インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#40 一難去って次二難

昼休み。

俺は社会科資料室と言う名の自室のデスクで紅茶を啜りながら、目の前で浮かない表情のまま黙している2人を見つめる。

1人は今回のフランスが起こした事件の最大の被害者、シャルロット・デュノア。

彼女の性別は事件が起きた時に学園側で即訂正が入り、男子生徒から女子生徒へと肩書が変更されている。

勿論、男装してまで編入してきた理由は報道されている通りであり、学園側は前もってこの事態に対して対処すべく動いていたと言う事になっている。

これはあの生徒会長が気を利かせてくれた方便であり、実際のところ国外退去処分の後にフランスで処罰される可能性があったって言うんだから笑えない。

だが、結果として彼女の国家代表候補生としての肩書は守られ、こうして学園で勉学に励むことが出来るようになったのは非常によろしい結果だと俺は思う。

そして、浮かない顔をしているもう1人…それは、言うまでも無く織斑 一夏だ。

此奴が浮かない顔を押している理由はたった1つ…それは我を通そうとした結果、俺を病院送りにしてしまった――と、思い込んでいる――ことだ。

齢15…今年で16歳になる訳だが、それでも人(?)を殺しかけたと言う事実は一夏自身に重くのしかかり続けているんだろう。

結構な事だがな。

もし、これで能天気な面を俺に拝ませていたら、問答無用で顔面整形を施して見放していたところだ。

 

「で、用ってなんだ?」

 

重苦しい空気の中、いつまでも話し出すことができない2人に対して、俺は助け舟を出すかの如く話を切り出していく。

今は昼休み…時間も限られているし、午後は俺が受け持つ授業ばかりなので無駄にできないのだ。

 

「そ、そのお父さんは…」

「あ?報道の通りなんじゃねぇか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つーか、お前も大概優しいもんだな…」

「道具として扱われはしたけど…それでも…僕にとっては唯一の血縁で…」

「血縁だろうと他人は他人だぞ。お前に害意を成そうとした時点でそいつは敵だろうが」

 

しどろもどろと言った感じで話し出すシャルロットに、俺はすっ呆けた態度で答えを返す。

壁に耳あり障子に目あり、人の口に戸は立てられぬ…変なところで俺が外出していたところが漏れると面倒極まりない。

シャルロットは、お人好しではあるんだろう。

勿論、今回に限って言えばそれは美徳ではあるんだが、美徳であると言う事は利用されると言う事でもある。

シャルロットは父親にその優しさにつけ込まれて、スパイなんて役目を担いかけてしまった。

血縁だ、実の親子だって言うなら、態々危険な目に合わせるなんてしないはずなんだけどな…その点、血縁でもないのに親身になって身を案じてくれていたデボラの方がまだ親らしい。

いや、旦那の暴走を止められなかった時点でアレかもしれないが…。

 

「神は自らを助けるものを助ける…害意には自分で向き合う必要がある。その結末がどうあれな」

「そんな…僕は…」

「別に今生の別れになるわけでもねぇだろうが…」

 

俺は大きくため息を吐いて、落ち込むシャルロットを眺める。

…誰もが救われることなんて絶対にない。

何かを手に取るならば、その手に掴んでいるものを手放さなければいけない時が必ず来る。

あの狼は…終ぞそれが出来ず終いだったか…。

 

「で、お前の隣に居る俺の愚弟は、何をシケた面してんのかねぇ…?」

 

シャルロットとの会話を切り上げた俺は、一夏へと目を向ける。

俺に目を向けられた一夏はビクリと体を震わせると、真っ直ぐに此方へと視線を送ってくる。

 

()()()()()()?」

「っ…!」

 

俺はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら一夏を見つめる。

対する一夏はそんな俺の言葉に息を呑み、途端に視線を彷徨わせ始める。

 

『皆を守れるように強くなりたい』

 

純粋で眩しい輝きを放つ少年らしいその願いは、ともすれば両手をどす黒く染め上げると言う願いでもある。

俺たちが生きているのはあくまでも現実の世界だ。

無理な事は無理だし、押し通ろうと思えばそれなりに生贄も必要になってくる。

皆を守れるようにと言う事は、外敵すべてを打ち倒すと言う事に他ならない。

 

「お、俺は…兄貴を殺そうと、思った訳じゃなくて」

「だろうよ、無我夢中だったもんなぁ…我を押し通すために形振り構ってらんなかったもんな?けどな、それが現実だ」

「俺は、人殺しになりたいんじゃないんだ…ただ…守れるだけの力が欲しくて…」

 

