インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#43 黒い雨

箒から明確な拒絶を受けて数日…真っ当な問題解決の方策を打ち出せないまま、学年別タッグ・マッチ・トーナメント開催日が刻一刻と迫って来ていた。

V.T.システムに関しては、余計な情報が広がってしまう事を恐れて、ごく一部の教師陣と生徒会長のみに情報を開示するに留まっている。

下手に生徒に広まろうものならば、噂に尾鰭がついて外部へと漏れ出した末に火消しできないほどの山火事(国際問題)へと発展する可能性が否定できない。

ましてや今回のトーナメントはIS操縦者を目指す者にとって、外部へ自分をアピールするための大事なイベントであり、専用機を送り込んでいる国にとってはその性能を惜しみなくアピールする場にもなる。

特にEUで開発されているブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンは、イグニッション・プランと呼ばれる統合防衛計画その次期主力機の選定に関わってくると言う事もあって、トーナメント開催日が迫るにつれて整備班がピリピリしてきているとラウラとセシリアが互いに愚痴を溢し合っていた。

本人たちは整備班に助けられている部分もあるので、大々的に文句を言うわけにもいかないのが実情だ。

国家代表候補生と言うのは、何とも肩身が狭いものだ。

そんな頭痛の種が今か今かと芽吹こうとしている最中、俺はある一つの問題に関して頭を悩ませていた。

 

「ワンオフ・アビリティのリキャストタイムを短くしたい?」

「応よ。この先、一分のデメリットを抱え込むのは危険な気がしてな…」

 

寮の消灯時間はとうに過ぎ、日付が変わろうとしている頃。

ベッドの上で千冬と束に挟まれながら、黒鬼の転移能力…『神隠鬼現』のリキャストタイムの問題を束に相談する。

使用後一分…このデメリットを長いと見るか短いと見るかは人それぞれではあるのだとは思うが、こと対IS戦では長く感じる。

現在空軍で採用されている戦闘機は音速…つまり秒速換算で345m/s、時速換算で1225km/hとなる。

すべてのISの元祖となる白騎士の時点で、白騎士事件の際に戦闘機を無力化して振り切ったと言う事実があることに加え、戦闘機よりも速い数百発に及ぶ弾道ミサイルをたった一機で撃墜したと言う事実がある。

この弾道ミサイル、最低速度でもマッハ5…6120km/hだ。

それらを鑑みれば狭いアリーナとは言え、ISの戦闘機動は推して知るべし。

超高速戦闘ともなれば、この一分と言う時間は非常に長いものとなるだろう。

 

「お前の強さであれば、ワンオフ・アビリティに頼らなくても問題ないのではないか?」

「千冬や一夏みてぇに攻撃系の能力ならまだしもな…言い換えれば一瞬しか展開できねぇ盾みてぇなもんだ。俺以外の生き物を移動させられるわけでもねぇし、あの長さは手痛いのさ」

 

V.T.システムの問題をどういった形であれ解決したとしても、今後も俺や一夏絡みで事件が起きないとは決して断言できない。

あのスコール、どうにもこっちに興味津々って感じで仕事でもないのに首を突っ込んできそうだからな。

俺だけがトラブルに巻き込まれるならまだしも、生徒まで巻き込む羽目になっては目も当てられない。

 

「ほんっと優しいよねぇ。かんけーない其処らの凡人なんか切り捨てちゃえばいいのにさ~」

「お前はそれで良いんだろうが、俺はそうでもねぇんだよ…なんせ繊細に出来てっからな」

 

束は俺の思考を読み取って、不満げに唇を尖らせながら俺の頬を指先で突っついてくる。

千冬は千冬で呆れたようにクスリと笑って、より身体をこちら側へと寄せてくる。

 

「フン、そう言う所が良いんじゃないのか?こいつの面倒見の良さは折り紙付きだろう」

「え~、視線は独占したいんだよね、束さんは」

「視線だけで良いなら私は身も心も頂くがな」

「牽制しあうの止めろっつの」

 

