召喚術の世界に憑依したけれども、魔法を使っていく 作:クーネル・アソーブ
いつもより文字数が少ないのですがきりが良かったのでここで。
サモンナイト3をもう一回しなくちゃ
どこまでも変わらずに続くのではないかと錯覚するほど広大な大地で二つの人影が向かい合っていた。
向かい合っている片方のシルキーはボンネットをかぶり、いつもと違う純白の美しいドレスを身にまとっている。その姿は物語のお姫様のようだが身にまとう雰囲気がただ守られ、愛されるおとぎ話のお姫様とは一線を画している。
もう一方は動きやすさを第一とした服装のトリスである。彼女はズボンと長袖のシャツ、プロテクターを身に着け格闘家のような姿である。その眼は少しの予兆も見逃さないようにシルキーへと厳しく向けられている。
すっ、と下げられていたシルキーの腕が肩の高さまで上げられる。その動作にトリスは身構えながら周囲の様子を伺うも何も変わる様子は見られない。もしやブラフかと思ったその時、足元の地面から黒い鋭いものが首に向かって飛んでくる。慌ててそれを砕き観察するとそれは圧縮されて固くなった土の剣であった。シルキーの動作が何を意味していたのか分かったトリスが今度は此方の番と言わんばかりにシルキーへと突っ込もうとする。
しかし、突如襲ってくる悪寒に慌てて身をひるがえす。一瞬前までたっていた場所からは砕いたモノと全く同じものが大量にあふれ出てくる。それは空高くまで上がると群れを成してトリスへと襲ってくる。
その勢いから逃れようと横にずれることで先頭をよけることはできても、後続の剣たちは枝分かれしトリスへと向かっていく。同じようによけようとするとさらに後続の剣が追いかけ、よけた先頭の剣が戻って貫こうと襲い掛かってくる。
あっという間に剣の群れにドーム状に囲まれてしまったトリス。どうするか、と考える間もなく剣は切っ先を向けて襲い掛かってくる。そのまま受ければあっという間にハリネズミになるがトリスに焦りは見られない。
「『プロテゴ』!!」
詠唱と同時に彼女の周囲を多面体の結界が包む。貫かんとした剣は切っ先を一㎝も進めることができずに止められる。後続の剣も同様にその動きを止めるが、このままでは動くことができない。ゆえにもう一手術を使う。
「『バリアバースト』!」
キーワードとともに結界が外側へ爆発する。爆発で吹き飛んだ剣の隙間を狙い飛び出し、シルキーがいたところに目を向けるがそこには誰もいない。どこに行ったのかと思うと辺りが暗いことに気づく。太陽の光が遮られているのだ。いったい何が?そう思い空を見上げると馬鹿馬鹿しいほどの土の塊が空に浮いていた。姿は見えないがシルキーはその上にいるのだろう。
(大質量を落としてくるつもりか?)
ならば落とされる前に粉々にしようと思い立つがその考えは間違いだった。宙に浮かぶ土の塊は急速にその巨体を失う。その光景にトリスは内心戦慄する。
していることはつい先ほどの剣と同じだがその密度と込められる力は天地の差がある。ついには長さ5mほどの漆黒の杭となる。それを投擲の構えとするのは重力を操るメイドのシルキー。いつもと違うドレス姿と圧迫感は戦いの女神を連想する。
あの投擲に対抗するにはこちらも本気を出さなくてはならない。
そう考えたトリスは自分の中でスイッチを入れる。矢を放つように体を半身にして左腕を前に突き出す。突き出された左腕からは様々な相反する力が混じり合い、つぶし合って新しい力を生み出していく。ふっ、生み出された力に意思をこめて弓に変え、右腕で矢を引く。
律儀にも待っていてくれたシルキーに目配せをすると投擲の体制を整える。
二人が用意した力が引き絞られ、そして
「『メドローア』!」
「………ッ!!」
放たれた杭と矢が衝突した。大質量の杭と消滅の力の矢は互いに消し合い、あたりに衝撃を放ちながら込められたエネルギーを消費していく。
「そこまで。試験はこれで終了じゃ」
互いの大技がぶつかって消え、もう一度突貫しようとした二人にゼクトが声をかける。その声にトリスもシルキーも戦闘態勢を解き、ゼクトの元に近寄っていく。
「師匠、どうでしたか!」
ゼクトの元に駆け寄ってトリスがゼクトに結果を尋ねると、ゼクトは指でトリスの額を抑える。
「そうあわてるな。結果はお主の望んだ通りじゃよ」
答えを聞いて、顔を喜色に染めながらトリスは
「やったーーーーーー!!」
と叫んだ。
◇◇◇
師匠の元に拾われてから五年の月日がたった。
そのほとんどを屋敷と結界の中で過ごしたためほとんど外のことを知らなかったが、ついに見分の旅に出ることを認めてもらえた。本当にその内容はきつかった。なんどくじけそうになったことやら。