あの時、俺の身体に突き立てられた雪片弐型…もし、俺でなかったら致命傷だったそれは、明確な殺意があったわけではなく、ただ一心に『勝ちたい』と言う執念の元に突き立てられたものだ。

本来であればISのシールドエネルギーである『絶対防御』が作動して、俺の肉体に傷1つ付くことは無かっただろう。

だが、雪片弐型には…白式にはワンオフ・アビリティである『零落白夜』がある。

あれにはあらゆるエネルギーを無効化すると言う、恐るべき能力が備わっているのだ。

それは、『絶対防御』も例外ではない。

 

「現状ISってぇのは兵器だからな…人殺しの道具だ。それこそスポーツで使うようなもんじゃねぇのは分かってるだろ?ま、零落白夜使って斬ったのが俺で良かったな。俺じゃなきゃあの一突きでお陀仏だ」

「なんでアンタはそこまで追い詰められてたのに怒らないんだ!?」

 

終始ヘラヘラとした態度で居たのが癇に障ったのか、一夏は俺に詰め寄って襟元を掴んで持ち上げる。

怒られた方がマシだと言わんばかりの表情だな…。

 

「そら、態とだからに決まってんだろ、バーカ」

「んなっ!?」

 

俺はあの時、我を通すと言う事の意味を…現状のISの本質を教える為に態と無防備を晒した。

そうでもしなければ遅かれ早かれ一夏はその手を血に染めて、酷く苦悩する羽目になる。

こんな平和な世界では、人を手にかけると言う事は重い…あまりにも重すぎる。

特にガキには踏みとどまることが出来なくなってしまうほどに…。

一夏には真っ直ぐ育ってほしいと言う俺なりのエゴもあるんだが…。

 

「てめぇらガキ共が徒党を組めば俺に勝てるとか思ってる時点で、思い上がりも甚だしいっつーに…。第一、行動不能に追い込むんなら初手で緊縛状態にして転がしておくってんだよ」

「わ、わざ、と…」

「さっきも言ったが、俺じゃなきゃ死んでたのは確かだ。それだけの深手ではあったからな。なんせ、内臓がグチャグチャになってたからなぁ…」

「うっ…」

 

一夏の白式には雪片弐型しか積まれていない。

つまり、初手で『神隠鬼現』で急接近してから関節を面白おかしい方向に曲がる様にワイヤーブレードで縛り上げれば、それだけで無力化が出来たのである。

一夏は先ほどまでの怒りがどこに行ったのかへなへなと床にへたり込み、シャルロットはあの時の怪我の具合を聞いてしまって口元を両手で抑えて吐き気を堪える。

 

「あの時、お前はシャルロットを守ってやろうと必死だったろ?守ると言う事はな、外敵を排除するのと同義だ。お前は俺を無力化しようとしていたんだろうが…零落白夜の事をきちんと考えてなかったからああいう事態になったってーわけよ」

「あ、アモン兄…アンタ…始めから…」

「バーカ、バーカ、当たり前だろうが。ガキ共の考えなんぞ全てまるっと御見通しだっつの」

 

俺は椅子に座り直して襟元を正し、一夏とシャルロットを見つめる。

 

「シャルロットに関しちゃ、はなっからやる気がねぇのが分かっていたしな」

「そ、そんな…い、いえ、やる気が無かったのは本当だけど…そんなに演技下手だったかなぁ…」

「付け焼刃も良いとこだろ…」

 

どうしてもシャルロットの演技は少女が憧れてしまうような男子像を元にしてしまっている節があり、演技がクサすぎるのだ。

勿論、この学園の女生徒達は基本的に男と言う存在に餓えつつ夢も見てしまっているので、察しが良い一部の生徒以外は勘付きもしなかっただろうが。

 

「で、一夏は一夏で最近白式がきちんと動かせるようになって天狗になりかけてたからな…零落白夜が如何にヤベェのかってのが再認識できたろ?」

「ひでぇよ…アモン兄…」

 

ケケケ、と悪い笑みを浮かべながら項垂れている一夏の頭をつま先で軽く小突いてやる。

…一応、これで気負う事もなく、かといって自分の持っているものを考えも無しに振り回すと言う事もなくなるだろう。

重ねて言うが、今の世界において零落白夜と言うその刃はあまりにも危険すぎる。

シャルロットに関しては、時間をかけて納得していくしか無いだろう。

血縁とて他人、親子であれど害意がれば敵とは言ったが、少女が割り切るには色々な事が短期間で起こり過ぎたからな。

帰国する機会があれば父親と面会することも可能になるだろうし、その時に真意を問い質す様にすればいい。

社会科準備室の悲喜こもごも…こうして、昼休みは穏やかに過ぎていった。

 

