ、お前の首も落とさなきゃならなかった」

 

俺はにんまりと笑みを浮かべて、礼拝堂の中を見学するようにゆっくりと歩いている。

悪魔が教会の中を闊歩し、人に禁断の果実を差し出す…背徳的行為の極みだな。

もっとも、人1人の犠牲で子供1人の未来が多少明るくなるんだ…文句を言われては堪ったものではない。

 

「お前の旦那がやらかしてることは全部こっちが握り込んでてな、それを全部信頼できる筋に預けてマスコミにリークさせはじめてる。早けりゃ明日の朝にでも顔面が真っ青になってるだろうさ」

「そ、それは…会社自体も…」

「まぁ、傷がつくだろうな…で?」

 

足を止めたデボラを横目に俺はそのまま歩き続け、ゆっくりとデボラの周りを歩いていく。

誰かの首が必要だと言った。

出血程度で済まされないとも言った。

そして、それに納得をした。

故に、もう契約は成されている…こうなったら悪魔は止まらない。

目的の達成のためにありとあらゆるものを犠牲にし続ける。

悪魔と契約をする(に魂を売る)と言うのは、手段を選ばないと言う事と同義なのだ。

 

「で…って…会社にはそこで働く社員たちが居るの!彼らを路頭に迷わせろと言うの!?」

「親が、子の人生狂わせた結果だろうが…血がつながってねぇだの関係ねぇだの言わせねぇぞ?必死に泣いていたのに丸投げしたテメェが四の五の言うのか?」

「っ…」

 

そう、丸投げした…駄目だと分かっていてもそれを避けさせることが出来なかった。

元よりシャルロットがスパイをしていたら…もしくは今後の業績に影響を与えるであろう第3世代の試作機を開発できなかったら、遅かれ早かれ従業員達は路頭に迷う羽目になっただろう。

今更なのだ…そんなリスクは。

 

「デボラ、お前には血反吐を吐いてでも走り抜けてもらう。死に物狂いで駆け抜けなくちゃ、お前もシャルロットも、従業員ですら地獄を見るぞ」

「そん、な…」

「千冬よ…ちょいと甘ちゃんじゃねぇか…?」

 

俺は深いため息を零しつつ軽く眉間を揉む。

無意識に煙草を手に取りそうになるのを必死にこらえつつ、顔面蒼白となっているデボラを見つめる。

恐らく、今余人の人生がその両肩に乗っかっていることを想像してしまっているんだろう。足がすくむだろう、逃げたくもなるだろう…それでもやってもらわなくちゃならない。

今後似た様な事を起こさせない為にも。

 

「八方手を尽くして社長の座に収まれ。役員共を黙らせるだけの土産は用意してあるからな」

「やるしか、無いのね…」

「形振り構わねぇから、悪魔の甘言に乗るんだろうが」

 

ニヤリと笑みを浮かべて、俺は懐から1つのUSBメモリを取り出した。

 

 

 

 

――――そして、今に至る

 

 

 

 

 

ラジオやテレビは連日の様にこのデュノア社の電撃交代劇を報道し、ダニエルもまた贈収賄の一件で逮捕されることとなった。

俺は今そんなニュースをカフェの端で優雅に紅茶を飲みながら、ラジオから流れてくるニュースに耳を傾けている。

 

『また、本国よりIS学園へと出向していたシャルロット・デュノア氏の性別詐称に関しては、氏の身の安全を守るためであったと言う発表があり――』

 

シャルロットの性別詐称は、デボラがシャルロットをIS学園へと遠ざける事で会社と切り離そうと画策した…と言う事にした。

知っての通り、IS学園はある意味世界から隔絶された一種の国の様に機能している。

最悪、会社の不祥事発覚から帰国命令が出たとしても特記事項第21項を笠に3年間と言う期限付きだが匿う事もできる。

もっとも確実な案ではない為、こうして俺がフランスまで出張ってお膳立てしてきたわけなのだけれど。

ともあれ、これにて俺はIS学園へ幽閉生活に逆戻り…次いで束と千冬の猛攻と一夏を宥め…更に期末考査のテストの用意と目まぐるしい毎日が待っていることになる。

…帰りたくねぇ…。

 

「ここ、席空いてるかしら?」

「…空いてるように見えるかい?」

「えぇ、偉丈夫が辛気臭そうに紅茶を飲んでいるだけですもの」

 

突如声をかけてきた女性は有無を言わさずに俺の向かい側に座り、ミルクティーを店員に注文する。

その女性は、春の夜にIS学園に侵入してきたブロンドの美女だ。

 