束と千冬は俺の身体を挟んで視線でバチバチと火花が散る様な殴り合いを行い、俺はそれをすぐさま止める為に二人の額にデコピンをお見舞いして黙らせる。

二人ともその一撃で渋々と言った感じで矛を納めてくれたので、俺としてはホッと一安心したところだ。

 

「で、束…できんのか?」

「できない事も無いけど、こればっかりは一朝一夕って訳にも行かないだろうねぇ。コアも束さんほど頭良くならないし、まずは色々と数をこなしていかないと」

第二次形態移行(セカンド・シフト)をしろとでも言うのか?戦争をしているわけでもないし、この学園で数をこなすなんて到底不可能だと思うが…」

 

千冬の口から出たセカンド・シフト…これはISに蓄積された経験値を基に、より最適化された姿へと()()する…と言う事らしいのだが、発生件数が片手で数えるほどしかなく、またその条件も推測でしかない。

仮説は色々と立てられるが、それを実証するにはコアの数が希少だと言う事もあって実験することも儘ならないと、何かと謎が多い現象ではある。

束はまるでチェシャ猫の様なニヤケ面を浮かべると、掛布団の中に潜り込みモゾモゾと下の方へと行ってしまう。

 

「…たまにお前らが本当に人間なのか疑わしく思う事があるんだけどな?」

「あそこで切ったと言う事は、話に飽きたかセカンド・シフトをしろと言う事なのだろうな」

 

俺は下で悪戯をしようとしている束の首を足で羽交い絞めにしながら、静かに溜息を吐いた。

夜はまだ、長い。

 

 

 

 

 

学校での授業は終わり、アリーナのスタンドライトに照らされながら、その艶やかな黒い装甲を身に纏って俺は敵意の籠った数々の攻撃を避け続ける。

反撃は無し。

ワンオフ・アビリティの使用は無し。

瞬時加速はアリ。

以上の条件の下で、一夏、鈴、セシリア、シャルロットの4名を相手にしている為だ。

ラウラが参加していないのは、単純にアイツが今日の授業を欠席したためだ。

軍人でああるラウラが体調を崩してしまう…と言うのは、彼女の出生からしても俄かには信じがたいものがあったが、遠い異国の地に1人きりと言うのも少々心細いものがあるだろう。

俺はあまり追及はしてやるなよ、と千冬にやんわりと釘を刺しておいた。

 

「装甲には掠ってるのに…!!」

「とことん遊んでるわね、シショー!!」

 

シャルロットと鈴が未だ決定打を与えられない事に焦りを感じてきたのか、可能な限りの弾幕を展開して俺の動きを制限しようとしてくる。

シャルロットは素早く弾切れになる銃器を高速切替(ラピッド・スイッチ)で次々に切り替えていく。

その豊富さたるや空飛ぶ武器庫と言っても差し支えないだろう。

シャルロットのIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は第3世代型ではないものの、第2世代型の特徴である大容量の拡張領域を持っている。

故に他機種よりも豊富な重火器を搭載することが可能だ。

そこにラピッド・スイッチが加わることで、残弾量に気を配る必要があるものの、濃密な弾幕を展開し続けることが出来ている。

其処に加えて鈴の見えない衝撃砲による攻撃だ。

一撃必殺ではなく、短時間でチャージし発射することができる散弾状に放ってきている。

見えない分非常に厄介ではあるが、完全に見えないと言う訳ではない。

それが弾丸上に発射されていると言う事は、大気中の空気の動きに多少の変化が起こると言う事だ。

圧縮すれば大なり小なり加熱もするしな。

俺は黒鬼のハイパーセンサーを高感度モードに切り替えてデータを検出。

最初のころこそ幾度か攻撃を喰らう羽目になったが、弾道予測さえできるのならば避けられない道理は無い。

また、黒鬼に搭載されているアンロック・ユニット型のウィングスラスターは高出力の物を積んでいる為、速度と言う点では近接格闘型の白式に迫るものがある。

意のままに動かすことができる今となっては、避けるだけの鬼ごっこなどそれこそ児戯に等しい。

 