 

 

 

久しぶりの授業は少々騒がしくなったものの、滞りなく終えることが出来た。

俺が不在の間は各クラスの担任がローテーションを組んで受け持っていたらしく、また生徒達も授業を軽視することなく取り組んでいたと言う事だ。

ISが世界の中心に据えられているとはいえ、全員が全員その道に進める訳ではない。

そうしたときに一般教養が無いって言うのは非常に拙い訳で…あのタヌキの教育方針ってのも満更悪い訳でもないな、うん。

 

「はぁ…」

 

俺は深いため息を吐き出しながら、目の前の寮長室と書かれた扉の前に居る。

なんていうかこう…帰ってきてしまったなぁ…と言う変なストレスが俺の心に重くのしかかってきているのだ。

理由は主に1人アリスの所為なんだが…それもまぁ、元を正せば俺が軽率に口走った報酬の所為でもあるんだが。

俺は意を決してドアノブに手をかけて扉を開き、寮長室へと入っていく。

 

「ただいま…っと…?」

 

寮長室へ入ると部屋は薄暗く、人の気配が感じられない。

千冬はまだ職員室で今月行われる学年別トーナメントの調整作業に追われているので、この部屋に帰ってきていないのは明白なんだが…俺はてっきり全裸の束が触手状の得体のしれない何かと共に寝室に引きずり込んでくるものだと思っていたので、ちょっと肩透かしを喰らった気分である。

そういや、今日は教室にクロエが居なかったな…大方束に振り回されちまっているんだろうが…。

ともあれ、我が家(仮)へ穏便に帰って来ることができた俺はホッと胸を撫で下ろしながらリビングへ向かい、どっかりとソファーに座り込んでネクタイを緩める。

 

「…あいつらの匂いだ」

 

4人で共同生活をしていれば自ずとそれぞれの匂いに嗅ぎ慣れてしまい気付かなくなるものの、長期で旅に出てこうして帰ってきて香ってくると言っては何だが安心するってものである。

暫らくぼんやりしていると、キッチンの方からガタガタと何やら物音が響き始める。

どうやら、誰か居たらしい…と言っても束くらいだろうが。

…普通なら気付くはずなのに気付かなかったところを見るに、どうやら俺も相当腑抜けている様だ。

それだけこの学園での生活が日常になっていると言う事なんだろうが…。

キッチンへとやや重い足取りで向かうと人影はないものの、誰かが漁っていった痕跡が残っている。

…やはり、何かが居る。

 

「つってもこの部屋に侵入する剛毅な奴らは居ないだろうしなぁ…束を怒らせたいってんなら別だろうが…」

 

どうも、各国から要請があったのかこの学園の生徒は束の存在に関して消極的な態度を取っている。

現状、束がすべてのISコアの主導権を握り込んでいるので、怒らせてしまった時が怖いと判断したのだろう。

英断ともとれるその決断を、俺は手放しで褒めてやりたい。

一先ず、飯を作る必要もあるので俺はバカデカい冷蔵庫の扉を開けて中身を確認しようとする。

因みにこの部屋の冷蔵庫がやたらとデカいのは、千冬がダース単位で酒を仕入れてくるのと、束がこれまたダース単位で栄養ドリンクを何処からか仕入れてくるのが原因だ。

千冬は酒豪な上、学園と言う立場上売店に酒を置くことが出来ない為にダース単位の注文になってしまうのは仕方が無いのだが、束の場合は基本的に食事なんてレーションで充分と思っているクチなので、こうして栄養ドリンクだけで乗り切ろうとする節がある。

クロエに料理を仕込んでキチンと食わせる様に仕向けてはいるものの…クロエもまだまだ料理が下手な状態で満足な出来の料理を提供できずにいたりする。

どうせ碌なものが入っていないのだろうな…と、諦めムードで冷蔵庫を開けた俺の目の前に広がった光景は、予想を反したものとなった。

 

「階段…?」

 

そう、階段である。

俺が留守にしている間にまた部屋を改造したのか…?

