インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#42 放課後談話

「学年別()()()・マッチ・トーナメントねぇ…」

 

夕焼けに暮れなずむ校舎…のすぐ傍にある喫煙所。

俺はそこで一人煙草を吸いながら、手元にある資料を静かに眺める。

今月に開催される生徒達の最初のお披露目会である学年別トーナメントは、二人一組のタッグ・マッチ戦へと変更された。

理由は単純にして明解。

トーナメント中にほぼ確実にトラブルが起こるため、アリーナ内で対処できるISを増やす為だ。

二年生、三年生ならいざ知らず、一年生でトラブルに対処できるのか…?

と言う疑問は当然のことながらあるわけなのだが、そちらのトラブルに関しては俺が居る。

例えアリーナを遮断する防壁があったとしても、俺にとっては壁が無いのと変わりがない為だ。

問題はそのトラブルを起こす元凶が、専用機持ちの操るISの中に存在していると言う事だろう。

全学年に点在している専用機の整備報告書を、天災殿に見せる為と言う嘘をでっち上げてまで提出させたものの、当然のことながらシロ。

学園の方で詳細な整備をやろうとしても、各国から機密が含まれているので駄目だと真っ向から拒否されてしまう始末。

実際に天災殿にバラさせる案も考えたが、後々に起こるリスクと本人のやる気を考えるとこの案を実行する気にはなれなかった。

つまり現状八方塞がりの後手後手っぷりである。

 

「隣、失礼しますわ」

「お~、別嬪さんがおっさんに何か用かい?」

 

こんな煙たい場所に来る筈も無かろう人物、セシリア・オルコットは煙草の煙に眉根を寄せる事も無く俺の隣に座り、デバガメの様なニヤニヤとした笑みを浮かべている。

俺は慌てて煙草を灰皿の中に捨てると、煙を手で払っていく。

 

「別に、吸っていてもよろしかったのですが?」

「アホ抜かせ。副流煙だ何だって煩いってーのに、大事な国家代表の卵に不健康なモン吸わせる訳にゃいかねぇだろうが」

「言動はどうでも、紳士的ですわね…」

 

セシリアは俺の態度が可笑しいのか口元を手で隠しながらクスクスと笑い、すぐに表情を真面目なものに正す。

 

「随分と大胆な行動に出ましたわね?」

「お~、どうせあのバカ兎が言いふらしたんだろ?朝飯ん時居なかったし」

 

IS学園は基本的に封鎖された環境であることは、以前にも述べた通りだ。

詰まるところ、学園内にしか非日常的刺激を得る方法が無いため、日夜生徒達は退屈と戦う為に刺激を求め続けている。

で、今年に入って生まれた刺激…男性操縦者の編入と言う一大イベントが起こった訳なのだが、男性操縦者の片割れである織斑 一夏はあの通り鈍感オブ鈍感を超えた朴念神であるため、存在自体は刺激になろうともロマンスに発展するにはあまりにも動きが弱く、その周囲を固めている専用機持ちが強力過ぎて傍観者にならざるを得ない。

では、もう一方の俺はと言うとそも子供に変な目を向ける事も無く一線を引き続けている為に自分たちでは話を発展させることが出来ない為にやはり傍観者にならざるを得な…かった。

過去形になってしまったのには理由がある。

それは学園全体に、皆の憧れである千冬と世界中からほぼ指名手配されているような状態である束と肉体関係を持った所か相思相愛状態に陥っていると言う噂が上から下まで広まってしまったが為だ。

お陰で学園の上層部はこの事実関係の調査をする羽目になり、俺と千冬の昼休みは潰れる…のは自業自得として、学園外にも噂が漏れ出したのか新聞社やテレビ局から引っ切り無しに取材の申し込みの電話が来ていて、その対応に追われてしまっている。

男の影がまったく無かったからなぁ…千冬。

 

「妖怪の正体見たり、枯れ尾花…と言うのでしたか?」

「随分日本語に詳しいもんだな」

「いえいえ、先生程ではありませんわ」

 

俺は肩を竦めて苦笑する。

暗に、言動通りの女たらし…とセシリアは俺に言いたいのだろう。

否定はしないし、何だったら五股だって仕掛けるくらいの気概はある。

イイ女ってのは何人いても良いもんさね…。

 

「えぇ、背中は押しましたけれども…ここまで節操無しとは思いませんでしたわ…」

「ケッケッケ、案外気楽なもんだぜぇ。仲が良けりゃ猶更なぁ…!」

「悪い顔で凄まないでくださいまし。ただの悪党にしか見えませんわよ…」

 