部屋でモノを整理しながらこの屋敷に来てからの五年のことを思い浮かべる。
まず知識だが多くのことを学んだ、と思う。それに比例するかのように私はかつての記憶を忘れていった。といっても内容はこの世界がゲームだった時の知識や名もなき世界の時の記憶だったりするのでそれほど困らなかった。なにしろそれがなくなっても困らないぐらいには私という人格は出来上がっていたからだ。
次に体のことだが年相応の成長だと思う。女性的な柔らかい体つきというよりもアスリートのような引き締まった体はひそかな自慢である。ただし、背中には刺青が入っている。この刺青は私にたいする補助輪のような役目がある。日に日に強くなっていく私の力を抑えるために師匠がつけてくれた。おかげで暴発の危険性はグッと下がり、ちょっとしたギミックもあるらしいが教えてもらえなかった。というよりも「自分で調べろ。これも勉強じゃよ」と言われた。その分、使える力の最大値はさがったけれども。
「………よし、こんなものかな」
荷物をまとめ、部屋を見渡す。今日でこの部屋としばしの別れと思うと少しばかり寂しく思うがそれでも世界を見てみたいと思う感情には嘘をつけない。
「いつか帰ってきます」
「用意は済んだかの?」
外では師匠とシルキーが陣を敷いていた。
「この場所は森深くあるからのう。この陣でお主を町まで送ってやろう」
「ありがとうございます、師匠」
頭を下げて礼をいうと師匠はしみじみとしている。
「まさかこんなに早く合格をやれるほど成長するとはのう」
「師匠たちのおかげですよ」
「そうか……」と、どことなく嬉しそうである。
「……デグレアにはあの男がいる。何かあったら頼るといい」
おそらくレイムさんのことだろう。何度か遊びに来たがお仕事が忙しいらしくその頻度はそれほどではないようだ。彼にはいろいろなものをもらったので挨拶に行くのもやぶさかではない。
「はい、わかりました。困ったことがあったら頼ってみます」
頷く師匠に陣ができたことをシルキーが伝える
「それじゃ、陣の上に立ちなさい」
いわれて幾何学模様の陣の上に立つ。どうやらかなり遠くまで送られるようだ
「では、送るぞ?」
その言葉が引き金となるように陣が強く光りだす。だんだん薄れていく二人に私は万感の思いを込めて出立の言葉を告げる。
「行ってきます!師匠!シルキー!」
「気をつけてな。元気にするんじゃよ」
ふりふり。
二人とも変わらない様子にすこし笑えて私の意識は白く染まった。
「戻るとするかの」
しばし見送った後に片づけをしようとシルキーに声をかけるが反応がない。怪訝に思って周囲を見渡すがその姿は見えない。どこに行ったのかと思った瞬間、ズブリと音がする。
「はっ……………?」
音がした自分の腹部を見ると刃物が突き刺さっていた。業物の類ではなさそうだがなにかまがまがしいものを感じる。
「ごぼっ………!」
刺された刃が抜かれると自分の体から赤い血が出ていく。その出ていく血のように力も抜けていく。
(い…ったい、何が……?)
せめて下手人を見ようと後ろに視線をむけるとそこにはシルターン風の服を着た女性が立っていた。体も動かずいきなりのことにゼクトは困惑することしかできない。この女は誰だ?シルキーは?どうして体が動かない?いや、そもそもどうしてこの距離まで……。
「ごめんなさいね。あなたに起きていてもらうと困るの。大丈夫よ。何年かあとには家政婦の子と一緒に起こすわ。」
辛そうに謝りながらも女性はゼクトに手のひらをかざす。手のひらからあふれる光はゼクトにレジストさせることなく効果を発揮していく。
あぁ…なんだか眠たくなってきた。だんだん薄れていくゼクトが最後に意識に落ちる前に見たものは陣に何か物を置く女性の姿だった。
光が収まり目を開くと思い描いた町、ではなく何かしらの遺跡らしい場所に立っていた。
「はっ……?」
呆然と周囲を見渡すが辺りは森に囲まれた遺跡だけしかない。
「なにこれ?町に送るっていってなかったっけ?
首をかしげていると足元に手紙が置いてあることに気が付く。拾って中身を読んでみると『術式を失敗したのでどこかわからない場世に飛ばされたこと』
『どうにかして自力で帰ってきてほしいこと』
『この手紙は読み終わったら燃えること』
が書かれていた。
慌てて手紙を離すと燃え上って灰になった。しばらく呆然としてから胸の奥からマグマのように沸いてくる激情が襲ってくる。その思いを吐き出すように上を向いて
「ふざけんなぁぁぁーーーーーーーーー!!!」
怒りの声を挙げた。
思えばここからだったかもしれない。イレギュラーである私が世界の意思にもまれることになったのは。