「まさかこんなところで出会えるとは思ってもみなかったわ、Mr.ミュラー」

「ダレノコトデスカソンナナマエノヒトシラナイナー」

「すっ呆けなくてもいいわ。私と貴方の仲じゃない」

「って言う割にはお前の名前を俺は知らねぇけどなぁ…」

 

俺は軽く肩を竦めてため息を吐けば、目の前の美女は自身の人差し指で唇に触れながら『それもそうね』と頷く。

味方でなければ敵、と言う訳でもない。

あくまでも向こうのビジネスの関係上敵対することになっただけなので、俺個人としては目の前の鯖読み美人に対して特別思い入れがあるわけではない。

ただ、俺がとても苦手にしている人物…と言うか幽霊?に雰囲気が似ているので、少しばかり関わりたくないとは思っている。

 

「私の事は…まぁ、スコールとでも呼んでくれれば良いわ」

「土砂降りねぇ…それで、またスカウトのお話かい?」

 

スコールと言う名前とは裏腹に夜空に浮かぶ月の様に静かな輝きに満ちた美女は、両手で頬杖をついて俺の事を見つめる。

俺はそんなスコールを顔を背けながら横目で見つつ、新しく注文した紅茶を静かに飲む。

 

「今日はオフの日で、お仕事とは関係ないわ。ここで行う仕事はもうないし…折角パリに居るのだから、観光をなんて思ったら居ない筈の人が居るじゃない。私の記憶違いでなければ…外出は禁じられていた筈よね?」

「何事も抜け道はあるもんでね…で、それだけか?」

 

どうにも苦手意識を持ってしまっている所為か、早く追い払いたいと言う気持ちが顔を出してしまう。

そんな俺の心を見透かしたように笑みを浮かべたスコールは、軽く肩を竦める。

 

「別にスカウトをしようとかそう言う魂胆で声をかけた訳ではないわ。ただ、貴方の事を少し知りたいと思っただけ…。白状すれば、興味があるわ」

「それは、俺が男性操縦者だからだろう?」

「まさか…玩具を使えるってだけで興味を惹く対象になりはしないわ」

 

ISを玩具…束が聞けば目を吊り上げて怒りそうな気がするな。

俺も玩具だとは思ってるが…ただの人間からすればとんでもない兵器になっている訳だが。

なんせ物理法則の縛りが殆どないからな。

 

「言っちゃなんだが、趣味悪ぃって言われねぇか?」

「えぇ、私は趣味が悪い上に悪食よ…どんなものであれ齧ってみたくなるの」

 

そう言うと、スコールは妖艶な表情で舌なめずりをしてみせる。

作りものだけにボディラインは、そこらの女性が見たら嫉妬しそうなほどに出るところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる。

男の性としては、やはりそれでも魅力的に見えるものではあるものの、そそる程のモノでもない。

 

「おぉ怖い怖い…溺れたら骨までしゃぶり尽されそうだ」

「えぇ、もちろん…私と言う女に溺れてみる?」

「あいにく2つの沼に溺れてるんでね…他所当たれ」

「あら、釣れない…」

 

スコールは心底つまらなさそうな顔をして、唇を尖らせる。

俺をナンパして等と本気で思っていたのだとしたら、愉快な女だ。

不意にスマホの着信音が響き、素早くスコールがスマホを手に取り電話に出る。

スコールの目つきが僅かばかり鋭くなったのを見て、俺は懐から煙草を取り出して口に咥える。

暫らく小声で会話しているのを眺めていると、スコールは電話を切って席から立ち上がる。

 

「美人は引っ張りダコかい?」

「えぇ、有能な人はそれなりに仕事をこなすものよ」

 

スコールは軽く肩を竦めると俺の隣まで歩み寄り、顔を此方へと近づける。

俺は僅かばかり顔を背けようとするものの、スコールはお構いなしに俺の頬に口づけを落としていく。

 

「ふふ、お手付きくらいはしておかないと」

「しつこい女は趣味じゃねぇってな…」

「V.T.は生きている…それじゃ、次も敵対関係ではないことを祈っているわ」

 

スコールは顔を離す際に耳元で訳の分からない事を囁き、そのまま背を向けて立ち去って行く。

俺はその背中を見つめて小さくため息を吐きながら頬に付いたルージュの跡を手の甲でぬぐい取り、小さくぼやく。

 

「もう来るんじゃねぇっての…」




お待たせしました
FGOの方は設定すり合わせを兼ねて少々お休みして、此方をメインに更新していきます。
今後ともよろしくお願いします。
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