セシリアは呆れた様なため息を漏らして首を横に振り、俺の事をジト目で睨み付けてくる。

俺はそんな視線を軽く受け流して、三下笑いをするだけだ。

 

「ですが、お陰で締め付けもキツクなってしまったのでは無いのですか?先生は一夏さんの様に自由は与えられていないのでしょう?」

「ソコなんだよなぁ…なんせ根なし草で定住してねぇからな。フラフラっと行方くらませられたら困るってんで、学園から一歩も出られねぇってのがなぁ…」

 

千冬は兎も角として、束とそう言う関係に至った…と言うのは、学園としてもIS委員会としても非常に困った事態になってしまった。

現状、ISコアを管理運営しているのはIS委員会と言えども、そのコアのマスターキーとも言うべき制御権を一括に管理運営しているのは束だ。

世界は今、ISによってバランスを保っている…つまり、束に近しい存在であればある程、この世界を牛耳れる存在になると言っても過言では無いだろう。

大国であればある程、国の防衛力をISに依存してしまっているからな。

そんな最中にひょっこり近しい存在になってしまった俺が現れてしまって、委員会は俺の扱いについて大慌てで議論する羽目になっているだろう。

このままだと、俺は一生旅ができない身体にされそうだ…。

 

「それこそ首輪をつけられて飼い殺し…なんて憂き目になるのでは?」

「そこんところは束が許すと思うか…?」

「篠ノ之博士を見ている限り、飼い殺し…は考えられませんわね…」

 

束は心を許した相手にはとことん甘くなるし、とことん何やっても許してくれる…そう考えてしまう節がある。

実際のところ千冬達も『まぁ、束のやることだし…』と、諦めて許してしまったことが多々あったと思うし、ブレーキがイかれてしまっている以上諦める他無い。

詰まるところ、俺でも束の制御は出来るなんて思ってないし、一度動き出したら殺すか何かしないと止まらないだろう。

 

「この件は先生の自業自得ですし、わたくしとしても…まぁ胸の空くような出来事ではあったので良いのですが…」

「ですが…なんだよ?」

「何か探りを入れていませんか?」

 

セシリアは大人顔負けの鋭い眼差しになり、俺の事を睨み付けてくる。

流石は大貴族のお嬢様…怪しい動きには敏感になっているようだ。

貴族社会ってのは、仲良しこよしなんてお花畑な雰囲気が広がっている世界じゃないからな…食うか食われるかの政争が渦巻いている。

水面下で足をバタつかせている白鳥の様に。

 

「ところが何にもねぇんだよなぁ…これがな」

「篠ノ之博士が突飛も無い事を仰る…と言うのは理解していますが、片手間に第三世代機を作る様な方が機体整備に関して興味を持つとは思えません」

「それこそ俺の預かり知る事じゃねぇってば。そりゃ、俺は千冬や束とふか~く繋がっちゃいるけどな。一応ISに関しちゃ知識は知っていても教員としちゃ関わってねぇ。つまり、何も知らねぇってこった。一応、普通科の担当教諭だぜ?」

 

実に勘が鋭い…嫌いじゃねぇけどな。

束が関わる、と言う事でセシリアの国の方でも色々と探りを入れろと言われたんだろうがな。

V.T.システムの事に関しちゃ表沙汰にする訳には行かない…信憑性もクソもない情報源からの言葉だが、無視する訳にはいかない。

もし、表沙汰になってしまったら、各国にちょっとした混乱が起こることは明白。

どの国もが潔癖を表明し、そしてもし…いずれかの国に所属している機体に搭載されていたらどうなるのか?

傍観者としてはニタニタと笑いながら見ていられるが、当事者には堪ったものではないだろうよ。

 

「いっそ、教える側に回った方が良いと思いますわ。最初は半信半疑だったあのテキストのお陰で、わたくしも実力が伸びてきているのは実感できていますし」

「そもそも、俺ぁ教える側にゃ向いてねぇんだよ。面倒だからな」

「面倒だと感じている人間が、イラスト付きでテキスト用意するとは思えません」

「凝り性なんだよ…」

 