「いただきましたわ!」

「ちょいさ!」

 

シャルロットと鈴の弾幕に翻弄される体で機体を動かしていくと、それを隙と見たセシリアがBT兵器を俺の周囲に展開し、一斉射撃。

その避ける隙間が無いと思わせるような幾筋もの光を僅かに身体を傾け、足と腕の隙間を縫わせる様にすることで直撃を避ける。

 

「出鱈目ですか!!」

「そぉこぉだぁぁぁ!!!」

 

どうしてもその瞬間、俺の動きは止まってしまう。

シャルロットと鈴による面制圧のような弾幕。

セシリアの檻のようなBT兵器による射撃。

この3つがカチリとピースが嵌ったパズルの様に組み合わさる事で、俺の動きを刹那にも満たない時間制限させる。

やってくるのは若武者。

零落白夜に対する恐れが抜けきらなくても、必死に足掻いて折り合いをつけようとしているクソガキ。

織斑 一夏はタイミングを見計らったように鈴とシャルロットの弾幕を、瞬時加速を織り交ぜながら掻い潜りその手に持つ雪片弐型から光を迸らせながら大上段で振りかぶる。

俺は鬼面の奥で口元を笑みに歪め、微かに後方へと軸をずらす。

振りかぶった以上は最早振り下ろさざるを得ない。

振り下ろされた雪片弐型は俺の身体を撫でる事無く空振りに終わる。

 

「クソッ!!」

「ケーッケッケッ、どうしたどうした?そんなもんかぁ?」

 

俺は目の前で悔しがる一夏達の激情を逆撫でするように挑発し、一夏から全速後退をかけようとした瞬間、側頭部にとんでもない衝撃が走る。

ロックオンアラート無しと言う事はマニュアル射撃…ずいぶんと精密なその一撃は、無防備だった俺の身体を容易く弾き飛ばして地面へと墜落する。

 

「アモン兄!?」

「……貴様ら、そこを退け」

 

ISの生体保護機能によって意識を失うと言う事はないし、絶対防御によって傷つく心配も今のところはない。

俺は身体をバネの様にして跳ね起こし、墜落したことで起きた砂埃の中から歩いて出てくる。

視線の先に居るのは、俺と同じ機体色であるドイツ製第三世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』。

使用者は――

 

「随分な挨拶じゃねぇか…ラウラ?」

「…私と戦え、アモン・ミュラー」

「待てよ、ラウラ!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは()()()感情を表に出さないように冷淡な表情を浮かべたまま、主武装である大型のレールカノンの砲口を此方へと向けてくる。

ロックオンアラートが鳴り響いたところを鑑みるに、ラウラは俺と本気で戦いたいようだ。

しかし、訓練に水を差された一夏は、黙っていることはできずにラウラへと不用意に近づいていく。

 

「不意打ちでアモン兄撃っておいて、戦えも何もないだろ!」

「黙れ、織斑 一夏。黙らなければお前から潰す。他の奴らもだ…私の邪魔を、するな!」

 

鬼気迫る…と言って差し支えないラウラのその表情は、明らかに異常とも言える。

一夏はラウラの気迫に気圧される様に動きを止め、セシリア達は咄嗟に手に持つ武器をラウラへと差し向け、一瞬で緊迫した空間が広がっていく。

俺はそんな状況を打破するように、片手を上げて退いてろと言わんばかりに手を振ると同時に、束へと連絡を入れる。

 

『おんやぁ~、いっくん達と遊んでるあっくんじゃないですかぁ~』

 

ニヤニヤとチェシャ猫の様な笑みを浮かべているのが、ありありと想像できるような声で束が応答してくると、俺は溜息を吐きたいのをぐっと堪えて束へと話しかける。

 