放っておくと本当に何をしでかすのか分からない辺り、天災らしいと言えば天災らしい。

何があるのかを確認するために、俺は意を決して階段をゆっくりと降りていく。

特に空気に違和感がある訳でもなく、また空調がしっかりしている為肌寒さも感じる事がないので快適な空間と言えば快適な空間と化している。

10分程階段を降っていくと、可愛らしい人参をモチーフにした扉が視界に入ってくる。

俺は特に警戒することもなくその扉を静かに開けて、スタスタと中に入っていく。

そも俺があの階段を見つける様にしていた時点で、束は此処へ俺を呼び込むつもりだったのは手に取る様に分かる。

 

「くんくん…アモンの匂いが濃くなったよクーちゃん!」

「束様、アモン様ならその…背後にいらっしゃいます」

 

束は深紅に金の蒔絵を施された華の様に鮮やかなISの目の前で座り込んだまま、空間ディスプレイを無数に展開させてそれらをほぼ同時に操作している。

およそ人間業とは思えない情報処理を行いつつ、傍らに控えていたクロエと日常会話を難なくこなすその姿は、成程…確かに天才なのだろうな。

 

「テメーは何を作っていやがりますかね!?」

「いだだだ!!!」

 

俺は素早く束の背後に踏み込んで、後ろから束の両頬を思い切り抓って引っ張る。

よもや自分専用のISを今更作っているとは考えにくい…と、なると答えは1つと言う事になる。

俺は深いため息を吐いて束から両手を離す。

…ため息増えた気がするな。

 

「えへへ~、アモ~ン…」

「な~に甘い声出してんだか…。クロエ、お前サボったな?」

「……」

「おいこら、そっぽ向くんじゃねぇよ!」

 

束は全ての空間ディスプレイを消失させると、俺の身体を万力の様に締め上げる様に強烈なハグをしながら胸元に顔を埋めていく。

俺はとりあえずは優しく抱き返してやってから、クロエをジト目で叱責しようと声をかけるものの、クロエは聞こえていないと言わんばかりに顔を背けて俺と視線を合わせようとはしない。

…こいつ…。

 

「束の面倒見ねぇと拙いのは分からんでもねぇけど、学園の生徒なんだからキチンと授業には出ろ、マジで。キチンとしてくれねぇと、束や俺の顔に泥塗ることになるんだからな?」

「…申し訳、ありませんでした」

「分かればよろしい」

 

クロエの行動原理は束や俺に尽くすことに絞られている。

少々汚いやり口ではあるものの、俺や束を出汁にしてやれば案外素直に言う事を聞いてくれる。

先ほども思ったが、どうも人間味が増してきたな…クロエ…。

 

「で、箒に頼まれでもしたか?」

「んふふ~、前々から組み上げてはいたんだけどね!この間箒ちゃんから専用機が欲しいって相談受けちゃってさ~。束さんとしてはこのチャンス活かすなら今でしょ!って感じでギンギンになるよね!」

「ならんでええわい…ったく…どうすんだよこれ…」

 

箒が専用機を欲する…と言う事態が起こる事は充分に考えられたものではあるものの、こうも早い段階で欲しがるとも思ってはいなかった。

なんせ、ISは大嫌いな姉の作品だ…本来であれば関わろうとも思わない代物の筈だ。

箒自身に余裕が無い状態に追い込まれているとも取れるが…まぁ、欲すること事態は構わない。

誰しもが専用機と言うものに憧れを抱くのだから。

強請った相手が問題なのだ。

 

「現行最強を目指して開発を進めてるんだ~。なんて言ったってこの束さんのラブリ~スゥィートシスターである箒ちゃんが扱うんだからね!」

「デショウネ…」

「思い切ってコアも新造して搭載しちゃったよ~、ほめてほめて~」

「褒められるか馬鹿!!!」

 

ISコアは現存するすべてがIS委員会によって一括管理され、各国の国力に応じて分配されている。

そんな最中日本人の少女である篠ノ之 箒の手元に現行最強を謳ったISが専用機として支給され、なおかつ新造されたISコアが搭載されている…なんてことが世界中に知れ渡るのである。

そんなことになったら箒の人権は無視され、骨肉の争いが各国間で起きる事は想像に難くない。

束は天才だが周囲の事を省みない…故に天災とされてきたのだ。

 

「え~、いいじゃんケチンボ~。久々に会えたんだよ?ハグしてくれたけどキッスとか色々もっとしてくれてもいいじゃん~。あっちも準備、い・い・し?」

「よかねぇわい…ったく、どうすんだよこれ…」

 

俺は抱き着いたまま衣服を脱ぎ始めた束を尻目に、災いを呼びそうな新型機を睨み付ける事しかできなかった。

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