ISを教える側に回る…と言う打診が無かった訳でもない。

この喫煙所を利用していると、もう一人の喫煙仲間であるタヌキの爺様と顔を合わせる事になるからな。

IS学園はその特異性から慢性的な人材不足に陥っている。

ISの取り扱い方を教えようにも、優れた人間は各国の軍部が抱きかかえてしまっていて教えられる人間を揃える事が難しくなっている。

かと言って、無理矢理人材を確保しようとすれば学園に対する内政干渉が強まる可能性が高くなり、中立性を維持できなくなる。

そう言った事情があってか、少ない教師を酷使する状態に陥ってしまっているのである。

家計だけでなく人材までもが火の車…幸い給料は使う暇が無いとは言え阿呆みたいに高く設定されているので、辞める人間は居ないみたいだが。

兎に角そんな事情があって、巧みにISを扱う事が出来る人間と言うのは非常に貴重であり、もういっそ俺の事も徴用して本格的な教師に仕立て上げてしまおうかと画策しているらしい。

 

「つーかな、ただでさえ普通科目の授業受け持ってんのにISの授業も見ろとか俺に過労死しろってか?」

「あら、先生は悪魔なのだと憚らないのですから、いっそ死なないのでは?」

「阿呆、首切られたり心臓ブチ抜かれたら死ぬわい」

 

多分、死なないと思うが。

ともあれ、くっそ疲れる羽目になるのは目に見えてしまっているので、俺としては御免被りたい。

それはタヌキの爺様にも伝えているのだが、一向に諦める様子を見せず…近々切り札を切られそうで戦々恐々としている。

 

「そういやお前さん…タッグ・マッチ・トーナメントの相方は決まってんのか?」

「えぇ、鈴さんと組むことが決まってますわ。流石に山田先生にやられっぱなしと言うのも癪ですし、ここは一度組んだ相手とやってみようかと」

「まぁ、あん時ゃ酷かったからな…」

 

以前の実習の時に二人がかりで真耶に挑んで、一方的に遊ばれて撃墜されていた光景を思い出す。

あの時は千冬が煽てて嗾けたと言う事もあったが、個人のアクが強くて連携もへったくれも無い状態だった。

向上心の強いセシリアと鈴が組むとなると…優勝候補となることは間違い無いだろう。

 

「えぇ…あんな無様はもう晒したくありませんわ…」

「箒は…一夏辺りと組むんだろうな」

「いえ、それが…どうも一夏さんはデュノアさんと組む様でして」

 

シャルロットが…ねぇ…?

一夏と組みたいと言う女子の競争率は凄まじいものを誇ったろうに、いったいどうやってその席を手に入れる事ができたのやらな…?

俺は内心箒に合掌しつつ、どうやって引っかき回したものかと思索を巡らせていく。

 

「先生、わたくしはこれで失礼しますわ」

「おーう、門限までには寮に戻れよ~」

「勿論、これでも優等生ですので」

 

セシリアは飛び切り綺麗な笑みを見せて立ち上がると、俺に背を向けてアリーナのある方角へと歩いていく。

恐らく、これから鈴と動きの擦り合わせをするのだろう。

初日でツンケンしてたお嬢様が、よくも変わったもんだ。

さーって期末テストの準備でもするか~、等とぼやきながら喫煙所を後にし、校舎の中に入っていくと一人の女生徒が声を荒げる場面に遭遇し、思わず俺は曲がり角に身を隠して様子を伺う。

 

「あの男が姉さんや千冬さんに何か吹き込んだんですか!?」

「…専用機はお前が思っている様な軽いものじゃない」

 

声を荒げる女生徒…篠ノ之 箒は、相対している人物である千冬に対して苛立ったように声を荒げ続ける。

恐らく、箒の専用機になる予定である第四世代型IS紅椿の受け渡しの権について千冬に言い渡されたのだろう。

何とも、損な役回りを押し付けちまった形になってしまい、俺は深いため息を吐き出してしまう。

こういう役目は嫌われ者が負うものだろうに。

 

「そんな事は分かっています!専用機はこの学園にあるどの機体よりも強くなる!けれども私には今その力が必要なんです!」

「力が欲しければそれに見合うだけの能力を持て。凰、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ…専用機を持つ者は皆相応に能力を身に着けてきた。それが出来ないのであれば、貴様には専用機に触れる資格すらない」

「だったら、一夏は!?」

「奴は貴重な男性操縦者だ。データ取りは必須だし、何よりも単独行動中に身を守る為の武器が必要になる」

 

千冬は可能な限り冷静に、そして優しい声色で箒を諭す様に口を開いていく。

だが、それでも箒は納得できないでいる。

ただ、その考え方はあんまりにも身勝手ではないかと思う…思春期の複雑な年代ではあるが。

だからといって所有が認められるのかと言えば、それとこれとは話が別なんだがな。

 