「あ~、単刀直入に。ドイツで何かあったな?」

『え~、束さん知らな~い』

「知らなきゃ、シュヴァルツェア・ハーゼ隊の周辺調べろ。俺が遊んでやってる間にな」

 

学園で過ごしているラウラは、堅苦しいところはあっても少女らしい一面を持っていたし、事実としてそれなりに付き合いも良いと言うのが俺の中での評価だ。

それが今日授業をサボった挙句に無警告からの砲撃だ…なにかキナ臭い事が起きていると考えても良いだろう。

 

「で、何して()()んだ?鬼ごっこなら俺が強すぎて話になんねぇぞ?」

「……!!」

 

冗談めかして減らず口を叩いてやれば、ラウラは問答無用とばかりに俺目掛けてレールカノンの砲弾を警告なしに撃ち込んでくる。

砲弾は正確に俺の胴体…心臓目掛けて飛来するが、俺に直撃する瞬間にその姿を消してしまい、終ぞ俺に当たることは無い。

 

「プロレスごっこか?かかってこいよ黒兎。俺よかISに慣れてるんだろ?」

「莫迦に…するなっ!!」

 

ラウラは両手に仕込まれていた近接用の格闘戦用装備であるプラズマ手刀を起動させ、近接戦闘を仕掛けるべく瞬時加速で突撃をする。

俺はその場から動かずにまるで舞台役者の様に大仰に両腕を広げてラウラを迎え撃ち、そして俺との距離3メートルと言った至近距離でラウラは動きを止める事になる。

 

「なにっ…!?」

「阿呆が…何の下準備も無しに舞台に上がるからだ」

 

両腕を広げた際に展開された可視化困難な程に細められ、しかし頑丈な鋼糸…黒鬼に搭載されているワイヤーブレードは俺が使用している()と遜色なくその強度を示し、若干の違和感が残るものの俺の繊細な指の動きに合わせ変幻自在にその姿を変えていく。

ラウラは俺が作り上げた文字通りの網によって突撃を阻止され、身動きを封じられている。

 

「無警告で人の頭ぶち抜きやがって…泣くまでテメェを折檻してやろうか…!」

「まだだ!!」

 

ラウラは身を捩る事で可動範囲が狭まっていたレールカノンの砲口を大まかに此方へと向ければ、そのまま我武者羅に砲撃を始める。

初撃で鋼糸に触れた砲弾は、まるでバターの様に真っ二つに斬り裂かれて別れていき、俺の両脇の地面を深く抉っていく。

しかし鋼糸もタダで済むわけがなく、その初撃でラウラの拘束が緩む形になってしまう。

ラウラは拘束が緩んだ瞬間に砲撃を出鱈目に行って此方を牽制しながらプラズマ手刀を振るう事で、ハイパーセンサーによって可視化された糸を斬り裂く。

 

「ぐぁっ!!」

「……」

 

しかし隙は隙…俺はラウラがプラズマ手刀で鋼糸を斬り裂いた瞬間に、先ほど拡張領域に仕舞い込んだレールカノンの進行方向を調節してラウラの脳天へとお返しする。

完全に不意を突いて放たれたその一撃に、ラウラは思わず前のめりになって地面へと転がり込んでしまう。

 

「さぁて…どう料理してやろうか…」

「シショー、完全に悪役…」

「うるせぇよ!!」

 

前のめりに倒れたラウラの頭を思い切り踏みつけて地面に縫い付け、鬼面の奥でニィッと笑みを浮かべる。

ピットに下がらせていた一夏達から非難するような野次が飛んでくるが、俺はそれらを一括して黙らせる。

 

「捕まえたぞ…アモン・ミュラー…」

 

絞り出すような声でラウラは俺の足を掴む。

執念…と言っても差し支えないかもしれない。

決して気圧された訳ではなく、しかし身動きが1つも取れなくなる。

 

「砲身が焼け付くまで…立っていられるか!!!」

「このクソガキ…!!!」

 

アリーナに轟音が響き渡った。

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