「おっと、アモンは…等と言うなよ?奴の技量の高さは私と同等かそれ以上だ」

「変に持ち上げんじゃねーよ、千冬」

「っ…!!」

 

流石に盗み聞きしているのも限界に感じたので、曲がり角から姿を晒すと千冬は小さく舌打ちをし、箒は心底驚いたのか身体をびくつかせて慌てたように此方へと振り向く。

 

「い、いったい何処から…?」

「あの男が何か吹き込んだんですか~ってとこから。吹き込んだぞ~、ガキが持つにゃヤバイくらい強烈だったからな~」

 

箒は震える声で俺を睨み付け、千冬は片手で頭痛がするかのように頭を抑える。

 

「あんなバケモン振り回されちゃ、流石に俺も抑えきれねぇからなぁ…まぁ、お前さんを試す良い機会だし要は勝ちゃ良いんだよ、勝ちゃぁな」

「…アモン・ミュラー…お前のせいで…!」

「~~♪」

 

俺は箒をあしらう様に口笛を吹いて敵意を誤魔化す。

あんまり続くようなら、あえて紅椿に乗せてボコボコにしてしまうのも良いだろうが…今は闘争心を刺激させてやる気を引き出してやった方が良いだろう。

 

「トーナメントで優勝する…そうすればすぐにでも渡してくれるんですね…?」

「各種申請があるし、根回しもしなくてはならん。だが必ず専用機は引き渡そう」

 

箒は大きく深呼吸をして千冬と専用機の受領を約束し、俺に対しては殺意すら籠っているような視線を送り込んでくる。

随分とまぁ…頼れる奴が居ない奴らしい余裕の無さだ。

一夏しか心を許し切れないと言わんばかりの敵意は、俺が一手に引き受けた方が良い。

でなければ、クラスメイトにも八つ当たりしそうだしな。

 

「…アモン・ミュラー、私はお前が嫌いだ」

「お~お~、嫌いで良いさ。感情向けられる分まだ心地いいってもんさ」

「アモン、煽るんじゃぁない…はぁ…」

 

宣戦布告とも取れる言葉を、俺は軽めに受け取って笑みを浮かべると、千冬は困ったように頭を抱え込んでしまう。

中々珍しい姿ではあるので、眼福と言えば眼福である。

箒は俺の身体にわざと体当たりするようにしてその場から立ち去っていくと、今度は千冬が不満げな顔で俺の事を睨んでくる。

 

「なんで出てきた!?」

「いんや、箒の敵意は俺だけに向けさせてた方がまだ気が楽だろうなって思ってよ」

 

千冬は一足で俺まで詰め寄るとネクタイを掴んで俺の頭を引き寄せ、八つ当たり紛いの頭突きをお見舞いしてくる。

大して痛くも無い一撃ではあったものの、千冬は若干涙目だったので思っていたよりもダメージが跳ね返っていたらしい。

俺は頭を千冬から離すと千冬の額を優しく撫でながら、にへらっと笑みを浮かべる。

 

「まぁ良いじゃねぇか、これで箒もISの授業をしっかり受ける様になるんだろうしな」

「いや、良くないだろう!?」

「遅かれ早かれ専用機は渡っちまう。だったら、越えるべき壁役くらいはやっておかなきゃ、箒も本気にはなれねぇだろ?」

 

専用機を受領して俺をボコボコにしてやりたいだろうしな…一夏の注目を受ける為に。

今はそれでも良い。

力と向き合うには、実際に手にしないと分からない事もある。

束が関わるって事の恐ろしさも身に沁みるだろうしな…。

 

「おい、三下の悪役がするような笑みを浮かべるな」

「おっと、いけねぇいけねぇ…クールに笑ってねぇとな。ケッケッケ…」

「なんで悪役臭が抜けないんだ…お前は…」

 

千冬は改めて呆れたように溜息を吐く。

俺はそれに対して決まり文句の様にこう言い放つ。

 

「そりゃ…悪魔だからさ」

 

と。




尚、翌日一夏がシャルと組んだと言う事実を知る+自分の告白が変な噂に変更されてしまっていることを知り、逆恨みパワーが増したとか何とか…


はい、お久しぶりです。
こちらは五か月以上も放置でしたね…暫らくは此方をメインに更新していきますのでよろしくお願いします。
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